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41話『ししし忍が浮気してる!?』

「シノブ、遅いですねぇ……」


 恋がギルドのテーブルに突っ伏しながらぼやいている。

 現在、時刻は16時40分。

 17時に魔王討伐にこの村を出ようと決めたので、16時30分ごろから休憩も兼ねてギルドの中で忍の到着を待っていた。まぁ、きっかり17時にこの村を出なきゃいけない訳ではないので、多少は構わないんだが……


「ん~……村の入り口まで行って、忍を出迎えるようにするか」

「そうですね。ここにいても暇ですし」


 そう二人で決めて、俺達は村の入口に向かった。

 柵で覆われた村で、常時開放されている入り口に近付くと、忍の姿が見えた。どうやら丁度戻って来たみたいだ。俺は少し遠くから忍の名前を呼ぼうかと大きく息を吸い込むが、次にその息を止めた。


――忍は、俺の知らない男と何かを話していた。


「ししし忍が浮気してる!?」

「マスター落ち着くのですよ……そうだ、木陰から二人の話を聞いてみましょ?」


 動揺する俺の手を引いて、恋は草むらに身を屈ませながら忍に近付いていく。恋の後をついていくと、忍の声が段々とはっきり聞こえるようになった。

 ギリギリの距離まで近づいて、俺と恋は草むらから小さく顔を出して二人の様子を伺った。


「――いえ、だからここまででいいですよ。送ってくれてありがとうございます師匠」

「ははは。別に構わないさ。そうだ! ついでにその『ご主人様』にも挨拶をしておこうかな?」


 その男は驚くほどのイケメンだった。まるで元の世界で言うジャニーズのような顔立ちに、鍛え抜かれた筋肉が武道着の上からでもわかる。

 話しを聞く限りでは、この男が武道の神様で、忍の修行を見てくれた人物と見て間違いないだろう。くそ! なんで武闘家なのに頭丸めてないんだよ! 髪サラサラじゃねぇか!


「いえ、挨拶とかいらないんで……私、急いでいますから」

「待ってくれ! 急いでいる時こそ、少し余裕を持った方がいい」


 そう言って、男はその場を離れようとする忍の手を掴んだ。


「ぬお~!! あんにゃろお、忍の手を握りやがったぞ!? なんてヤロウだ!!」

「マスターあまり身を乗り出さないで下さい、気付かれるのですよ!?」

「バカヤロウ! 忍は手を握られると反論できなくなる体質なんだよ!! 俺が今からぶん殴ってくる!」


 恋が俺の体を必死に押さえつけるが、俺の中の嫉妬の炎は収まらない。


「忍君、キミはとても筋がいい。僕の教えをあっという間に身に付けてしまった。さらに気立てもよくて美しい。僕はキミの事が気に入ったよ」

「いや、気に入られても困るんですけど……とりあえず手を離して下さい」


 しかし男は離すどころか、グイッと忍を自分の方へと引き寄せる。

 キョーー!! 忍が寝取られるぅ!!


「もちろん、キミと勇者君が恋仲なのはさっき聞いたよ。だけどさ、キミが自分の幸せを本気で考えるとしたら、僕を選ぶ事も考慮すべきだと思うよ」

「いえ、考慮しても私の気持ちは変わらないので……」


 ハァ……と、男はやれやれとでも言いたそうにため息を吐いている。


「忍君、もしも今の彼氏に悪いという罪悪感で僕を選べないとしたら、それは間違っているよ。人は誰もが幸せになりたいと思っている。そしてそのために、より自分の理想に近い相手を選ぶ事は当然なんだ。理想の相手と出会うのが遅かった場合、今の彼氏を捨てるのは仕方のない事なんだよ」

「別に私は、罪悪感で誰かを選ぼうなんて考えてませんよ………」


 イケメン武闘家の態度に俺の胸はさらにムカムカとしてくる。なんなんだあの自信は!? 自分がモテて当然みたいな話し方しやがって! ムキー! イケメンだからって調子に乗りやがって、羨ましい!!


「そんなにも今の彼氏が気に入っているのかい……? なら教えてくれ、彼と比べて僕は何が劣っているというんだい!? 顔か!? 性格か!? それとも僕よりも強くて頼りがいがあるのか!?」


 よし忍! はっきり言ってやれ、俺の良いところを!!


「いえ、別に顔は普通だし、性格だっていつも私を困らせてばかりです。おまけにオタクなんで貧弱のモヤシ野郎で筋肉なんてどこにもついてません」


 ええ~~!! 低っく! 俺の評価低っく!! ……でも間違ってないから反論できねぇ。あれ? もしかして俺って男としてかなりレベル低いのか……?


「なぁ、恋……」

「はい?」


 自分の中で燃え上がる怒りの炎が、どんどんと鎮火していくのがわかる。他の男と比べられて初めてわかった。俺の男としてのしょぼさが。


「俺ってさ、忍に相応しくないのかな……忍のために、身を引いた方がいいんじゃ……」

「ちょ!? 何言ってるんですか!? シノブをあの男に取られてもいいのですか!? そもそも私達は今日を最後に元の世界へ帰るんですよ? この世界の人と一緒になれる訳がないのですよ!」

「いやでも、女神様ならなんとかしてくれるんじゃないかな……どう考えたって、俺があの男より優れてる部分なんて何もないし、忍だけこの世界に置いて帰った方が、忍も幸せなんじゃ……」

「マスター……」


 恋が後ろから俺に抱き付いてきた。そして何故か頬ずりされる。


「自信なくしてへこんでるマスター超かわいいのですよ! 私がナデナデして慰めてあげるのです」


 うぅ……これじゃあいつもと立場が逆じゃねぇか……だけど、今はそんな恋の温もりが心に染みる。


「マスター、私はシノブと一心同体だったので、シノブがマスターの事をどう思っているのか大体わかります。だけどそれは、シノブの気持ちなので私の口からは言えません。私から言える事は、私はどんな事があってもマスターのそばにいるという事なのです。そして、私がそう思うって事は、シノブもまたそう思っているんじゃないでしょうか」


 そうなのか……? なんだか、忍が俺のそばにいてくれる自信がない。自信がないって事はきっと、それだけ俺は忍に対して努力をしなかったって事なのかもしれない。

 一週間ほど前に、忍の本体であるシロツメクサを見つけて体を取り戻した忍は言ってくれた。ずっと俺のそばにいてくれると。その言葉に安心しきって、それが当たり前だと錯覚して、きっと俺は努力する事を忘れてしまったんだ……


「教えてくれ忍君! そんな微妙な彼を選んで、なぜ僕を選んでくれない!? その明確な理由はなんなんだ!? それが答えられないと言うのなら、やはり直接彼に会って確かめるしかない!」

「はぁ~……わかりました、教えますよ。あまり波風立てたくないから言いたくはなかったんですが、ちゃんと言ったら諦めて帰って下さいよ」


 気乗りしない表情のまま、忍は少し考えてから話し始めた。


「はっきり言いますよ? 私、付き合っている人がいるって師匠に言いましたよね? にもかかわらず、あなたは私に言い寄って横から奪おうとした。私はそういう人が嫌いです。だからその時点で、あなたは駄主人様以下なんです」

「なっ……」


 男は言葉を失っていた。

 そして俺もまた、そんな忍のはっきりとした態度に驚いていた。


「さらに言わせてもらうなら、さっきあなたはこう言いましたね? 自分の理想の相手を選ぶのは当然で、そのために今の相手を捨てるのは仕方のない事だと。だとしたら、もし仮に私があなたを付き合ったとしてもすぐに捨てられるでしょう。私よりも理想の相手が現れた場合、私を捨てるのは仕方のない事だと考えている訳ですから」

「そ、それは……キミは特別だよ。キミ以上の女性なんているわけない」

「そうやって、同じ言葉をどれだけの女性に使ってきたかは知りませんが、少なくとも私の駄主人様はそんな考え方ではありません。まぁ、たまに他の女の子に調子のいい事を言ったりもしますけど、絶対に私を裏切ったりしません。そうして、いつでも私を支えて助けてくれたんです。私から言わせれば、あなたと駄主人様の間には天と地の差があります」


 男は言い返す言葉が見つからないのか、苦虫を嚙み潰したような表情で立ち尽くしていた。


「まぁそういう訳で、あなたは自分の幸せよりも、もう少し相手の気持ちを考えるようにした方がいいと思いますよ。では約束通り、これでお別れです。修行を見て下さってありがとうございました」


 淡泊なお礼と一礼をして、忍はなんの未練も持たない様子でスタスタとその場を立ち去って行った。


「マスター、私達もギルドに戻りましょう」

「お、おう。そうだな」


 草むらをかき分けて、忍よりも早くギルドに戻る。その後に、何も知らない忍が扉を開けて入って来た。


「マスター、普通に接するのですよ?」

「わ、わかってるって……」


周りを見渡し、俺達を見つけるとトコトコと駆け寄ってきた。


「すみませんご主人様、遅くなってしまいました」

「い、いや、別に大丈夫だよ。それよりも肩でも揉みましょうか忍サン」

「全然普通じゃないのですよ!?」


 いやだってさ、あんな話聞いちゃったら普通でいられる方がおかしいって。ぶっちゃけ、惚れ直したと言っても過言じゃない。


「どうしたんですか? なんか変ですよ?」


 忍が怪訝そうな顔で俺達を見比べてくる。


「べ、別になんでもねぇって。それよりも忍、俺の性格とかで直してほしいところとかないか?」

「は? なんですか突然……」

「俺は気付いたんだよ。もっとお前らに相応しい男にならなくちゃダメなんだって事に! そして、その努力を続けなくちゃならないって事にさ」


 忍はますます怪しんで俺を見つめている。


「よくわかりませんが……そうですね、ならアニメを卒業して下さい」


 ……は? 何言ってんのこいつ……


「ほ、他にないか?」

「他にはマンガを買うのをやめて下さい。家の本棚もいっぱいじゃないですか。あとゲームもそろそろ辞めませんか? もういい大人なんですから」

「……」


 俺はクルリと外を指差した。


「さぁ、そろそろ魔王を倒しに出発しようぜ!」

「なんなんですか!? 全然辞める気無いじゃねぇですか! ホントにどうしたんですか……ってまさか!」


 忍がハッとしたように口に手を当てた。そしてみるみるうちに顔が赤くなっていく。


「もしかして……さっき私と師匠の会話、聞いてたんですか!?」

「え? いや~……その~……」

「うわっ! 盗み聞きしてやがったんですか!? 信じられねぇです! 最低です!!」


 よほど恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてアワアワと混乱気味にまくし立てる忍を見て、俺は落ち着かせるためネタに走る。


「俺は悪くねぇ! 先生がやれって言ったんだ! 俺は悪くねぇ!」

「誰!? 先生って誰なのですか!?」

「だからそういうアニメネタを卒業しろって言ってるんですよぉ!!」


――魔王との決戦前。まるで緊張感の欠片も無く、俺達はいつものようにバカな話で騒いでいた……

今回のネタ。

テイルズ オブ ジ アビス

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