61話『新しいゲームを始めようと思うの』
* * *
「勇者様ただいま~、着替えたらすぐに晩御飯のお手伝いやりますね」
そう言って、いそいそとセーラー服のリボンを解きながら自分の部屋に駆け込んで行く。
那由が来てから一ヶ月とちょっとが過ぎた。今では俺の母校である地元の中学校に通わせている。
那由を中学校に通わせるにあたって住民票や戸籍謄本を取ってみたところ、それはもう俺達の都合のいいように書き換わっていた。これが神の奇跡を使った結果なのだろうか?
学校ではもうすぐ冬休みに入るのだが、もうすでに友達も何人かできたらしく、毎日楽しそうに登校している。
ちなみに、那由の要望で呼び捨てにすることになった訳だが、その方が家族っぽいからだそうだ。
「那由ちゃん、明るくなって良かったですね、ご主人様」
「だな!」
那由には今まで俺が使っていた部屋を与える事にした。
そんで俺は、両親が使っていた部屋を忍と一緒に使っていた。
まぁ、その方が色々と都合がいいしな……
「お待たせしました。何か手伝いますか?」
私服に着替えた那由が部屋から出てきた。
「いえ、今日は特にないですね。たまには遊んでてもいいんですよ?」
――ピンポーン! ピンポーン!
そんな時、玄関のチャイムがなった。
「あ、私が出ますね」
那由がすぐさま玄関に飛んでいく。
「那由は何でもやってくれるから楽ちんだなぁ」
「駄主人様も少しは動いてください……」
「いや、俺は働いてお金を稼ぐ係だからさ、家の事は二人に任せるよ」
俺がみんなのために汗水流して働いているって言うのに、それ以上何を望むんだ?
ちなみに以前、俺がふった市ノ瀬こゆりともちゃんと一緒の職場で仕事をしている。今では普通に職場仲間といった関係に戻っていた。
……というか、工場で紅一点の彼女は職場の人気者で、アイドル的な扱いを受けており、かなり崇拝されている。当の本人はうろたえているけどな!
そんな俺が仕事で大変な想いをしているという話をしても、忍は一切認めてくれない。那由の教育に悪いとか、完全に母親モードだ。
こいつ割と厳しいんだよな。
「ちっ! ベットの上だとめっちゃ甘えてくるくせに……」
――ボフッ!
顔面にダイフキンが飛んできた……
「那由ちゃんの前でそういう事いったら、マジぶっ殺しますよ!」
へいへい分かりましたよ。怖い怖い。
まぁ顔が真っ赤だけどな。
「ええええええぇぇぇ~~……」
その時、玄関から驚きの声が聞こえてきた。
嫌な予感がしながらも恐る恐る玄関を覗いて見ると、そこには俺の幼馴染である森山一花こと、いっちゃんが呆然と立ち尽くしていた。
「女の子が……増えてる……」
「あの、勇者様のお友達ですか?」
「ゆ、勇者、様……?」
おいぃぃぃぃ! 人前でその呼び方すんなって言ってんのに!
「ねぇコウちゃん、ボク、今から未成年者略取、及び誘拐罪で警察に電話しようと思うんだけど、でもそれは全部コウちゃんのためを思ってだからね?」
「おいバカ止めろ!! って、こんなやり取り前もやった気がするぞ!」
いっちゃんは今でもたまに、おすそ分けを持ってきてくれる。
今回、那由とは初めて顔を合せたからかなりの衝撃があったみたいだが……
それでも、新しく彼氏が出来たとか、そんな話をしてくれて、那由が興味深々のようだった。
そんなこんなで、今、俺の生活は劇的に変わったと言える。那由が来てから家の中の雰囲気が明るくなり、昔の俺から見ればこんな生活は考えられなかっただろう。
冬休みになったらみんなで旅行とかにでも行こうかと考える。 幸せだ。ああ幸せだ! こんな毎日がずっと続けばいいなって思った。
・
・
・
気が付くと俺は、モヤの深い場所に立っていた。まるで雲の上にいるかのような場所。なんか前に見た事がある場所……
「犬伏昂さん、人生お疲れ様」
振り返るとそこには女神様が佇んでいた。
「あの、なんで俺ここにいるんスか?」
「え!? 気付いてないの? あなたは死んだのよ? 不幸な事故で」
ええ~~!? 死んだ!? 俺が!? マジかよ!!
「ちょっと待ってくれ! 全然覚えてないぞ! え~とえ~と、そう! 俺は今日、仕事から帰ってきて、夜に忍と恋の二重人格プレイでイチャついて、その後に眠って……全然事故の記憶なんてねぇよ!」
「え? それは……そう! 地震があったの! それで家が崩れてあなたは死んだのよ!」
「嘘つけ~~!! 事故って言っただろ。地震なら災害じゃねぇか!」
「ふっ……バレてしまってはしょうがないわね。今のはちょっとした神様ジョークよ」
止めてくれ。神様に死んだとか言われたらマジで焦るからな……
「で、俺になんの用だよ。死んだんじゃ無いなら、アンタが呼んだって事だよな」
すでにタメ口に切り替えて、話を進める事にした。
「実はねぇ、今度また、新しいゲームを始めようと思うの。それであなたにも参加してほしいなって思ったのよ~」
「参加しない! ではさようなら」
俺はスタスタと女神様に背を向けて歩き出す。帰り道がこっちなのかはわからんが……
「ちょ、ちょっと待って~、何で参加してくれないのぉ~? 楽しいわよ? 絶対楽しいから!」
「あのね、俺はもう十分幸せなの! それなのに神のゲーム参加して、死ぬような事になったらシャレにならんわ」
女神様が俺の腕を掴んで引き留めようとするのを、俺は振り払おうともがき続ける。
「死なない死なない! 今回あなた達は、ゲスト参加って事にするから、向こうで何があっても死んだりしない! だから参加して~!」
「死なないのか? ん~、それならまぁ、参加してもいいか……じゃあさ、それどんなゲームなんだ」
「ふっふっふ、今回はバイオハザード。ゾンビがひしめく街から脱出するゲームよ♪ このゲームに、あなたと忍ちゃんと那由ちゃんで参加してほしいの」
「やっぱり参加しません。帰ります」
クルリと再び歩き出す俺に、女神様がまたもやしがみ付いてくる。
「なんで~!? 今参加するって言ったじゃない」
「あのね、忍はそういうの苦手なんだよ。前にお化け屋敷入った時、絶叫してたからね。そういうゲーム無理なの! さらに言えば、ゾンビゲーって事は、感染したら俺達もゾンビになるんでしょ?」
「そうね。噛まれたら感染するわよ?」
「俺の大切な家族がゾンビになるところなんて見たくねぇよ! 軽くトラウマになるわ! じゃあそう言う事で……」
「待ってぇ~!! あなた達が参加してくれないと、ゲームが成り立たないのよぉ~」
「それってどういう意味? なんでそこまで俺達を参加させたいわけ?」
とりあえず俺が止まったせいか、女神様が腕を放してくれた。そうしてポツポツと話し始める。
「今回のゲーム、ちょっとバランスが悪くなっちゃってね、このままだと参加者全員が死んじゃいそうなのよ。私の計算だと、あなた達が参加して丁度いいバランスになるの」
「いやいや、普通に難易度下げればいいでしょ」
「いや~、そういう問題じゃないのよねぇ……」
いまいちよくわからない。
「とにかく、そういうゲームには参加しない。俺はようやく幸せを掴んだんだ。そっとしておいてくれよ……」
「……ふ~ん、ホントは怖いんだ?」
……なに!?
「なんだかんだ言って、ホントはクリアする自信がないから怖いんでしょ? 魔王討伐ゲームの時も、自信満々みたいな態度で結局クリアできなかったもんね? わかったわ。怯える弱虫に無理強いしても可哀そうだし、もう帰っていいわよ」
「では帰ります。さようなら」
俺は本当に帰ろうと歩き出す。
「ええ~~!? ちょっと待ってよ! ここは私に挑発されて、『そこまで言うならやってやるよ!』って乗っかるところでしょ!? 空気読んでよ!」
「知らねぇよ! 見え見えの挑発に乗るほど子供じゃないっての」
何なんだこの女神様は。一周回って面白く思えてきた。
「女神様、俺だって出来る事なら協力してやりたい。けど、今の俺はもう一人じゃないんだ。あいつらはもう俺の大切な家族で、俺の決断がみんなを巻き込む事になる。大切な人が出来るってそういう事だろ?」
俺の必死な説得に、女神様が渋々うなずいた。
「わかったわ。仕方ないから諦める……」
「悪いな。それじゃ」
そう別れを告げると、俺の意識は遠のいでいった……
・
・
・
「でさ、また女神様の所に行って、別のゲームに誘われたんだよ~」
コタツを囲んで、俺は忍と那由に昨夜の出来事を話していた。
「え!? ご主人様も誘われたんですか!?」
ゴフッと食べ物を噴き出しそうになる。
「え? 何? 忍も頼まれたの?」
「はい。全く同じ事を言われました」
まさかあの駄女神、俺に断られたからって今度は忍を誘おうとしたのか!?
「で、忍はなんて答えたんだ?」
「もちろん断りましたよ。私、怖いの苦手ですから」
「そうだよな~、だと思ったよ~あはは~」
「当然ですよ~あはは~」
…………嫌な予感がした。
「恋は!? もしかして恋も頼まれたんじゃないか!? あいつなら一発オーケーしそうなんだが」
「い、今変わります!」
忍が指をパチンと慣らす。
恋と人格を交代する合図だ。
「恋、お前もあの駄女神に呼ばれなかったか!?」
「えっと……はい、呼ばれたのです」
恋が気まずそうに視線を合わせようとしない。
まさか……
「ゲーム参加の誘い、なんて返事したんだ……?」
「…………」
黙り込んで動かない。この沈黙は肯定だろうな……
「ぷっ!」
突然、恋が笑い出した。ケタケタとお腹を抱えている。
「冗談なのですよ~。大丈夫、ちゃんと断っておいたのです。マスターなら断るだろうなって思ってましたから」
ビックリした~。恋も意外と空気読めるんだな。
「ったく~、驚かせるなよ、こいつめ! こいつめ!」
俺は恋の首に腕を巻きつけて羽交い絞めにすると、きゃあきゃあと恋は嬉しそうに悲鳴を上げる。そんなこじゃれ合いをやっていると、那由が静かに俯いているのに気が付いた。
「あれ? どうした那由。元気ないな。そう言えば那由も女神様に呼ばれたのか? まぁ、那由に限ってこんなゲームを勝手に受ける事はしないだろうけどさ」
その言葉に、ビクッと体を強張らせ、そのまま小刻みに震え出した。
あれ? まさかな。恋みたいな冗談なんだよな?
「わあ~~ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
いきなり那由がコタツに突っ伏して、喚き始めた。
「私だって最初は断ったんです! 参加するつもりはなかったんです! だけど女神様が『今、幸せな生活ができるのは誰のおかげ?』とか、『少しくらい恩返ししてくれてもいいよね?』とか言われて、どうしても断り切れなかったんです~」
ええええぇぇぇ!! あの駄女神、中学生相手になに脅迫してんの!? 手段を択ばないその手口にビックリだわ!
「勇者様ごめんなさい。私のこと捨てないでぇ~」
「いや、捨てないって。どう考えても頭おかしいのはあの駄女神だろ。……で、一応聞くけど、やっぱゾンビのゲームなのか?」
「ぐすっ、はい。参加メンバーは私、勇者様、忍さんと恋さんが二人で一人。私達はゲストなので、向こうの世界で死んでもちゃんと戻って来れるようです。この三人を合せた計15名でゲームが開始され、勝利条件はゾンビのいる街から生きて脱出する事だそうです……」
あまり嫌な顔をすると那由が不安がるから、ここは平然な表情のまま作戦を考える。そして頭で考えをまとめて俺は立ち上がった。
「マスター、どうするのですか?」
「こうなった以上はやるっきゃねぇだろ。お前ら、飯を食ったら修行するぞ! 俺はゲームで鍛えてるけど、お前らは危なそうだからな。ま、俺に付いてこい!!」
「了解! なのです!」
「は、はい!」
こうして、また面倒事に巻き込まれる事になった。
けどまぁ、やるからには全力で勝利を目指す!
なんだかんだ言いつつ、非現実的な日常にワクワクしている自分がいるのだった。
次で完結になりますが、実質、本編はここまでになります。
次回は「こんな終わらせ方してみたかった」っていう
ちょっとカッコつけたお話しをして終わりになります。




