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孫よりも生きようとする祖母

『ひゃはははははぁっ! たーのーしーいぃぃぃい! 弱い者いじめは楽しいよぉぉおお!!』


 ……んっ、もう朝かよ。眠いなぁ。……あーだるいだるいだるい、学校行きたくない! 特にあんな変な学校行きたくない! ……でも行かなかったら、父さんが24時間ずーっとこちらを見つめてくるという謎の拷問を受けなくちゃならないしなぁ…………行くか。


『もっともっと遊ぼうよぉぉぉ! ひゃぁはははは―――ピッ!』


 よし、目覚まし時計も止めたしさっさと行くか。教科書もカバンも学校に置きっぱなしだし、準備するもんも特にないし楽だな。





「おおっ……、雅人ちゃん。ちょうどいいところに」

「んっ? どうした祖母ちゃん」

「儂の、メリケンサック知らないかい……?」


 相変わらず、怖え祖母ちゃんだな。


「いや、知らないぞ」

「そうかい……花のマークがついた、オシャンティなやつなんじゃが……」


 養分は、殴り殺した人間の血かな?


「いや、知らないって、それより俺急いでんだ。学校に遅刻するかもしれねぇんだよ」

「……雅人ちゃん。今返してくれるなら許してあげてもええよ…?」

「……なんだ疑ってんのか祖母ちゃん。俺のことをよぅ……」

「戦争では、味方の誤射で死ぬことが多い……。味方であろうと、孫であろうと、すべてを疑うべきじゃ…」


 家族に言う言葉じゃねぇ…。だが俺の家族がいう言葉だというなら何の違和感もねぇな。さすが、あの狂った学校を卒業しただけはある。


 しかも、うちの学校の卒業生、無駄にステータス高いからめんどくせぇんだよ。目の前の祖母ちゃんだって、平気でゴリラの腕握り潰せるような握力もってやがるからな……。


 常識もきっと握りつぶしたんだろうな。


「ひっひっひっ、儂が教えてやろうかい……? 死の恐怖というやつを……」


 昨日も、担任に殺されそうだったからそれは間に合ってる。



 てか、もう時間がないんだよ! ここで祖母ちゃんと非核3原則を守った戦争をする余裕などないんだよ!


「逃げるが勝ちじゃぁあああ! ぼけぇええ!」

「待ちなぁっ! 脱走兵は死刑じゃぁっ!! きぃえぇええええええええぃいいい!!」



 孫とお祖母ちゃんが、追いかけっこをする微笑ましい絵の完成。









 よし、もう祖母ちゃんの姿は見えねぇ…。多分、まだ追いかけてきてはいるだろうが、近距離戦特化型の祖母ちゃんじゃあ、俺のスピードにはついてこれねぇ。後は、学校に逃げ込んでしまえば俺の勝ちよ。帰宅部舐めるんじゃねぇぞ、祖母ちゃん!


「んっ? あ、あれは……!」


 学校の正門の前で、仁王立ちするあの先生……まさかっ!?


「遅刻の門番かっ!?」


 遅刻の門番。

 遅刻ギリギリで慌てて走ってくる生徒を足止めし、絶望する顔を拝むことを生きがいとすることから、そう呼び名がついた。


 学校をすぐ目の前にして、むなしくも朽ちていった生徒の数は、999人。


 無表情なあの先生が笑うときは、苦しむ生徒の顔を見た時だけらしい……。ちなみに、うちの担任の妹だ。嫌なところばかり似てやがる…っ! くそっ!


 普段ならめんどくさいから、門番がいなくなるまで待つのだが……今日はだめだ、祖母ちゃんに追いつかれてしまう。いくら俺よりは遅いといえ、1分でも止まってしまったらすぐに追いつかれて血祭りにあげられる。



 ここは、もう強硬突破するしかない!! 神風特攻隊のごとくなぁっ!



 …とはいえ、仮にもあの担任の妹。

 化け物みたいな力を持つ先生相手に、俺が勝てるわけもねぇ。くそっ、ここに暴力君がいたら対抗できるというのに!! どうする? どうする俺? 何かないか? あの化け物に勝つ方法は!?


「……ほう、今日も遅刻ギリギリにやってくる哀れな子羊がいるなぁっ?」

「……げっ!?」


 ちっ、見つかってしまったか!?


 ……くそっ、こうなれば俺の人生のように、後先考えず突っ込むしかねぇぇ!!



「うぉぉぉぉおおおっ!! 帰宅部ばんざぁあああいいいい!!」



 突撃!! 結局神風特攻ぅっ!



「馬鹿め……、それは死亡フラグというやつだ。その証拠に、今日は運よく道端で武器を入手した。これで貴様のトマトみたいな顔を、ぶどうみたいにしてやろう」







「この花柄のメリケンサックでなぁっ!」


「えっ?」



 それ、死亡フラグでは?





「―――ほおっ……? そこにあったか……儂のメリケンサック」

「なっ……、いつの間に!?」


 すげぇ、瞬き一回しただけで祖母ちゃんが、先生の隣に現れた。

 というか……俺よりも全然早くない? 普段は実力を隠してたのか。末恐ろしな祖母ちゃん。


「小娘……。腸がどれほど伸びるか教えてやろう……」

「……馬鹿にするなよ。いくら年寄りといえど許しは……っていたいいたいいたい!? 腕折れる! ぽきっていっちゃうぅうううっ!?」



 ふぎゅうー!? と悲鳴を上げる門番。哀れなものだな、祖母ちゃんに勝てるわけないだろう。この学校のOBだぞ。



「……た、たすけて!!」


 いや、無理無理。

 孫の言うことには優しいとか、そういうの期待できるような人じゃないから。



「先生」



 だから、先生にはこの言葉を贈ってやろう。





「授業に遅刻しないでくださいねぅぇ?」



 どや顔で、俺はそういった。




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