59話『全部盗ませてもらいました。私は盗賊なので』
一応、ナユのスキルは漢字。
アサシンのスキルは横文字にして分けています。
追記
主人公サイドの時に、ナユの髪留めが外れていると描写したのを、ここの逃亡劇の時に回収するつもりで忘れていました。
なので、ちょこっとそのシーンを追加します。
すみませんでした。
コツコツコツ……
足音が段々と近付いてくる。
勇者様ごめんなさい。私、ここまでみたい。
私は両手を固く握った。
楽に死ねるかな……。ジワジワといたぶられて殺されるのだけはヤダな……
足音は次第に早くなり、ついに走り出した。私は死を覚悟して、目をギュッと瞑る。
タッタッタッタ…………
足音は私の隠れる岩陰を通り越して、洞窟の奥へと消えて行った。
あれ? なんで?
私は岩陰から顔を出して確認する。確かにアサシンが洞窟の奥へと向かって行く後ろ姿が見えた。理由は分からない。困惑する私は、自分の手の中にザラザラとした感触があるのに気が付いた。手を広げてみると、それは一つまみ程度の砂だった。確か私は、首から下げていたペンダントを祈るように握りしめていたはず。恋さんからもらった、大切なペンダント……
そう言えば恋さんが言っていた。あのペンダントは持ち主がピンチになった時に助けてくれるアイテムだと。という事は、アサシンのサーチを誤認させて、役目を終えたペンダントは砂になった……?
だとすれば、このチャンスをしっかりと活かさなきゃ!
私は岩陰から飛び出して、一気に外まで駆け抜けた。外はもう暗くなり始めていて、潮が引いているせいで来た時よりも砂浜が広い。だけど足跡なんて気にしている場合じゃない。とにかく急いで村に戻らなきゃ!
私は全速力で村に向かって走り出した。
「スキル、『韋駄天!』」
だけどスキルは発動されない。
そっか、もうMPがないんだった。ならとにかく全力で走るしかない。大丈夫、今までずっと隠れていたせいで、体力だけはあり余ってるんだから!
そうして私は、出来るだけ早くタッチ村に戻った。時刻は18時。太陽は完全に沈んでしまっていた。
「すいません、勇者様を見ませんでしたか!? 三人組の冒険者なんです!」
村に到着した私は、見回りをしている入り口付近のオジサンに詰め寄った。
「ああ、言付けを頼まれているよ。盗賊の少女が来たら、魔王討伐に向かったと伝えてくれと言われた」
勇者様はもうこの村を出たんだ。だとしたら追いかけなきゃ!
「それ、いつですか?」
「今から一時間くらい前かな? 追いかけるなら北に向かうといい。魔の大地と呼ばれる荒野が広がっていて、そこからさらに北へ向かえば魔王の住む神殿がある」
私はお礼を言ってから、一度道具屋に入った。アイテムを一通り買い揃えて、伝説の剣が入っている大きな袋にてきとうに入れた。魔法薬を振りかけてMPを回復させてから、私は村を出る。
「スキル、『気配断ち!』、『韋駄天!』」
必要なスキルを使い、風のように走り出した。目指すは北に広がる魔の大地! 一時間前にこの村を出たのなら、私の足なら追いつけるかもしれない!
私は諦めずに猛スピードで草原を駆け抜ける。日は沈んだけど、まだ仄かに明るさが残っていた。黄昏時というやつだと思いながら、前へ進む。
ゾクリ!
背筋に寒気が走った。迫り来る殺気を感じて、反射的に横へ跳び退ける。
ザン!
足元にナイフが突き刺さっていた。この角度、上から投げられた!?
上を見上げると、近くの木の上に人影が見えた。その人影は木から飛び降りて、ゆっくりと私に近付いてきた。
「あぁ~よかった。北に向かうんじゃないかってヤマ張ってたんだよねぇ」
ねっとりとした口調の女性。アサシンだ……
気配断ちは使ってたけど、彼女が木の上にいるって気づかなくて、近付きすぎたんだ……
「もう逃がさないからね~。……ぶっ殺す!」
スチャっと、アサシンは両手に握られたナイフを構えた。
もう戦うしかない……。大丈夫、ここは鍾乳洞じゃない。狭くないし、地面も濡れてない。私の速さはちゃんと活かせる!
私は大きな袋から伝説の剣を取り出して、他にもアイテムが入っている袋を投げ捨てた。そして、剣に取り付けられているベルトを自分の体に巻いて固定する。
「はぁ~ん? 邪魔にならないように剣は体に括り付けて、余分なアイテムは捨てたの? それってつまり、私と殺り合うってこと?」
私も腰に携えている短剣を抜き、身構えた。
「そうじゃないと、あなたは通してくれそうにありませんから。……一つだけ聞かせて下さい。ずっと気になっていたんです。あなたはなぜ、あの鍾乳洞の場所を知っていたんですか?」
「ただ単に、アンタの後をつけてきただけよ。アンタが色々と嗅ぎ回ってるから、勇者側のプレイヤーだって事はすぐにわかったからね。これでも一応、村の中での戦闘は禁止だとか、色んなルールがあんのよ」
そっか、別におじいさんに認められたとか、そういう理由じゃないんだ。あとは覚悟を決めて、この人に勝つ!
「スキル、『ソニックブースト!』」
「スキル、『韋駄天!』」
一応効果が切れないように、スキルを上乗せしておく。
少しの間睨み合って、私達はほぼ同時に動き出した!
地面を思い切り蹴る事で音速を超える超スピード。それを連続で行い、相手の隙を突く! 相手も同じような考えみたい。乱雑に動いて、決して私に付け入る隙を与えない。
「あはは、アンタやるじゃん! だけど――」
ギュン!
一瞬で私の左隣にアサシンが速さを合せて並んでいた。
だけどこれでいい。私は戦いの経験なんてほとんどないから、相手が攻撃をするのに近寄ってきたところを利用するしかない。そのために、わざとスピードを抑えていたんだから!
ビリビリと左側から殺気が伝わってくる。目で見てからじゃ間に合わない。直感で動かなきゃ!
殺気が押し寄せてくる感覚に、迷わず思い切り地を蹴った。その瞬間、私の頬にナイフが掠る。
だけど気にせず、滑り込むように綺麗にアサシンの背後を取った。
「なっ!?」
「特技、『急所突き!』」
相手の背中目がけて、鋭い突きを放った!
――ギイイィィン!!
私の突きは、アサシンの振り向き様の一撃に弾かれた。
「危な……アンタ、意外にレベル高いわね。って、ちょっと!?」
アサシンが何かしゃべっているのを無視して、私は一目散に逃げ出していた。
あの絶妙なタイミングで背後を取って、最高の状態で繰り出した特技が通じないんじゃ、正直私に勝ち目はない! ここは全力で逃げて、撒くしかない! 大丈夫、今の攻防で私の方が速い事がわかったんだから。
「スキル、『サウザンドダガー!』」
ゾクリと背中に寒気が走る。後ろを振り返ると、アサシンが下からノーモーションでナイフを投げつけてきた。私はタンとステップを踏み投げナイフをかわす。
さらにもう一本、避けた先を見越したようにナイフが飛んでくる。
――ギイィン!
それを自分の短剣で弾いて捌く。だがその飛んできたナイフは想像以上に重かった。弾いたと言うよりは、短剣を当てて軌道をかろうじて変えたって程度。まるで砲弾が飛んできたかのような重さだった。
よろめく私に、さらにナイフを飛ばしてくる!
「ちょっ!?」
身をひるがえして、ギリギリで避ける。かろうじて腕を掠めるだけで済んだ。
けど、アサシンはさらにナイフを構えている。
なんでそんなにナイフ持ってんの!? まさか、ナイフを無限に生み出すスキル!? だとしたら、真っすぐに走ってたらいい的だ。
私は左右に動きながら走り続ける。すると目の前に切り立った崖が見えてきた。魔の大地と呼ばれる荒野の入り口と言わんばかりの崖。さっきまで私が籠っていた、鍾乳洞の外壁の部分。
私はその崖に方向を向けた。この崖を登れば、追ってこれないかもしれない!
「スキル、「兎躍』」
跳躍力を大きく強化するスキルを使い、全力疾走で音速を超える速さのまま崖に向かう。後ろから飛んでくるナイフに気をつけながら、私は崖を駆け上がった。
「はぁ!? あのガキ、崖を走って……」
垂直に切り立つ崖を、私は駆け上がっていく。
僅かな窪み。ちょっとした段差。足が乗ればそれだけで上に行けるくらいの能力はある!
私は階段を駆け上がる感覚で、どんどんと登っていった。
――ガッ!!
私の足首の近くにナイフが飛んできた。私は五、六歩先の足を掛ける場所を頭に記憶して、足を動かしながら後ろを振り向く。崖の下からアサシンが、私に向かってナイフを投げ続けていた。
投げたナイフが突き刺さる場所から、微調整をしているからかな? 少しずつ狙いが正確になっていく。
私はもっと速く駆け上がらなきゃダメみたい!
――もっと、もっと速く! 全力で!!
走りながら数歩先の足場を頭に焼き付け、地上を駆けるのと遜色がないスピードで登る。そのおかげか、ナイフは私を捕らえることが出来ていない。
最後の窪みに足を掛け、私は全力で跳び上がった。崖のてっぺんを軽々と超え、空へと浮かんだ私はクルリと回転して、体が逆さまになった状態からアサシンを見下ろす。
すでに微調整をしたのか、目の前までナイフが迫っていた。
――ギイィン!
目の前のナイフを短剣で弾く。重い衝撃を受けて私の体は弾き飛ばされてしまったが、そのおかげで二本目、三本目と飛んでくるナイフは何もない空へと消えていった。
バランスを崩した体を空中で捻り、スチャリと足から着地する事に成功した。
ここまで来れば、流石に追っては来れないはず……
そう思っていた私は自分の目を疑った。アサシンが崖を駆け上がってくる!
よく見ると、自分で投げたナイフを足場にして、それを階段のように使っている。
「嘘でしょ!?」
私は驚愕しながらも再び走り出した。後ろからはすぐに登り切ったアサシンが追跡をしてくる。崖の上は意外にも広くて、木々がたくましく生い茂っていた。
森とも言える、そんな木々の中に入り込めば、より一層暗くて前が見えない。
「スキル『暗視!』」
「スキル『ナイトスコープ!』」
アサシンが正確に追ってきているのが分かる。きっと彼女のスキルも、私のと似たような効果なんだわ。
私はピョンと大きく跳んで、木の枝に乗り移った。木の上で、枝から枝へ飛び移りながら移動をする。
「くそっ、なんて身のこなしだ。猿かあのガキ」
猿じゃないし! せめてモモンガとか言ってほしい。
飛び移ると言っても、猿のように放物線を描きながら跳んでいる訳じゃない。モモンガのように、枝から枝へ滑るように移動している。
枝に足が着いた瞬間に、そのまま勢いを殺さずに別の枝へと蹴り込みを行う。着地の硬直や、放物線を描く移動なんてしてたらあの人を突き離せない!
木の枝や葉っぱが肌をこすり、髪留めが外れ、バサリと髪が下りる。だけどそんなこと気にしていられなかった。早く跳ばなくちゃ殺される!
私はまた、三つ、四つ先の飛び移る枝を記憶して、止まる事無く後ろを振り返る。アサシンとの距離はそんなに開いてはいなかった。
尚もアサシンはナイフを投げつけてくる。私が上方にいて、周りの木が邪魔をしているせいで命中率はかなり低い。それでも時たま、私の肩をナイフが掠め、血が滲むことがあった。
――このままじゃ逃げ切れない……
しばらく逃亡劇が続いたのち、私はそう判断した。真っすぐに突き進めば離す事もできる。だけどそれだとナイフのいい的になってしまう。的にならないようにジグザグに動けば、今度はアサシンを突き離す事ができない。
「結局、戦うしかない……か」
ぼやきながらも覚悟を決める。木の周りをクルリと回り、遠心力をつけて、アサシンに向かって全力で跳んだ!
「特技、『毒牙突き』」
速さが自慢の私とアサシンが全力で迫る相対速度はかなりのもので、その勢いを利用して突きを放つ!
「うっ!?」
逃げる事から急激に攻撃に転じた私の動きに、低く驚きの声を上げたアサシンだけど、尋常じゃない反応速度で腕を掠める程度で避けられてしまった。
けどそれでもうまくいった。今の特技は掠った所からでも毒を入れる。うまくいけば大きく行動を削ぐ事ができるわ!
「ふん、毒か……スキル『デトックス!』」
薄く斬られた傷口から浄化するように煙が上り、瞬間的に血が止まった。
「残念だったわね。私に毒は効かない。解毒のスキルを持っているからね」
睨みつけてくるアサシンに射抜かれながら、私は作戦を考える。この人に通じる作戦を……
「さぁ観念しな。どんなに逃げても私は振り払えない」
アサシンがナイフを構えるのと同時に、私は近くの大木の後ろに隠れた。もちろん彼女にはバレバレだ……
「何? それで隠れたつもり? ああそうか分かった。私が右側か左側か、どっちから顔を出すか半分の確率に賭けて、その瞬間を狙って攻撃を仕掛けるつもりなんでしょ?」
私は攻撃の準備を整え、息を殺して相手の出方を待つ。
「真正面から挑むよりはマシかもしれないけど……でも残念。私はこういう事もできる。スキル『バインド!』」
シュルシュルと大木の周りを細い糸が飛び交い、そのまま私を大木ごと拘束した。
「さて、これでアンタは動けない」
アサシンがゆっくりと大木の影から顔を出した。木に巻き付けられている私を見てニヤリと笑っていた。
「散々手間取らせて……まぁいいか、一撃で終わらせてあげる」
縛られた私の前に立つと、ナイフを振りかざす。
そしてそのまま、勢いをつけて私の心臓に突き刺した。
――正確には、私だと思っている物に突き刺した。
「今だ!『痺れ紅刃!!』」
ザン! と、木の上から飛び降りて放つ私の一撃は、アサシンの背中を斬り付けた。彼女の全身に赤い電撃が流れ、筋肉を硬直させる。
「なっ!? このぉ!!」
それでも振り向き様にナイフを振るう。すかさず私は彼女のそばを離れ距離を取った。
彼女は何が起こったのか理解出来ていなくて、私と大木を交互に見比べていた。
「くっ! 幻術!?」
「そうです。私は木の裏に回るのと同時に、羽織っていたパーカーを木の幹に引っ掛けて、それに幻術スキルを使いました。その後に真上の枝に跳び上がり、あなたの拘束からギリギリで逃れたんです。あなたが私の幻術に二度も引っ掛かってくれたのは幸いでした」
悔しそうにこちらを睨みつけながら、アサシンは自分の腰に手を当てる。体が麻痺しながらもアイテムを探していた。
「無駄ですよ。あなたの腰に括り付けられていたアイテムはこれでしょう? 私が今、近寄った際に全部盗ませてもらいました。私は盗賊なので」
今盗んだ麻痺の回復薬を見せつけると、アサシンは驚き固まった。解毒のスキル同様、麻痺もスキルで回復できるならまだ戦闘は終わらない。けど、どうやらそこまでは出来ないようで、アサシンは観念したかのように大木を背に、ズルズルと崩れ落ちていった。
「ちくしょう。殺しな。あんたの勝ちだ……」
「……いえ、あと数時間でゲームは終わりです。ここにはモンスターも少ないようですし、私はこのまま進ませてもらいます」
できる事なら殺したくなかった。例えもうすぐ終わるゲームの中だとしても……
私は彼女に背を向けて、走り出そうとした。その時――
「痛っ!?」
首筋に鋭い痛みが走った。手を当てると、一本の針が刺さっている。
針を抜き、振り返るとアサシンはニヤついていた。
「甘いねぇ。だから私を殺しておけばよかったんだよ。そいつは毒針。私の最後の悪あがきだ。アンタは身軽になるために伝説の武器以外の道具は捨てた。私は解毒のスキルがあるからアイテムは持ち歩かない。アンタにその毒を治療する術はない」
「くっ……」
体に毒が回り始めたせいで体が徐々に熱くなり、気分が悪くなる。
「さぁ、これでホントに私の出来る事はなくなった。殺すなりなんなり好きにしな」
私は無言で走り出した。急がなくちゃ!
「ふっ、ホントに甘い子だね……」
背後から聞こえるアサシンの声を振り切って、私は勇者様の所を目指す。
絶対に、この武器を届けて見せるんだから!




