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犬愛は捨てきれない教師

 最高です。至福です。

 目の前で、哀れな生徒たちが絶望しています。すばらしいです。

 もはや生徒のこの顔を見るために、教師になったといっても過言ではありません。このお通夜みたいなクラスの雰囲気は理想的です。


『うぅ……いやだ。私死にたくないよぉ……』

『アァッ……、シヌナラ、コキョウデシニタイデス……』

『おわりだわおわりだわおわりだわおわりだわ』



「ふふっ」


 恐怖と絶望で体を震わす生徒たちを、傍観者として安全な位置から見下すこの状況。本当に教師をやっててよかったと心から思うときですね。こんなに楽しい光景を生み出せるなら、校長には毎日スピーチをしてほしいものですよ。


 ちなみに今日、全校昼礼を提案したのは私です。


 あの3番のせいで、わざわざカメラを撤去するという苦労もしましたし、自分へのご褒美です。売らずに残しておいたこのカメラで生徒たちが死ぬ光景を録画して、家でポテチを食べらながら嗤いたいと思います。


 ふふっ、楽しみです。


『ハハッ……モウゲンカイデスゥゥッッ!! サヨウナラァァッ!!』

『おいっ! 馬鹿やめろ!?』

『イヤデスゥ! ニゲルンデスゥゥウ!!』


 ……ええっ、ほんとに馬鹿ですね。

 この私が逃がすわけないでしょう。哀れな子羊を。


「―――ふっ!」

「ピギェ!?」


 わざと外しときました。

 ここで気絶されると、全校昼礼で絶望する顔が一つ減りますから。


「……いまのは忠告です。2度目はありませんよ?」

「ハイッ……ゥゥ、グスッ…」


 これで、全員への脅しになったでしょう。

 この力の差を感じて、脱獄するなどと考える生徒などただの馬鹿です。


 さてっ、逃げられないと悟った生徒たちが震えながらご飯を食べる場面を録画しましょう。







「わんわん」

「……はいっ?」


 なんですか? この子は。

 四つん這いで、こっちにノコノコやってきて、逃げるわけでもなく私をじーっと見つめてくる。頭がおかしくなったんですかね?


「何の真似ですか?」

「わんっ!」

「いやっ、犬なのは分かります。そうではなく、聞いているのはあなたの行動です。……たしかあなたは、16番ですね? 私を馬鹿にしてるんですか?」

「わんっ?」

「……っ」


 …なぜでしょう。目の前の少女が、だんだんと犬に見えてきました。すこし可愛く思え……、


「わんっ! わんっ!」

「………………」


 なぜか、む、無性に頭をなでなでしたくなって……って何を考えてるのですっ私! これは人間、これは人間です。そう犬じゃないです。ないんです。ない…んですが……ないけどぉっ…、


「くぅーん?」


「……はうっ!?」


 かっ、かわいい…。もうワンちゃんです。

 はっ! ……そ、そうです、目の前にいるのは人間そっくりな犬です。人間じゃありません、ワンちゃんなんです。


 だ、だから……。


 だからぁっ……ぁ。




「なでなでしていいんですぅっ!!」


「わんっ!?」


 至福です。最高です。

 なでなで。なでなで。なでなで。髪の毛柔らかいです。すばらしいです。


「わふぅ~……」

「ほら、ほら、どうです? 気持ちいいでしょう? このペットショップで培った私のなでなで力を味わいなさい!」

「わぉ~んっ」

「ふふっ、だいぶ柔らかい表情になりましたね。いいです、いいです。この表情録画です」


 家に帰ったらこれを見ながら、ポテチ食べて笑いたいと思います。っていうか家で飼いたいです。持って帰りたいです。妹もきっと喜んでくれます。


「なでなでなでなでなでっぁ~」

「わぅっ……」



 あぁっ、教師になって本当に良かったです……。





 ○



「おいおい…ガールズ・ラブっていうタグ付けたほうがいいんじゃないか?」

「誰に言ってるんです? 雅人くん」

「気にするな、暴力君よ。まぁっ、とりあえず今のうちに出るぞ」


 まさか、こんな担任の笑顔を拝む日が来るとは思わなかったが、絶好のチャンスだぜ。帰宅部の隠密スキル『僕、部活してないのでもう帰ります』で無事に教室を出れたな。


「よしっ、第一関門は突破だ」

「はい。まさか、こうもあっさり抜けれると思いませんでした」

「あぁっ、ここはあの女子に感謝だな」

「そうですね。殴らなくてよかったです」


 あの子には少しかわいそうだが仕方がない。

 いやっ、むしろあそこまで溺愛されてるなら、担任が庇ってくれるかもしれんな。ということは、あの子も死なないし、俺たちも逃げれるし、とても素晴らしいことなんでは? やっぱりクラスの団結力は不滅だな。めでたし、めでたし。


「では、さっさっと逃げましょうか」

「そうだな。しかし、どのルートで逃げたものやら」

「どうでしょう。ここはもういっそのこと、窓から飛び降りて直接外に逃げてみるのは?」

「……うん、そうだな。階段使って先生たちに会うほうが危険だしな。そうと決まれば、外にそのまま出れる北側の窓まで行くか」

「そうしましょう」


 そこまでの距離なら、歩いても5分ぐらいだし一番安全だろう。よしっ、正規ルートより裏ルートだ。こっちのほうが早えしな。


「よしっ、『急がは、疾風のごとく』だ!」

「なんですかそれ? それを言うなら―――」




「あらあら、逃げるなんて悪い子ねぇ。指を折ったらいい子になるかしら?」




「―――『急がば、回れ』ですよ……どうします?」

「あぁっ、本当にその通りだな……どうする?」


 よりによって、指折り先生かよ……。

 ほんと、ことわざを作った故人は偉大だな。


「全部で20本、楽しみねぇ。うふふ」



 この先生は強いぞぉ……。




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