39話『直ちに緊急メンテ開いて詫び石よこせや』
「あの、マスター? この宝箱、空っぽなんですけど……」
恋の一言に、俺は今一度宝箱の中身を確認する。
何も入っていない。
「あ、あ~! そうかそうか。そう言う事ね! たまにあるんだよ。こういうのはな、空っぽの宝箱をよく調べると中に仕掛けがあって、それを動かすと隠し通路が出るんだよ」
俺は大きな宝箱の中に体を突っ込んで、丁寧に調べていく。
――だが、仕掛けどころかゴミすらない。
「えっと……ご主人様、これってどういう事なんですか?」
「あ~~!! わかったわかった! この宝箱の下だ! この下を調べれば地下への隠し階段があって、そこに白虎の鎧があるんだよ!」
俺は大きな宝箱をどかすと、その真下を調べてみた。
――だが、隠し階段どころか仕掛けもない。
俺達は再び顔を見合わせた。
何これ……どうなってんの? マジでわかんねぇ。これってもしかして……バグ!?
俺は両手を上に伸ばし、洞窟の天井に向かって声を張り上げた!
「こんの駄女神!! 宝箱の中身が入ってないとかどういう事だよ!! 直ちに緊急メンテ開いて詫び石よこせやゴルアアアァ!!」
ゴルァ~……
ルァ~……
ァ~……
宝箱の置いてある狭い空洞の中、俺の声が反響する。
普段ならここで忍が、「大声出さないで下さい。モンスターが寄ってきます」とかツッコミを入れてくるところだが、今回ばかりは状況が理解できないようで、俺の行動を黙って見守っていた。
俺は自分の冒険者手帳を取り出してみる。手帳に内蔵されているデジタル時計が、秒刻みで進んでいく。時間が止まる様子も、ゲームが中断する様子もない。
「マスター……これからどうするのですか……?」
「……悪いんだが、二人でこの部屋を徹底的に調べてくれないか。忍は周りの壁を。恋は地面を調べてくれ。何か仕掛けがあるのかもしれない」
恋の質問に対して指示を出す。
「それは構いませんが、ご主人様はどうするんですか?」
「俺はこの状況からこの後の予定まで、マジで色々と考えなきゃなんねぇ。だからここは二人に任せる。頼んだぜ」
すでに思考を張り巡らせながらそう言い残して、俺は部屋を出て座り込んだ。顎に手を当てて、この状況を整理する。
「マジな顔して考え事をするマスター、超カッコいいのですよ」
「いや、そんなこと言ってる場合ですか……ちゃんと調べて下さい」
扉の奥から二人の声が聞こえてくる。そうか、俺ってカッコいいのか……ってそうじゃない!! この状況、あまり認めたくはないが、恐らくバグとかの可能性は低い。
俺はこの神のゲームが始まる前に、女神様とちゃんと話をつけている。あの時、女神様はこう言った。「決して神が有利になるようなことを考えてい」と。そして今、こうしてゲームは続けられている。つまり、宝箱の中身が空っぽなのは神の不手際とかではなく、仕様だという事だ。
だとしたら、なぜ空っぽなのか……それを考える必要がある。まず最初に思いつくのは、まだ白虎の鎧を入手する途中だという可能性だ。
宝箱が空っぽなのを確認してから村に戻ると、消えた鎧の行方を知る手がかりが新たに追加されて、そこからたらい回しにされるというイベントなのかもしれない。
次に思いつくのが、制限時間があって、それまでにここへ来ないと中身が失われるという消失フラグだ。
だが俺達は、これまでに訪れた村からしっかりと情報収集を行っている。伝説の装備が時間で消えるなんて重要なフラグがあるなら、どこかでその情報を得てもいいはずだ。だが、今までにそんな情報は全く無い。
この線は無しと考えていいかもしれない……
次に思いつくのが、なんらかのアイテムを持って、ここで使わないと白虎の鎧を入手できないという可能性だ。
だがこれも、そんなアイテムがあるならどこかの村で情報があるはず。俺達はどこの村でもちゃんと情報収集を行って……いや待て、そう言えば『カキナナの街』あのカジノがあった街で、恋はほとんど情報収集をやらないで俺とカジノで過ごしていた。もしかしたら、あそこで情報に漏れがあったとか!?
いや、でもそれを言ったらどの村でも、村人全員から話を聞いたわけではない。運悪く話しかけていない人がそういう重要な情報を持っていたという可能性もある。
こんなちょっとしたミスや運の悪さで、伝説の装備が入手できないゲームなんてあるのだろうか? 大体三日だぞ? たった三日で魔王を倒せとか言われてんのに、情報収集に時間を掛けなかったから伝説の装備が取れませんでしたなんて、そんなの理不尽じゃないか?
そう考えると情報収集の漏れが原因とは考えにくい気がする。
俺は頭をクシャクシャと掻きながら、二人のいる部屋に入った。
「どうだ? なんか見つかったか?」
「駄目ですね。なんも見つからねぇです」
「地面にもなんもないのですよ~」
やっぱり一度タッチ村に戻って、この出来事を聞いてみた方がいいみたいだな。
「よし! お前ら、一度タッチ村に戻るぞ」
そう言って、俺達は村に戻るために歩き始めた。
俺は歩きながら二人に話しかける。
「この白虎の鎧が消えた事件。正直よくわかんねぇんだよなぁ……お前らはなんで空っぽだったと思う?」
「う~ん、普通に考えて、誰かが持って行ったんじゃねぇですか?」
忍の答えに俺は考える。
誰かが持って行った? 誰が? なんのために?
この世界には俺達以外にも冒険者はたくさんいる。だけど、これが神のゲームである以上、俺達以外に魔王を倒すために伝説の装備を狙っている奴が他にもいるんだろうか?
「けどよ、ボスが部屋の前にいただろ? 誰かが先に来て持って行ったのなら、ボスも倒されてるんじゃないか?」
「ん~……でもボスって、時間で復活したりするんじゃねぇですか?」
まぁ確かに、VRMMOならそういうシステムもあるから、否定はできない。
「あ、私わかっちゃったのですよ!」
「お? 恋、教えてくれ」
恋の反応に俺は期待を込める。
「宝箱の中身を持って行ったのはナユちゃんなのですよ! ナユちゃんは戦闘は苦手だけど、忍び込むのは得意って言ってました。だからボスの隙を突いて部屋に入り、逃げるように鎧だけ持ち去ったのです!」
割と辻褄は合っているように思える。が……腑に落ちないところもある。
「ナユちゃんと契約を結ぶ時に、渡された金額に応じて持ってくるアイテムを決めるって言ってたよな。俺がナユちゃんに渡した金額は5000イリーナ。たったそれっぽっちで伝説の装備を狙ったりするかな? それに、ナユちゃんは俺達が伝説の装備を集めようとしている事は知っている。もしナユちゃんが鎧を持って行ったんだとしたら、俺達と狙った物が被っても混乱しないように、置手紙の一つでも残すんじゃないか?」
「う~ん、私達を驚かせようとしているのかも?」
俺達を驚かせるよりも、できる限り気を配るような子に見えたんだがなぁ……
「それに、ナユちゃんがこの洞窟に来たんなら、どこかで俺達とすれ違うんじゃないか? タッチ村にナユちゃんはいなかった。そして、この洞窟に着くまで彼女と出会わなかった」
「もしかしたら昨日のうちに回収したのかもしれないのですよ? 昨日、私達がメタルモンスターでレベル上げをしている最中にナユちゃんはすでにタッチ村に到着しているはずですから」
「昨日のうちに回収したんなら、昨日のうちに渡しに来るんじゃねぇかな……その方がこういう入れ違いも起らないし」
色々と意見を交えながら歩みを進める。結局、村に戻ってから確かめるしかなさそうだ。
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村に戻った俺達は、早速情報収集を開始した。白虎の鎧が消えていた事を聞いて回るが、返ってくる答えは決まって、『わからない』『知らない』というものばかりだ。
鎧を追いかける、たらい回しイベントを予想していた俺だが、これで完全にアテが外れた事になる。
ナユちゃんの事も聞いてみた。宿屋で確認したところ、彼女も昨日の夜は同じ宿に泊まっていた事がわかった。にもかかわらず、俺達に顔を見せなかった事を考えると、昨日の時点ではまだアイテムの調達が終わって無かった事を意味するのではないだろうか?
そして、今日の朝からどこかへ出かけてから、まだ戻ってきてはいないそうだ。
「う~……マジでどこに消えたんだよ……」
俺は石段の上に座りながら頭を抱えていた。
「ご主人様、これからどうしますか……?」
忍が俺に指示を仰いでくる。
正直、宝箱が空っぽだったことがマジでわからない。なんの情報もないからどうしていいかもわからない。
仕方ない、鎧の事は一旦忘れよう。
「よし。お前ら、今から玄武の盾を回収に行くぞ!」
俺は顔を上げてそう言い放った。ここは一旦切り替えるべきだ。
「今、時間は……10時か。走ればお昼までには戻って来れそうだな。よし、玄武の盾が眠っているという洞窟まで走るぞ!」
そうして、俺達は洞窟に向かって走り出した。うちのパーティで一番素早さが低いのは恋だ。出来るだけ彼女のスピードに合わせて俺達は洞窟に向かう。
洞窟に着くと、あとは白虎の鎧の時とほぼ同じ展開だった。
モンスターを薙ぎ払い、奥へ奥へと進む。そうしてボスへとたどり着いては全力で屠った。
同じような細い道を進むと、奥にゴージャスな宝箱を発見する。
俺達は息を呑んで、恐る恐る宝箱を開けた!
そして、中身が空っぽだった事に、愕然としたのであった。




