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第10話 寄ってらっしゃい見てらっしゃい

「腹も膨れたし、どうするかねぇ。晶ちゃんはこれからの予定とかあるかい?」

「……特には……。」

「ならあたしと一緒に店巡りしよう。ついて来な!」


 そう言って晶の手を取り歩き出した安納のその背が一瞬、誰かと重なって見えた気がした。

 晶が覚えの無い既視感に首を傾げつつも手を引かれながら歩いていると、右前方の店から無数の視線を感じた。

 店の窓から中を覗くと白く丸い物体の入った瓶がずらりと棚に並べてある。


「 おっと、早速気になった店があったかい?」


 足取りが重くなった晶に気付き、安納は足を止めて晶の顔を覗き込む。


「……少し。」

「じゃあ、入ろうか!」


 言うが早いか、安納は晶を連れてズカズカと店の中に入って行く。


「いらっしゃい。」


 と、二人に声を掛けたのは金色の長髪を垂らした着物の女性だった。頭から三角の獣耳が垂れていたが、晶はそれよりも腰のあたりから出ているふさふさの尻尾に目を奪われた。


「人間には珍しいものなのかな……?」

「晶ちゃん見過ぎー。」


 クスクスと笑う安納と、首を傾げる金髪の女性にハッと我に返った晶は小さくなって「ごめんなさい。」と謝った。

 気を取り直して商品棚の方を見ると、そこには透明な液体の中に一組の目玉が浮いて保存してある瓶が陳列されている。

 近づいて手に取るが、不思議と気持ち悪くはならなかった。前に浮いている目玉を直に見て耐性が付いたからだろうか。しかし、それだけでは無く、晶はこの目玉を宝石のような美しい物のように感じていた。


「これは……本物ですか?」

「そうだよ。作り物と思ったのかい?」

「すみません、あまりにも綺麗だったので……。」


 疑われて少し不機嫌そうだった顔はその言葉ですぐに笑顔を取り戻した。


「まあ、そうだね。作り物めいているように見えても仕方ないか。

 そうだ。そんなに気に入ったのなら一つ買っていかないかい? お安くするよ。」


 晶は財布の入ったポケットを触り、苦笑いを浮かべた。


「また今度……。」


 そそくさと店を後にすると、後ろから追ってきた安納が横に並んで歩き出した。


「あたしが買ってやっても良いのにさ。気になるんなら代金は後で貰うから。」

「うーん……。」


 困り顔の晶に安納はしょうがないなと言う風に腰に手を当てた。


「まずはあたしの買い物にだけ付き合って貰おうか。その方が気が楽かい?」

「……そうですねぇ。」

「じゃあそうしよう。」


 次に寄ったのはけん玉やヨーヨー、かるたなどの玩具おもちゃを売っている店だった。そこには寒くも無いのに厚着をした大男が居た。


「シャボン液頂戴ちょうだいな!」


 安納が元気よく注文すると、大男は頷いて商品を取り、安納が手のひらに載せた小銭と交換した。


「どのお店も一人しか居ないですね。朝霧さんのところですらそうでしたし……。」

「ああそりゃ、みんな一人で店やってるからだよ。かく言うあたしもそう。ここにいる人外ヒト達は大体自分の店を持ってるのさ。」


 シャボン液の入った容器をポシェットに入れ、安納は意気揚々に「さて、冷やかしに行こう!」と笑った。


 安納はその宣言通り、店を覗くだけで何も買わずに晶を連れ回した。普段目にする物から目新しい物、懐かしい物まで、色々な物を売るお店があり、晶は飽きることなく楽しい午後を過ごす事ができた。


 そうして日も暮れてきた頃、既に安納は自身の帰路に着いており、二人の目の前には彼女のお店があった。


「ここがあたしの経営してる宿屋『heiseハイス』だ。宿屋にしては小さく見えるだろ?」


 晶は頷き、「もう少し大きいかと……。」と呟いた。安納は笑って「奥に長いんだよ。」と言い、店の中へ晶を案内しながら説明を続ける。


「元々は組紐屋だったんだけど、当時の店主が見習いのあたしに部屋として貸してくれた場所がここの二階でね。

 あたしが店主になってからは使わなくなったんだけど、また物置きにしちまうのももったいないってんでお客に一時的な寝床として場所を提供し始めたのが始まりさ。今は改装して泊まれる部屋は三つあるんだ。」


「ああ、でも。」と、壁に掛けてあるコルクボードに数個程飾られたカラフルな紐を一本手に取って晶に見せた。


「組紐もまだ売ってるよ。これはあたしが作ったやつ。

 あたしそんなに手先が器用な方じゃ無いからさ。時間がかかるんだよ。だから兼業みたいな感じでちまちま作ってて品数は少ないんだ。あたしが作った分はそこのコルクボードに飾ってあるやつで全部さ。だがその分超丁寧に編んでるから品質は保証するよ。」


 安納は紐を元の場所に戻し、カウンターに回ってしゃがみ込んだ。

 そして「よっ、こいしょ。」と段ボールを持ち上げてカウンターの上に乗せ、中身を開けて晶に見せると肩をすくめた。


「まぁ、この通り。元店主が作った良いやつがまだけっこう残ってたりするんだけどもね。」


 言われてよく見れば、箱に入っている組紐は安納が作ったものよりも編み目がきっちりとしていた。


「その元店主さんってどんな方だったんですか?」

「優しい人外ヒトだよ。誰にでも分け隔て無く親切でさ。あたしもかなり良くして貰った。」


 懐かしむように箱の中の組紐を手に取って編み目をなぞる。そして安納はゆっくりと思い出話を語り始めた。


「あたしはな。この店の店主だったおばあに拾われたんだ。」

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