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全くデレない少女との同棲生活!  作者:
サイドストーリー:ナユ
55/62

55話『これは持ち主がピンチの時に助けてくれるアイテムらしいです』

「私、なんで勇者様の部屋で寝てたんですか……?」


 次の日の朝、勇者様一行と朝食、兼作戦会議で飲食店に入った私だが、目が覚めた時には何故か勇者様の部屋だった。そして慌てて自分の部屋に戻ると、私の部屋に勇者様が寝ていたのだ。

 確か夜に寝ぼけながらトイレに行った記憶はあるけれど……

 とにかく何度も謝る。勇者様は笑って許してくれたけど、すっごい恥ずかしい……


「おまたせしました。サーシャ村特製、濃厚チーズの朝食セットです」


 どうやらこの村ではチーズが特産みたい。

 濃厚なチーズの匂いが周りに広がる。一口食べると、日本じゃ食べた事がない風味が癖になりそうだった。

 ああそうか。多分、これは女神様の策略だったんだ。私みたいにゲームに参加しない人も何人かいるのかもしれない。だけど、こうやってどの村にもおいしい料理を出す事で、色んな村に行きたいと思うはず。そうして食べ歩きをすれば、勇者様と出会ったり、意識が変わってゲームに参加しようと思うかもしれない。私がこうなる事は、女神様の思惑通りだったんだろうなぁ。


「さて、食ってばかりじゃなく情報収集の結果をまとめよう」


 勇者様が恋さんと忍さんから情報を聞き、方針をまとめていく。

 その間、私も昨日の夜に集めた情報からこの世界のアイテムをまとめて、どれを調達するかを考えていた。魔王を倒すのに必要なアイテム……

 勇者様の話を聞く限り、皆さんが狙っているのは伝説の装備。私がその一部を調達できたら喜ばれるんじゃないかしら? でも私、まだレベル1だし、高望みしすぎかなぁ……?


「あの、マスター。これなんですけど……」


 すると恋さんが、自分の身に付けているペンダントを手のひらに乗せた。


「これ、ナユちゃんにプレゼントしてはどうでしょうか……? 私達は常に三人で行動するので、ピンチになる事はほとんどないのです。だけどナユちゃんは単独行動になるんのですよね? 私、すごく心配なのです……」


 驚いた。まだそんなに打ち解けていないのに、恋さんは私の事を心配してくれている。

 勇者様も、恋さんの意見に賛成していた。


「だ、だめですよ恋さん、それって勇者様にもらった大切な物なんですよね!? そんなもの受け取れませんよ」

「マスターもいいよって言ってるので、気にしないで下さい。それにこれは、私達の仲間の証みたいなものなので、受け取ってほしいのですよ」


 仲間……? 私が……?

 胸が熱くなる。嬉しくて、恥ずかしくて、申し訳なくて……


「なら、次に出会った時に返してくれればいいのですよ。これは持ち主がピンチの時に助けてくれるアイテムらしいです。仲間として、友達として、無事に戻ってきてほしいから、預けておくのですよ」


 そう言って恋さんは、私にペンダントを着けてくれた。

 現実世界で自殺した私にとって、この優しさは涙が出る理由として十分過ぎた。


「あの……私、今まで心配してもらえるような友達っていなかったから……嬉しいです。ありがとうございます……」


 涙を抑えようとして声が震える。

 あぁ、私は、この世界に来て良かった。こんな出会いがあるなんて……仲間として、友達として見てくれるなんて思わなかった。

 頑張ろう! この人達のために、役に立つアイテムを調達するんだ!


(もしこのゲームに参加しようって思うなら、覚悟を決めた方がいいわ)


 ふと、この世界に来る前に女神様に言われた言葉を思い出す。

 でも大丈夫。モンスターと戦いながら、ダンジョンに潜ったりしなきゃいけないって意味よね? まぁなんとかなるでしょ。

 そうして朝の作戦会議は終了した。

 私達は一度宿屋に戻り荷物をまとめてから、さらに北へと進む事になった。

 道中、恋さんと雑談をしながら道に沿って進んだ。恋さんは私の事を気にかけてくれて、色々とお話しを聞かせてくれた。なんだか優しいお姉さんが出来たみたいで、私もついつい冒険の事を忘れて会話に花を咲かせる。

 話を聞く限り、やっぱり二人は勇者様の事が好きみたい。勇者様はどっちを選ぶんだろう……? もしかして二股!? あぁでも、女神様の奇跡で二人の体の事をどうにかするみたいだから、今の時点では何とも言えないのかしら?


「ナユちゃんは気になる人はいないのですか?」


 恋さんが私に話を振ってきた。

 ちょっと戸惑いながらも、私は正直に答える。


「子供っぽいって思われるかもしれませんけど、私もずっと運命の王子様を待っていたんです。私がピンチの時は必ず駆けつけて助けてくれる、私だけの王子様……だけど、結局そんな人は現れなかった……」


 ……正直、勇者様が私の王子様じゃないかって思ってた。そうだったらいいなって思ってた。けど、勇者様はもう、二人のものだったみたい。でも、これはこれで良かったと思う。この三人が揃って騒ぐと、見てるこっちまで楽しくなっちゃうから。


「現れなかった? ナユちゃんはまだ若いし、まだまだこれからじゃないですか~」

「えっと……そう、ですね……」


 みんなは知らない。私がすでに自殺している事を。

 みんなは知らない。たとえこのゲームで勝利条件を満たしても、私は女神様の奇跡なんて受け取らない事を。

 みんなは知らない。この三日間が、本当に私の最後の時間だと言う事を……


「おおおおお前ら~、モンスターだ!! 全員突撃ぃ~~!!」


 突然勇者様が大声を上げ、走り出した。

 私達もつられて後を追うように走り出す。


「メタル系モンスターだ!! 三日で魔王を倒せなんて無茶振りされるから、絶対にそういうモンスターがいると思ってたんだ! いいか、絶対に逃がすな!」


 見ると、メタリックなつやを持つリスのようなモンスターがチョロチョロと逃げ回っている。みんなで追いかけると、リスは林の中へ逃げ込んで行った。

 私達も林へ入ると、そこには同じメタルモンスターが何匹も走り回っていた。


「見つけた……この林がメタルモンスターの狩り場だ! やるぞお前ら~!」


 勇者様の指示に従って、私と恋さんが追いかけるふりをしてメタルモンスターを忍さんの近くに誘導した。

――ドゴオオオオオン!

 忍さんの強烈な一撃がついに命中した!

――キュピーン! キュピーン!

 私の手帳から甲高い音が連続して鳴り続ける。手帳を開いて確認すると、私のレベルは1から一気に8まで上がっていた。


「わわっ! マスター、私、一気に4レベルも上がったのですよ! ナユちゃんはどうですか?」

「凄いです! 私なんて7レベルも上がりましたよ!」


 思わず恋さんの質問に正直に答えてしまった。


「あれ? そんだけ一気に上がるって事は、ナユちゃんもしかしてレベル低――」

「わーっ、わーっ! ちょっと言い間違えちゃいました! って、勇者様、あそこにもメタルリスさんがいますよ!」


 勇者様が察してしまいそうになり、慌てて誤魔化す。

 私、盗賊稼業のせいでレベルが高いと思われてたんだ!


「よっしゃ! お前ら、今日は一日かかってもいいから、ここでレベルを上げまくるぞ!」


 これはチャンスだわ。今のレベルアップでスキルや特技をいくつか覚えた。この調子でもう少しレベルを上げておけば、後々の冒険が楽になる。っていうか、私一人じゃこんな風にレベル上げ出来ないから、しっかりと稼いでおかないと!

 そしてこの後も、それぞれ役割を決めてレベル稼ぎに専念した。

 時刻はお昼の12時を回った。この時、私のレベルは71。もういい加減、1レベル上げるのにも10分以上はかかるようになっていた。


「ちょっと休憩しようか。魔法薬も尽きたし、一度サーシャ村に戻って昼食にしよう。そんで、魔法薬を補充してからまたレベル上げを再開しようと思う」


 この勇者様の発言に、私は少しばかり戸惑いを感じた。

 もう十分にレベルは稼げたと思う。それに明日には魔王との決戦を控えているにも関わらず、未だ私達がどこまで魔王に近付けているかもわかっていない。ここはもう、レベル上げは切り上げて先に進むべきなんじゃ……

 私は迷う。正直な気持ちで言えば、もっと勇者様達と一緒にいたかった。こうして共闘して、笑い合っていたかった。……けど、私の目的はそうじゃない!


「勇者様。私はこのまま先に進もうと思います」


 村に戻ろうと歩き出した勇者様が足を止め、振り返った。


「恋さん、ペンダントありがとうございます。次に会った時、必ず返しますね。忍さん、勇者様とのやり取り、本当に面白かったです。私も、そんなみなさんに混ざりたいなって思っちゃいました」


 私は三人と距離を開けたまま、恋さんと忍さんにお別れを言う。

 そして――


「勇者様、私、勇者様に出会えて本当に良かった。勇者様は私の探していた王子様じゃなかったけど、最後の最後で、私に大きな目的を与えてくれました。私、そんな勇者様のために、頑張ってアイテム見つけてきますね!」


 なんとなくだけど、少し分かった気がする。初めてこの世界に来た時、私は三日間をのんびり過ごすんだって決めていた。けど、そんな過ごし方じゃ多分、満足できなかったんだ。

 私は現実世界で自殺をした。恋も遊びも何もかも、成し遂げられないまま終わりを迎えた。だから、不意に訪れたこの三日間だけは、何かを成し遂げるために動きたかったんだ。


「ナユちゃん……キミは一体……」

「えへへ。また会えるのに、少し大げさでしたかね? それじゃあみなさん、期待しててくださいね! 渡すアイテムが決まったら、魔王に一番近い街にいますので!」


 勇者様が少し戸惑っていた。そんな彼に私は大きく頭を下げ、一目散に走り出した。

 勇者様に甘えるのはこれでおしまい! ここから先は……私の冒険だ!

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