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道徳を捨てた教師

「もういやだぁああー!」


 おい、聞こえてるか世界! この17歳の心からの絶叫を! もう今ならゴリラのドラミングにも対抗できるぐらいの自信があるわ。おい!


「補習いつまであんだよ、もぉおおおお!」


 もう、20時だぞ!? たかが、テストがダメだっただけで人間をここまで束縛する権利が学校様にあるのかよ。ほら……校庭見てみろよ? 野球部の、あのにこにこスマイルすら拝めねぇ! もう誰もいないね!

 運動部すら帰っているというのに何で帰宅部の俺が帰れないなんていう下克上おきてんだよ。ブラックだよ。人権問題で訴訟起こしてやるわ。


「先生、ちょっと裁判所に行ってきます」

「この教室を一歩でも出てみなさい。あなたの体を紙切れ一枚ぐらいのサイズにしてあげるわ」

「失礼しました!」

「というか、3番くん。あなたが補習さっさと終わらないから、私が帰れないのよ。さっさと終わらせなさい」

「先生! 人間を数字で呼ぶのはいかがなものでしょうか! 先生の見たくもない醜い心が丸見えです!」

「―――ふっ!」


 俺の頬をチョークが通り過ぎた。

 後ろの席が、爆裂するような音が響く。


 チョーク投げた音じゃねぇ……。


「……いま、私は故意てきにあなたを狙わないように投げました。そして、私の手のひらには13個のチョーク。これの意味するところは分かりますね?」

「はい」

「よろしい。これであなたをチーズのようにしなくて済みます。では、いまから静寂」

「はい」


 くそっ、だめだ。生殺与奪は向こうに握られている…! ここは大人しく机に向かって、ひたすらこの将来使う可能性の極限的に低い古典をやらねばいけないのか? 


 くそ、でも死ぬのと比べたらまだ……いやっ、やっぱりしたくねぇ!


 このまま奴の支配下のもと、ひたすら頭を下げて人形のように生きていく人生は楽しいのか……? 否! それは違うだろう! 俺は帰宅部。帰ることを生業とする俺がこの状況を黙認することは敗北を意味する! そんなことをしたらご先祖様に面目が立たねぇぜ!


「せんせーーい!」

「……静寂と私は言ったのですが、その耳は食パンですか?」

「トイレに行きたいでぇす!」

「ほぅ…」


 はっ! どうだ! シンプルなワードではあるがこれこそが、帰宅部界の不可避のジャブよ! これを断ったら貴様は、目の前で男が清々しい顔でお漏らしをする顔を拝まなくてはならなくなってしまうのだ!! 実際、少しトイレに行きたくなっていたところだぁっ! ちょうどいいぜ!


「ふふっ……あははははははは!!」

「な、なにが面白いんですが!?」


 脳まで筋肉になって狂ったかこいつ!?


「ははは……漏らせばいいです」

「なっ」


 何を言っているこいつ! 本当に教師か!?


「上を見なさい」

「な、なにぃぃいいい!?」


 天井余すところなく、監視カメラとマイクがある!?


「さぁっ、どうぞ漏らしなさい。そしたら明日のHR、クラスのみんなで試写会と洒落こみましょう」

「お、鬼…!」

「なんとでもいいなさい。私は人の不幸を傍観者として見るのが大好物なんですよ」

「人でなし…!」

「ちなみに、このカメラはクラス費で買いました。校長には、文化祭の出し物の費用で通しています。ですから、うちのクラスだけは予算500円です」

「き、鬼畜め!?」


 こんなことが平気で行われていいのか!? というかこれ犯罪じゃ…。


「こ、こんなことをして世間が黙ってると思うのか!」

「あら、私がそのようなへまをすると思っているのですか? 証拠など何一つありませんよ」

「いや! ここに俺という証人がいるぞ! 校長に言ってやるぞ!」

「何を馬鹿なことを…。あなたのような素行不良で、小汚い、トマトみたいな顔をしている生徒が一人いたところで何の説得力もありません」

「ぐっ…」


 ……確かにその通りだ。一時間目の授業が始まってから、最速2分でめんどくささのあまり逃げ出した男の話に耳を傾けるやつなんていない…! ただでさえこの学校は変人どもの集団だというのに。


 くそぉっ!! 真実を知っているのに証明できないなど、こんな残酷なことがあっていいのだろうか!? 俺は正しいのに! 俺は正しいのに! 



 ん、まてよ。



「上のカメラ見せればいいんじゃね?」






「………あっ」




 おっ、珍しく先生が動揺してるぞ。




「雅人くん」

「先生、どうして僕を数字で呼ばないんですか?」

「何を言っているの。あなたのような優秀な生徒を名前で呼ばないなんて、天罰が下るわよ」


 手のひらクルクルだな。この人。回りすぎて穴掘れるんじゃない?


「あら、もうこんな時間ね。雅人くん。補習のほうは私が捏造しておくから帰っていいわよ」

「ほんとですか!」

「えぇっ、だから早く私に背を向けながら帰りなさい」

「先生。僕が後ろ向いた瞬間、チョークを投げるつもりじゃありませんよね?」

「何を言っているのそんなことするわけないじゃないそもそも教師が生徒に暴力をふるうことは犯罪なのよ」

「めっちゃ、早口ですね」


 何が暴力は犯罪だ。この偽善者め。しかし、どうやら向こうも後がない様子。


 ここはひとつ、交渉と洒落こもう。


「先生」

「なにかしら、雅人くん。早く後ろを向きなさい」

「どうでしょう。今から僕を無事に帰していただけるなら、さっきまでのことはすべて忘れますし、先生がカメラを撤去する時間も与えてあげますよ」

「……ほんとうに?」

「……えぇ、ほんとうに」



 悪い笑顔。



 そして、握手。



「では、先生さようなら」

「えぇっ、さようなら。気おつけて帰りなさい」



 さぁっ、帰ろう。


 明日もいいことがありますように。






「てか、やばいめっちゃトイレ行きたい」




 おい、なんで学校のトイレ全部使用中なんだよ……!




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