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45話『この変態どんな体してんだ!?』

「四天王も残り二人か。回復アイテムの残りも少ないけど、大丈夫かな……」


 夕日も沈んで周りが暗くなり始めた荒野を、俺達はさらに北へと進んでいく。そんな中、気になるのはやはりアイテムの在庫だ。

 特に魔法力を回復させる魔法薬。これがとんでもない勢いで消費していく。

 スキルと特技、かなり強力な分、消費する魔法力の量も半端ない。魔王の元へだどり付く前に、MP切れになりそうで怖い……


「マスター、次の闘いも頑張るのですよ~」


 恋が俺の腕に絡みついているので、割と歩きにくい。

 そう言えば忍が静かだな。

 後ろを振り向いて見ると、忍は俯きながら付いて来ていた。


「忍、どうかしたか?」

「え? いえ、別に……」


 こころなしか、少し元気がないような気がする。

 恋も、そんな忍をジッと見つめていた。


「なぁ恋、忍のやつ、元気がないように見えないか?」

「ん~、きっと私が一人で四天王を倒しちゃったんで、自分も何かできないか悩んでるんじゃないですかね?」


 そうなのか? 別にそんな事で悩む必要なんてないと思うんだが……


「シノブの悪い癖なのです。素直になれないくせに、心の中ではマスターにどう思われているのか気にしてて……実際、私よりもマスターに気に入られてるくせに……」


 恋がボソリと、最後の部分をいじけるように呟いた。


「そんな事ねぇって。俺は恋だって大切に想ってるぜ?」

「……」


 ギュっと、恋は黙ったまま俺の腕にしがみつく力を強くする。

 ……まただ。

 なんだか最近、忍と恋がいがみ合うような事になったりする。

 別に二人の仲が悪い訳じゃない。だけど……うぬぼれた考えなんてしたくないが、俺を巡って空気が重くなる事がある気がする。こんなんで本当に、恋が体をもらってからうまくやっていけんのかな……?


「フハハハハ! よく来たな、勇者諸君!」


 気が付けば、十メートルほど先に人影が立っていた。

 考え事をしていたのと、周りが暗くなってきている事で、声が聞こえるまで気付かなかった。


「敵!? 四天王か!」


 俺の後ろをトボトボと歩いていた忍も、俺の横に並んで拳を構える。

 その男は、フード付きのマントを羽織り、顔はよく見えない。だが、スタスタと忍の前まで歩み寄ってきた。

 そして忍の前に立つと、自分でマントを掴み、バサリと勢いよく剥ぎ取った。


――その男は全裸だった……


「い……」


 忍が両手を後ろにさげる。


「いやああああああああああああっ!!」


 ズドオオォォォン……

 両手を一気に前に突き出し、忍の最強の特技、獣神じゅうしん咆哮牙ほうこうがを放っていた。……だが――


「フ、フフフ、中々の威力だ。だが、吾輩わがはいには通じんぞ」


 多少の衝撃で後ずさったものの、男は平然としている。


「バカな! いくらスキルを使っていなかったとしても、忍の攻撃力は俺らの中で一番強い。その忍でダメージがないなんて、この変態どんな体してんだ!?」


 そう言って、よく見ると男の体に光沢がある事に気が付いた。

 そうか、こいつ体が金属でできているんだ!


「吾輩は四天王の一人、ネクロ。金属生命体であり、防御力には自信があるぞ?」


 コツン、コツンと、自分の体を叩くネクロ。

 髪も無く全裸だと思いきや、よく見れば機械のような体にも見える。そのくせ、呼吸をすると腹が出たりへっこんだリもしていた。


「スピード特化の次は防御特化かよ。恋、頼む!」

「了解なのです。スキル『精神統一!』、『マジックアクティベーション!』」


 恋が魔力を高めて杖を構える。魔法攻撃ならどうだ!?


「特技、『ホワイトフレア!』」


――ズガアアアアアン!!

 ネクロの体が大爆発を起こした。


「ククク、魔法ならダメージを与えられるとでも思ったのか? 全くきかんなぁ」


 爆発で舞い上がる粉塵から、ネクロは何食わぬ顔で姿を現した。


「トトは速さこそが至高だとぬかし、その結果敗れていった。やはり重視すべきは防御力なのだ! どんなに回避率を上げても、万が一当たってしまえばダメージは避けられない。だが、避ける必要もないくらいの硬さがあれば、それこそ無敵!」

「はっ! だったらこいつはどうだ!」


 得意気に話すネクロに、俺は剣を構える。


「特技、『メタルスラッシュ!』」


――バキンッ!

 俺の一撃に、ネクロの体が数センチ削られた。


「ほう、吾輩の体に疵をつけるとは……だが!」


 削り取った箇所は、ニュルリと溶けるようにして、再生されてしまった。

 こいつ、液体金属なのか!? 


「その程度の威力では、吾輩を倒すのに100回は当てないといかんなぁ」


 余裕面で笑うネクロに、苛立ちと焦りが込み上げてきた。

 メタル狩りの時に使用していたこの技では、さすがにボスクラスを倒すのは難しいようだ。だとしたら、他にどんな手段でアイツにダメージを与えればいい……?


「恋、敵の防御力を下げる魔法とかねぇかな?」

「ありませんね。ぶっちゃけ、私にはお手上げなのですよ……」


 あれ? 今度こそ詰んだ……?


「仕方ないですね。ここは私がやってやるです」


 そう言って前へ出たのは忍だ。

 まぁ、ここはもはや、忍のスキル重ね掛けからの究極の一撃で倒す以外に方法がない。


「おい忍、この場合、別に一人で戦う必要はないんじゃないか? 俺達のサポートが必要なら手伝うぞ?」

「いらねぇです。ちゃんと勝算はあるので、駄主人様は大人しく見ててください」


 いつになくツンツンした態度で拒否られてしまった……


「忍がああ言ってるのです。私達は素直に見守ってましょう」


 恋がいきなり後ろから抱きついてきた。その重みで俺はペタンと尻餅をついてしまった。

 仕方ないので、そのままあぐらをかいて腕を組み、観戦する事にする。


「なぁ恋」

「何ですかマスター?」


 恋は、後ろから抱きついた状態で俺の頭にアゴを乗せていた。

 しゃべる度に、頭のてっぺんがカクカクする……


「恋ってさ、その……忍のこと嫌いなのか?」

「へ? いえ、むしろ逆なのですよ。私以外でマスターと仲良くしていいのはシノブだけだと思ってます」

「なら、やっぱりここで見てないで助けた方がいいんじゃねぇかな……別に今回は一人で戦わなくたって……」

「まぁ、実際に私達じゃダメージを与えられませんからね。それに、一人で戦うのは多分、シノブ自身の問題なのですよ。マスターが何を言おうと、自分自身が納得できなきゃ意味がありませんから。マスターはもう少し、シノブを信じてデンと構えていた方がいいのですよ」


 ううむ……わかるような、わからんような……

 つまるところ、俺と恋が一人で四天王を倒したから、自分だって出来るという事を証明したいんだろうか?


「ククク、貴様が相手か? いいだろう。かかってくるがよい」

「では、遠慮なく試させてもらいますよ……」


 余裕の表情を崩さないネクロに、忍が一気に距離を詰めた。


「特技、『獣神咆哮牙!』」


――ペチン。

 軽い音が鳴っただけで、なんの威力もなかった。


「あれ? 『獣神咆哮牙!』」


――ペチン。

 ダメージが通る通らない以前に、特技が発動していない感じがする。


「技が出ません……はっ!? まさかあなた、私の特技を封印させたんですか!?」

「い、いや、吾輩は何もしておらんぞ? さっき使ったばかりだから、リキャストタイムがまだ残っているのではないか?」


 敵にアドバイスされてるぅ……

 すると、忍は驚いた表情で俺の方を見てきた。


「ご主人様、リキャストタイムって何ですか!?」


 えええええええ!? そこから!? 今、そこから教えないとダメなの!? っていうか、これまでにリキャストタイムって何度か使ってきたと思ったけど、わからないならどうしてその時に聞かなかった? 知ったかぶりしちゃった!?


「シノブ~。リキャストタイムっていうのは、一度技を使うと、決められた時間が経過するまで同じ技は使えなくなるシステムなのですよ~」

「ええ~!? じゃあ、あとどれだけ待てばまた使えるようになるんですか!?」

「いや、それは自分の手帳から、特技の項目で確認しない事にはなんとも……」


 呆れる俺に変わって、恋が説明してくれた。

 確かに忍はネトゲをプレイした事が全くない。だからこういう言葉を知らないのは当然だ。俺がちゃんと説明してやるべきだった……

 でも……恋は普通に理解しているもんだから、忍も理解していると思ってたんだよなぁ……


「もういい……」


 低く、怒気を含んだ声が響いた。


「戦いの場に、このような素人が出てくるなどと興が冷めたわ。勝算があるなどと思わせぶりなセリフを吐くからどんな猛者かと思ったが……」


 ズン、と、ネクロが地を踏みしめて忍へ近づく。


「弱者に興味はない。死ね!」


 ダン! と地を蹴り、忍の目前まで跳んだネクロが、腕を振り、殴りかかった。

 忍はそのフックを身を屈ませてかわしたあとに、後方へ跳んで距離を空ける。時間を稼ぐつもりだろう。


「ガレフもトトも倒されたらしいが、おおかた向こうの二人が倒したのであろう。貴様のような素人が倒せる相手ではないからな」

「くっ!」


 ニュルリと、ネクロの足元が液体に変わり、地面を流れるように忍へ迫る。

 防御力の高いネクロはガードなんて必要ないんだろう。捨て身の勢いで忍に襲い掛かっていた。懸命にガードと回避を使い分けて、忍は相手の攻撃を捌く。


「弱き人間は仲間を集めて敵に挑む。だが、貴様のような弱者は仲間の足を引っ張る事しかできない」


 ネクロがボディを狙って拳を突く。忍はまた後ろへ跳んで間合いを離れようとしたが……

 ネクロの腕がグニャリと伸びて、忍の腹に突き刺さった。


「かはっ」

「仲間が勝利して、自分が強いとでも勘違いしたか? 貴様はただ何もせずに、周りに合わせてヘラヘラ笑っているだけよ!!」


 ふら付く忍に、渾身のストレートを放った。

 ガスン! と、忍はその一撃をしっかりと受け止めていた。歯を食いしばり、ネクロを睨みつける。


「うるせぇです!」


 受け止めた拳を強引に払いのける。


「私が何もしていないのなんて、私が一番よくわかっています。何もできなきゃ捨てられるかもしれない。見限られるかもしれない……そんな状況でヘラヘラ笑えるわけねぇんですよ! だから私は、一人であなたを倒さなきゃならないんです!」

「ふん、やれるものなら……やってみるがいい!!」


 再びネクロが拳を真っすぐに突いてきた。


『咆、哮、牙!!』


 それをギリギリのところでかわし、忍はカウンターで胸元に渾身の一撃を命中させた。

 ガツンと衝撃音が響くが、獣神咆哮牙でさえダメージがない相手だ。全くきいている様子はなかった。


きわみ!』


 だが、忍がそう叫んだ瞬間に、ネクロの体は弾き飛ばされて宙に舞っていた。


「がはっ、げほっ、な、なんだ!? 吾輩が、ダメージ……?」


 ネクロが困惑している。正直、俺も何が起こったのかわからない。


「なんだ、こっちでもかなりダメージ入るんですね。さっさと使えばよかったです」

「き、貴様、一体何をした!?」

「簡単な事ですよ。私の特技には防御力無視の技もあるんです」


 マジか!? そんな技、俺は知らないんだが……って、そうか! 忍を一人で修行に向かわせた時だ! あのイベント、ステータスのアップだけかと思ってたけど、新しい特技も習得していたのか!


「ば、ばかな! 吾輩の鋼鉄の体にダメージが入るなどと……」

「表面の硬さは関係ねぇです。ほら、人間には心臓マッサージってあるじゃないですか? でもあれって、強く押しすぎると肋骨が折れたりするらしいんですよ。なんかそんな感じの技です」


 えぇ~……嫌な例えだなぁ……

 俺、忍と恋だと、恋の方が能天気でおバカっぽいイメージあったけど、もしかして忍の方が考えるの苦手なのかな?


「さて、そろそろリキャストタイム? も終わった頃でしょう。決めますよ。スキル『力溜め!』」


 ブンブンと肩を回しながら、忍がネクロへ歩み寄っていく。


「まさか、この吾輩が……」

「勝算があるって、最初から言ってたじゃないですか。『ベルセルク!』」


「ク、ククク、面白い。受けて立とうではないか! 『鋼鉄化!』」

「刃の下に心あり。どうやら私の拳は、刃物よりも鋭いらしいです。『クリティカルチャージ!』」


 タン! と、忍が滑り込むように、一瞬でネクロの懐に入っていた。

 これが忍の得意な動きだ。武闘家としての素早さ、足捌きを使って低い体勢から滑り込むように迫るので、相手は一瞬、忍が消えたかのような錯覚に陥る。


「特技、『獣神咆哮牙・極!!』」


 ガツンと、低い体勢からネクロの腹部へ両手で打撃を放つ。打撃自体にダメージはない。だが、腹部へ両手が密着した状態から約一秒後、パァンと背中から衝撃波が突き抜け、同時にネクロの体が跳ね飛ばされていた。


「ぐはぁ……そんな……バカな……」


 宙に浮かぶネクロは、そのまま光となって消えていく。

 後に残されたのは、安堵のため息をつく忍だけだった。


「うおおおお! 忍、凄いじゃねぇか!」


 俺と恋は忍に駆け寄って声をかける。


「でも、刃の下に心ありって、確かアニメのセリフなのですよ? シノブが使うのって珍しいですね?」

「うっ……そうでしたっけ? 忘れました。それよりもご主人様!」


 茶を濁すように、忍は俺に真剣な表情を向けた。


「私、今の闘い、凄く頑張りました」

「あぁ、そうだな……?」

「……そんで、勝ちましたよ?」

「いや、わかってるよ。見てたし」


 何が言いたいんだ?


「だから、その……ちょっとくらいご褒美をくれてもいいですよ?」

「ああ、そういう事ね。何してほしいんだ?」


 忍は少し考えてから、モジモジと言い難そうに呟いた。


「そ、それじゃ……ナデナデしてください。いつもレンにしてるやつ」


 そんなんでいいのか? でも考えてみれば、忍にナデナデってあまりした事がなかったな。

 俺は言われた通りに、忍の頭を優しく撫でる。すると、撫でれば撫でるほどに忍の顔は赤くなっていく。


「わ、わぁ~! やっぱりもういいです! 恥ずかしいから止めやがれです! こんなんで喜ぶのはレンくらいですよ」

「よく言うのですよ! 本当は甘えん坊のくせに!」

「そんな事ねぇです!!」


 こいつらは一戦勝つごとに騒がないと気が済まないんだろうか? まぁ、勝利の余韻に浸れるのは勝者の特権だからな。

 完全に日が落ちて周りが暗くなったその荒野に、二人の言い合う声が響いていた。

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