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第13話 記憶の音

「晶やないかい。こんな所で会うとは奇遇やな。」


 凛の店に行く途中に幻に声をかけられた晶は、足を止めてお礼を言った。


「昨日はありがとうございました。」

「ええってことよ。ほんで、探し人は見つかったんか?」

「それがまだ、見つかってないんです……。」

「まぁ、ほとんど無いに近い情報で探すんは無謀な事やからなぁ。そんな簡単に見つかったら誰も苦労せんよ。

 手がかりはなんか掴めたん?」

「そういえば亜希さんが何か知っているようでした。私に、会いたい人がいるらしくて。」

「おお。一歩前進やな。ほんで、それは誰なんや?」


 困ったように笑った晶を見て、幻は苦笑いをした。


「教えて貰えんかったか。ケチやな〜。」

「でも今から行くお店で、私のトラウマを思い出せるかもしれないんです。」


 幻は首を傾げて「今から?」と晶に聞く。


「これから凛さんのお店に行くんです。」

「おぉ、そうなんか。丁度ええ、俺の店がその向かいにあるんや。途中まで一緒に行かへん?」

「……道、不安だったんで、助かります。」

「ええって事よ。ついでに俺の店に寄って行き。」

「用事終わってからで良ければ……。」


 幻は「もちろんそれでええよ」と言って、再び歩き出した。晶はその横に並ぶ。


「幻さんは何を売っているんですか?」

「俺は空気売りや。」

「空気……? 酸素とか、そういうのですか?」

「これが違うんやなぁ。良く『空気を読め』とか言われへんか? そっちの空気や。」

「……なるほど。」

「楽しい空気。重苦しい空気。変な空気なんかもあって、色々な空気を売っとるんやで。」

「そうなんですね……。」


 晶は感心したように頷いた。


「あと、オーラも売っとってな。晶には見えへんやろうけど、みんなそれぞれオーラを纏ってん。空気と一緒で色んなオーラがあるで。寧ろ空気よりも多いかもしれへん。

 ……そう言えば、やけにオーラめっちゃ薄いやつったなぁ。」

「薄いとどうなるんですか?」

「どないなると言うてもその人はどうもせぇへん。俺から見ると存在感薄いなぁって感じるだけや。多分近くに居ても気付けへんな、あれは。」


 話しているうちに『烏殺カラコロ』に着いた。

 晶と幻が店に入ると、奥から凛がひょっこりと顔を出す。


「いらっしゃぁい。……あれぇ? なんで幻も居るのぉ?」

「俺が来たらあかんか?」

「別にぃ? そぅゆうわけじゃないけどぉ。暇なんだねぇ。」

「なんや、トゲのある言い方するなぁ。」

「晶ぁ、頼まれた商品出来てるよぉ。」


 凛が晶に作った風鈴を見せた。透き通ったガラスでできたそれは、光を反射してキラキラと輝いている。


「綺麗……。」

「さぁ、鳴らしてみてぇ。」

「……うん。」

「耳を澄ませてぇ。何か思い出せるかなぁ?」


 晶が受け取った風鈴を揺らして音を出したその時、晶の脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。


 けたたましいクラクションの音。タイヤが急ブレーキで擦れる音。そして、人がぶつかる鈍い衝撃音。


 晶はとてつもない喪失感と絶望感に苛まれた。止めどなく溢れ出る涙が服を濡らしていく。


「ありゃあ。泣いてしもたわ。」

「思い出せたみたいだよぉ。良かったねぇ。」

「喜んでる場合かいな。これならいっそ思い出さん方が良かったんとちゃうん?」

「はぁ? 記憶を蔑ろにする奴は嫌いだよぉ。これはぁ晶が決めた事だしぃ。」

「そんなら何かケアしてやらんと。顔グチャグチャになっとるし。」

うるさいなぁ。そっとして置いてあげただけじゃぁん。それなら幻が慰めてあげなよぉ。」

「それもそうやな。」

「……いえ、だいじょうぶ、でず……。」

「そうは言うてもなぁ。ほんま顔酷いで。とりあえずこれで顔拭きや。」


 晶は幻からハンカチを受け取り、涙を拭った。


「ずみばぜん……。」

「気にしなくていいよぉ。凛ちゃん全く気にして無いからぁ。」

「そやそや。気にせんでええよ。」

「それでぇ?何を思い出せたのぉ?」

「お前、鬼か。今それ聞くんかい。」


 幻はそう言いつつ凛の額から出た二つの突起を見る。


「いや元から鬼か。角っぽいのあるし。」

「煩いよぉ? ちょっとぉ、黙っててぇ? 凛ちゃんは今からぁ、記憶を思い出すお手伝いをしたいんだからぁ。まだぁ完全に全部思い出せたわけじゃぁないでしょぉ?」

「やっぱ鬼やな。」

「泣きながらでもぉ、話せるでしょぉ?」

「鬼を通り越して悪魔やな。せやかて今喋ったところで鼻声で良う聞き取れんわ。」


 幻は「これも使いや。」と言ってポケットティッシュを渡し、晶はお礼を言って鼻をかんだ。


「……私、昔事故に遭遇してたみたいです。多分、……人がかれるところを、……間近で見てしまったんだと思います。」

「そないなとこ見てしもうたらトラウマにもなるわな……。」

「でもぉ、他人が轢かれたところをぉ見ただけでぇ記憶が無くなることなんてぇあるのかなぁ?」

「……何が言いたいんや?」

「だからぁ、轢かれた人がぁ晶の大切な人だったんじゃあないかなぁって思ったのぉ!」

「……私の、大切な人……。」

「そぉ! 何かぁ思い出せなぃ?」


 晶はそっと、胸に手を当てた。

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