指折り先生は意外と心が折れやすい
「ふふっ、あなた達の指をぜんぶ折って、あなた達の人生を挫折させてあげるわ」
なんだろう。もう教師じゃなくて、覇王なんじゃないの?
だって、もう先生の纏っているオーラが『神々を喰らう者』って感じにどす黒いぞ。漆黒という言葉すら、物足りなさを感じるぐらいやべぇ。
ってか、教師のいう言葉じゃねぇだろ!?
……まぁ、それはもう今更か。
「ちなみに雅人くん。僕は以前、あの先生の頭を無性に殴りたくなって、放課後に殴り込みに行きましたが……瞬殺でした」
「……どっちが?」
「僕です。木端微塵です」
「お前が瞬殺って、お手上げじゃん…」
俺は手を上げる。
「えぇっ、お手上げです」
暴力君も手を上げたので、ハイタッチ。
イエーイ。
「あらあら、仲良しこよしね。随分、余裕なのかしら?」
おい、おい、どこから取り出したその『数学の教師が持ってる謎にでかい三角定規』は? 片手に1とつずつ、まるで双剣みたいだな。一狩りするの?
「ふふっ、もうじきハイタッチなんてできない体になるわよ」
「いやっ、先生。これはハイタッチじゃないぞ」
「嘘つきな口ねぇ。顎も折ってあげようかしら?」
「嘘じゃない。だってこれは―――帰宅部専用合図だからな」
「帰宅部下校スキル『家が火事なので帰ります』」
「なっ!?」
暴力君の繰り出した拳骨が足元の床に大きな穴をあけ、俺たちはそのまま重力に引かれるまま、下のフロアへと落ちていく。
あのハイタッチは俺が先生の隙を作り、暴力君が床を壊すという合図だったのさ!
「……っ」
やっぱり、先生は一緒に降りてこない。
指折り先生は、そもそも自分のクラスを監視するのが仕事だ。だから、下の階までは降りてこれない。俺たちを追いかけてきたら本末転倒だもんなぁっ。
よしっ、勝ったぜ。
「……くそっ」
おっ、こっちを見下ろしながらめっちゃ悔しがってるぞ。
こんなこともう二度とないだろうから煽っとくか。
「プギャャャーーーー! あんなに粋がってたのに、逃がすなんて哀れ! 哀れぇっ! 貧弱! 貧弱ぅぅっ!」
「……っ!」
効いてる。効いてる。
あんなに唇かみしめちゃってるし、目なんてもう殺人鬼だしさ。いやーぁっ、弱者に敗れた強者の屈辱の顔はすんごい気持ちいいなぁ。ひひっ。もっとしよ。
「雅人くん。君の悪いところですよ。もうやめてさっさと行きましょう」
「いやいや、日ごろの学校への恨みを晴らす絶好の機会なんだから邪魔すんなよ。というか一緒に先生煽ろうぜ」
「僕もですか? 僕にそんな器用なことできるでしょうか?」
「大丈夫だよ。相手が一番、腹立つことを言えばいいんだよ」
「腹が立つことですか……」
おっ、決まったようだな。
なんて言うんだろうか?
「やーい、お前んち、おーばけやーしき」
「えっ、なんでそれ!?」
いやいや、どうせなら貧弱! 貧弱! とかのほうが相手に与えるダメージでかいだろう!? なぜその言葉を選んだ!?
「……ころすころすころすころすころすころす」
!? めっちゃ効いてるし。なんで!? どこで!?
……まじで人の怒るポイントとかわからねぇな。
だが、ナイス。こいつはいい。
「よしっ、もう行くか」
「えぇっ、そうですね」
もう十分満たされたしな。
さっさと学校出る―――
「ころすころすころすころすころすころす」
「えっ?」
「はいっ?」
なんで、降りてきてるの?
も、もしかして……おこなの?
「ころすころすころすころすころすころす」
やべっ、理性折れてるわ。