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全くデレない少女との同棲生活!  作者:
サイドストーリー:ナユ
54/62

54話『ただ、私にも色々あって……』

「えっと……ありがとうございます」


 私はその場にへたり込んだまま頭を下げた。

 未だにこの状況が信じられない。私のピンチに颯爽さっそうと現れて助けてくれた……もしかしてこの人が、ずっと待ち焦がれていた私の王子様?


「駄主人様、またナンパですか?」

「また!? またなのですか……!?」


 女性の声にハッと我に返ると、男性の後ろから、同じ顔の女性が二人いる事に気が付いた。

 双子なのかしら?

 二人の違いとえば、髪の色と服装、あとは声も若干違う。冒険者風の男性と言い合いながら、それでいて仲が良さそうに見えた。やり取りを聞いている限りではかなり親密な関係に思えた。



「俺はコウ、こっちがシノブで、こっちがレンだ。君は?」


 黒髪のショートボブがシノブさん、赤い髪の方がレンさんか。


「私はナユっていいます。皆さんも冒険者ですか?」

「そうだよ。『勇者』っていう職業らしいんだけど、あまり聞かないよね?」


 その言葉を聞いた時、私の胸は高鳴った。この人が、私を助けてくれたこの方が勇者……様!


「えぇ! 勇者!? 伝説の職業じゃないですか!? あなたが今噂になっている勇者様!?」


 私はとりあえず、この人を追いかけてきた事を隠しながら話を合せる。


「え? 勇者ってそんなにすごいの? でも俺みたいな一般人がなれるんだから、どうせ大した事ないって!」

「おう駄主人様、演技っぽい口調で謙虚ぶるのやめてくれねぇですか? イラッとするんで」


 わざとっぽくてオーバーリアクションの勇者様に、黒髪の方の……忍さんが容赦ないツッコミを入れている。そんな光景がなんだか芸人さんみたいで、私はつい笑ってしまった。

 私が思い描いていた勇者という人物は、強くてたくましくて、近くにいてもどこか手の届かない至高の存在だと思っていた。だけどこの人は、とても身近で笑い合える、そんな親しみやすい雰囲気があった。

 それから私達は一緒に行動して、この森を抜けようという事になった。どうやら勇者様は、この森の抜け方を知らなかったみたい。


「いやぁ、ナユちゃんがいてくれて本当に助かったよ。まだ小さいのに、ちゃんと敬語も使えるししっかりしてるよな。俺、敬語女子ってすごく好感持てるんだよ。なんか慎ましやかって感じでさ」


 勇者様の役に立てた事がちょっと誇らしかった。それに敬語だって使って当たり前なのに、そんな褒められると照れてしまう。


「ご主人様、敬語女子なら他にもいやがりますよね?」


 忍さんが勇者様に抗議を始めた。


「え!? そんな子が他にもいるの? どこどこ?」

「私、出会った時から敬語でしたけど?」


 すっとぼけている勇者様の頭をわしづかみにしてる!?


「言っとくがな忍、俺はお前の雑な口調を敬語だなんて認めてねぇぞ。なんでも『ですます』付ければ敬語になると思うなよ!」

「な……」


 今回は勇者様の方が優勢みたい。この人達の掛け合いは見てるだけでも面白い。


「マスター私は!? 私は完璧な敬語女子なのですよ!」


 今度は赤髪の方……恋さんがアピールを始めた。なんだか恋さんは、勇者様に構ってもらいたい仔犬のような印象を受ける。……って私、初対面の人に失礼な事考えてるなぁ……


「恋、前から言おうと思っていたんだが、お前のは敬語じゃなくて、『なのです口調』だよ! 雛見沢に祀られているオヤシロ様じゃねぇか!」

「よくわからないけど、ガーン!!」


 あ! それ知ってる! 日本で有名なアニメのキャラクターだ!


「ぷっ……あはは! あっははははは!」


 私はついに堪えきれず、声を出して笑ってしまった。

 こんな面白い人達だなんて思ってなかった。親密な関係だからこそ本音を言ってふざけ合える、そんな関係。私にもそんな友達がいたし、そんなやり取りをした事もあった。……だけど、それはもう随分昔の事に思える。今の私にはもう何も残っていない。頼る人もいなくて、絶望して自殺をしたんだから……


「あははは……あ、あれ? なんで……」


 気が付くと、私は涙をこぼしていた。

 ああ、そっか。こんな風に心から笑うなんて久しぶりなんだ。笑う事も忘れて、ただ壊れて、追い込まれて、そして自殺したんだ。もう元の、楽しい日常になんて戻れない。それが凄く、悲しかった……

 そんな私を見て、勇者様は困惑していた。

 忍さんと恋さんは私に寄り添ってくれて、背中をさすったり頭を撫でてくれた。そんな優しさが暖かくて、懐かしくて、私は甘えるように泣き続けた……


 しばらくしてから落ち着いた私は、立ち上がってから「お騒がせしました」と頭を下げた。勇者様には変な子って思われただろうけど、なんだか少しスッキリした気持ちだ。


「えっと……大丈夫? 俺、何かまずい事でも言ったかな?」

「いえ、そんな事はありません! ただ、私にも色々あって……でも、もう終わった事ですから大丈夫です」


 そう言って笑って見せた。

 そしてこの時、私はある決心を固めた。それは、このゲームに参加する事!

 さっき勇者様は、日本のアニメのネタを使っていた。と言う事は、この人達も私と同じように、日本からここへ飛ばされてきたんだ。この人達の勝利条件は間違いなく、魔王を倒す事。しかし女神様は言っていた。恐らく、勇者は魔王に負けるだろう、と。

 だとしたら放っておく事なんてできなかった。

 理由はよくわからない。一緒にいて楽しかったから? 助けてくれたり、優しくしてもらった恩返しがしたいから? 確かにそういう気持ちだってある。でもそれだけじゃなく、他にも大事な理由がある気がするんだけど、それは自分でもよくわからない……


「ナユちゃんは、どうして急いで次の街に行こうとしてたんだ? これくらいは聞いていいかな?」


 勇者様が質問してきた。確か女神様とのルールで、この世界の住人として振る舞う事ってあったっけ。

 別に勝利条件を満たして生き返る気なんてサラサラないけど、とりあえずルールに従っておこうかな。


「あ、はい! 私、お金を稼ぐために冒険者さんのお手伝いをさせてもらってるんです。出来るだけ魔王に近い街の方が儲かると思いまして」

「お手伝い?」

「はい。冒険者さんって意外と忙しいじゃないですか? その日の宿代を稼ぐためにモンスターと戦ったり、クエストをこなしたりします。でもそんな中、今日中に素材も集めたいなんて時は私の出番です! 私に依頼してくれれば、戦闘は苦手ですけど、ダンジョンに潜入してアイテムを集めたり、お宝を持ち帰ったり出来ます。これでも私の職業は『盗賊』ですから!」


 てきとうにそれっぽく話を作ってみた。


「どうですか勇者様。もし時間が足りないのであれば、私と契約しませんか?」


 勇者様は少し考え込んでから答えた。


「わかった、契約しよう! 俺達は明後日の夜には魔王と戦うつもりでいる。それまでに役に立つアイテムを調達してほしいんだ」


 女神様はゲームの期間は三日間って言っていた。それは多分、勇者様が魔王と決戦に挑むまでの時間なんだ。私の仕事は、それまでに勇者様に役立つアイテムを届ける事。

 勇者様に、どんなアイテムが欲しいかと聞いたら、私に任せると言われてしまった。まぁ、この世界のアイテムはよく知らないんだろうなぁ。当然、私も何が貴重なアイテムなのか全く持ってわからない。だから、こんな風に提案してみた。


「ならこうしませんか? 勇者様が私に渡すお金の額に応じて、何を調達するのかを決めさせてください。私だってダンジョンに潜るなら、準備が必要です。少ない金額じゃあロクに準備も整えられませんから」


 この提案に、勇者様は5000イリーナを渡してきた。

 もちろんこれは、この世界の住人を装うための口実だ。どんな金額を渡されようと、私が狙うのは勇者様が魔王に勝てるだけの貴重なアイテム!

 そして、何を調達するかを決めるまでは勇者様と一緒に行動する事になった。皆さんと一緒に行動できるのはとっても嬉しい。


「あ! あそこ、森の出口じゃないですか!?」


 話し合いをしながら進んでいくうちに、森を抜ける事ができた。

 空はもう星が輝くほど暗くなっていて、そんな星空の下、村の明かりが遠くに見えた。私達は急いでその村へ向かい、村の入り口に到達すると同時にビックリするくらいの安心感に襲われた。


「こんな時間に旅人とは。サーシャ村にようこそ。宿屋に行きたいなら、あの建物だよ」


 私達は夜間の警備を担当しているだろう、おじさんに案内されて宿屋に向かった。

 ちょっと高かったけど、宿屋で部屋を確保してから寝るまでの間、私は外に出て聞き込みを行う。夜でも冒険者さんは活動している人もいて、そんな人を中心に、この世界のアイテム情報を聞き出して、勇者様にどんなアイテムを調達しようかと考えていた。

 23時。あとは寝るだけという状況で、勇者様が明日の打ち合わせに来てくれた。私が7時半に起きると言ったら、その時間に作戦会議をする事になった。もしかしたら勇者様は、私が起きる時間に合わせてくれたのかもしれない。

 すごく優しい人。こんな人と現実世界で会えていたら、私の人生は変わっていたのかな? まぁ今更そんな事を考えても意味なんてないけど……


 私はお布団に入って目を瞑る。

 冒険を始めた初日。食べて寝てを繰り返して三日間過ごすと決めたのに、いつの間にかゲームに参加する事になったこの日、なぜか私の気持ちは高揚していた。この気持ちの正体も実際よくわからない。けど確かに、私はこの世界で何かを掴もうとしている! そんな気持ちのまま、私は意識は眠りへと落ちていった。

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