光と影
少々手間取りまして、投稿が遅くなり申し訳ない。
今週中にこの小説は終われそうです。
皆さま、最後までお付き合い頂けますと幸いです。
カノー君にはちょっと地獄に付き合ってもらいます。
領主邸にやってきた俺たちは、書類仕事を任されている
計算や記憶、対応はクロッサに丸投げだが腕がつかれる
領主様は流石で次々書類を仕上げていく、全く途切れる様子がない
気付けばエメスも同様に書類仕事を手伝っていた
・・・というかこの量、今まで領主様一人でやっていたのか?
「家臣たちは地方に散ってもらったよ」
まるで見透かしたように領主様が答えた
本来ここで書類仕事を行っているはずの家臣たちは、当然ジョダンの実情をよく知っている
昨今の食料危機にあたり、他の地方とのより綿密なパイプ役として地方に散ってもらっているらしい
「まあ、単純に食べる人が減れば、相対的に食料が増えるっていうのもあるんだけどね」
それにしたってこの書類の山、本当に領主様一人でさばいてたのか・・・?
領主様の周りだけ、みるみると山が消えていく
俺の手がもっと早く動けばいいんだが、これ以上は速度を上げられない
(「ギリギリですね・・・」)
(なにが?)
クロッサが久しぶりに俺への指示以外で話しかけてきた
(「食料事情です、本当にギリギリで何とか保たれています」)
俺にはよくわからないが、本当にギリギリ冬を乗り越えて春を迎えられる量の食料らしい
それは、まるで計算し尽くされているかのように
(「通常はあり得ません、まるで何年も前から未来を予測しているような・・・」)
8ヶ月以上前という恐ろしく早い段階で配給制度へ移行していた
領主邸の高価な家財は1年以上前に食料に変えている
さらに食料の備蓄に関しては3年以上前から準備を開始していた
「この食糧危機を予知して食料の準備をしていた・・・?」
(「それだけではありません、人口が不自然です」)
クロッサ曰く、帳簿上のジョダンは去年の冬に30人程度が餓死していたらしい
さらに今年は既に百人以上餓死しているようだ
しかし、実際の街ではそんな様子はない
体の弱い人が何人か亡くなってはいるだろうが、100人以上の餓死者が出たような雰囲気ではない
(「つまり、何年も前から人口が水増しされていたのです」)
人口が水増しされれば王都へ徴収される税も増える
人口を過少申告するはあっても過大報告するのは通常ありえない
俺は思わず領主様に問いかけた
「領主様、餓死者の数が現実と合っていないように見えるのですが・・・?」
「いや、合っているよ、今も餓死者がバタバタ死んでいっているはずだ」
領主様はこちらを見て、ニヤッと笑った
「生きていればね?」
どうやら数年前から住人の死亡申請を中抜きしていたらしい
それを、この食糧危機が始まってから徐々に受理しているようだ
はたからみれば、まるでこの食糧危機で餓死者が発生しているかのように
そう、彼は完全にこの食糧危機を予測していた
そして、そうなっても住人がギリギリ生きていけるように着実に準備していたのだ
さらに、よそからは予測不能な事態で死者がバタバタ出ているかのように偽装まで行っている
これが賢才領主
これがジョダンを支える男、キアス・デウス=ジョダン
ただのおっさんだと思ったらとんでもない、遠謀深慮の大領主様だ
「君たち孤児は、本当に凄いね」
領主様がポツリとこぼした
「緑の泥・・・だっけ?あんな方法で食料を生み出してしまうんだ」
個々では食べられない物を組み合わせて、食べられるようにする
食べる天才ザックとコンガのおっちゃんが手を組んで作り出した奇跡の料理
それが[緑の泥]と呼ばれる料理だ
「おかげで食料を減らさなければならなかった」
「・・・今なんと?」
流石にこれは看過できない
食料を減らす?
「食料を減らしただと・・・?」
食べる物があれば、こんなに辛くなかった
食べる物があれば、こんなに苦しくなかった
食べる物があれば、コハクは
「まさか!?あのカビは・・・!?」
エメスが思わずといった様子で声を上げた
小麦に発生した下痢を引き起こすカビ
彼女は速度を優先し、領主の決裁なしで処分する指示を出した
結果、罰としてダンジョンに三ヶ月間拘束される事となった
それは事実上の死刑だった
「・・・そうだな、もう話した方がいいだろう」
領主は羽ペンを置くと立ち上がって歩き出した
視線で俺たちに着いてくるように促している
俺たちは怒りを噛みしめながら、領主の後ろをついていく他なかった
俺たちが案内されたのは窓のない部屋だった
光を完全に遮断している為、ランプに火をつけねば周囲を見渡せない
三人で入るには狭く、かなりの圧迫感がある
粗末な机が1つと椅子が2脚
一人掛けの椅子に領主が腰かけ、俺たちに座るように促す
残りの二人掛けの椅子にエメスと寄り添って座ると、領主は嫌そうな顔をした
イラっとして睨みつけると、領主は状況を思い出したのか真面目な顔に戻した
「今、王都がどんな状況か知っているかね?」
王都は何万人という人が住んでると言われる大都市だ
正確な数は分からないが、ジョダンの何倍も大きいとか
領主はこちらに手紙を渡しながらこう言った
「既に今現在で約千人が餓死している」
「千人・・・!?」
手紙は王都の様子を伝える手紙で、餓死者の数が推定一千人と記載してあった
食料危機はジョダンだけでなく王都でも発生していたのか
人口の多い王都だ、こちらより圧倒的に被害の規模が大きいのだろう
「これは現時点での話だ」
まだ本格的な寒波が来る前でこれならば、今期の餓死者は想像を絶するだろう
「いいか、今の王都は飢えた猛禽類だ」
少しでも隙を見せれば、直ぐにでも肉を貪りにくる
「そして、ジョダンは痩せて骨だけになったカモだ」
余力を見せれば骨の髄までしゃぶられる
だからこそのギリギリの備蓄
いかに飢えた猛禽類といえど、骨だけの獲物には食いつかない
しかし肉が少しでもあれば、奴らはすぐに食らいつく
一度食らいつけば、それにかこつけて根こそぎ奪っていくはずだ
「ギリギリだ、ギリギリを行かねば食われる」
肉をつけてはならない
だから[緑の泥]の分、食料を減らす必要があったのだと領主は言った




