先生には先生を
「―――っということで、頼むぜ」
「随分、綱渡りな作戦ですがそれでいきましょう」
「よしっ、じゃあ任せた。そろそろ偉大な先生様も足止めを抜けるはずだから、注意しろよ」
「はい、片方が失敗したら終わりですからね。気をつけて」
「おうっ、じゃあな」
さてっ、雅人くんも例の場所に向かいましたし、ここからは僕の仕事です。
正直心底嫌ですが、仕方がありません。これも帰宅するためです。
「……ころすころすころす」
「すいません。今から先生を足止めさせていただきます」
僕のやることは時間稼ぎ。
普段の先生相手なら不可能でしょうが、正気を失った相手ならまだいけそうです。それに、以前少しだけ戦ったのですから初見というわけではありませんし、ある程度攻撃は読めます。
まぁ、それでも稼げる時間は5分ぐらいですかね。
「ころすぅぅぅううう!!」
巨大三角定規を槍のように構えた先生の突撃。
やはり、攻撃は普段よりも単純です。これなら対応できます。
「帰宅部反撃スキル『そこ間違ってますよ、先生』」
先生の突進を回避した瞬間に、無防備の横腹に蹴りを喰らわせます。
攻撃時は防御力が弱まりますので、普段よりも効きますよ。
「――ろすっ!」
避けられましたね。
突進したスピードの勢いを殺せず、このまま喰らってくれると思いましたが…。やはり、先生という存在の身体能力は化け物です。強すぎます。
「ころっ―――すっ!」
こちらを振り向くと、一気に無数のコンパスを投げてきました。視界を覆うほどの量。100本ぐらいはありますね。一体どこから出してるんでしょうか?
多すぎて、これは避けれません。……それなら、
「帰宅部防御スキル『運動部より鍛えられた肉体』」
自分に当たりそうな軌道のコンパスだけを蹴りで弾きましょう。とりあえず、これでコンパスは防―――
「ころすっ!!」
「なっ!?」
―――いつの間にか距離を詰められて、先生が僕の目の前にっ!? まずいっ、防御をっ……!
「―――ろっす!!」
「がっ…!」
……っ! なんとか両腕をクロスさせて防御しましたが、もろに受けてしまいました…。想像以上に三角定規の火力が大きいですね。腕がしびれています。
「ころすころすころす」
……なるほどっ。先ほどのコンパスは僕の視界を奪うためで、本当の目的は僕に気づかれずに距離を詰めることでしたかっ…。我を失ってると勝手に思ってましたが、そうでもありませんね。
しかし不味いです。武器は雅人くんに渡しましたし、完全に防御する術がありません。もう避けるしかないですよ。
まぁ、この近距離で回避するなんて無理ゲーですが。
「ころすっっっっ!!」
恐ろしいことに、2双の巨大三角定規が迫ってきます。
いつの間に両手に武装したんでしょう。どっちにしてもこれは避けれ…
「帰宅部狙撃スキル『宿題やったけど、持ってくるの忘れました』っ!」
「―――ろっ!?」
遠方から無数のシャーペンが飛んでき、先生は咄嗟に片方の三角定規で防御しました。……やれやれ、どうやら間に合ったようです。
「帰ってきたぜっ! 成功だ、暴力君よぉっ!」
「……そのようですね」
戻ってきた雅人くんの隣に、あの先生がいますし。
「すまんっ! ……―――生活指導部断罪スキル『拳で教育してやる』っ!」
「―――ろがっぁ!!?」
現代文教師兼生活指導部―――遅刻の門番。
この先生の放った強力なナックルが、三角定規を粉砕し、そのまま指折り先生の顔面を殴りつけました。
「きゅぅぅう……」
そして、とうとう指折り先生が気絶しました。
意外と倒れる時は、かわいい声で倒れましたね。まぁ、あの門番先生の拳喰らって気絶するレベルで済むなんて結局化け物ですがね。
「あぁっ、同僚を殴ってしまった……。生活指導部のこの私が生徒にいいように使われるなど屈辱的だ…」
「やかましいぜっ、先生ぇっ! ほれ、また祖母ちゃんに痛めつけられたいんですかぁ?」
「ひっ……す、すまん。だ、だからメリケンサックを私に近づけないでくれぇぇっ…。それこわいそれこわいそれこわい……」
へぇっ、本当にあの門番先生がおびえていますね。
正直半信半疑でしたが。驚きです。
まさか、僕のメリケンサックが役に立つとは……。