表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

クラスを見捨てて、帰宅部は逃げる

『皆さん、お昼休みです。全校昼礼の前に、最後の食事を楽しみましょう。放送部からは以上です。みなさん、今まで聞いてくれて、ありがとうございました。さようなら』


 ……随分、死を覚悟した放送だな。いや、まぁ無理もないか……実際に過去、校長の5時間挨拶を聞かされて疲労のあまり、病院に何十人も送られたことがあるからなぁ。今回は、生きてる生徒のほうが少ないかもしれんし。


「うぅ……いやだ。私死にたくないよぉ……」

「アァッ……、シヌナラ、コキョウデシニタイデス……」

「おわりだわおわりだわおわりだわおわりだわ」


 こんなに大勢の女子高生が、泣きながら食事をする光景なんて初めて見るな。みんな目が死んでるし、あいつなんてご飯をストローで食べようとするほど、おかしくなってやがる。


「……わん! わんわん!」


 人間やめた女子までいるぞ。


「雅人くん。目の前に犬がいます」

「いやっ、ちげぇよ、暴力君。あれは少しおかしくなった、かわいそうな人間だよ」

「いえっ、きっと犬です。犬なら人間と違って、殴っても問題になりませんよね?」

「何考えてんだよ!? お前、ぜったい殴ったらだめだからなっ!」

「でも、最近殴ってないから我慢の限界なんですよ……」

「じゃあっ、校長殴ってこい。そしたらお前はメシアだ」

「嫌です。死んでしまいます」


 このチキンめ! ほんとに殴ってほしい奴にかぎって殴らねぇな。だが、確かに校長バトルするなら暴力君ひとりじゃ無理だ。あと暴力君10人ぐらいはいないと、戦いにもならねぇぐらいに強いからな。


「ハハッ……モウゲンカイデスゥゥッッ!! サヨウナラァァッ!!」

「おいっ! 馬鹿やめろ!?」

「イヤデスゥ! ニゲルンデスゥゥウ!!」


 ばかっ! 今、教室から出たら……!


「―――ふっ!」

「ピギェ!?」


 チョークが飛んでくるぞ……。


「……いまのは忠告です。2度目はありませんよ?」

「ハイッ……ゥゥ、グスッ…」


 逃げられねぇように各クラスごとの担任が教室を監視してやがるからな。いま、ここを出るのは死にに行くようなもんだ。その証拠に、ほらっ隣のクラスへ耳を澄ましてみれば……。


『ぎゃぁあああああーっ!?』

『あらあら、だめよ? 逃げたりしたら。うふふ、とりあえず指折るわね』

『やめてくれぇえええ!!』


 やっばいな……。

 不思議とまだうちの担任のほうが良心的な気がするぞ……。確か隣のクラスの担任は、数学担当の『指折り先生』だったか。

 授業中に眠った生徒の指を、一本一本折ることを喜びにする先生だ。授業のわかりやすさは、この学校の中でも指折りの先生なんだが、異常に怖い人だからなぁっ。美人だけど誰も近寄らないぜ。


 ああっくそっ! 

 だめだマジで八方塞がりだ。籠の中の鳥状態だぁっ……。俺はこのまま何もできず、ただ校長から渡される死という名の卒業証書をもらうしかねぇのかよぉ……。


 ……いやっ、それはだめだ。

 なぜなら俺は帰宅部。どんな状況に会ったとしても帰宅することが、俺のプライドってやつだ!

 俺は諦めんぞぉっ!! 帰宅部舐めんなよ!!


「おいっ! 暴力君」

「どうしました? 雅人くん。もしかして殴ってもいいんですか?」


 違うわ。ばか。

 もう3年ぐらいの付き合いなのに、なんでこう息が合わねぇんだよ。


「今から、ここを脱獄するぞ。俺たち帰宅部でなぁ」

「帰宅部? 帰宅部と言いましても僕と雅人くんの2人しかいませんよ? 後の2人は、別のクラスですし」

「あぁっ、そうだよ。俺たち2人で逃げるぞ」


 あの2人がいれば、もっと簡単に逃げられると思うが、ないものねだりをしても仕方がない。


「どうして2人なんです? クラス全員で協力して逃げたほうがいいのでは?」

「いや、こっちが大人数で動けば、向こうも大人数で攻めてくる。その場合、向こうのほうが圧倒的に強い。だから少人数で、ばれずに逃げるしかねぇ」

「……つまり、クラスを捨てて逃げるというのですか」

「……なんだ? 何か言いたいことがあるのかよ?」



 沈黙。



「いえっ、素晴らしい考えだと思います。正直、僕以外がどうなっても別に問題ないですし」

「うん、お前なら絶対そう言うと思ったよ」


 ここはサイコパスに感謝だな。サイコーサイコパス!


 とりあえず、このクラス一番の強力な味方はこっちに来た。

 すまんな。クラスのみんな、でもやっぱり俺は自分の命のほうが大事なんだ。


 汚い人間でごめんな。


 無事に帰宅出来たら、みんなのために国歌を歌うから許してくれ。


「そうですね……逃げるならまず、担任から何とかしませんと」

「お前、チョーク喰らっても大丈夫だろ? お前が何とか倒してくれよ。サポートはするから」

「いえっ、それでも倒すのに時間がかかりすぎます。その間に他の先生まで加勢に来られたら終わりです」


 あー……っ。

 確かに指折り先生とか来たら、確実に死ぬ。いや、それ以外の先生が来てもだいぶ不味い。基本的にこの学校の先生は、みんな戦闘力が高いから俺とか一般生徒じゃ歯が立たねぇ。暴力君でも負ける時があるぐらいだしなぁ。


「なんか弱点でもないかなぁ? あの担任」

「そうですねぇ……あるとするなら―――」






「―――犬によわいぐらいですかね」



 んっ? 犬?



「わん! わん!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ