48話『我に歯向かう愚かな人間は、滅してくれるわ!』
「回復薬は各自一つずつ持ってるよな。魔法薬があと一つしかないんだよなぁ……誰が持とうか?」
魔王の住む神殿、入り口の扉の前で最終的なアイテムの確認をする。
「ご主人様でいいんじゃないですか? 伝説の剣を装備して、格段に攻撃力が上がったんですから」
忍がそう提案をしてくる。
「ん~……それでも、忍の方がスキルを重ねた時の一撃はでかいし、それだけ消費も半端ないからなぁ。恋の回復が切れたらそれもマズいし……」
「では、状況に応じて誰が使うのか、その時に決めればいいのですよ。判断はマスターに任せるのです」
そう言った恋の意見に合わせる事にした。
もはや、村に戻ってアイテムの補給をするだけの時間はない。残り少ないアイテムをうまく使い、正真正銘のラストバトルを制するんだ!
俺は意を決して、大きな扉を開け放った。
中にゆっくりと足を踏み入れる。神殿の中は、魔法で光がともされたランタンが多くぶらさげられていて、驚くほど明るく、そして、静かだった……
「よし、進もう……」
俺が先頭になり、天井の高い神殿を進んでいく。
真っ白く、巨大な柱が何本も天井に伸びており、そんな規則正しく並ぶ柱以外は何もない。ただガランとして広い空間だ。玄関と広間を繋げたような場所で、奥にはもう一つ扉が立っていた。
その扉を押して開けると、また同じような広い空間が広がっていた。ただし、30メートルほど先には玉座があり、そこに誰かが座っているのが見える。
間違いなく、そいつが魔王。
俺は息を呑み、一歩一歩玉座に向かって歩みを進めた。
「よくぞここまで辿り着いたな、人間よ……」
ふいに、そいつが立ち上がり声を発した。
低く、地の底から響くような、威厳のある声だった。
「我こそが魔王デスザガン。この世界に君臨し、全てを支配する者……」
立ち上がった魔王は、俺の二倍ほどの巨体だった。3メートルはあろうかという体に、不気味な文様の入ったローブを身にまとい、身の丈にあった巨大な錫杖を握っている。
その顔はまさに悪魔。ヤギのように細長い顔の左右に窪んだ瞳。顔色は薄紫色だ。後頭部には短いが二本の角が剥きだされていた。
「我に歯向かう愚かな人間は、滅してくれるわ!」
苛立ちを抑えられずに、ガツンと錫杖で床を突く。
それを合図に俺達は武器を構えた。
「恋、お前はMP温存してサポートと回復メインだ。攻撃は俺と忍でやる。忍、あんまり無理はすんなよ。お前は攻撃力は高いけど防御力が低いんだからな」
「「はい!」」
玉座からズンズンと前に出た魔王を囲むように散開する。
先に動いたのは忍だ。一気に魔王との距離を詰め、右手を振りかざす。
「ぬぅん!!」
魔王が迎撃しようと、錫杖を払った。
ブオンと、巨大な錫杖が風を斬るが、忍は身を引いて間合いを開けた。忍は攻撃を当てるつもりはない。その素早さで魔王の注意を引きつける囮になってくれているんだ。だとしたら、まず俺が先制ダメージを飾ってやる!
忍に向かって錫杖を振るう、その後の硬直を見計らい、俺は魔王に飛びかかった。
「喰らえ、特技『雷切破斬!』」
カミナリの如く、空中から落下する勢いを乗せて、俺の一撃が魔王の肩を切り裂く!
「ぬぅ!? こざかしいわ!! 『ブラッドレイ!』」
魔王が、そのヤギのような長い口を開くと、エネルギーの塊が集まっていく。
「カアアァァ!」
解き放たれたエネルギーは、真っ赤なレーザー光線となり、俺を襲った。
青龍の剣を構えて抑えようとするが、その威力に体が跳ね飛ばされてしまう。そのまま壁まで吹き飛ばされて激突した。
「ぐはぁ……クソッ、恋!」
「はい、『オメガヒール!』」
すぐに恋が回復魔法で癒してくれる。
「スキル、『ベルセルク』、『力溜め』、『クリティカルチャージ!』」
俺を吹き飛ばすために背中を向けた魔王に、忍がスキルを発動させながら駆けだした。
「甘いわ! 『オメガブラスター!』
魔王が左手を振り上げると、邪悪な黒いオーラが集まっていく。
「させないのです! 『スパーク!』」
振り上げた魔王の左手に稲妻が落ちる。バシュンと魔力が拡散して、使おうとしていた魔法が砕け散った。
うまいぞ恋! それでいい! 恋は回復と、俺達のサポートに徹してくれればMPも節約できる。
「ぐっ! 薙ぎ払ってくれるわ!」
魔王に向かって一直線に突撃をかける忍に、錫杖を横薙ぎに振るった。
忍は足を止めない。それどころかさらに前に出る!
直撃の瞬間、床に体が着きそうなほど身を屈ませて杖をやり過ごす。その状態から床を蹴り、滑り込むように魔王の懐に入り込んだ!
「特技、『獣神咆哮牙!!』」
――バアアアアアン!!
両手を腹部に押し当てたると、凄まじい衝撃音が周りに響く。
スキルを重ね、そのたった一撃の攻撃力だけなら伝説の剣を装備した俺をも超える忍の本気が炸裂した!
「がはぁ……!!」
ズズズっと、その巨体を支える足が後ずさる。
衝撃に身を強張らせる魔王に、俺はすかさず剣を振り上げた。
「物足りねぇだろ? こいつもくれてやる! 『斬鉄破斬!』」
剣を振り下ろすと、カマイタチにも似た鋭い衝撃波が発生する。
床を擦り、火花を散らしながら、魔王の背中をザクリと命中した。
「ぬがあぁぁ!」
俺達の連続攻撃に魔王がよろめいた。
いける! 勝てるぞ! 良い具合に戦闘が進んでいる。この調子でいけば――
「図に乗るなよ人間どもが……滅してくれるわ! 『ブラックエクスプロージョン!』」
スッ……と、一瞬魔王の姿が見えなくなるほどの闇に包まれる。次に理解できたのは炸裂音。何かが爆発して、その真っ黒な爆炎に飲み込まれてしまったという感覚。
その衝撃に抗う事もできずに、俺は吹き飛ばされて床に転がっていた。体をゆっくり動かしてみようとすると、体中が痛い。
あまりに予想外の衝撃に、思わず手帳を広げて自分のHPを確認してみると、一気に半分以上の体力が無くなっていた。
全体攻撃でこの破壊力!? 俺や恋は、まだ魔法防御力が高いからこの程度で済んだけど、忍は無事なんだろうか? まさか一撃で死亡なんて事にはなってないだろうな?
倒れた状態で周りを見渡すと、俺とは逆側の壁際に忍は倒れていた。モゾリと動いているので、取りあえず死んではいない。
「れ、恋、全体回復だ。急げ……」
「は、はい……『オメガヒール・オール!』」
フワリとした光が体を包むと、痛みが嘘のように引いていく。
この全体回復は体力が完全に回復するが、リキャストタイムが長い。魔王との打ち合いになった場合、そう連続では使えない。一応、リキャストタイムは敵にも適応されるから、今の大魔法を何度も使えるとは思えないけど、次にいつ撃ってくるのかわからない……
「ククク、しぶとい虫けらめ。さっさとくたばるがいい!」
まだ余裕を見せている魔王。今の大魔法をなんとかしないと、ダメージレースでこっちが負ける気がする。
やっぱり伝説の防具が一つもないのは失敗だった。防御面がもろすぎるんだ……なんとか防御を……
そんな俺の頭に、一つの閃きが走った。
「二人とも、一時撤退! 引くぞ!」
そう言って俺は出口に向かって走り出した。忍も恋も、そんな俺に合わせてすぐに走り出した。
「なに!? 逃がすか! 『オメガストライク!』」
背後から殺気が膨れ上がるのを感じる。
開けっ放しの扉を駆け抜け、忍と恋が通過するのと同時に扉を閉めた。閉める瞬間に見えたのは、巨大なエネルギーの塊が飛んでくるところ。そして、閉めた瞬間に扉の向こう側で聞こえる大爆発の音。
しかし、その扉は壊れるどころかヒビ一つ入らない。
そう、この建物は壊れない! 仕様か、魔王の結界かは知らないが、扉を閉めればそれは完全無欠の盾となり、そびえ立つ柱は究極の鎧と化す。
この際、使える物はなんでも使ってやる!
「お前ら、隠れながら隙をうかがうぞ。作戦名をあげるなら、コソコソ作戦だ!」
「「はい!」」
この神殿の、玄関と広間を合せたような広い空間。そこにある規則的に並ぶ柱の陰に俺達はバラバラに身を隠した。
バァンと扉を勢いよく開け放ち、魔王が姿を現した。
「……どこに隠れた。虫けらども……」
人間の体なんてすっぽり隠れるほど大きな柱に背中をピッタリと付け、時間を稼ぐ。狙うのは、忍の獣神咆哮牙と、恋の全体回復のリキャストタイムが終わる事。
あせるな、日付が変わるまで時間はまだまだ残されている! 確実に、少しずつこっちのペースで戦闘を進めていけばいい!
「そこかぁ! ガアアァァ!」
魔王が気配を探り当てたのか、俺が隠れている柱に向かって駆け出して来た。
俺は移動するために、逃げるように走り出した。
「死ねぇい! 『オメガブラスター!』」
俺はサッとすばやく別の柱に身を隠した。
俺を狙った魔王の魔法は、俺が隠れた柱に命中する。
ズガアアンと凄まじい爆発が巻き起こるが、はやり思った通り、柱は壊れない。爆風が弱くなるのを体で感じ取り、すぐにその場から駆けだした。
「グガアアア! 潰してくれるわぁ!!」
魔王が大きく飛び跳ね、その巨体が俺に迫ってきた。まるで3メートルの大きな隕石が落ちてくる迫力に、一瞬身がすくむ。
『オメガスパーク!』
バチンという音を立て、電撃が魔王の体に流れた。
柱の陰に隠れた恋が、しっかりとサポートをしてくれている。
「ぐう!?」
空中でバランスを崩した魔王が、俺の手前で四つん這いになりながら着地をした。怒りが込み上げているのか、ワナワナと震え、低く唸り声をあげながら俺を睨みつけてきた。
俺は一歩、バックステップで距離を取り剣を構えた。
「俺達は絶対に負けらんねぇ。だからそろそろ倒れてくれよな! 『ゲイルスラーーッシュ!!』」
周りの空気が一瞬収縮して、ゴッ、と一気に放出されたかのような衝撃波に空間が歪む。極太の光が全てを呑みこみ、魔王さえもそのエネルギーに押し飛ばされて、後方の壁に激突していた。
――タタタン! ズサァァ!
壁に激突した魔王の体が崩れ落ちそうになった時に、すでに目の前には忍が着地をしていた。三つの柱を足蹴にして、床に一度も足を触れずに一瞬で魔王の目前まで飛び込んでいた。
「おかわりがいるならくれてやります。『クリティカルチャージ!』」
「ぬお!?」
魔王が目の前の脅威を認識したが、もうすでに遅い。忍の両手が、今まさにトドメの一撃を繰り出そうとしていた。
『獣神咆哮牙・極!!』
魔王の体を物理的に強打すると、背後の壁に圧力がかかる。だが、ここの建物は壊れない。どこにも行き場のないエネルギーは、すべて魔王の体を押しつぶすための衝撃となり、ダメージに変わった。さらに極みの内部破壊の衝撃が建物にも伝わり、決して壊れないこの神殿が、忍の一撃により歪み、大きく揺れていた……
「忍、下がれ」
俺が指示を出すと、忍は大きく後ろに跳んだ。
別に危険を察した訳じゃない。ただ、最後まで油断はしたくなかった。
「…………」
魔王はぐったりと壁に背をつけたまま、座り込んで俯いていた。
これで勝ったのか……? 勝ったんだよな? 俺達が勝ったんだ!!
そうガッツポーズを取ろうとした時だった。
「フ……フフフ、まさか人間がこれほどとはな」
スゥ、と立ち上がった魔王が、再び地の底から響くような、不気味な声を発していた。




