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第11話 気になる

「服とか全部おばあが用意してくれて、おばあの趣味なんだこの民族っぽい柄。最初はあんまり好きなデザインじゃなかったんだけど、今は結構気に入ってんだ。小さくなって着れなくなった服は裁断して違う服に作り替えたりしてくれてね。これを着てるとおばあを近くに感じれるんだよ。」

「大切な形見なんですね……。」


 しんみりとする晶に安納は驚いたが、晶が思い違いをしている事に気付いて思わず吹き出してしまった。


「あはは、勘違いしなさんなぁ! ここには居ないってだけでおばあはこことは違うあっちの世界でピンピンしてるよ。」

「……あ……そうなんだ……そっか。」


 晶は小声で「びっくりした」と胸を撫で下ろした。


「なかなか会えないから寂しい事には変わらないけどねぇ。

 まあ、思い出話はこれくらいにして。部屋案内するよ。ついて来な。」


 安納に言われるまま、二階に上がる。

 横幅はギリギリ片腕を広げられるぐらいの狭い廊下が真っ直ぐに延びており、その突き当たりには扉があった。


「左の二つが一人用で、奥のが二人用になってんだ。今は誰も居ないから晶ちゃんに貸すのは一番手前の部屋ね。」

「はい。ありがとうございます。」

「はい、これ。」


 安納に渡されたのは青い組紐飾りが付いた鍵一つ。それと、同じく青い小さな巾着袋。


「その中に夕飯分と銭湯に入れるだけのお金が入ってるから。早めに行って来な。着替えはあたしの貸すからさ。」

「え……でも。」


 戸惑う晶に安納は苦笑いを浮かべる。


「やっぱり気にするか。じゃあ、その分くらいの組紐作るの手伝ってくれたら借りは無しってするのはどうだい?」


 晶は大きく首を縦に振った。


「それでお願いします。昼食代も含めて頑張ります。」

「あはは、律儀だねえ。いいよ、いいよ。それは奢りって言ったんだから。返してもらっちゃ、あたしの格好がつかないよ。

 その代わりと言っちゃあれだけど、宿代はそれに含めてきっちり貰うつもりだからね。お代が払えないって場合は商品を作るのを手伝ってもらう事でチャラにしてんだ。」


 晶は「そうなんだ……」と小さく呟いた。


「さあ、そうと決まればささっと行っておいで。飯屋と風呂屋はこの近くにあるからさ。」


 再び一階に降りると、安納は奥の部屋から少し大きめの袋を持ってきて「着替えとタオル入れといたよ」と言って晶に渡した。


「安納さんは、行かないんですか?」

「あたしはシャワーだけでいいし、飯は朝の残りがまだ残ってんだ。なぁに、気にしなさんな。それとも、一緒に行って欲しいのかい?」

「だ、大丈夫です。子供じゃないので……。い、行ってきます。」


 面白がってニヤニヤとする安納に、晶は恥ずかしくなって早足でその場を後にした。


 安納が言った通り、意外と近くにあった店で食事を済ませ、そのまた近くの風呂屋で身体を洗い流す。


 さっぱりとした晶が安納の店に戻ると、安納は店のカウンターを作業台にして組紐を編んでいた。


「おかえり〜。いい湯だったかい?」

「はい、気持ち良かったです。」

「そりゃあ良かった。」

「服もありがとうございます。」

「いいって事。やっぱり似合うわ、その格好。」


 白のワイシャツの上に黒のベアワンピースを着た晶に、安納はニンマリと笑いかける。そして晶の目をじっと見つめ何故か悲しそうに眉を落とした。


「えっと、ごめんなさい。私、何かしちゃいましたか?」

「いいや、何でもない。大丈夫。

さて、早速だけど眠くなるまでは組紐作り手伝って貰おうかな。」


 先程の安納の態度に気掛かりを覚える晶だったが、すぐに明るく振る舞う安納に合わせる事にした。


「分かりました。何をすればいいですか?」


 安納は自分の隣に置いてある箱を指差す。


「その中からいい感じの組み合わせで5本から8本くらい糸を取ってくれないかな。出来たら片方だけ端っこを結んで置いといて欲しいんだ。簡単に解けるくらい軽くでいいよ。」

「……それだけで良いんですか?」

「ああ。作るのはあたしの仕事だから。それに、合わせる色を考えるのも意外と時間がかかるし大変だよ? 被りとかは出来るだけ無いようにしたいからさ。壁とか商品棚に飾ってあるのを参考にしてやってみな。」

「なるほど……やってみます。」


 そうしてしばらく作業をしているうちに、晶は眠気でウトウトとし始めた。

 手元が止まってしまった晶に気付き、安納が壁掛け時計を見ると、針は十時過ぎを指していた。


「そっかあ、この時間もう寝てるか晶ちゃんは。よし、あんたはもう寝な。」

「……はい。」

「今日はこんなもんかな。あたしもそろそろ切り上げるか。」


 晶は目をシパシパさせつつ、カウンターの上を片付ける。


「まとめたものも、箱に入れますか?」

「あー、いい。そんままでいい。そこに置いといて、あんたは先寝てな〜。」

「……安納さんは。」

「あたしはもう少しやるから。ほら、今やってるやつあと少しで出来そうだし。」

「……分かりました。……おやすみなさい。」

「おやすみ〜。」


 二階の部屋の鍵を開けると、そこは畳み三畳分の和室になっており、真ん中に敷布団が敷かれていた。

 普段はベッドで寝ている晶には和式のベッドが新鮮で眠れるか心配になったが、畳からするイグサの香りが何故だか心を落ち着かせてくれた。


「……どうして、あんな顔を……。」


 安納の事が気になったが、それよりも眠気が勝った。一日中つばき通りを歩き回って疲れていたからだろう。柔らかい布団に入った晶はすぐに深い眠りへと落ちていった。

お風呂シーンは、要望があれば書き足すかも知れません。それか、完結後の番外編にて。

晶のサービスシーン、需要あるのかな……?

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