緊急招集される私
その連絡がきたのは私が薬屋の裏で調合をしていた時でした
「ナズはいますか?」
表からナコさんの声が聞こえてきます
「おんや、ナズちゃんかい?奥にいるかね?」
「いますよー」
おばあさんの声に返事をします
調合中は意識は大抵別のことを考えてますが手は離せないんですよね
ナコさんが顔をのぞかせます
「ナズっナズ!」
「どうしましたか?」
「招集かかってるんだけど…知らないの?」
おや?
◇
水の街にて別の部隊が砦を拠点にダンジョンアタックを繰り返していたようです
まぁつまりは占拠をしていたのです
しかし今朝方のことです、砦の方に勇者率いる水の街の冒険者達が攻めてきたようです
組織側は籠城戦となっているようです
届いた情報としては実質的な戦争です
それで助けてくれと、私たちの部隊に招集がかかったようです
こういったメッセージは組織のカードに受け取る枠があります
魔法で文字が伝えられるのですが
まぁ見なきゃ分かりません
音も何も無く文字だけ届くので
調合中だったので気が付きませんでした
自室にて組織の服へと着替えます
その上から認識阻害フードを着ます
組織での仕事が発生しない限りリストバンドの更新はされません
…シロいリストバンドをして、アオさんと組織の転移のポイントへと向かいます
◇
「シロちん」
「なんですか、アオさん」
アオさんが私の速度に合わせて走ってくれています
現場へと、砦の場所へと急行中です
「…魔力酔いは大丈夫?」
「ちょっと酷いですが、まぁ魔法はあまり使いませんので」
…私って普段どう戦っていましたっけ
違いますね、戦いません、索敵と補助です
砦が見えてきました、矢と水魔法が飛び交っているのが見えます
「アオさん、こちらをどうぞ」
補助という名の薬漬けです
「青いね」
そうですね、真っ青ですね
「美味しくありませんが、全能力上昇を効果としています、私の補助は状況に応じますが、まずはこれからです、暴れてきてください」
「…分かった」
ごくごくとアオさんが飲みます
「うげぇー」
…すいませんね、固形物が多かったので飲みやすさと即効性に偏らせたんです
「突撃する瞬間にこちらを敵陣に投げてください」
黒いボールをふたつ、アオさんに渡します
「…これは?」
「お守りの霧と同じ霧です、味方には効きませんし、今のアオさんなら片手でもぶん殴れると思いますので」
「わかった」
では、頑張ってください
コクリと頷きます
アオさんも頷き返してくれます
フードを深く被り直し、アオさんが突撃しました
◇
アオさんの突撃は相手部隊の半壊の成果を上げました
霧を吹き飛ばし、アオさんの前に立ちはだかったのは水の勇者さんです
「あなた!コイツらの援軍ね!」
「…一人だけどね」
「細かいことはいいのよ!」
水の勇者は女性なんですね
綺麗な光沢のあるフルプレートアーマーです
なんか光ってる剣を構えてアオさんに話しかけています
同部隊の先についていた援軍と協力し砦の人達はほぼ逃げれています
先の人達はポーションを抱えていたのですがタイミングがなかなか訪れなかったようです
…まぁ女性ばかりなのでわからなくは無いです
あとはアオさんを回収して逃げるだけなんですが、アオさんと勇者を水の渦が囲っています
私は砦を登って上から確認してます
「あなたを占拠してた人達のリーダーと見るわ、つまり!あなたを倒せばいいのよ!」
なにかよく分からないことを勇者は叫んでますね
「せあぁあ!」
勇者の動きは素人です
しかし、その剣は振るわれると水が飛び出ます、その水は広範囲を襲うのです
全力で渦の中で水を避けているアオさん、防戦一方となっています
あの水にかかっちゃいけない理由はあるんでしょうか…
あるんでしょうね、アオさんは必死に避けてますし、勇者は水がかかればいい、というような大振りです
「くっ!こら!避けるな!」
勇者が叫んでます
…あの水、どんなデメリットが発生するんでしょうか
分からないので対策しようがないんですが
渦も厄介ですね
◇
「…シロ、本気?」
「えぇ、アオさんも一撃も与えれてませんし、サクッと逃げた方がいいでしょう」
この方はミドリさんです、リストバンドが緑なので
たしか風魔法が使えるはずです
ですので渦を飛び越えてサクッと回収、逃げる、という算段です
お守りの黒い霧も使います
何となく作戦が安易すぎますが他にいい方法も思いつきませんでした
あと黒いボールも数が少なくなってきました、周りの勇者側の冒険者たちの目くらましに使っていたんですが…
「…さん、にー、いち!」
ふわりとミドリさんが飛び上がりました
渦の向こう側に消えていきます
いち、にー、…
アオさんを抱えてミドリさんが帰ってきました、予定より五秒の遅れです…時間をとても意識しているミドリさんが遅れるとは、何かありましたね
「シロ!ごめん!私を庇ってアオが水を被っちゃった!」
「とにかくこの場からは離れます!これを飲んで!」
少し赤みがかった飲み物をミドリさんに渡します
渦が弾けました、黒い霧がかき消されていきます
この渦には剣からの水の能力はないようです
…アオさんが呻き出しています
「アオさん、口を聞けますか?飲み物は喉を通りますか?」
…返事はありません
「シロ!飲んだわ!魔力増強剤ね!」
「あ!いた!」
ミドリさんと同時に勇者に見つかりました
ものすごく嫌な予感がします
「ミドリ!」
「無理やり行くよ!」
足元に魔法陣が浮かび上がります
勇者が剣を振り上げました
「せーい!」
水のビームがとんできました
同時に私たちは飛び上がります
地面を抉りながらの攻撃です、やばいです
「…ほいっと」
地面が近づいて一番近い森の中に着地しました
「もう一回で転移ポイントに行けるかな」
ミドリさんは両手をグッグッとしています
その調子なら似たような風魔法をもう一度使えそうですね
「うぅ…」
「アオさん…」
背中にまるで切り傷のように水がかかっています
「水がかかっただけ、ではないですね」
貫通性の水?背中まで届いているのでしょうか
「いえ、先に転移しましょう、嫌な予感がします」
私の予感って結構当たるんですよ
「アオさん失礼します」
黒い液体をアオさんにかけます
「シロ…何してんの?」
「認識阻害の液体です、多分ですけどアオさんのフードは機能してません」
先程は飛び立つ瞬間にフードを被せました、暴れる時は取っていましたので
しかし勇者には見られていた気がします
…ほら
バシャアッと水を撒き散らしながら水の勇者が前方少し先に着地しました
「おっとと…あれ?ここら辺だと思ったんだけどなぁ」
なんですかあの勇者
スペック高いですね…
「うーん、追跡もここら辺なんだけどなぁ」
あぁ、その独り言助かります
ミドリさんにアイコンタクトを送ります
にげろ、です
指差しで私とアオさんを指します
頷いてくれます、カウントダウン、三秒前
「適当に振るう?」
勇者が恐ろしいことを呟いてました
ゼロ、私たちは再び空に飛び上がりました
「よっ…と」
「ミドリさん、運べますか?」
「…まぁ、後でフード代請求するからね?」
それくらいでいいのなら
着地後、転移ポイントに走り出します
ミドリさんもあの勇者はやばいと認識したようです
まぁ素人でも勇者ですし
◇
雷の街に戻ってきました
「本部経由で送ってください、フードを、細工して返すので」
「わかった…アオは大丈夫?」
「荒療治ですが薬で何とかします」
「…わかった、じゃ、そのうちに、シロ、魔力増強剤楽しかった」
そう言ってミドリさんとは別れました
転移紐を使用し本部へと強制帰還です
少し引きずり転移の着地点からズレます
ぶっちゃけ通路ですが私にアオさんを運ぶほどの力は無いので…
「…アオさん、こちらを飲ませますね」
透明な水の入った瓶を取り出し、口に含みます
眉間にしわ寄せて唸っているアオさんに口付けで飲ませます
「んぐっ!?んー!」
咳き込んだら許しません
…よし、喉を通りましたね
「あ…ぇ?」
アオさんの認識阻害が溶けていきます、全身がダランとしていきます
「麻痺の薬です、次にこちらを飲ませます、こちらは全ての魔力関係を断ち切ります」
「ぇ…ゃ…」
アオさんが口を閉じて手を宛てます
涙腺も緩んでいるようで泣いてます
力の抜けている腕をどかし口をあけさせます
ふたたび口に含みアオさんに口付けします
おつぎはすんなりと飲んでくれました
まぁ抵抗もないですし
「ぁぅ…ぁ…」
…認識阻害が解けてアオさんを抱き寄せて思い出したんですけど身長ってアオさんの方が低かったんでしたね
部屋を借りて薬飲ませれましたね
「はっ…はっ…」
アオさんの呼吸が苦しそうになり始めました、魔力関係が絶たれましたね
「最後にこちらを…」
説明している暇はありませんね
魔力関係を断ち切るとはつまり、空気中の魔素が毒になるということです
塗り薬をアオさんの顔に塗りたくっていきます
…あ、ほっぺムニムニ
◇
呼吸が安定したのでアオさんを背負います
「…見世物では無いのですが」
男性二人組が棒立ちでこちらを見ています
認識阻害の黒い液体の効力はまだ続いてるとは思いますが…
まぁ通路でやることではなかったですね
…アオさんは私の持てるギリギリの許容範囲です
たぶん…
自室へと運びました
背負って雑にフードを着ました、認識阻害の効果はあまり期待できませんがないよりはマシ程度です
「薬の回復薬は今から作りますね」
少量ですので先に時間経過で回復しそうですが…
「ぁ…み、ず、び」
回復しそうです、アオさん…ナコさんは水浴びをしたいようです
まぁ全身ベタベタとは思いますので…はい
「この宝石が周りの魔素を使用してくれます、外したら死にますからね」
ネックレスをつけながらナコさんと水浴びしています
…私も一緒です
全身に力が入らないとおもいますので
わぁ、ナコさんの体、引き締まってますね
あ、しっぽあるじゃないですか
「う…あ、あー、ナズ、やめて」
…しっぽを弄ってたらナコさんが復活しました
…もう少し麻痺薬飲ませるべきでしたかね?あれ以上はシンプルに危険ですけど
「先にあがりますね」
水浴びを切り上げて自室に向かいます
薬の副作用で全身に脱力感がしばらくありますので、魔力関係に作用しない専用の薬でサポートしましょう
…なかなかめんどくさいですね
普段の私が作らないわけです
◇
「ナズぅー」
「はーい」
「うぅ…」
先程からこのやり取りを繰り返してます
共有スペースの普段食事をとるところにナコさんを座らせて私は調合しながらの料理中です
魔力関係抜きはシンプルに不味い薬ができるので料理と組み合わせてます
ナコさんは机に体を預けてこちらを見てます、多分睨んでますね、お可愛い
「はい、出来ましたよ」
「うぅ…」
「いただきます」
「いただきまふ」
「…う?」
おや、気づくのが早いですね、その状態であれば理論上薬の効き目が直ぐに発揮されるはずです
「おぉーさすがナズ」
「いやぁ、じゃあご褒美に尻尾を触らせてください」
「えっ」
えっ
そんな嫌そうな顔します?
「…それは嫌」
あ、断られました
「じゃあ耳でいいです」
「うぅ…」
「魔力関係を断ち切る効果は明日のお昼までは続くと思います、激しい運動しないでくださいね」
「…う、ありがとう」
めっちゃ小さい声で感謝されました、めっちゃ可愛いですね、この子私のパートナーなんですよ!?
…はい
「…ふにゃぁ」
食事を終えました
「お眠ですか?」
「……ナズきらい」
おや、お子様扱いが過ぎました
まぁ今のは私が悪いですね
「すいません、ではこちらをどうぞ」
ぬるめのオコウチャです
隠し味は睡眠薬です
「ん」
飲み終わるとふにゃぁと椅子にもたれ掛かりそのまま寝息を立て始めます
「え、うそぉ」
即効性の強力なものなんですけど薄めたはずです…疲労と魔力断裂の組み合わせですかね
「よし」勝手にしっぽいじりますね
目の前にだらしないナコさんがいるのにいじらない手はないでしょう
ナコさんの認識阻害の魔法は相当強力で私も普段は騙されてます、意識にすら入ってこないレベルなので…しっぽの存在忘れるんですよね
◇
…相当深く眠ったようでしっぽも耳もいじりましたがなんの反応もくれませんでした
もふもふ感もしっぽも耳もあまり変わりはありません、うむぅ…
寝ますかね、抱き枕にさせていただきますね
「うひゃっ…」
「…ん」
ナコさん…?
「ナズ…」
おや、怒ってますねこの声音
「おはようございます」
「おはよう、ねぇ、しっぽいじったよね」
「……」
なぜバレたのでしょうか
「しっぽは…その……だから…」
小声と顔真っ赤です、恥ずかしいことなんですかね?
それよりもうちょっと寝たいのですが
「なんでもない!」
ぼふっと私に抱きついてきました、私の胸に顔を埋めます
「おやすみなさい…」
その後、日がもうちょっと登るまで眠っておりました
その場の流れを大事にして進めてます
設定として「ん?」となることが起きるかもしれませんが、とりあえずキリがいいところまでやり切ってから…
修正がはいるかもしれません
流れで書けたってことはなるべく修正したくないことですけど…