ドキドキ!初めての釣り in 屋根裏
屋根裏にしか存在しない通路を通って手に入れたアイテムは
『鑑定札』でただの釣り竿と判定された
「こんな場所に置いといてただの釣り竿?そりゃないぜ・・・」
たとえば[オリハルコンの釣り竿]とか[ミスリルの釣り竿]とか、そういうのを期待していた
せめて、マジックアイテムなら隠された機能とかを期待できるのだが・・・
(でもこの糸巻きの機械は複雑な構造だし、意外と高く売れるかな?)
機械部分をいじってると、スイッチを入れる事で糸を伸ばす事ができた
その状態でハンドルを操作すると、自動でスイッチが元に戻り糸を巻き取れるみたいだ
また、スイッチを戻すとロックがかかり、釣り上げる時はこの状態で糸を巻き取るのだろう
(しかし、釣り竿か)
このカノーには夢がある
いつか畑を持ち、作物を育て、動物を飼い、牧場を経営しながらのんびりと暮らすという夢である
その妄想の中に、釣りも登場した
朝は動物の世話をし、畑の様子をみて、昼頃から釣りに出かけて、夕にまた動物や畑の世話をして
夜にはそれらから頂いた恵をお腹いっぱい食べるのだ
一緒に寄り添ってくれる人がいれば最高だ
しかし、牧場を手に入れるのは並大抵の努力では叶わない
なぜなら土地は財産で、普通は自分の子孫に残すものだからだ
孤児の自分では他者から買うほかなく、その金額は目玉が飛び出る程だった
カノーには悪癖があり、女の子に好かれた記憶はない
寄り添ってくれる人も今のままでは絶望的だろう
でも、釣りなら、釣り竿だけなら持って運べる
いつかこの釣り竿で釣りができれば、夢を少しだけ実現できる
(本当に切羽詰まるまで、売るのはやめておくか)
宝箱をよくみると、背負い袋が入っていた
釣り竿は袋に入れて、たすき掛けにすれば行動の邪魔にもならない
カノーは釣り竿を背負うと、屋根裏に戻った
屋根裏の散歩はまだまだ続く
しばらく歩いていると、何かの気配がした
気配に近づき床の覗き穴を覗き込む
(子供・・・?)
どうやら子供がダンジョンにやってきたようだ
年は7才程、棒切れをもっている、おそらく男の子
服装は裕福には見えないし、お貴族様ではないだろう
足取りはしっかりしているし健康状態はよさそうだ
(なんだってダンジョンなんかに)
カノーは自分を棚に上げて疑問を浮かべる
[ダンジョンキノコ]を探すのであればもっと周囲をキョロキョロと見渡すと思うが、こいつにその様子はない
何かをぶつぶつと呟いているようだ
耳を澄ませて呟きを聞いてみる
「・・・ない、ゴブリンなんて怖くない、ゴブリンなんて怖くない、ゴブリンなんて怖くない、ゴブリンなんて・・・」
どうやら度胸試しでダンジョンに入ってきたみたいだ
孤児のグループで見たことがないので、おそらく商人かなにかの息子だろう
こっちは食うに欠く生活だってのに、のんきなもんだ
・・・ちょっといたずらを思いついた
背負っていた袋から釣り竿を取り出す
音を出さないよう慎重にロッドを伸ばして糸を垂らせる状態にする
目の前の覗き穴は、糸を垂らすには十分な大きさがある
これで子供を釣りあげようって寸法だ
釣り上げられたら驚いて逃げ帰るだろう
子供の進行方向と歩く先を見極めて穴に糸を垂らそうとした時、何かをわめきちらす声が聞こえてきた
どうやらお目当てのゴブリンが向こうからやってきたようだ
子供は呟きをやめ、立ち止まっている
(これじゃ子供を釣り上げるのは無理だな)
覗き穴で子供の状態を確認すると、まさに顔面蒼白といった状態だ
小刻みに震えてその場から微動だにしない
そしてついにゴブリンが子供を見つけた
「ギャギャギャッ!!」
ひと際大きく叫ぶと、子供に近づいていく
しかしその足は遅い、3才時だってもっとはやく動けるだろうに
逃げるだけなら7才でもなんの問題もないだろう
子供は相変わらず動かないどころか、ついには尻餅をついた
(あ、こいつ腰抜けたな)
いくら最弱のゴブリンといえど、動かない敵に負ける訳はない
流石に見殺しにするのは後味が悪いので、息を吸い込んで声を張る
「おい!さっさと逃げろ!!」
「だ、だれ!?助けて!動けないんだ!」
子供はキョロキョロしているが、動く気配がない
(は~・・・まったく、しょうがないか)
近場の取っ手に手をかけて、屋根裏から降りようとする
しかし、取っ手はビクともしない
(・・・え?)
力一杯開こうとするが、完全にロックがかかっているようで開く気配がない
「早く助けて!もうそこまで来てるよ!?」
子供の声に覗き穴を確認するが、ゴブリンはかなり近づいている
他の取っ手を探すがそこも開かない
・・・時間が足りない
(クソっ!一か八かだ!)
釣り竿をもって、糸を垂らす
子供を釣り上げるいたずらを、ゴブリンに適用する
「た、助けて~!」
「グギャギャッ!」
ゴブリンは足を止めて、子供に飛び掛かる
瞬間、
「フィッッシュ!!!」
ハエのモチーフがゴブリンの鼻に止まり、ゴブリンを釣り上げた
ゴブリンは鼻フック状態だ
「フゴフゴッ!?」
「・・・え?ゴブリンが浮いてる!!??」
子供は混乱に混乱を重ねて戸惑っているが、釣り上げた状態を維持するのもつらい
「いいから早くいけ!」
「う、うん!ありがとう!」
安心して調子が戻ったのか、後ろを向くと子供が走りだした
子供の足音が聞こえなくなってしばらくして、釣り上げたゴブリンを下ろした
(あ~疲れた)
ゴブリンはこちらをジッと見ている
そりゃあんなに露骨に釣り上げれば、どこにいるかはわかるよな
「もうどっか行っていいぞこのゴブリン野郎」
思わず悪態をついてしまった
するとゴブリンはまるで敬礼のようなポーズをとった後にどこかへ行ってしまった
その姿は上官に従う絶対服従の兵士そのものだった
>『真実のカンテラ』 を [子供] につかう
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『ヨワシム=ケシコ』
種類:人間
説明:
商人の子供
7才、気が弱い
詳細:
街の近所の子供グループに属しており、好きな女の子にいいところを見せる為、ダンジョンにやってきた
リーダーに腰抜けだのなんだの言われて意地になっていたのもあるが、実際に腰が抜けたのでなんとも言えない
本当にダンジョンに行ったことを伝えると、好きな子は泣きながら一生懸命怒ってくれた
一生この子を大事にしようと誓った7才の夏
ちなみに最近までおねしょをしていた