一人娘、姉になる
真白が家の図書室で本を読んでいると両親がやってきた。
「真白、蒼だ。これから家族になるから仲良くするように」
父に連れられてきた少年は柔らかそうな薄茶の髪に目をした綺麗な少年だった。だが、その顔に表情らしいものはなくただ静かに父のとなりに立っていた。
「蒼くんはまだ家のことを知らないのだし真白が案内してあげればいいんじゃないかしら?」
確かに、資産家にふさわしくかなり広い我が家を探検がてら案内するのも楽しかろう、少年も元気になるのではないかと真白は頷いた。
「はい、かあさま。蒼くん、行きましょう」
家のなかをあらかた説明したものの、その間蒼はずっと黙ったままで真白の説明に軽く頷くだけだった。
(このままでは仲良し兄弟なんて夢のまた夢だわ…なんとかしなくては…!)
「ねぇ、私のとっておきを紹介してあげる!ほら、急いでいくわよ!」
強引に手をとり走り出した先は庭園の小さな秘密基地だ。
「ここはね、誰にも見つからない秘密の場所なのよ。お昼寝にオススメ、なんてね。」
茶目っ気たっぷりに冗談を言ってみても蒼はニコリともせず黙ったままだった。家中を歩き回り疲れていた真白も流石に悲しくなり涙がこぼれた。
「そんなに我が家は嫌いかしら…私といるのが嫌なのかしら…」
「…っ違う!ここの人たちはいい人だし嫌いなんかじゃない!でも…!でも…!!僕は不幸を呼ぶって…!」
真白の涙に弾かれたように叫んだ蒼も泣きだしてしまった。
誰かが、蒼に言ったのだろう。真白はそれが許せなかった。大切な、家族が傷つけられた。
「蒼くんは不幸なんてよばないわ。そしてあなた自身が何より幸せになるの。シンデレラって知ってる?最初は不幸だけど王子さまと幸せになるの。蒼くんはシンデレラなのよ!私があなたをお姫様と幸せにするわ。そして私も幸せになる!そしたら、そんなこと思わないでしょ?」
泣きながら、むちゃくちゃなことを話す真白だったが蒼に想いは伝わったのだろう、ようやく蒼はぎこちないながらに笑みを見せた。
広い家中を歩き回り果てに泣き出した二人はそのままスヤスヤと寝てしまった。
そんな二人を両親は屋敷の部屋からにこにこと眺めていた。
【寝落ちから目覚め屋敷へと戻る道中】
「そういえば、蒼くんは私と同い年だそうだけど誕生日はいつなの?」
「12月29日、です」
「えぇ!私より遅いじゃないの!それなら私のことはおねーさまって呼ぶべきよ。それと敬語は要らないわ。兄弟なんだから。」
「えと…おねえさまは誕生日いつなの?」
「……12月17日よ」
「え、ほとんど変わらないじゃん…」
「いいの!1日でも早ければ姉なの!」