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46話『ナユちゃん、キミは……プレイヤーだったんだね?』

「なぁお前らさ、ちょっと俺に隠し事多くね?」


 恋が魔法で作る明かりを頼りに、俺達は荒野をさらに北へと進んでいた。

 辺りはもう、結構な暗さだ。


「隠し事だなんて! むしろ全部知ってほしいのですよ!」


 恋がいつも通り、俺の腕にしがみつき頬ずりしてくる。

 うん。歩きにくい。


「いやでもさ、俺、ホワイトフレアが必中だったり、忍が防御無視の特技を使えんの知らなかったんだが。とりあえずお前らの手帳見せて。仲間の使える技を知らないと強敵が現れた時にマジで焦るんだわ」


 俺は手帳を寄越すように、手のひらを広げて指をクイクイと動かす。


「嫌ですよ。そうやって技を見るふりをして、プロフィール覧からスリーサイズを確認する気でしょう!」

「しねぇよ!! 今この状況でスリーサイズとか言ってる場合じゃないからな! そこまで欲望に突っ走るほど俺、空気読めないくないから!!」


 ひとしきり忍にツッコミをいれたあとに、俺はまじめに状況を説明することにした。


「忍、いま俺達は結構シビアな状況になっている。お前こそ今の状況がわかってんのか?」

「えっと……回復アイテムが足りなくなりそうなんですよね?」

「そうだ。少し多めに買ったつもりのアイテムだが、四天王って予想外の敵の出現によって、すでにほとんどを消費した。それもこれも全部、伝説の装備を一つも揃えられなかった事による戦闘の苦戦が原因だ。結果、恋の回復魔法によるMP消費を防ぐために回復薬を使い続けて、MPを回復させる魔法薬はもちろんの事、回復薬も残り少ない」

「けど、それは私達だって頑張っているじゃないですか。一対一の勝負に勝って、出来るだけ無駄な消費を抑えています」

「いやもちろん、その事には感謝してる。けどな、これまでの四天王の強さから推測すると、ぶっちゃけ魔王はかなり強い。その戦力差を埋めるには今の所アイテムに頼るしかねぇんだよ」

「けど、未だに四天王はあと一人残っているのです。しかも、最後の四天王は一番強いと相場は決まっているので、次の闘いでアイテムがすっからかんになる可能性が高い……そうなのですよね? マスター」


 最後に俺の言いたい事を恋がくみ取ってくれた。

 うんうん。意外と恋って察しがいいんだよなぁ。

 俺は偉い偉いと恋の頭を撫でてやる。恋は気持ちよさそうに目を細めていた。


「残るアイテムは回復薬が三つに、魔法薬が一つだ。つーわけで、もう全くと言っていいほどこっちに余裕はない! 故に、下手な戦い方は出来ない! 話しを戻してお前らの技を把握しとかないといかんのだよ。ほら、手帳見せてみぃ?」


 俺が再度手を出すと、恋が素直に自分の手帳を渡して来た。

 俺は恋の手帳をパラパラとめくり、恋の特技とスキルを確認する。


「ふむ。恋の技で俺が知らないものは何もないな。んじゃ次に忍」


 俺が手を出すと、忍も仕方ないという表情で手帳を渡してくれた。

 同じようにパラパラとめくって確認をする。


「ん? なんだこの特技。『回復功?』 味方一人の体力を80%回復させる? お前、回復技なんて使えたの?」

「ついにバレてしまいましたか。『極』と同じで、一人で修行に向かった時に教わりました。ご主人様がピンチの時に、颯爽さっそうと回復を行い、驚かせようと思ってたのに……」


 いや、そんなサプライズはいらない……ちゃんと報告をして、俺が計画的に指示を出せるように配慮してくれ……

 ともかく、これで仲間の技は全て把握した。もしも本当にヤバかったら、最後の四天王を倒したあとに村に戻って補給するのもアリかもしれない。ダッシュで戻ればギリギリ間に合いそうな気がする。


――ボッ!


 急に周りに灯りがともった。

 よく見れば周りには松明たいまつが立てられていて、それが一斉に燃え始めた。

 道しるべのように真っすぐ伸びたその先には、大きな神殿がうっすらと見える。


 あれが、魔王殿……


 そしてその神殿への道を塞ぐように、一つの影が俺達の前に立っていた。


「よくここまで辿り着いたな勇者諸君。私は最後の四天王だ」


 野太い男の声でそう答えた。

 近付くとその相手はガッチリと鎧を着こみ、左手には盾を装着させている。腰には大検を提げて、顔には鬼のようなお面をつけていた。

 お面で顔は見えないが、重装備の隙間から見える筋肉から、人間のように思える。


「気付いたかね? そう、私は人間だ。では戦う前に、なぜ人間の私が魔王の四天王をやっているのか、そこから説明するしかあるまい」


 いや、別に敵の境遇とか興味ないんだけど……


「今から五年前、私は冒険者の街アイナに立ち寄った。その時に――」


 うわぁ、勝手に語り出しちゃったよ! まぁいいか、今時は敵にもエピソードとかがあって、実は悲しい過去を背負っていたとかそんな設定で人気になったりするからな。ここは大人しく聞いとくか。

 だがその時だった。


――「勇者様……」


 小さく、か細い声が聞こえた気がした。

 俺は周りをキョロキョロと見渡す。


「どうしたんですかご主人様。敵さんの話を聞かないんですか?」

「なんか今、女の子の声が聞こえなかったか?」


 俺は後ろを振り向いた。すると後方の松明の近くに、誰かが倒れているのが見えた。

 俺はハッとして、その人物に駆け寄り声をかける。


「ナユちゃん!?」


 うつ伏せに倒れている少女はぐったりとしていて、もはや風前の灯火といえる状態だった。


「恋! 回復を!!」

「は、はい!」


 恋が少女をゴロリと仰向けの転がしてから、ゆっくりと抱き起す。その顔は、はやりナユちゃんだった。

 そのナユちゃんの姿を見て、俺はショックを受けていた。

 以前、一緒に行動していた時に着ていたパーカーは無く。今は黒のビスチェだけだった。露出された肩や腕には無数の擦り傷や切り傷があり、殴打されたかのような青アザもできている。

 小さく跳ねるように止めていたツインテールの髪飾りも今は無く、バサリと下された髪は砂まみれだった。


「ひどい……ナユちゃん、毒に侵されてます」


 状態を素早く診断した恋が、解毒の魔法を使い、そして傷を回復させる魔法で治療をする。

 土気色をしていた顔は、次第に元に戻り、頬は赤みを帯びていった。


「あ、恋さん……」


 未だ虚ろな目つきではあるけど、恋を見て、ナユちゃんはようやく声を出した。


「恋さんごめんなさい。借りていたペンダント、壊れちゃいました……」

「いいのですよ。ナユちゃんがこうして戻って来てくれた事が嬉しいのです!」


 恋が嬉しそうに、ナユちゃんの体を抱きしめていた。


「勇者様、遅くなりましたが、これ、頼まれていた物です。受け取って下さい」


 そう言って、ナユちゃんは体に巻き付けているベルトを外した。

 そこで俺もようやく気付く。彼女が一本の剣を体に括り付けていた事に。ナユちゃんの惨状が衝撃的で、他の事なんて目に入らなかった。

 そして俺は、その剣を受け取る。どこかで見た事がある剣だと思った。どこで見たんだっけ? 鞘に龍の模様が描かれている剣……


「そ、それって、青龍の剣じゃないのですか!? ほら、私とマスターでカジノのメダルを稼いでレプリカと交換しようとしたじゃないですか!」

「あ、そうだ! カジノの景品で見たんだ! って事はこれってレプリカ?」


 俺がナユちゃんを見ると、フルフルと首を振られた。


「違いますよ、本物です。手に入れるのに苦労したんですから」


 本物……? これが!?

 出会った時にナユちゃんは言った。「私に渡すお金の額で、届けるアイテムを決める」と。そして俺は、ナユちゃんに5000イリーナのお金を渡した。

 モンスターと数時間戦えば稼げるだけのお金で、ナユちゃんは伝説の剣、この世界で最強の武器を届けてくれた。こんなイベントってあるか? 本当にナユちゃんはNPCなのか……?


「あ……そうか、そういう事だったんだ……」


 俺は今、一つの真相に辿り着いた。


「ナユちゃん、キミは……プレイヤーだったんだね?」


 俺の言葉に、ナユちゃんが小さく微笑んだ。


「やっと気づいたんですか? 勇者様遅すぎですよ」

「え? プレイヤー……? どういう事なのですか?」


 恋も、忍も、その意味が分からずに戸惑っていた。

 う~ん、なんて説明していいかわからないから、後でいいや。

 とりあえず、俺はしゃがみ込んで、ナユちゃんの手を握る。


「ありがとうナユちゃん。かなり厳しい状況だったけど、キミのおかげでなんとかなるかもしれない!」


 そう伝えると、なぜかナユちゃんの目に涙が浮かんだ。


「ああ、あぁ……私は、ずっとその言葉を聞くために頑張ってきたんです。ようやく目的が果たせました……」


 涙をこぼすナユちゃんの目が、再び虚ろになっていく。


「勇者様、頑張って下さいね。私の出番は……ここまで……です」


 そう言うと、全身の力が抜けたように、少女はガクリとうな垂れた。


「ナユちゃん!?」

「大丈夫。気を失っただけです。体力は回復させましたが、気を張り詰めすぎて体が限界だったみたいです」


 よく見れば、スゥスゥと寝息を立てていた。


「それでご主人様、ナユちゃんがプレイヤーってどういう事なんですか?」


 二人にちゃんと説明するために、俺は考えながら少しずつ答える。


「ほら、ここって女神様が作った世界で、その世界を舞台にゲームが行われているだろ? 俺達は神のゲームに参加するためにここへ転生してきた。……だけど、ゲームに参加していたのは俺達だけじゃなかったんだ。ナユちゃんもまた、この神のゲームに参加していたプレイヤーだったんだよ」

「えぇ~!? で、でも、それならちゃんと事情を話して協力すればよかったじゃないですか。ナユちゃんは何も話してくれませんでしたよ」


 忍が衝撃を受けていた。俺だって驚いている。っていうか、してやられた気分だ。


「俺達には三日以内に魔王を倒すっていう勝利条件があったろ? 多分、ナユちゃんにもそういう勝利条件や、それを満たすためのルールがあったんだと思う」

「た、確かに、出会った時からナユちゃんの挙動は少しおかしかったのです。シノブが言ってたように、隠し事をしているように見えたのは、ルールを守るために嘘を付いていたから!?」


 そんなところだろう。恐らく、俺達にゲームの参加者だという事を話してはいけないルールがあったんだろうな。


「そして、ナユちゃんがプレイヤーで、俺達の味方をしていた。この事を踏まえれば、伝説の装備が入った宝箱が空っぽだったという最大の謎も、答えが見えてくる」

「ええっと……つまり他にもプレイヤーがいて、そのプレイヤーが宝箱を先に奪って行ったと言いたいのですか? でもそれって……まさか!?」


 恋は気付いたようだ。

 本当にしてやられた。俺はナユちゃんと出会った時に真っ先に気付くべきだったんだ。


「そう! この神のゲームは、俺達が魔王を倒す側と、魔王を勝たせる側に分かれた、プレイヤー同士のゲームだったんだよ!」


 恋はいち早く気付き、忍は唖然としていた。


「ほんと女神様にはやられたよ。この世界に飛ばされる前に俺はこう聞いた。その世界は元々どこかにある世界か? 作られた世界かってな。そして女神様は自分が作った世界だと答えた。だから俺は、この世界の人間はすべてNPCだと思ってそういう頭で行動していた。それが俺達に有利な情報だと思っていた。……だけど、本当はNPCだけじゃなくて、ナユちゃんのようなプレイヤーも参加してて、伝説の装備を全て奪われても、まだその事実に気付けなかった。ヒントをもらったつもりが、逆に不利な状況に追い込まれるトラップだったんだ……」


 いや、トラップという言い方は違うかもしれない。女神様は俺の問いに、正直に答えただけなんだから……

 ギリッと歯を噛みしめる。最後の最後まで、こんな重要な事に気付けなかったのが悔しかった。


「けど、ナユちゃんのおかげで伝説の武器だけは手に入りました。ご主人様、割り切っていくしかねぇです!」


 忍の意見に、俺は力強く頷いた。

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