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42話『せいぜい俺を楽しませろぉ!!』

「最強装備を整えてみた訳だが……あんまし変わんねぇな……」


 魔王討伐の出撃前に、タッチ村の武器防具屋で最強装備を買ってみたものの、結局、忍はチャイナ服。恋はミニドレスのままだった。ただ少しだけ色が変わって、チャイナ服はピンクから赤へ。ミニドレスは白から薄緑になっていた。

 女神様よ、さすがにこれは手抜きじゃないですかね? 装備品が色変えって……まぁいいけど。

 しかし俺は見た目が少し変わった方だろう。

 羽織っていたジャケットを脱いで、軽めの鎧をシャツの上から装備し、頭にはハチガネを巻いて、その上から前髪をおろした。

 俺はこのパーティーで盾役だ。しっかりと防具を装着しつつも、素早さにも気を使って鎧は軽めだ。伝説の装備が一つも揃えられなかった不安を消す事は出来ないが、レベルは十分に高い。

 俺は自分の手帳からステータスを見てみた。


名前 :コウ

職業 :勇者

レベル:89

体力 :851

魔法力:225

攻撃力:864

魔攻力:267

防御力:693

魔防力:437

速さ :352


 ぶっちゃけよくわからない。

 ステータスって999がカンストなのか? だとしたら、かなり高めた方だと思う。


「とりあえず、やれる準備は整えたな」


 武器も一式を揃えた。

 俺は剣。忍はグローブ。恋は杖。

 そして余ったお金で体力を多く回復できる回復薬と、魔法力を回復できる魔法薬を買い込んだ。


「あとは、村の入り口で待機しましょう」


 忍と恋が先頭に立って、足早に店を出て行った。

 そう、俺達にはあと一つだけ問題が残っていた。それが――


「駄目ですね。ナユちゃん、まだ戻って来ません……」


 そう、ナユちゃんの到着を待っていた。

 この三日目に、魔王を討伐するのに役立つアイテムを調達してくれるという契約だったのだが、未だナユちゃんの姿を見る事ができない。


「少し待ってみようぜ」


 俺達は村の入り口で、ナユちゃんが帰ってくるのを待つことにした。

 誰も、渡したお金を持ち逃げされたなんて事を口には出さない。そんな事をする子には見えなかったし、村人に聞いてみると、アイテムを探すために色々と聞き込みを行っていたらしい。


「やっぱり、アイテムを取りに行って怪我しちゃったのですよ! マスター、助けに行かないと……」

「落ち着けって。ナユちゃんがどこに向かったかもわからんから助けようがねぇ。それに、俺がナユちゃんに渡したお金はたった5000イリーナだ。そうそう無茶させるような大金じゃない……」


 とは言え、この村を出てから戻って来ないのは事実。

 俺は手帳を取り出して時間を確認した。現在、17時10分。空が夕日で赤く染まってきていた。


「時間だ……仕方ねぇ! ナユちゃんのアイテムは諦めて、魔王城……って神殿だっけか? とにかく、討伐に向かうぞ!」


 恋が諦めきれない様子で、村の外のフィールドを見つめていた。

 無理もない。恋はナユちゃんとかなり親しく話していたからな。


「恋、村の警備をしている担当者に言付けを頼もう。ナユちゃんが戻ってきた時に、俺達の行方がわかるようにさ」

「……はい」


 そして俺は、今日一日この村を警備しているという担当者に、小さな盗賊風の女の子が来たら、自分達はすでに魔王討伐に出た事を伝えてもらうように頼んだ。


「よっしゃ! そんじゃ、日が沈む前に魔王殿に乗り込むとするか!」

「はい!」


 俺達は声を出す。士気を高めて、不安を吹き飛ばすために……

 そうしてついに、魔王の元へとたどり着くための一歩を踏み出した!

「あの、ご主人様……」


 ハァハァと息を切らしながら、忍が俺に疑問をぶつけようとしている。何が言いたいのか、大体予想はつく。


「モンスター、強くねぇですか……?」

「……まぁ、最終局面だし、多少はな……」


 タッチ村から北へ進むと、情報通りの荒野が広がっていた。

 『魔の大地』と呼ばれる、草木も生えない岩だらけの荒野だ。

 目に見えるのは、一面に広がるゴツゴツとした大地と、所々盛り上がっている岩肌だけ。

 そんな荒野を、巨大な獅子やら、巨大な鷹が襲ってくる。そしてその強さが度肝を抜かれるほどだった。いや、スキルや特技を使えば普通に倒す事はできた。ただ、モンスターが襲ってくる度に魔法力を消費していては、魔王の元へたどり着く前にアイテムが枯渇してしまう。

 それに……なんだろうか。この、レベルが足りない状況で次のイベントに足を踏み入れてしまった時のような、そんな不安が拭いきれなかった。


「ウオオオオォォォーーーン!!」


 その時だった。狼の遠吠えが耳に入って来て、俺達は周りを見渡す。

 地面から5メートルほど高くなっている岩山の上に、人影が見えた。そいつは俺達に向かって高く跳び上がると、拳を振り上げる。


「敵だ! 避けろ!」


 俺の声に、忍と恋が横へ跳んだ。


――ズガアアアアアン!!


 俺を目がけて振り下ろされた拳を避けると、その勢いは地面に突き刺さった。

 乾いた地面が陥没して、砂埃が巻き上がる。

 その中央でゆっくりと立ち上がる人物は、一言でいうなら『狼男』だった。


「モンスターか!?」

「おい! この俺をそこら辺のモンスターと同じにしてくれるなよ」


 狼男が口を聞いた。

 まさに、狼そのものと言った骨格をしている顔に、毛におおわれた体。人間らしいと言えば、手足が人間と同じ形をしていて、爪で引き裂くと言うよりはぶん殴る方が使いやすそうな手の平をしていた。

 ボロボロのジャンバーを羽織り、ボロボロのズボンをはいた狼男は獣の瞳で俺を見ながら自分を語った。


「俺はガレフ! 魔王四天王の一人、獣人族のガレフだ。この大地に入って来た人間を八つ裂きにする役目を担っている」

「四天王!? 四天王なんて連中がいるのか!?」


 俺はにわかには信じられずに繰り返した。

 あれだけ情報を集めにも関わらず、四天王がいるなんて聞いていない!


「へへへっ、ま、俺の姿を見た冒険者は始末してるからな。人間は俺ら四天王の事は知らねぇんじゃねぇか?」


 そうだったのか……だとしたら、本気でアイテムの在庫がヤバいかもしれない。


「俺は強い奴と戦いたくてここで番人をやっている。せいぜい俺を楽しませろぉ!!」


 咆哮にも近い叫び声が荒野に響き渡る。


「戦闘開始だ! 技を出し惜しむな!」

「はい!」


 俺の指示に忍と恋が返事をして、ガレフを取り囲むように散開した。


「へへっ、かかって来な人間ども! スキル『一騎当千!』」


 何!? こいつ、今スキルを使った!?

 ブワッと、闘気かオーラのような光がガレフを包み込んだ。


「喰らうのです! 特技『オメガスパーク!』」


 空から一筋の光が、落雷の如くガレフに直撃した。

 バチンッという音と共に、青白い電撃が走り、狼の毛並みが逆立っていた。


「ぐぅ……がぁ……」

「今です! スキル『力溜め!』、『ベルセルク!』」


 一瞬動きの止まったガレフに、すかさず間合いを詰めた忍が思い切り体を捻る。


「特技『咆哮牙!』」


 真っすぐに放った掌底が、ガルフに体に直撃した!

 ――が。

 ガレフは数十センチ吹き飛ばされるも、その両足でしっかりと体を支えて堪えきった。もちろん、倒れる事もない。


「この程度か? 効かねぇなぁ」


 ウソだろ……?

 忍は攻撃力だけなら俺よりも高い。その忍の特技を受けて、平然としているなんてどれだけタフなんだ……


「今度はこっちから行くぜ? 特技『牙狼拳がろうけん!』」


 ガレフの右の拳が煌々と光り出した。そして忍を睨みつける。

 まずい、忍は防御力が低い! 敵の攻撃は俺が引き受けねぇと!


「特技『敵視寄せ!』」

「はん! そんなあからさまな囮作戦なんざ、雑魚モンスターにしか効かねぇよ!」


 ガレフは嘲笑うかのように吐き捨てる。

 くそ! やっぱボスクラスになると敵視はほとんど意味がない。ランダム攻撃というか、自分の意思で攻撃対象を選んでくる。


「忍、下がれ!」


 俺の指示に、忍は地を蹴って大きく後ろに下がった。そして俺がガレフの前に立ち塞がる。


「そんなに死にてぇなら、てめぇから逝かせてやんぜ!!」

「くっ……スキル『鋼鉄化!』」


 敵の攻撃を一度だけ半減できるスキルを発動させた瞬間に、ガレフは俺の目の前で拳を振りかぶっていた。

 ガアァ! と獣のような咆哮と同時に振るったパンチは速すぎて、俺には捉える事ができなかった。


――ボグゥ!


 サンドバッグを殴ったような音が響いた時には、俺の視界はグルグルと回り、地面を転がっていた。そして遅れてやってくる顔面への激痛。

 正直、死ぬほど痛い!


「うおおおおお、痛ってええええぇ!」


 地面をのたうち回りながら、俺はハッとして手帳を開き、自分のステータス一覧から体力を確認してみた。

 俺の体力は、一気に削られて残り30%ほどまで減っていた。

 その異様な減りに、一瞬思考が停止する。って、固まってる場合じゃない!


「れ、れーん回復してくれ~!! マジで死ぬから!」

「は、はい! 『オメガヒール!』」


 ポワッと光に包まれると、顔の痛みが引いていく。

 これで俺の体力は全快になったはずだ。


「マスター、分かっていると思いますが、魔法も一度使うとクールタイムが発生してしばらく使えなくなります。気を付けて下さい」


 そうだ、連続で同じ回復魔法を使用する事はできない。……というか、防御スキルを発動させてもこんだけ減るってどういう事だよ。強すぎだろ……

 俺は身を起こして、敵を見る。今は忍と睨み合って間合いを計り合っているが、ガレフは余裕をもっているように見えた。

 今、俺が攻撃を受けたからよかったものの、次に同じ特技を忍か恋に使われたとしたら……。防御力が低いあいつらだと、たった一撃で即死するかもしれない。これが、四天王の強さ。いや、伝説の装備を一つも入手出来なかった俺達の惨状か……?

 絶望感が全身を包み込むような感覚に、立ち上がる事さえ億劫おっくうになる。

 いや、諦めるな! 奴はスキルと特技を使ってきた。今までのモンスターはそんなモノ使ってこなかったじゃないか。そう、今までのモンスターを力でねじ伏せる戦いから、スキルを使う者同士の、読み合いに変わっただけだ!

 奴は確か、スキルを使う時に『一騎当千』と言っていた。一騎当千……つまり、一人で大勢を相手にするためのスキルなのか? もしそうだとしたら、奴に攻撃が通じにくいのも、攻撃力が異常に高いのも、俺達が複数であいつを相手にしようとしているからか! だとしたら、ガレフのスキルを攻略するには……一対一の勝負を仕掛けて勝つほかにない。


 ゴクリとツバを飲み込む。一体誰があいつと一対一の勝負に出ればいいのか……?

 それは忍だ。

 このメンバーの中で一番攻撃力が高く、爆発力もある。ガレフに一騎当千というスキルの恩恵が無くなったところを、黒竜をほふった時を同じようにスキルの重ね掛けと特技を合せて一撃で沈めればいいじゃないか!?


「忍! こっちに来てくれ!」

「は、はい!」


 忍がガレフとのにらみ合いから、ピョンと後ろに跳んで俺のそばへ寄って来た。

 だけど、本当に忍に押し付けていいのか? 俺のこの読みが当たっているかは、実際に一対一に持ち込んでみないとわからない。


「お前に……頼みがある……」

「なんですか?」


 そもそも惚れた女に、『あいつと一対一で勝負をしてきてくれ』、なんて言えるのか!? そんな事……言える訳ねぇ!!


「恋を頼む。ここからは一切、戦闘には参加しないでくれ!」

「は!? 何を言ってやがるんです!? ご主人様はどうするんですか!?」


 俺は片膝を付いていた状態から、ゆっくりと立ち上がる。そして大きく息を吸って、大声で叫んだ。


「俺は、あの狼野郎とサシで勝負する!!」

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