ご休憩はいかがですか?
釣った魚は懐中時計型AIだった
なにやら莫大な知識を持っているらしい
(そんで、お前の名前はなんなんだ?)
(「個体名はありません、つけて下さい」)
(そうかい、そんじゃ[トケイ]でいいか?)
(「絶対適当じゃないですかやだー!」)
(まあだよな、そんじゃ[ケイト]は?)
(「文字入れ替えただけで安直過ぎません?」)
(ん~、それじゃ[クロッサ]でどうだ?)
(「それならいいでしょう、私は今から[クロッサ]です」)
無事に名前も決まったし、今日の所は釣りをやめて屋根裏の散歩を続けるか・・・
(「何してるんですか?」)
(ああ、下への扉が開くか確認してるんだ)
あれから何度となく確認しているが、今の所ロックがかかった様子はない
屋根裏に入られるとマズいってダンジョンが感じているなら、ロックの条件は・・・
「フリッツ、この扉がロックされる条件ってわかるか?」
フリッツはキョロキョロした後、頷いた
「もしかして、下に人間がいることか?」
フリッツは戸惑いがちに頷いた
やはり下に人がいる間は扉が開かないようになっていたようだ
最初に俺が入った時は、たまたまロックが壊れかけていたのだろう
「・・・聞いちゃまずかったか?」
フリッツは頷かなかったが、首を横にもふらなかった
(「はえ~、フリッツちゃんは言葉がわかるんですね」)
フリッツは大変賢いらしく、こちらの言葉を完全に理解しているようだ
そういえば、釣り上げたゴブリンも指示を理解していたような・・・?
でもゴブリンが言葉を理解するなんて話は聞いた事がないな
(そういえば、お前は声を出せないのか?)
(「できない事はないですが、効率が非常に悪いのでできればやりたくないです」)
(そんなもんか)
(「外付けデバイスがあればその辺も余裕なのですが」)
(よくわからんが、もしあるならあの渦の中だな)
(「あそこから釣り上げるなんて、運がいいなんてレベルじゃないですね」)
時計型AIも釣れるぐらいだし、ちょくちょくあそこには釣りに行こう
(ん?ここは・・・)
他より眩しい光に誘われて下を覗くと、そこには水が流れる楽園だった
円形の舞台の中央から四方に水が流れている
舞台はかなりきれいな石で作られており、外に向けて小さな水路がある
外側には蔦が絡まる柵もあるが、一部だけなので外敵を退ける為ではなさそうだ
(「大理石の庭園みたいですね、イングリッシュガーデンの東屋って感じですです」)
丁度水が欲しかったところだし、降りてみよう
「フリッツ、俺が下に降りた後に同じ穴から屋根裏に戻ることってできるか?」
フリッツが頷いたので、安心して降りる事ができる
楽園では壁に引っかかりがなさそうなので、入口の方に戻ってから降りる事にする
だいぶバタついたが、何とか降りる事ができた
(「ププッ、お尻から落ちてやんの~」)
(このやろう・・・覚えとけよ・・!)
楽園に入ると眩い光に包まれた
かなり解放感があるが、よく見ると壁や天井に空の絵が描かれていた
舞台の中央には裸婦の像があり、肩に担いだ水瓶から延々と水がこぼれ出している
その水が像の足元にある石の桶に溜まり、溢れた水が四方の水路にとろとろと流れていく
舞台の外側には低い木や草花が生えているが、床自体は土ではなくきらきらと輝く砂地となっていた
裸婦像に近づき、水瓶から直接手のひらで水を受ける
匂いもせず、濁りもない、手のひらから刺激も感じない
冷たく溢れ出る水に我慢できず、口元にもっていく
(う、うめぇっ!!!)
透きったその水に雑味は一切なかった
きれいな水は久しぶりで、勢いよく飲み続ける
冷えた水が、今日一日動き続けた体に染み渡る
(「もしここがダンジョンなら、ここはセーフエリアってとこかな?」)
(セーフエリア?)
(「そう、モンスターが寄ってこない安全な休憩所、大体ボス戦の前にある」)
(ボス戦はわからないが、モンスターが寄ってこないのはありがたい)
ある程水を飲み干して、腰を落ち着ける
この部屋にはそよ風も吹いているようで、座っているだけで心が洗われるようだ
(まるで、天国みたいだ)
>『鑑定札』 を [暗い渦] につかう
>しかし『鑑定札』は [暗い渦] にのまれてしまった
>『真実のカンテラ』 を [暗い渦] につかう
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『闇穴』
種類:ダンジョンオブジェクト
説明:
すべてを吸い込む暗い穴
一方通行
詳細:
忘却の世界へ通じる次元の裂け目
すべての世界の最後の姿
このダンジョンではごみ処理に活用しているが、高い位置に作ってしまった為に若干不評
たまに飲まれてしまうモンスターがいるが、帰ってきた事はない