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もう一度、あなたに会えた、その時は。  作者: 野菜処理班
第一章 そんな事よりも、生きていける自信がありません……。
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第一章 八話 突然の…

「ねえ、ねえカズヤッ!」

「えっ、あ、どうした?」


 目の前に突然現れた炭鉱ゴーレムに、驚きを隠せなかった。

 ……いや、驚きを隠せなかったというより、諦めた様な気持ちなのかもしれない。

 なぜそんな気持ちになっているのかといえば、この炭鉱ゴーレムと遭遇して、命が助かる気が全くしないからだ。


「早く逃げるわよ! 今こんな奴と戦ってたら、時間は無くなるし、あんたが助かる可能性がほとんどないの! ほら、リュウも早く!」

「は、はいっ!」


 リュウも慌てて、三種類の素材が入ったカバンを揺らしながら走り出す。

 それに追いかけるように、イズハも走り出した。

 俺も背負っているリュックの重みを肩で感じながら、イズハの後を追う。

 

「なあイズハ! 俺たちって助かるのか⁉」

「分からない。けど、このまま走り続けたら、もしかしたら……」


 逃げ切れる。そう言いたかったのだろう。

 だが、その言葉は背後から聞こえてくる、地面を強く叩く音によって、かき消されてしまった。


「な、何だこの音⁉」


 言いながら、足の回転を止めずに後ろを振り返る。

 振り返った先には、重量感のある体で近づいてくる炭鉱ゴーレムが。

 変わらない表情からは、獲物を見つけて追いかけるライオンというより、敵を発見し、ただ無残に殴り殺すロボットのようなものを感じられた。


「何で追いかけてくるんだよ!」


 俺たちが一体何をしたんだというんだ。

 あいつの縄張りに侵入したからとかそんなノリなのだろうか。

 

 なんてことを考えていると、前を走っていたリュウに追いついた。

 

「リュウ! あと、どれくらいで森を抜けられるんだ?」

「まだもう少しだけあります。時間でいうと……このまま走って十分ぐらいかと……」


 かなりの速さで走っているのに、このペースのままでも、あと十分もかかるのか……。

 というか、結構奥深くまで入ってたんだな、この森の中に。


「まだそんなにかかるのかよ……」

 

 走ることが得意でも苦手でもない俺にとっては、このペースで走り続けるのは不可能だ。

 まだ、走り始めたばかりなので、特に体に変化は起きていないが、このまま走り続ければ呼吸も乱れるし、体も疲れてくるのも考えられる。

 もし途中で止まれば、あのゴーレムに殺されることも容易に考えられる。いや、本能でわかる。


 どっちにしても、このまま走り続けても、炭鉱ゴーレムに殺される未来しか見えない。


「なあ、途中でどこかに隠れて休憩できないか? ……正直言って体力がもたないんだけど」

「そこは踏ん張ってください!」


 まさか、ここでリュウから根性論を言われるとは……。

 でも実際この状況だと、そうするしかないのかもしれない。

 もう諦めてこのまま走り続けよう。

 この森から出ることができれば、あの炭鉱ゴーレムも追いかけてこないはずだ。


 そう心に決めたその時、背後から何か固いものが、嵐の風のような速さで、飛んできた。

 いや、発射された。

 そのことに初めて気付いたのは、発射されたそれが、俺たちの目の前を通過したときのこと。

 あまりに急な出来事だったので、猛スピードで走っていた俺は、その場に勢いを落としながら、立ち止まってしまった。

 つられて、リュウとイズハの二人も、ゆっくりと立ち止まる。


「な、何だこの石……?」


 石……それも赤や緑、青といった、カラフルで宝石のようにキラキラと光る鉱石が、地面に突き刺さっている。

 まるで、炭鉱ゴーレムに会う前にたくさん見受けられた、あの鉱石のような……

 その鉱石たちの出どころは、簡単に予想できた。

 俺はバッと後ろを振り返る。


「……まさか、お前が……」

 

 視線の先には………大きな鉱石がぽつぽつと生えた腕を、俺たちの方へ向けて静止した炭鉱ゴーレムが、それはもう堂々とした姿で、突っ立っていた。

 その姿を見て、俺はあることを確信する。

 現在進行形で地面に突き刺さっているこの鉱石は、炭鉱ゴーレムから発射されたのだと。

 ゴーレム、という名の通り、近接攻撃しかしてこないのかと思っていたが、まさか遠距離攻撃も兼ね備えているとは……。

 

 そんなことを考えていると、今までピクリとも動かなかった炭鉱ゴーレムが、鈍い音を立てながら、動き始めた。


「やばっ!」


 また、あの攻撃が来る!

 そう感じた俺は、イズハとリュウの元へ走り出す。


「イズハ! リュウ! 走れえ!」


 歩いて十歩にも満たない距離だったが、今から起こる攻撃の恐ろしさを伝えようと、大声で叫んだ。


「急に止まったと思ったら、次は走れってどういうことよ? なんかすごいやつでも来るの?」


 こいつ、さっきの攻撃に気付いて止まったんじゃないのか。


「ああそうだその通りだ。まだ予想の範囲だけど、あいつ、腕の鉱石を発射して攻撃するんだよ。だから早く逃げないと、俺たち全員お陀仏になるぞ!」


 あの腕から発射された鉱石の弾丸が地面に突き刺さっているのを見るに、その攻撃は、小石をぶつけられる程度の威力なんかじゃあない。

 最悪、体に当たれば即死。そんな次元の攻撃だ。


「は、はあ……どいうことか分からないけど、なんとなく理解したわ」


 イズハは曖昧な返事をしたが、こいつはもうこれで概ねは理解しているだろう。


「リュウもそういうことだ。ほら、走るぞ!」

「ま、待ってください! 炭鉱ゴーレムが遠距離攻撃をするなんて聞いたことがありません!」


 ………は?


「……どういうことだ? だったらあの鉱石は何なんだよ、もしかして他の『誰か』があれを飛ばしてきたっていうのかよ?」

「そこまでは言いませんが、私の知る限り、炭鉱ゴーレムは物理攻撃しかしてこないはずなんです。敵を殴ったり蹴ったりして攻撃するだけ。遠くから何かを飛ばして攻撃するなんて、普通じゃありえないんですよ」


 リュウの話すことには信憑性が確かに感じとれる。

 けど、俺はどう見てもあの腕から発射されたようにしか見えない。


「でも、ここに炭鉱ゴーレムがいる時点で、すでにあり得ないことなんだろ? だったらもう何が起こっても不思議じゃないような気が……」

「……それもそうなのかもしれませんが………」


 そう言って、リュウは三種類の素材が入ったカバンの紐を両手でぎゅっと握りしめる。

 リュウも想定外の事態に少々パニックになっているのかもしれない。


「ま、とにかく、ここから急いでリュウの家まで帰ろう。その方が………っ!」


 安全だ、と言いかけた時だった。

 突然、横腹に激痛が走る。

 それもかすった程度じゃあない、刃物で刺されたような深い切り傷が、俺の横腹にいつの間にかできていた。

 その衝撃で、俺は持っていた薙刀が手を離れ、その場にドサッと倒れた。


「カズヤ!」

「カズヤさん!」


 二人の悲鳴が聞こえる。

 その声は俺の耳の中には届いていたが、意識にはほとんど届いていなかった。

 イズハは俺の意識を保たせようとしているのか、何度も何度も俺に声をかけ。

 リュウは急いで傷口を塞ごうと、カバンの中から回復石を取り出そうと、必死に中をかき分けている。

 

 体の体温がどんどん何かに奪われていく中、俺は自分の傷口を手でそっと触れた。

 何かを拭う。そんな感触が脳に薄く伝わってくる。

 何を拭ったのか、ぼやけてきた視界で確認すると……。

 

 血。それも、俺の手の平に満遍なくべっとりと付着するほどの血液の量。

 それを見た瞬間、俺はこれから自分の身に何が起きるのかを察した。

 

 ………死ぬ、のか。


 もう、俺は生きることを諦めていた。

 本来なら激痛が体中を駆け回るが、今となってはほとんど感じない。

 医学とか人間の体の仕組みなんて全く知らないが、逆に痛みで脳であったり神経であったりがマヒしているのかもしれない。

 ………そういえば、こういう死ぬ間際にみられる、あの走馬灯ってものが、一瞬も流れてこないな。

 せめて、幼い頃だけでもいいから、十分ほどの映像を流してほしいものだ。

 もう死んでしまうんだ。ちょっとくらい思い出に浸ってもいいじゃないか。頑張ってくれよ、俺の脳みそ。

 

 なんてことを考えていると、音の速さほど一瞬、女の子の姿が映し出された。

 腰辺りまで伸びた、一本一本が煌めいて見える黒くて長い糸のような髪。

 まだ汚れていない、純粋に光る黒色の瞳。

 少しまだ幼い顔立ちでありながら、どこか大人らしさを感じさせられるその姿。

 まさしく、茜の姿だった。

 

 ……そうだ、俺はこの世界に何をしに来たんだ。

 俺が目を話した間に忽然と姿を消した、自慢の義妹、茜を探しに来たんだろう。 

 そして、茜を見つけた際には、嫌というほど説教してやろうって意気込んでいたじゃないか。

 なのになんだ、俺はこんなところで茜に会わず、家族やじいちゃんたちに顔を見せないまま、ちょっと横っ腹に傷ができたぐらいで、俺は死のうとしているのか。

 馬鹿だな俺は。ここで死んでしまったら、何のために元の世界からこの異世界にやってきたというんだ。

 頭の中を冷静にして考えろ。俺はここで死ぬためにこの世界に来たんじゃあない。茜を探しにこの世界に来たんだ。

 まだ茜を見つけることすらできていないのに、こんなところで死ねるかよ。

 死にたくないのなら、足掻け。醜く、気高く、力強く!


 ………………だが、体は動かない。

 これだけ強く、固く気持ちを新たにしたのに、体はピクリとも動く様子を見せない。


 ………クソッ、なんでだよ……!

 

 視界も霧が発生しているのかと疑うほどぼやけ、体も棒のように動かなくなってきた。

 

 ……まずい、このままじゃ……!


 体もどんどん冷たくなってきている。

 本当に死んでしまいそうだ。


 ………俺は……まだ……死ねな……い…のに………。


 そこで、俺の意識はテレビの電源が落とされたように、プツリと途絶えた。

 

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