53話『大丈夫だったかい? 可愛らしいお嬢さん』
「冒険者の館へようこそ。こちらへどうぞ」
私は入口で待機していたお姉さんに案内されて奥に進んだ。すると、コンビニのレジのような機械の前でお姉さんは止まる。
「ここでは冒険をしやすいように、自分の職業や技を明確にする手帳を発行しております。こちらの機械に手をかざして下さい」
言われた通りに手を伸ばしてみた。レジはゴウンゴウンと動き出し、チーンという音と共に手のひらサイズの手帳が飛び出して来た。
私は手帳を拾い上げ中を見ると、そこには私の情報が書きだされていた。
職業は盗賊。レベルは1らしい。
…………盗賊?
「ちょっと待って下さい、私、盗賊ってなってるんですけど!?」
「盗賊は最も素早さが高い職業ですね。戦闘は苦手ですが、戦闘を避けたり、逃げるためのスキルが豊富だと言われています」
いやいや、そういう事じゃないよ! 私、現実世界でみんなから後ろ指をさされて自殺したのに、ここに来ても職業が盗賊とかそれだけで気が滅入るんですけど!?
「転職します!」
「いえ、これは本人の持って生まれた素質なので、転職とかはできないんです……」
ガーン!! なんかやる気なくなっちゃった。やっぱこの街で三日間お肉だけ食べてのんびり過ごそうかな……
「あ、あの、別に盗賊だからと言って悲観する事はありません。その職業をどう活かすのかはあなた次第です。あなたのやりたい事、成し遂げたい事にうまく活用してみてはいかがでしょうか」
「私の……成し遂げたい事……」
「それとここでは、手帳を発行された皆さんに職業ごとの衣装をプレゼントするサービスを行っております。まずは試着してから考えてはいかがでしょうか」
衣装か……ちょっと興味あるし、着てみようかな……?
私はお姉さんに促されて試着室へと入っていった。
そして試着してみるが――
「ちょっ! なんですかコレ~!?」
私が着たものはおへその見える黒のビスチェだった。一応上には長袖のパーカーを羽織っているが、こういうものは前を閉めないらしい。
下はホットパンツで太もももを晒しているのがまた大胆というか……
唯一、首に付けたチョーカーだけは気に入っていた。
「あらまぁ! とっても可愛らしいですよ~!」
店員さんが目を輝かせている。お世辞や演技には見えないけど……
「露出度高すぎませんか!?」
「でも、冒険者さんはすごく動くので、これくらいの方が涼しくていいですよ?」
そうなのかな……? そう言えば、外で見かける女性冒険者って結構動きやすそうな恰好してる人が多い。元の日本じゃ今は11月で肌寒い季節だけど、この世界は春のような温かさだ。
郷に入っては郷に従えと言うし、仕方ないかな。
「分かりました。この衣装、使わせてもらいます」
「ありがとうございました~♪」
私はそのまま館の外へ出た。
ツインテールでへそ出しとかやっぱり恥ずかしいが、道行く女性冒険者を改めて見ると、私よりも大胆な恰好をしている人もいる。ええい、こうなりゃヤケよ! いざ、北のフルーツの街へ! と、その前に武器屋に寄って、盗賊用の短剣を一本購入しておこう。外にはモンスターもいるって言うしね。
ついでに道具屋で薬草も買って、私はついに街の外へ出た。
草原に出ると北へ向かって道が伸びているのがわかる。この道をたどっていけばいい訳ね。私は歩きながらさっき貰った手帳をパラパラとめくってみた。手帳にはタブがあって、スキルとか特技とかいう項目が入っている。そのスキルのページを開いてみると『気配断ち』という名前が載っていた。
――『気配断ち』。消費10。気配を消して、モンスターから気付かれにくくする。
これを私が使えるの? 試しに使ってみようと目を閉じてみた。
自分の中に力を感じる。その力を引き出すイメージで……
「スキル、『気配断ち!』」
スゥっと、自分の存在が薄くなった気がした。自分の足音さえ遠くなったと思う。これが、私のスキル!? ちょっと試してみようかな?
道から外れた場所に、中型の犬のような動物がノソノソと歩いている。あれがきっとモンスターなんだと思う。私はその犬のモンスターに近寄ってみた。
草をサクサクと踏みしめて近寄るが、犬のモンスターは私の姿なんて見えていない様にウロウロしていた。
本当にこの犬、モンスターなのかな? ただの大人しい動物なんじゃ? そう思ってさらに近寄った瞬間だった。犬のモンスターがビクリと反応して私を見つめてきた。そして――
「グルルルル……」
唸り声を上げて、その牙を剥きだしにする。私は咄嗟に腰に付けた短剣を引き抜いた!
やっぱりこのスキル、ある程度の距離までモンスターから視認されにくくなるスキルだったみたい。今はもう戦うしかない……
「ガウガウがウ!」
「うひゃあ!」
モンスターが襲い掛かって来た。その迫力に押されて、私は一目散に逃げだした。
必死に走るが、犬のモンスターはしっかりと着いて来る。
「怖い怖い! 軽くトラウマになるぅ~!」
走り回っていると、一本の木がそびえ立っていた。私は一直線にそこへ向かう。すぐ後ろからモンスターが迫ってくるのを確認して、私はその大木を踏みしめ、思い切り後方へ跳んだ。
グルリと天地が逆となり、モンスターの頭上を越えて、見事一回転して着地をした。
「ギャン!」
モンスターは私に飛びかかろうとして木に激突をしていた。フラフラとよろめいているうちに私は飛びかかり、短剣を突き立てた! するとモンスターは光となって消えていく。後には一枚のお金が落ちていた。
よかった、血がドバーと噴き出していたら、それはそれでトラウマになっていたかもしれない……というか私、すごいアクロバティックな動きをしたよ!? これがこの世界での私の身体能力!? レベルが上がれば、もっとすごい動きとかが出来るようになるのかな?
でも今の一戦ですでに疲れたので、もうモンスターと戦う事は止めて次の街に向かう事にした。
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「ようこそ、ここはカキナナの街だよ」
通りすがりの人に声をかけてみたところ、間違いなくここはカキナナの街らしい。
私は手帳を取り出した。手帳にはデジタル時計も内蔵されていて、今は17時5分前と言ったところだった。
この街に勇者の人がきていたんだ……
そう思いながら、街を回りながら勇者を探してみる事にした。武器屋を除き、道具屋にも立ち寄ってみた。だけど、勇者らしい人物は見つからない。
でもそれは当たり前だ。最初に冒険者の街、アイナを勇者が旅立ってから、その約5時間後に私は後を追った。当然、このカキナナの街にも5時間遅れで到着したのだ。勇者が準備を済ませてすぐに旅立ったとしたら、もうこの街にはいない……こうなる事は予想出来ていた。
私はため息を吐いて周りを見渡す。もう日が傾いて、沈みそうになっていた。そんな夕日に照らされているのが『7・7・7』と表示されている大きな看板。
この街には巨大なカジノがあって、私はその中までは確認していない。だって勇者ともあろう人が、こんなカジノで遊んでいる訳ないもの。そう、私の予想だと勇者様は、強くて、優しくて、真面目で、平和な世界を取り戻すために一生懸命モンスターと戦う勇ましい人なんだから!
私はとりあえず飲食店に入って食事を取る事にした。
とりあえず、お勧めのメニューを取ってみた。
「フルーツの盛り合わせ、お待たせ!」
私の前に置かれたのは、日本じゃ見た事もない果物の数々。口に運ぶとどれもこれもおいしくてほっぺが落ちそうになった。流石はフルーツが名産になっている街。ここまで来たかいがあったわ! そう、私はあくまでフルーツを食べに来ただけであって、勇者様に会うのはついでだったんだから!
そう思っていた時だった。
「おい聞いたかよ、たった今、勇者がこの街を旅だったんだってよ」
その言葉を耳にして、私の果物を運ぶ手は完全に止まった。
鼓動が高鳴って、気が気じゃない。
「あのすいません。今まで勇者がこの街にいたんですか!?」
気が付くと私は、話をしていた青年に詰め寄っていた。
「ああ、ついさっきまで武器屋と道具屋で準備を整えていて、今この街を出たらしいぜ?」
私は絶句した。この街をグルリと一周したのに勇者様は見つからなかった。一体何処へ隠れていたんだろう? いや、もうそんな事はどうだっていい。今追いかければ、勇者様に会える!
私は青年にお礼を言ってから、店を出ようとした。
「あ、ちょっとまって、キミ、勇者を追いかける気か?」
「え? はい、そのつもりですけど」
「勇者は恐らく、さらに北の村に向かったんだと思う。けど、その途中には『迷いの森』ってのがあって、その森の抜け方を知らないと先には進めないぜ? この街の村長が詳しいから、一度聞いてみたほうがいい」
「そうなんですか。ありがとうございます!」
私は言われた通りに村長の家を訊ねてみる事にした。
ドアのノックすると、そこからかなり老いた男性が現れた。
「あの、村長さんですか? 私、迷いの森の抜け方を知りたいんです。教えて下さい」
「……はぁ~? なんだって~?」
どうやら聞こえなかったみたい……
「えっと、迷いの森です! 迷いの森の抜け方をですね――」
「はぁ~~? 手負いのゴリ? そんなゴリラおったかのぅ?」
どうしよう、言葉が通じない……
「違います。ま・よ・い・の・も・り!」
「ナ・ポ・リ・タ・ン? 最近パスタは食べてないのぅ」
なんでー!? 一文字も合ってないなんですけどー!? 文字の数すら違うんですけどー!?
もしかしてこの人、補聴器とかそういうアイテムを渡さないと先に進めないとか、そういうイベントなんじゃ!?
私が頭を悩ませていると、おじいさんが手を差し伸べ、紙切れを手渡してきた。
なんだろう……?
「迷いの森の抜け方が載っているメモじゃ。気を付けて行くんじゃぞ」
そう言ってバチコーンとウィンクをかまし、家の中へ戻っていった。
……聞こえてるなら最初から教えてよ。今までのやり取りなんだったの……?
とにかく私は迷いの森の抜け方を頭に入れて、勇者を追う事にした。
「スキル、『気配断ち……』」
森に入ってから、出来るだけモンスターとエンカウントをしないように注意しながら進んでいく。
勇者の人、まだこの森にいるのかな? もう抜けて、次の村に着いちゃったのかな?
正直、どうしてこんなに会いたいと思うのか、自分でもよく分からない。分からないけど、今、私は必死になって後を追っている。
――にゅるり……
体に何かが巻き付いてきた。植物のツタだ。
私は振りほどこうと、そのツタを引っ張る。だが、シュルシュルと全身を絡めとって締め上げてくる。おかしい、そう思ってツタの先を辿ると、目と鼻の先にモンスターがうごめいていた。
植物に擬態していたのに気づかなくて、私が近づきすぎたんだ!
「きゃああ~!?」
あまりにも驚いて悲鳴を上げてしまったが、その時には私の体はモンスターの触手によって拘束されていた。拘束してくる触手とは別に、私の装備、というか衣服をはがそうと別の触手が服の中に侵入してくる。
「い、いや! ヘンなとこ触らないで!」
腰の短剣を抜いて触手を切り裂こうとした。けど、ギチギチと締め上げてくる触手に腕が動かない。
わ、私、このままモンスターに絞め殺されちゃうの……?
恐怖が頭を支配していく。服の中に滑り込んだ触手が、衣服を破ろうと暴れ始める。
「あ、ダメ! 服が破けちゃう!」
このままじゃ裸にされて、そのまま食べられちゃうの……? そんなのいや! 誰か助けて!
だけど私はふと思い出す。どんなに助けてほしくても、現実世界じゃ誰も助けてくれなかった。私の理想の王子様なんて、どこにもいなかった……誰にも頼れない。自分でなんとか出来なきゃ、ただ蹂躙されるだけ……
私は、ここでも何も出来ずに終わるんだ……そう思って絶望した。
「ゲイルスラーーッシュ!」
突然ほとばしる衝撃波がモンスターを襲った。
モンスターも、絡みつく触手も粉々になって消えていく。
「大丈夫だったかい? 可愛らしいお嬢さん」
ペタンとその場にへたり込み呆然とする私に声をかけてきたのは、一人の男性だった。




