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精霊使いの逆転世界  作者: yamasy
第二章 城塞都市編
16/21

揺らぎ2

「馬は預けてきたよ。」


村にある小さな宿屋に馬と荷物を置き、ヨハンたちは遺跡に向かう準備が完了した。村というからどんなぼろいところなのかと心配していたが、思いのほか古い建物はなく、村人たちも若い人々ばかりだった。

天候は曇りで空の色は灰色をしていた。少しヒンヤリしているが、日が強く照り付ける中を移動するよりは、いい天候だろう。



さて、彼らの装備品について説明しておこう。


まずヨハン。彼は攻撃魔法師なので特段武器の類は持たない。服装はこの世界に来た時とは違い、クエストで稼いだ金と転生時に所持していた金を使い、全身に黒い革製の防具をつけている。グランベアーと呼ばれるモンスターの毛皮を元に作られたそれは、矢や針といった武器に対して強い。ただし熱には弱く又衝撃は多少軽減する程度なので注意するよう防具屋に言われている。彼の所持金が減った要因の一つとなる。

止血ポーションなどは数個腰の袋に詰めてあるが、今までに使ったことはない。


続いてミーナ。腰には剣を携え、髪はポニーテールにして結んでいる。騎士の姿の時とは違い、ヨハン同様革製の防具を身に着けている。ほかの冒険者と同じように装っているのだろう。腰に付けたポーチには麻痺毒用ポーション、止血ポーション、痛覚遮断ポーションなどを入れている。この世界のポーションは基本的に傷口にかける液状のものであり、ビンに詰められている。腕が急に再生されるなどというものは存在せず、この点にヨハンは元の世界の『薬』と同じものを感じた。


アリアは鉄製の鎧と縦長の六角形をした盾を身に着けている。ベアトリーチェの父親の計らいでかなりの値がする鎧を貰ったようだ。ベアトリーチェも貰ったらしいが、本人は動きづらいからと言って身に着けないらしい。二人ともミーナと同じ種類のポーションを持ち、ある程度の傷に対しての対策をしている。


最後はエマ。彼女は大きめのリュックを背負っている。中に入っているのは麻痺毒用ポーション、止血ポーション、痛覚遮断ポーション、耐熱ポーション、耐寒ポーション、耐熱性マント、衝撃吸収マント、携帯食料など多くの物資を詰めている。多く、というかほぼすべてを使ったことはないようだが、準備を怠ることのない彼女は常に持っているそうだ。



「ここから遺跡までは1時間ちょっとらしいから、あまり焦らず行きましょ。」


ミーナが全員にそう声を掛け、全員は静かにうなずき目的地へ向け村を離れた。









「二人目の精霊使いが現れたという報告が駆逐隊、ミーナ・アーモンド・カタストロフから入ったようです。評議会は様子を見るよう言ったそうですが……こちらでも調べますか?」


「ほぅ……突然だな。そいつは急に精霊が見えるようになったのか?」


「いえ、詳しい情報は一切分かっていないようです。出身地などの素性も不明。本人が「精霊が見える」と言ったこと、及び駆逐隊副隊長、リカード・ベルモントとの模擬戦時に圧勝したことから、精霊使いであろうとのことです。」


「リカード?あぁ、あの探知系のやつか?あいつじゃ相手にならんだろう。」


「それは隊長だから言えるんですよ。ルードヴィヒ隊長。」


赤く大きなソファーに腰かけるのは、ガスタ連合において最強と言われる殲滅隊隊長、ルードヴィヒ・ヴァン・バルバロス。全身を黒いローブで覆う一方、その装飾は赤と金の糸で彩られ、非常に高価であることを窺わせる。彼の横から提示報告をするのは、殲滅隊副隊長レオン・アルダート。一般兵と同じ鎧を身にまとう。

彼らはガスタ連合の中央に存在する首都ライオネルの騎士団本部にいた。各都市に騎士団本部と呼ばれる場所は存在するが、ライオネルの騎士団本部はそれらの統括を担う。

その建物の中には各「名付き」の隊専用の部屋が設けられ、彼らはそこで会話をしていたのだ。


「リカードだって一般の騎士百人程度なら勝てるんですよ。」


「……それは凄いのか?お前なら千人程度とやり合えるだろ?」


「そのくらいなら余裕ですが……ってそういう話じゃなくて。」


「ああ分かっている。精霊使いのことな?今何してるかは分かるか?」


「今はミーナ隊長が潜伏捜査中の冒険者パーティで、彼女と共に活動しているそうですよ。」


「は?冒険者?……くだらん、勝手に泳がせとけ。」


「いいんですか?もしかしたら隊長にも危害を加えるようになるかもしれませんよ?」


「それなら潰す。というか、その前にお前らが対処しろよ。」


「はぁー、分かりましたよ。では特に調査は行いませんからね?」


「構わん。」


レオンは口では心配するような言葉を言ってはいるが、本心は全く違う。

自分たちがいる限り隊長には触れることはできないと自負しているからだ。

それこそが殲滅隊の姿なのだから。


(まぁ、でも一応調べておくか)


ルードヴィヒのいる部屋をレオンが出るとき、そんなことを思ったのは彼の勘が鋭かった故なのだろう。











「考えてはいたけど、財宝とかは残ってないね。」


村から西へ向かうこと一時間。目的地の遺跡は崖際に存在した。村人の話によると、大昔ここら一帯は大きな川が流れていたそうだ。当時の人間たちは川べりに集落を作りそこで居住していたが、だんだんと川が川底を削り、その後川が干上がったことで彼らは移住することになった。結果として残ったのは、川底が削られたことによってできた崖と遺跡のみとなったのだ。


「無いと思いますわよ、ミーナ。連合国が大方の宝石類などは運んだでしょうし、そうでなくとも盗賊たちは持ち出すでしょうから。」


ミーナとアリアを先頭に、エマ、ベアトリーチェ、そしてヨハンと続き歩く。

何かモンスターが現れた際、最も安全な中央にエマを置くことで、回復師ヒーラーが真っ先に倒れることがないようにしてある。


「ベアトリーチェの言う通りかも。でも、ちょっと期待していたから残念。」


ヨハンとしてもミーナの気持ちは少しわかる。だが、実際にその場にあったのは天井はすべて崩れ落ち、今にも倒れそうな柱。地面には風化し小さな粒子状になった、恐らく天井部分であっただろう周りと色の違う砂のみ。こんな場所では、モンスターが隠れられるのは砂の中か柱の陰くらいだろう。ヘクトルには〈空間把握〉を使うよう言ってあり、何の報告もないことからすると恐らく脅威となるモンスターはいないのだろう。


(といっても、蛇は知らせてほしいんだが……)


いやな記憶が蘇りそうになったので、すぐに他のことへ意識を向ける。

だんだんと皆辺りにモンスターが居ないことに安心しだしたためか、列ではなくばらけて行動するようになった。とは言っても、エマを一人にしておくわけにはいかないのでヨハンが付い行動しているのだが。


「ヨハンさん、変……じゃないですか?」


一瞬自分のどこが変なんだ?と思ったが、すぐにそうでないことに考えが至る。彼女の視線はヨハンでなく、周りの地面に注がれていたからだ。


「変って何が?」


「その……地面に小さな穴がいくつも開いてて……」


すぐにヨハンも視線を地面に向ける。


「……ほらあそこ。木くずが時折少し浮き上がってきませんか?」


指差された穴を見ると、確かに木くずが周期的に持ち上がっていた。空気がそこから出ているようだ。


(ヘクトル、地面の中に何かいるか?)


(いいえ、空間探知に引っかかったモンスターはおりません。)


(それは……強力なモンスター以外もか?)


(はい、小さな虫なども一切居りません。)


(は?)


(……どうかなさいましたか?)


(いや……)


エマの言う通りおかしい……

人が住まなくなったところに虫一匹いないことなどあるだろうか。

それに、地面から空気が漏れていること。自然現象であると考えることもできる。もともと川に近いところにあったことから、それが何かしらの影響を与えている可能性もある。


「みんな!ちょっと来て!」


ミーナが全員に呼びかける。

エマに『とりあえず集まろう』と目配せし、彼女も静かにうなずく。







「なるほど、周囲一帯に小さな穴がありましたのね。」


「はい……何の穴か分かりますか?」


エマの問いにベアトリーチェは首を横に振る。


「いいえ、分かりませんわ。それで、ミーナは何ですの?」


「これを見て。」


そういってミーナは自身の足元にある罅を指差す。


「この罅、砂に隠れてわからないようになってるけど、ずっと続いてるの。もしかしたら、自然に出来た罅じゃないかもしれない。ここ最近こんな罅ができるような災害は起こっていないし……」


そう言って首をかしげるミーナ。


「なぁ、大昔ここに川があったって村人は言っていたけど、誰から聞いたんだ?そういう研究をしている人間がいるのか?」


ふと疑問に思ったことをヨハンはパーティーメンバーに問う。

昔のことを研究する人間がいるなら、恐らく遺跡の保護に動くはずだからだ。だが、誰も保護しようとする人間はいない。なのに昔のことは分かっている。


「祖先からの言い伝えとかなんじゃないか?」


アリアが答える。


「なるほど……だが、あの村の建物は比較的新しかったはずだ。宿屋、そして馬小屋、彼らの住む家も。恐らく、ガスタ連合国の領土拡大戦争の後に移ってきた人たちのはず。なのにどうして知っている?」


「……私に聞くなよ。」


「あぁ、そうだな。だが、どうも変だ。まるで、歴史が……」


その時だった。


ミーナの足元にある罅が急に広がり始めたのだ。

砂が罅に落ち、周囲にある穴から勢いよく空気が噴出され始めた。


「おい、これちょっとやばいんじゃないか?」


「えぇ、逃げましょ!」


広がりを見せる罅から遠ざかるために、走り出すヨハンたち。

だが間に合わなかった。


「きゃぁぁぁぁぁっっ!」


「なっっっ!?」


地面に空いている穴から噴出される空気の圧力のためか、エマとアリアは地表近くの地面ごと吹き飛んだ。


(ヘクトル!)


ヘクトルに言うタイミングには既にエッセンスを流し込まれ、魔法発動が可能になっていた。


闇の呪縛(ダーク・バインド)〉、〈負の(ネガティブ・)衝撃(インパクト)〉を続けざまに発動するヨハン。〈闇の呪縛〉によって宙に浮く二人と走っているミーナとベアトリーチェを捕まえ、〈負の衝撃〉を地面に打つことにより、その反動を利用して四人と捕まえたまま空へ飛ぶ。

バイカルフスクへ来たと時と同じように、〈闇の呪縛〉を地面に多重展開することで着地の衝撃を押さえるヨハン。


突然のことに、ヨハンを除くパーティーメンバー全員が驚きの表情を彼へ向ける。

だが、さらなる驚愕をすぐさま覚えることとなる。


地上にあった遺跡をすべて飲み込んだ罅から姿を現したのは、漆黒の鱗を身に纏う、紅き目をした竜だった。


「紅き目……まさか……五竜!」


ミーナが目を見開く。


「でも、そんな、まさか……」


竜の大きさは翼を一振りし、地上すれすれの高さから、一気に辺りを見渡せる高さまで飛翔する。

ある程度の距離を取っていたにも関わらず、強風がヨハンたちを襲う。


「逃げましょう。私たちでは勝てないわ。村を経由してすぐにバイカルフスクへ……」


なぜ飛翔したのかヨハンたちは初め分からなかった。

だが一瞬で理解することとなる。


彼はヨハンたちを探していたのだ。


そしてついに見つけられ、威圧の込められた視線をヨハンたちは浴びる。

エマはストンと膝から崩れ、アリアとベアトリーチェはあまりのことに呆然と立ちすくしたまま。


しかし、そんなことは五竜には関係ない。


口を開き、空が歪むほどのエネルギー量の魔力を溜める。


その直後、五竜から破壊の咆哮、〈改地轟(エボリューション・)魔弾(バースト)〉が放たれた。










(流石にこれはまずいかも……)


目の前で集められているエネルギー量を前に、ミーナは本気を出して耐えられるか考えていた。

自身にのみ〈重装甲〉を使えば恐らくミーナは助かるだろう。だが、他のパーティーメンバーにも掛けるとすると、効果は薄れ全員あの世行きになるかもしれない。


(てか、五竜の討伐は騎士団総出じゃないと無理でしょ!こんなのと差しでやり合おうなんて絶対無理!)


地上戦でしか戦えないミーナからすれば、五竜など空中に存在する敵との相性は最悪だった。


(もう、この際騎士団に所属していることはバレたって構わない!)


そう思い、パーティーメンバーの前に出て盾になろうとする。だが、前に出ようとした瞬間肩をつかまれ後ろへ引っ張られた。


掴んだ本人の顔を見るとめんどくさそうな顔をしていた。


「お前は失うものがあるだろ。下がってろ。」


「え?」


ミーナに代わり、パーティーメンバーの前へと進み出たのは他でもない、ヨハンだった。





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