幸福な黄色
前話[カノー、連行される]の後半に加筆修正してます。
カノーの顔見知りが多い事と、コンガが首根っこを掴んでカノーを連れてきた理由との関係性を明確にしました。
カノーの顔隠しがもう一度見たい方は、カノーが食べ終わった辺りからどうぞ
「そうだ、おめぇこの3ヶ月どこ行っ「コンガさん!!!カノーが帰ってきたって!!!」」
勢いよく開かれたドアと同時に大きな声が飛んできた
茶髪の少女が店に飛び込むと同時に大声を出したからだ
どうやら走ってきたようで、膝に手をついて荒く息をしている
小柄に似合わない元気で大きな声
一本だけの緩い三つ編みにした赤っぽい茶髪
おっちゃんが立ち上がり、茶髪の少女の元に向かいながら声をかける
「おいおい、とりあえず落ち着け」
「だって、カノーだよ!?」
「戻ってきたのは知ってるから」
「コンガさんが、毎日、ぶつぶつ、いっつもいっつも呟いてたカノーだよ!!?」
「いや毎日って事はないだろう!?」
「嘘っ!!いっつもぶつぶつぶつぶカノーの事ばっか呟いてたじゃん!!」
え~、なんかそれはそれで微妙なんだが・・・
そこは孤児仲間としてお前が呟いててくれよ
「よぉジーナ、久しぶりだな」
「・・・っ!いるじゃん!?えっ!?ほんとに帰ってきてる!!!???」
相変わらずうるさいこの少女はジーナという
元・孤児だった少女だ
料理/裁縫/掃除、家庭的な事をやらせたら全て平均以上をたたき出す少女
俺がこんがり亭で働いてた時とこいつが働いてた時とで売り上げが全然違った
勿論圧倒的大差で俺の負けだ
今ではコンガのおっちゃんの養女となっており、お店の手伝いをしていたはずだ
因みにおっちゃんの奥さんはとある事情で子が望めないが、元気に生きている
今は働きに出ているのだろう
「っ3ヶ月も!!3ヶ月も音沙汰なしで何やってたのよっ!!」
ジーナが俺の肩を掴みながら吠える
何かを確かめるようにべたべた体を触られるがなすがままだ
「あ~、その、ちょっと色々あってな」
「ちょっとじゃないよ!!テタシなんてダンジョンに確かめに行ったんだよ!?」
テタシも孤児仲間の現役孤児だ
俺らより少し幼い12歳ぐらいだが、こいつは世渡りが異常に上手い
孤児な俺に仕事を紹介してくれたのはこいつがほとんどだ
・・・このジーナの勢いは、ちょっと止まらないかなぁ
「ごめんなさい、ちょっといいかしら」
ゾッとするような、氷のような冷たい声が刺さる
錆びついた首を回してみると、笑顔のエメスがこちらを見ていた
「ジーナさんって言ったかしら?」
「は、はひっ!?」
「ちょっっと、カノーに、触りすぎだと思うのよ、ねぇ?」
「すみませんでしたっ!!」
ジーナが俺から離れて90度の綺麗なお辞儀を決める
それはそれは背筋の伸びた綺麗なお辞儀だった
初手で完全な負けを認めている
「カノーも、私には碌に構わない癖に、・・・ねぇ?」
「すみませんでしたっ!!」
気付けば俺は90度の綺麗なお辞儀を決めていた
それはそれは背筋の伸びた綺麗なお辞儀だった
・・・ん?なんで俺は謝ってるんだ?
場がとっ散らかってしまったので仕切りなおす事にした
「あ~、おっちゃん、オムレツ作ってくれないか?」
「作ってやりたいのは山々だが、今は卵がなくてなぁ」
コッコは配給が始まると軒並み絞められてしまった
コッコに食わせる穀物があれば人間が食うって理屈だ
単純に食べ物が肉しかなかったって理由もあるが
「なに、卵ならあるぜ」
俺は持っていたフレンマザーたちの卵を2つ取り出した
大ぶりなこの卵はそのまま売りにだそうかと思っていたが・・・
ここらで味を見とくのも、まぁいいだろう
ジーナとおっちゃんが目を見合わせている
「ほらよっ!」
皆でオムレツを囲んで生唾を飲む
本当に、本当に久しぶりのまともな料理だ
おっちゃんの秘蔵のバターをつかったプレーンオムレツ
「よし、それじゃあ俺が切り分けるぞ」
「慎重に!!平等にね!!」
「切り分けた人が最後に残ったのを取る事にしましょう」
「なんでもいいが冷めない内に食うぞ」
ナイフを入れた瞬間、半熟の卵が中からとろけ出る
濃厚なバターの香りが鼻を通り、脳髄をぶん殴る
「「「おお~~っ!!」」」
切っただけなのに皆で感嘆してしまった
悩んでもしょうがないのでサクッと4つに切り分ける
「では、」
「「「「頂きます!」」」」
フォークに乗せた瞬間からプルプルと輝いてる
零れ落ちそうなそれを、零さないように慎重に口に運ぶ
瞬間、香りが爆発した
バターだけじゃない、卵本来の甘やかな香りもだ
卵の優しい甘さとバターのちょうどよい塩味
それぞれが半熟部分のとろけるような舌ざわりと共に伝わる
ふわふわの食感は噛む必要すらないが、噛めば噛むだけ幸せが溶けだす
福音のような黄金のオムレツ
ああ、食事っていうのは、こんなに幸福なものだったんだな・・・
大きなオムレツだったが4つに切り分けたのですぐに食べ終えた
少量だったが尋常じゃない満足感だ
皿に残った卵液も舐めとりたいぐらいだが、流石に自重する
おっちゃんはこれを[緑の泥]に混ぜるそうだ
そうすれば[緑の泥]でももうちょっとマシになるとかなんとか
とにもかくにも、
「「「「ご馳走様でした」」」」




