クラスの団結力はミサイルをも弾く
「おはよう」
「うま!」
「まいく!」
「くるま!」
「ま、まり!」
「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ!」
「しんかんせん! って……あぁ!? 負けたぁよぅ……」
はい。このクラス恒例の『挨拶から始まるしりとり生活』無事完結。
挨拶をしただけでクラスの団結力を感じるのは、世界広しといえど、この学校ぐらいなんじゃないだろうか。これだけなら微笑ましいクラスなんだが、その団結力を悪事にも平気で変換しやがるからな。この前、クラス全員で授業を逃げ出して、カラオケ店に立てこもったのが懐かしいぜ。後半、みんなで国歌を合唱したのは本当に楽しかった。またしたいな。
「おやっ、雅人くん。今日も殴りやすそうな頭をしてますね。ちょっと一発、殴ってもいいですか?」
「まだ死にたくないから嫌じゃい。暴力くんよ」
俺のほうが、お前のそのスマイル顔を殴ってやりたいわっ! だが、こいつも人間離れした化け物だからなぁっ……。こいつだけ担任のチョーク投げ喰らっても気絶しねぇような強者だからな。俺も一度喰らってみたが、体に穴あいたもん。それ見て笑ってた担任の顔は今でも忘れんわ。
「そうですか……。そのトマト顔を殴るのが最近の私の夢なのですが……残念です」
「その夢が叶ったら、君の友人(俺)が一人消えることになるぞぉぅ! いいのかぁっ?」
「? 雅人君が死んでも別に僕は死なないし、いいんじゃないんですか?」
「貴様! 友達は大切にしろって、先生から教わらなかったのかぁっ!?」
「まぁっ、どうせ高校を卒業しましたら、雅人君とも疎遠になるでしょう。その時に友人ではなくなってるだろうし、その時に殴りこみに行きますよ」
「俺たち、ずっ友だよっっっ……ちきしょうがぁっっ!!」
新手のヤンデレかっ!! このサイコ野郎め!
「それよりも聞いてください。事件です」
「お前、ほんとに切り替え早いな!? こっちは、お前との血で染まった赤い糸について恐怖を抱いてんのによぉ……!」
「それはちょっと理解できませんが。ほんとに事件なんですよ」
「……あぁっ、なんだよ?」
「いえ、それがですねぇ―――」
「静寂に。HRを始めます」
んっ? もう担任が来たか。
……って、HRの予定時間から、もう20分ぐらい過ぎてるぞ。遅刻したのか担任?
「センセイ、オソクナイデスカ?」
「すいません。カメラを100台ほど売りに行ったら、少し時間がかかってしまいました」
あぁっ……、なるほど。確かにあんなに天井にあったカメラ一台もないや。すげえな。
「アハハ! センセイ、ウソハダメデスヨー」
「「「「「「あはははははははっ!!」」」」」」
嘘ではないんだろうけどな。
まぁ、ここは俺も一緒に笑っとくか。嗤っとこう!
「プギャャャーーーーヒャハハハッ!」
相手の精神に、直接ダメージを与える笑い方で。
「―――ふっ!」
俺の肉体に、直接ダメージを与えるチョークが飛んできた。
「うっ…! 痛いです……先生」
「すいません。暴力君に当てる気はなかったのですが、的を外しました」
あっぶねぇ……! 俺の前にいる暴力くんの体がもう少しでも小さかったら、俺の心臓が貫かれてだぜ。ナイス~っ! 俺たちやっぱり、ずっ友だぜ。
「……もういいです。それよりも早くHRを始めましょう。次の授業にくい込んでしまいます」
だったら、しなかったらいいのに。HRとか世間一般的に、たいした重要度のない時間だろう。
フルコースの前菜みたいなもんでしょうが。
「まず、校長からの連絡です。『午後から、抜き打ちで全校昼
礼をするので覚悟してねっ』だそうです」
「「「「「…………えっ?」」」」」」
……ぜ、ぜぜぜぜぜぜんこうちゅうれい……?
うそ……。なにをいってるのかな? にほんごってむずかしいなぁ……。
「……ア、アハハ! センセイ、ウソハダメデスヨー」
「「「「「「ア、アハハハハハハッ!!」」」」」」
「嘘ではありません。ちなみに今日、校長絶好調らしいです」
「「「「「「ァ……アハハハハハハッ……」」」」」」
「今日の校長の挨拶では―――最高記録の6時間を超えてみせると意気込んでました」
「「「「「…………………………………」」」」」」
「楽しみですねぇ……皆さんの絶望した顔を見るのは…―――ほら、どうしました?」
「笑いなさいよ?」
静寂。
全員が手を上げる音。
「……なんですか?」
無論、言うことは決まっている。きっとみんなも同じ気持ちだ。
だって、みんなスマイルだもん。
「「「「「トイレに行きたいでぇす!」」」」」
「漏らしなさい」
その時、間違いなくクラスが一致団結した。