怒りの矛先は私に向いた
「解毒薬に解毒草を使ってないのか?」
薬屋にて調合中、強面さんが私に聞いてきます
え、なんですかその顔、顔が怖いから睨まないでくださいよ
「解毒草には上昇効果も抑え込む効果があります、完治させるにはいいですけど普段使いはないですね」
私のサポートは主に投薬が基本なので
解毒範囲も考えものです
「あとは煮詰めるだけです」
「ほー…変な知識持ってんなぁ」
変な知識とは…うーん、まぁいいです
おや、グループメッセージが盛り上がってますね
『あっ、ほらすぐ来た、薬屋のシロは調合中ずっとここ見てるから』
「失礼ですね、調合中以外も見てますよ」
『うん、うん?なんか違う』
『いまは何中?』
「調合中ですが?」
『調合中じゃねーか!』
だって暇ですし
『シロ!』
「キイロさん、個人的な内容なら個人の方で聞きますよ」
『個人だとあんた無視するじゃない!』
「失礼な、丁寧に断ってるでしょう」
『またか』
『まただな』
『キイロー、シロにはアオ…今何色だっけ?がいるんだから』
『そうですよ…』
アオさんもといオレンジさんですね
呼びづらい
「あ、オレンジさんはクロさんに打診してるらしいですね」
『それよ!クロがオレンジに目をつけられて困ってるの!辞めさせてよ!』
『ちょっ!キイロ!?それは言わないことにしようって!』
『シロちんオレンジさんって言わないでー!』
「あ、調合済んだので切りますね」
『っておーい!』
『お前が消えるんかーい!』
ふっ…と騒がしい脳内が静かになります
「あとは冷ますだけですね」
「…なんか嬉しいことでもあったか?」
「…秘密です」
おや、口元に出ていたらしいです
◇
日も落ちましたので調合の鍋を洗ってます、帰る準備です
表の方は冒険者が本日消費したのだろう分を補充する関係上、少しだけ賑わってます
私の薬も好評らしくて売上が少し上がったらしいです、まぁ給料に変化は無いので…いえ、気持ち少しは嬉しいですね
「じゃあ帰りますね、お疲れ様です」
「おーう、おつかれー」
おばあさんは表で頑張ってます
裏口から出ました、細い裏路地です
辺りに人はおらず薄暗い雰囲気は不安を掻き立てます
少し歩き角を曲がったところで立ち止まります
よくありませんか?暗闇でそこの物陰に何かいる、魔物がいるんじゃないか
…的なとても怖いやつ
今日は風もあり、怖さが数倍です
つい立ち止まってしまいました
「…薬屋の娘にしてはなかなか勘が冴えてるようだな」
突如、怖いなー、と思っていた物陰
ではなく、違う物陰から人が出てきました
不意打ち余裕でされますね、あの位置
「…誰ですか」
「いつも裏路地を通っているのはどうしてだい?表通りなら逆に行けばすぐだろう?」
いつも見てるんですか?
…声に違和感があります、作ってますね
「…誰ですか」
「おや、私の質問には」
「誰ですか」
「あっ、ごめん、メリッサです…じゃない」
「メリッサ?名乗られても…」
「え、メリッサ知らない?闘技場で最近活躍中の」
自分のことですよね?
活躍中っていいます?
いや、まぁ知らないんですけど
「誰でもいいです、何か用ですか?」
「まだ知名度が低いか…」
「用は?」
「あっ、えっと、お前から獣の匂いがしたから…じゃなくない、あってるや」
なかなかポンコツですね?
「…薬屋の娘はペットを買っちゃいけませんか?」
「あ、いや、そういう訳じゃ…もう、めんどーだな」
雰囲気が変わりました、緊急の転移の…
スタッと目の前に移動していたメリッサさん
覗き込むように私を見てきます
準備…
「お前ナニモンだ?」
「…」
その眼光はとても鋭く…
「あっ、耳可愛い」
オオカミっぽいミミが可愛らしい顔でした
報告が必要ですね、転移は使えません
『メリッサと名乗るオオカミ耳っ子に裏路地で絡まれちゅー』
『ふぁっ』
『えっ』
『やばくね?』
『にげて!』
…んん?
「おい、魔法使うのか?そんな情報聞いてないけど?」
メリッサさんも私を警戒します
少し距離を取られました
メッセージは魔法に分類されます
『どこ?』
『いや、行ったら関係がバレる、待て』
『どうしろって言うの!』
『クロおちつけ!』
クロ…あぁ、ナコさんクロ色取れたんですね
「すん…おい、なにホンワカしてんだ」
匂い嗅いだら感情がわかるなんて…!
「あ、いえ、耳可愛いですね」
「…ふぅん」
グループメッセージの方が騒がしいです
シルバー…シルバーって誰ですかね?
聞きますか
『シルバーって誰ですか?』
『危機感ないな!?』
『そいつこの街の部隊の一人だぞ!』
『シルバーは元オレンジだ、返却して使われてない色から取ってきた』
『ふむふむ』
『シロちん!?』
『なんですかクロさん』
『おい、こいつ頭お花畑だ!』
失礼ですね
焦らない方がいい、そう私の直感が告げてるだけです
「お前…変だな」
「あはは、よく言われますね」
まぁ言われない人に比べれば言われる方ですかね?
「むぅ…報告どうするか」
「なんで私は目をつけられたんですか?」
「ん?えーと、裏と繋がってる…じゃなくて、売れ行きのいい回復薬の作り手がお前だっておばちゃんが」
おばちゃぁん…
「メリッサ!いつまでチンたらやってんだ?」
路地裏の奥から大きな鎌を振り回しながら女性が近づいてきます
ブンブンいってます
怖いです
「こちらは?」
「サラ?まだ判断中だから待っててよ」
「まちあきたぁ」
『…鎌を振り回す女性も来ました、怖いですね』
『シロちん!』
『ちょ、クロが窓から出てった笑』
『シロ!何とか場を納めろ!』
報告しない方が良かったですね
「…あ、薬ってこれですかね?」
小瓶をメリッサさんに投げます
「せいっ!」
ぱりゃんっ
…サラさんが鎌で小瓶を切りました
『あぁ、いい演出を思いつきました』
『演出?』
『なに?』
『私を怒らせれますか?』
「ひうっ」
「…っ!」
メリッサさんが怯え、拳を構えます
サラさんが後ずさり鎌を腰まで持っていきます
「どうして薬を切ったんデスカ?」
「いや、その、投擲物だから…ね?」
「投げられたものならなんでも切るんですカ?」
「いや、そういう訳じゃないんだ」
「サラ、謝った方がいいって、副部隊長みたいな気配感じるんだけどっ」
「この薬で救われた命もあるかもしれなかったんですよ?」
「いや、その…ごめん、ごめんって」
ジリジリと二人に近づいていました
怒る演出…
いえ、実際口に出していると怒れてきました、怒っています、ええ、私は今、怒っています
普段なら造作もなく無駄にすることもあるはずなのに、今この一瞬、自分のことにすら怒りが湧き上がります
このサラという人にも、私自身にも怒りが込み上げています
「おねぇちゃん!」
私たちは突如聞こえたその声の方を振り向きます
するとそこには貧相な姿の猫耳獣人が
はて、知っている気がしますが…いえ、誰でしょう、知りませんね
猫耳獣人は私の背の半分もないほどに小さいです
トテトテと走ってくる姿はどこか愛らしいです
ひしっ
するとどういったことでしょうか、私に抱きついてきたではありませんか
「…ふぅ」
見た目は太もも辺りに抱きついていますが抱擁は腰あたりまで感覚があります
あ、この子、ナコさんじゃないですか
触れられて、違和感を感じて、ようやっと分かりました
…ナコさんの認識阻害、ものすごいですね
「…薬という存在を改めて認知する必要がありますね」
私は少々、無駄にしすぎている気がします、実際救われる命もあったはずです
「…は、はい」
「…ごめんなさい」
自分への言葉だったのですがメリッサさんとサラさんにも届いたようです
怒りもおさまりました
反省点はありますが
「帰りましょうか、今日は鶏肉にしましょう」
「わーい!」
見た目は手を繋いでいるんですけど感覚は見た目とは違います、普通の姿のナコさんがチラついてしまうのでササッと戻りましょう
『助かりました、帰宅します』
『クロっちグッジョブ!』
『シロって怒ると怖いんだな』
『上から見てましたよ〜』
『クロの姿って三人には違って見えるの?』
『クロナイス!』
『アカおつかれ!』
二人から離れ角を曲がりました
文字を起こして目前で会話の流れをみます
◇
「私を怒らせれますか?」
『怒ってるよ!』
『もう怒ってるじゃねーか!』
『…シロちん?』
『クロ追跡中…立ち止まって…なぁ、これシロの方がやばくね?』
『シロが怒ったところ見たことないんだけど』
『あ、私あるよー』
『どんなん?』
『えっと…野営中にオオカミに鍋をひっくり返されて…オオカミは溶けたんだっけ?』
『!?』
『!?』
『は?』
『やば笑笑』
『クロ!シロのとこ行け!』
『わ、わかった』
『クロ追跡あらためシロ捕縛隊つのるっ!』
『だから暇なのアンタらだけなんだって!』
『暇じゃないっての!冒険者の潜伏あがりだっての!』
『ひまなのわーわたしだけー』
『うっせ、シロがやらかす前に取り押さえろ』
『クロっちさ、幻影って取ってる?』
『幻影?使えるよ』
『暇なのがアカだから大掛かりな魔法でも大丈夫だから…長文思いついたで個別メッセージいくね』
『なにかあるのか!』
『シロー、シロー?』
『返事がない…ただのオーガのようだ』
『え、何それ笑』
『なんか機械世界でちょっと流行ってたやつらしい』
『シロが兵士の二人ににじりよってる、クロー私はいいぞー!』
『…アカ、助かる』
◇
読み終わりました、この魔法便利ですねー
「誰がオーガですか」
『いや、例えだって』
「わかってますが…まぁ助かりました怒りの矛先が迷子でして」
「まだ怒ってる?」
「いえ」
『いえ?』
『なんで否定したし』
『いや、リアルでクロと喋ってるだけ、アカにはわかる』
…
上をみます
日も落ちてしまい夜空が見えます
屋根の上には人影が二人
暗いので誰だか分かりませんが
フリフリと手を振っています
あちらがアカさんですね
冒険者潜伏あがりの方、もう一人も確認しておきますか…
個人的にお礼と先ほどの光景の口止め料を出しておきましょう
◇
その後は何事もなく帰宅しました
クロさんの部屋は窓が開いてましたが荒らされたとかはなさそうです
「そういえばクロ色になったんですね」
「う?あぁ、うん、ペチンって」
オレンジ…シルバーさん可哀想に
◇
ちょっとした後日談ですが
『ねーアカー何があったか教えてよー』
『口止め料を貰ってるので、アカは易々と口は割らないのです』
『アカのそういう所嫌い』
『稼ぎどころですし、適当に支払って上回ったら教えるよ、千円単位』
『…シロに直接聞くか?』
『無理だと思う』
『まぁそうだよなぁ』
私を止めたクロさんの方法を予想通り嗅ぎ回っている方がいるらしいです
さすが情報屋として路地裏を歩き回ってるだけはありますね
ちなみに口止め料のコツとしては一円多く支払っておくと最小の投資でアカさんが儲かります、これを教えたらアカさんが気持ち優しくなりました
これは情報屋として売っていいですよ、と言いながら私は二円余分に渡しました
アカさんが「悪いねぇ、悪い人だァ」
なんて言いながら嬉しそうにお金を受け取ってました
いやぁ、あなたもですよぉ
◇
報告書
薬屋の娘は裏とは関係が薄そう
スラム育ちっぽい猫耳獣人の面倒を見ている
そのために路地裏を使っている、と予想できる
薬の調合は技術持ち、あとこだわりもちなので近づく時は多少でも薬の知識と、軽んじる気持ちのない人で
「…こんなもんかな、メシアなら接触出来そうかなぁ」
「呼びましたか?」
「よんでないですぅ」
「とても疲れてますわね…」
「サラに邪魔されたから」
「あなた達いつも一緒にいますわね?」
MHの知識ですけどやってなかったら解毒のことカイドクって読んでそう…言語の設定は…ちょっと考えておきますね
グループメッセージも甘めの設定です
口に出してるか、誰が喋ってるかとか問題点が出てきますね
掲示板ネタのようなものを書きたかったのですが難しいです…
報告書のほうはおまけのような宣伝も噛んでます、世界、時間関係が同じの別の人達のお話です
少しずつ書きたいものが形になり始めています