第17話 追加された選択肢
「サラちゃんは、こっちへは来れないの?」
「ここに長く居たせいか、この人形と一体化しててな。もう、人間の霊としては存在出来ないんだ。」
「そうなんだ……。」
また一緒に遊べるものだと思っていた晶はしょんぼりと肩を落とした。
「大丈夫。今の晶ちゃんならきっと友達の一人や二人簡単にできるさ。」
「出来るかな……。」
「また失うのが怖いんだろう? あたしを失ったみたいに。」
晶は図星を指されて俯き加減だった顔を更に伏せてしまった。
沈んだままの晶を紗良は肩をトントンと軽く叩き、その手を置く。
「あたしと友達になってくれたアキラちゃんなら、他の人とだって仲良くなれるし、友達にだってなれるさ。」
晶が少し顔を上げて紗良を仰ぎ見ると、紗良は自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。
「仲良くなろうとする事に遠慮なんか要らないんだよ!」
「……そっか。そうだよね。……頑張ってみる。」
晶もやんわりと笑みを浮かべた。
悩みが解決した事で商店街の入り口にかかった霧は薄くなっており、このまま元の世界に帰れるだろうという確信が持てた。
しかしながらお互いに名残惜しさもあって、すぐには帰らず、晶は安納に再びつばき通りを案内して貰いながら、当初の目的であったバイトのお遣いを済ませる事にした。
「これで全部かな。」
「うんうん、揃って良かったよ。」
袋の中とメモを交互に見て確認する晶に、安納は満足そうに頷いた。
「途中でお世話になったみんなにも挨拶できて良かった。ありがとう、紗良ちゃん。」
「なぁに。これくらいお安い御用ってもんよ。……さて、用事も済んだ事だし。そろそろ、行くかい?」
「……うん。」
俯き加減になる晶に、安納は背を叩いて喝を入れた。
「辛気臭い顔しなさんなぁ!ほら、笑顔笑顔!……じゃないと、あたしまで泣きそうになるじゃあないか。」
「……うん。ごめん。」
泣きそうな顔のまま、無理やり笑みを作る晶を見て、安納は急に足を止めた。
「……よし、分かった。晶ちゃん。いっそこのままここで一緒に暮らそうか!」
急な提案に戸惑う晶。そんな彼女をよそに安納は話を続ける。
「金は心配しなさんな。当分はあたしが面倒見てやるさぁ。働きたいならあたしの店の仕事一緒にやってくれれば良いしな。
そうすればずっと一緒にいられるし、何より寂しく無い。友達を新しく作らずとも、あたしが一生の友達としてそばに居られる。それに、ここで出会って仲良くなった奴が沢山いるじゃないか。そいつらも、あんたの友達さ。
こんなに良いところに住むってのは我ながら良い案だと思うんだ、晶ちゃん。って事で、ここに残るのはどうだい?」
帰ることばかり考えていた晶にとっては、思ってもみなかった案だ。唖然として、安納が差し出した右手を見る。
「もし、それが良いと思えば、あたしの手を取って。そうじゃないなら、そのまま入り口に行こうか。」
晶は視線を彷徨わせた。そして、考えた末に一歩前に踏み出す。
それを見て、安納は満面の笑みを浮かべた。
「やっぱり。そうするよね。」