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全くデレない少女との同棲生活!  作者:
サイドストーリー:ナユ
62/62

62話『To be continued……?』

 カタカタカタ……

 とある掲示板のとあるスレッドに、ちょっとした噂話が載せられた。

 なんでも、『絶対に助からないような大事故から、生存者が見つかった』とか、『まるっきりのダメ人間が、ある日突然、別人のように真面目になった』とか、そんな嘘のような出来事は、神様の開くゲームに参加して勝った人間が奇跡を得ているんだとか……

 そんな奇跡を賭けた、神様主催のゲームをスレッドの住人はこう呼んだ。


 『神様ゲーム』と……


* * *


「はっ、はっ、はっ……」


 俺は少女の手を引いて必死に走る。後ろには数体のゾンビがおぼつかない足取りで追いかけてきていた。


「あの! このまま行くと、私がリスポーンした地点に戻って行き止まりですよ」


 後ろの少女が俺に助言する。

 俺はさらに後ろのゾンビと距離を開けたのを確認してから、大通りをこっそりと伺った。

 ダメだ! 大通りは大量のゾンビが徘徊している。こんな所に飛び出したら、今以上に危険な状況になってしまう。

 俺は再び少女の手を引いて走り出した。

 この細い裏路地をしばらく走ると、少女の言う通り壁にぶち当たってしまった。他に道はない。だけど周りを見れば、ポリバケツだの、酒屋のカゴだの、色んなものが落ちていた。


「キミは周りに落ちている物を積み上げてこの塀を超えるんだ!」

「えぇ!? でも、あなたは……」

「俺の事は気にするな。キミが塀を超えたら俺も同じように後を追うから、急ぐんだ!」


 そう言って、俺は少女の前に立ち、拳を構えた。

 ゾンビは五人。足は速くないが、ユラユラと左右に揺れながら確実に俺に迫ってくる。白目を剥き、髪が抜け落ち、皮膚が剥がれ、血に染まってボロボロになった衣服をまとう、自分の意思なんて存在しない、ただの化け物。

 俺は少女が逃げ切るだけの時間を稼がなくてはいけない。それが例え、こいつらのエサになったとしてもだ。

 両親からはいつも、『情けは人の為ならず』とか、『他人に与えた恩は忘れるがよい、だが与えられた恩は忘れてはならない』だの、散々言われてきた。人を助ける事が自分を磨く事だと教えられてきた。だから俺は、事故に合いそうな子供を助けようとして代わりに死に、このゲームに参加する事になった。

 そして今、このゲームの中でも誰かのために死のうとしている。だけど、それはきっと間違いじゃない。俺が囮になる事で少女が助かるのなら、それは少女の可能性を広げた事になる。

 ……どうやら俺は、最後までこういう生き方しかできないようだ。


「さぁ来い! 俺が相手になってやるぜ!」


 拳を構えて、先頭のゾンビに殴りかかろうとしたその時だった。俺を横切り、少女が前に出る。


「お、おい! 何をしている、危ない!」


 俺が少女の腕を掴もうと手を伸ばした時には、もう彼女は行動を起こしていた。


「スキル、『韋駄天!』」


 弓矢が放たれたように飛び出した少女は、いつの間にか手に持つナイフでゾンビの足を切り裂いていく。ゾンビが腕を振るうが体勢の低い少女には当たらない。

 五人のゾンビを全て横転させた彼女は、まるで慣性の法則なんてないような動きで素早く戻ってくる。地に倒れたゾンビの腕や胸元を踏みつけ、首をかっ捌きながら俺の近くでブレーキをかけていた。……その間、およそ二秒。


「血が全部抜けるまでゾンビには近寄らないで下さいね。まだ動きますから。それにしても、武器やスキルも無いのにゾンビに挑もうなんて無茶ですよ?」


 少女がセーラー服に飛んだゾンビの返り血を気にしながら、俺にそう言った。


「でも、私を守ろうとしてくれたんですよね。ありがとうございます」


 少女はニコっと笑う。俺は今でも先ほどの光景が信じられなかった。


「キミは……一体何者なんだ……?」


 俺の問いにキョトンとした表情を見せてから、少女は再び笑顔で答えた。


「私はナユ。犬伏いぬぶし那由なゆって言います。やっと見つけた。私の王子様!」


* * *


 俺はスマホを弄りながら、頭を掻き毟る。予想外もいいとこだ。


「あんだよあのスキルって。聞いてねぇぞ……ヘルハウンドもやられちまうしよぉ……」


 スマホに表示された名前やマップをグリグリ動かしながら、次の手を考える。


「まぁいいか。一人殺したし、手駒はまだまだたくさんいる。一人ずつ、じっくり殺してやればいい」


 俺はスマホを操作して、解禁されたモンスターを割り振っていく。


「グリズリー配置。フンババ配置、メガロドンは……ここしか置けねぇな。パラサイトはここで、バジリスクはここっと」


 操作を終えた俺はスマホを勢いよく胸ポケットにしまう。


「ククク、神の奇跡を手に入れるのは、この俺だ!」


 笑いが止まらねぇ。この千載一遇のチャンス、絶対に逃してたまるかよ。

 奇跡を手に入れて……俺も神の一員になるんだからよぉ!!

 俺は逸る気持ちを抑えつつ、奥の暗い部屋へと戻っていった。


* * *


 俺様は子供の頃からよく、バカだと言われ続けてきた。だけどそんな俺様にも友達はいて、バカだなと言いながら笑い合っていた。それが俺様の覚えている、一番楽しかった記憶だ……

 中学校に入るとバカは嫌われるらしい。俺様を笑う奴はあまりいなくなって、代わりに冷めた目で見られるようになった。怒鳴られて、ののしられて、俺様も段々と腹が立つようになってきた。

 ある日、俺様の事を散々バカにする奴が気に入らなくて、思い切り殴ってやった。そいつはヒィヒィ言いながら、それ以来おとなしくなった。

 なんだ、簡単な事だったんだ。俺様をバカにする奴、うるさい奴、見下す奴。全部殴って黙らせれば、もう何も言ってこないだ。

 高校に入るまで俺様は体を鍛え続けた。喧嘩で負けたらバカにされる。黙らせる事が出来なきゃバカにされる。だったら最強になればいい。そうすれば、昔みたいにまた友達が増えるぞ!

 そうして高校に入ったが、友達が増えるどころか俺様に近付く奴はほとんどいなくなった。寄ってくるのは俺様に殴られた奴が復讐に来るか、俺様が強い事が気に入らない不良だけだ。

 俺様は毎日のように喧嘩に明け暮れ、うるさい奴を黙らせた。けど、俺様が望んだものはこんな生活だったか……? 俺様はただ、友達が欲しかっただけなのに……


「ぎゃはははは~、桃子、お前ホントはピュアピーチって名前なのかよ! それって今はやりのキラキラネームってやつじゃねーか!」

「ひ、酷いよぉ歩暴ふぼう君、絶対に笑わないって約束だったのに……」

「だってよ、ピュアピーチってありえねーぞ。マジでどんな親なんだよ。ぎゃはははは」


 そんなふざけた名前の奴は初めて見たぜ。腹がよじれる!

 だが次に桃子を見ると、その目に大量の涙をためて、口をへの字にしていた。


「ひっく……私、この名前のせいで虐められて……それで自殺して……だからこのゲームに参加したのに……うぅ」

「な、泣くなって、俺様が悪かったよ。な、この通りだから」


 俺様が両手を合わせても、桃子は泣き止まない。

 むしろどんどん顔を歪ませていく。


「バカ……」


 少し離れた所で魅捨みしゃが吐き捨てるように呟いていた。

 くそぅ、それは反論できねぇ……


「ようし! 俺も男だ、責任はとるぜ! 桃子、ちゃんと見てろよ」


――ズガアァン!

 俺様は壁に両手を着いて、思い切り頭を壁に打ち付けた。


「ちょ、歩暴君なにやってるの!? 血が出てるよ!」

「へ、へへへ、このくらい平気だって。泣かせちまった詫びだよ。お前も名前くらいでそんなに気にすんじゃねぇよ。変なのは名前であって、お前が変なわけじゃねーだろ?」

「そ、それはそうだけど……」

「じゃあこうしようぜ。これからお前の名前を笑う奴がいたら、俺様がぶっ飛ばしてやる。俺様は最強だからな。これでいいだろ?」


 桃子が困った顔をしている。迷う事なんてねーのに。

 そんな時だ。俺様、ピコーン! っていい事を思いついた!


「なぁ、俺達って結構似てるよな。だったらよ、俺達でグループ作らねーか?」

「グループ?」

「そ! 桃子は友達できずに自殺したんだろ? 俺様も友達できなくてよー。似た者同士、グループになるんだよ!」

「あ、それいいかも! 歩暴君も自殺したの?」

「バーカ、最強の俺様が自殺なんてする訳ねーだろ? 殺されたんだよ。待ち伏せしてた野郎に鉄パイプで不意打ちされてよ、それが原因で死んだって女神の奴が言ってた」

「……最強のクセに殺されたの?」


 魅捨が茶々を入れてくる。


「うるせーな。じゃあお前はどんな死に方したんだよ?」

「あたしはまだ死んでない。ただこの世に絶望しただけ。親に裏切られて、恋人に騙されて、友達から逃げられた。だから手持ちの貯金が無くなるまで遊び続けて、無くなったら死のうと思ってたところで女神に無理矢理このゲームに参加させられたの」

「んだよ。じゃあ結局俺達と似たようなもんじゃねーか。ま、同じグループなんだし、仲良くやろうぜ?」


 そんな俺様の言葉に魅捨がメチャクチャ驚いている。

 どうしたんだ?


「は? あたしもそのグループに入ってんの? なんで?」

「だから似た者同士だからだよ。友達いねーんだろ?」

「いやまぁいないけどさ……勝手に決めないでくれる!? 友達なんていらないし……そもそもあたし、このゲーム自体に興味ないから! 生き残る自信とかもないし!」


 そんな魅捨に、桃子が近付いていった。


「あの、魅捨ちゃんは……私と友達になるの……イヤ?」

「べ、別にイヤっていう訳じゃないけど……作ったってすぐに裏切るし……」

「私は裏切らないよ! きっと歩暴君もそう。だって、傷付くことの辛さを知っているから。だから……私達と友達になってください!」


 魅捨が焦るようにソワソワしている。何だかトイレを我慢している奴に見えるな。


「あ~もうわかった! 勝手にしたら?」

「わぁ~ありがとう、よろしくね、魅捨ちゃん!」


 へっ、桃子のやつ、メソメソするばっかりかと思ったら、意外と根性あるじゃねーか。魅捨も照れ臭そういてるし、俺様ナイスアイディア!


――ズル……ズル……


「そうだ! このゲームが終わったらよ、リアルでも会わねーか? そうすれば楽しくなるぜ」

「あ、いいね! そうしよう。ね? 魅捨ちゃん!」

「けど、たしかこの世界って、日本に戻ったら記憶なくなるんじゃなかったっけ?」


――ズル……ズルズル……


「じゃあよ、みんなとダチのままでいさせてくれって願いにすればいいんじゃね?」

「バカ! アンタは死んでんだから、生き返してもらわないとダメでしょうが!」


――ズルズル……ズルズル……


「ん!?」

「じゃあさ、生きてる魅捨ちゃんがそのお願いをすれば、みんなで会えるんじゃない?」

「あたし? ……まぁ、うまく生き残れたらそんな願いもいいかもね」


 俺様は話しを続ける二人を止めた。何か聞こえる。


「しっ! 何か近付いて来る!」


 俺様の言葉に、二人は緊張するように固まった。

 そして三人が互いに背中をくっつけ、全方向に注意する。


「またゾンビかな……」

「歩暴、もしも盾や囮が必要ならあたしを使いな。あたしは『世捨て人』。死ぬことなんて怖くない」


 ったく、こいつはまだそんな事いってんのかよ。


「魅捨。ダチってのはよ、どんな時でも裏切ったりしねーもんなんだ。お前をそんな風に使ったりしねーよ」

「そうだよ魅捨ちゃん! 私達、三人生き残ってこのゲームをクリアするんだから! そういう囮とかじゃない方法で歩暴君をサポートしよう?」

「歩暴……桃子……」

「へっ、安心しな。俺様は最強だからよ。どんな化け物が来てもぶっ殺してやるぜ。お前達は巻き込まれねーように離れてな!」


――ズルズル……ズルズルズルズル!!


 ズガアアアアアン!

 壁が破壊され、砂埃が舞い散った。

 俺様よりも高い位置に、化け物の瞳が赤く光っていた。

 何が来ようと関係ねぇ! 俺様の力とスキルを合せれば怖い物なんてねぇんだ! 絶対に三人そろってこのゲームをクリアしてやる!!


* * *


 エレベーターを降りて真っすぐな通路を進む。後ろからは相変わらず、ライ君がピッタリと後をついて来ていた。

 ライ君は見た目だと、小学校低学年くらいにしか見えない。あの那由ちゃんという子も結構ちっちゃかったけど、ライ君はあの子よりもさらに一回り小さい子だ。

 そして、何故この子が私について来るのかは分からない。正直な話、この子の事は今日初めて知ったのよね。


「ねぇライ君、どうして私について来るの? 私達、どこかで会った?」

「……」


 ライ君は気まずそうに顔を背けていしまった。

 答えたくないのか、答えられないのか……それすらもよく分からない。


「じゃあ質問を変えるね。キミはどうしてこのゲームに参加したの? キミくらい幼い子が、命を賭けてまで叶えたい願いって一体なに?」

「……」


 これも沈黙。

 はぁ、とため息をついて、私は手を差し伸べた。


「まぁいいや。先に進みましょ。ほら、手ぇ繋ご?」


 するとライ君が嬉しそうに駆け寄り、私の手に抱き付いてきた。

 ほんと、こんなに懐かれる覚えはないんだけどなぁ……

 そう思いながら、チラッと横目で少年を見る。私と歩くのがそんなにも楽しいのか、笑顔で弾むように歩いていた。目が合うとさらにとびっきりの笑顔になる。

 ……か、かわいい。なんというか、母性本能をくすぐられる感じだわ。私が守ってあげなきゃって気持ちになっちゃう。大体こんな小さい子に懐かれて、嬉しくないはずがない。

 そうしているうちに、私達は広い空間に出た。相当な広さがあるが、驚いたのはそれだけじゃなかった。水だ。目の前には巨大な湖ともいえる水面が広がっていた。

 あれ? ここって地下よね? なんで湖があるの? まぁこの世界って女神様が作ったみたいだし、深く考えるだけ無駄か……

 だけど奇妙なのはそれだけじゃない。湖の水面に、網目のある鉄のプレートが敷き詰められていた。このプレートの上を歩いて、湖を横断できるようにしているみたい。

 私は湖の底を覗き込んで見る。水が緑色に濁っていて、どれだけ深いのか、魚が生息しているのかも見えなかった。

 プレートに足を乗せてみる。大丈夫、しっかりとした足場で、しなったりはしない。よく側溝にはめ込んでいる鉄のフタのような足場で、何枚も湖の上に敷き詰められていた。よく見ると、水面から1、2センチ上に設置されているので、靴が水に濡れる心配はない。


「ここを通るしかないみたいね。ライ君、行こう」


 足場はしっかりとしているけど、ちょっと不気味な感じはする。けど、私がリードしてあげなくちゃ!

 一番奥までは100メートル以上あるんじゃないかしら? そんな湖の上を私達は歩き出した。

 カツンカツンとゆっくり歩き続けて、30メートルくらい進んだ辺りだろうか。パシャリと、私の足が水を踏みつけた。

 あれ? と不思議に思い足元に目を向けると、水面が揺らいでいた。どうやら水面が波のように揺れたせいで、網目よりも高くなり、私の足に届いたらしい。

 けど、それはどう考えてもおかしい。なんで湖の水面が波打つの? それじゃあまるで……


「この下、何かいる……」


 ライ君がしきりに周りをキョロキョロと警戒しながら、そんな事を口にした。

 つまり、水面近くを魚が泳いだから波打ったってこと? でも、小さい魚がたとえ跳ねたって、こんな海のような波が生まれたりはしない。それこそ、大きい魚が水底から水面まで一気に浮上してくれば可能かもしれないけど……

 どのくらい大きければ、今くらい水面を揺らすことが出来るんだろう……

 1メートル? 2メートル? いや、人間くらいの大きさじゃ、あんなに広がる波は生まれない。なら5メートル? 10メートル……

 ガタガタと体が震えてくる。血の気が引いていくのが自分でもわかった。

 大丈夫、そんな巨大な生物がいる訳がない! だってここは……

 自分に言い聞かせようとしても、最悪な答えしか思いつかない。そう、ここは……この世界は、ゾンビが徘徊する、女神様の作った世界。どんな生物がいてもおかしくないんだ……


――ザガアアアアアアァァン!!


 突然足元ののプレートを突き破り、人間なんて軽く包みこんでしまうくらい、大きな口が私に迫っていた……


                         To be continued……?

これにて完結です。ここまで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。


何気にこのゾンビものは、主人公を変えて新しく連載しようか検討中だったりします。

プロットがまだ全然できていない上に、他にも完結させなきゃいけない連載があるので、連載できたとしても半年以上は先の話かな……


まぁとにかく、よければまたどこかで会いましょう。お疲れ様です!

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