表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第6話 暇を持て余した妖の戯れ

「……あった。」


 地図のお陰で易々(やすやす)と辿り着いた目的地の前に立った。

 確かに古希こきの言う通り、店は外装はデフォルメした黒猫の顔だ。しかしそれよりも気になったのは、店のそこ彼処かしこにいる毛の生えた動物達。


「猫だらけだ……。」


 晶が猫の多さに圧倒されていると、入り口からここの店主と見られる猫耳の生えた綺麗な人外ヒトが顔を出した。


「あ、人の子じゃん。

 いらっしゃい、ここは性格を売る店だよ。このペンダントを額に付けるとあら不思議、性格が変わっているんだ!

 君はどんな性格になりたい?」


 その暗い青緑色の服を着た人外ヒトは自身の首から下げていた丸いペンダントを掲げ、晶に尋ねた。


「えぇと、友達が出来る性格?」

「んー。もうちょっと具体的に言って欲しいかな。」

「具体的……明るい性格?」

「そうそう、そんな感じ。」


 晶と猫耳の人外ヒトが話していると、一匹の猫がその足元に寄って来た。


「あ、野良……!」

「やっほー。また会ったね。」


 その猫は晶をここに連れてきた張本猫だった。猫耳の麗人は後ろで結んだ一つ縛りの髪を揺らし、瞳孔を狭めて少し驚いていた。


「あれ? 知り合い?」

「私の、友達です……。」

「ミケ言ってたよね?人間の子でトモダチがいない子連れてきてって。まぁ、今は僕というトモダチがいるけどね。」


 野良にそう言われて魅怪みけは自分の記憶を遡るように、腕を組んで考え込み始めた。


『暇だなぁ。ねぇ、人の子を持って来てくれないか? 友達がいない子やいい話し相手になりそうな子がいいなぁ。頼んだよ。』


 ふっと思い出した過去の己の台詞に一つポンと手を打つ。


「あ、あー。前言ってたやつね。すっかり忘れてた。なんだい、教えてくれれば良かったのに。」

「つばき通りまで連れて来るのに疲れちゃったんだよ。今の今まで寝てたんだ。少しくらい労ってくれてもいいじゃん。」

「いつも同じくらい寝てるじゃないか。」

「寝るのも仕事のうちさ。」


 軽快なやり取りをする一人と一匹に、晶は居心地が悪くなり苦笑いを浮かべた。

 そんな晶に気付いたのか否か、魅怪みけは晶の方を見てニヤリと笑いかける。


「よし、せっかくだし遊んでいかないか? ゲームしようよ!ゲーム!」


 そう言うと、晶の手首を掴んで店の中へと連れ込んだ。

 野良は二人の背を見送ると、尻尾をピンと立てて何処かへと歩き去っていった。




 魅怪みけに引っ張り込まれ、店の中へと入った晶は言われるがままテーブルの前の椅子に座った。


「ちょうど退屈してたんだよ。君が来てくれてラッキーだ。一人じゃ出来ないゲームもあるしね。」


 そう言って棚から大きめの箱を取り出すと、「よいしょ。」と言ってテーブルの横に置いた。


「今日はボードゲームの気分なんだよなぁ。さあて、何にしようか? 色々あるよ。オセロ、チェス、チェッカー、あと囲碁も!」

「……じゃあ、オセロで。」

「OK、じゃあ始めようか!」


 魅怪みけ縦横たてよこに線が引かれ、四角いマスがいくつも出来た正方形の緑色のボードを取り出した。そして白と黒のリバーシブルになった平たい石を裾の上から指で挟んで真ん中の四マスに斜めに同じ色を置いていく。


「ルールは大丈夫?」

「相手の石を自分の石で挟むと、自分の色にひっくり返す事ができるんですよね。……えっと、先攻は黒と白どっちでしたっけ?」

「黒だよ。晶はどっちがいい?」

「私は……。」


 悩む晶に、魅怪みけは指先より長い丈の袖の裾で口元を押さえて不敵な笑みをこぼす。


「迷ってるようなら先攻くろが有利だし、そっちを選べば?

 俺は後攻しろでも負ける気がしないからな。」

「じゃあ先攻くろで。」


 ゆっくりと一手を打ちながら、晶は疑問に思っていた事を投げかけた。


「野良がここに私を連れて来たと言う事は、逆に私を元の場所に帰す事もできるってことですか?」


 魅怪みけはすぐに石を置いて黒を白にひっくり返す。


「君に悩みがあるうちは無理だね。」

「そうですか……。」

「その様子じゃあるみたいだけど、どんな悩みなんだ?」


 晶は唸りながら石を置き、隣を裏返した。間髪入れずに魅怪みけが次の一手を打つ。


「友達がいない事ですね……。トラウマ? があるせいで壁を作ってるらしいんですけど……自分のトラウマが何か分かってないんですよね。」

「ふーん?」

げんさんが言うにはこのつばき通りにその原因になった人がいるかもしれないらしくて……。」

「今はそいつを探してるってわけだ。」


 晶は魅怪みけが角を取って石を裏返すのを眺めながら頷いた。既に盤上は白で染まっている。

 悪あがきにと晶は別の場所を攻めてみるが、魅怪みけにことごとく返されてしまった。


「俺の勝ち。」

「負けました。魅怪みけさん強いですね……。」

「俺まだ本気出してないよ。」

「……強過ぎです……。」


 晶はガックリと肩を落とす。魅怪みけは石を片付けながらケラケラと笑った。


「もう一戦する?」

「……お願いします。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ