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35話『……だから、ここでお別れです』

 ガスン!

 重い一撃を入れると、メタルモンスターの体にひびが入り、塵となって消えていく。


――キュピーン!

 特技『メタルスラッシュ』を習得した。習得条件、メタル系のモンスターを自力で3匹討伐する。消費10。メタル系のモンスターに大ダメージを与える事ができる。


 やった! これで忍に頼らずに効率よくレベリングができる!

 お金のほとんどを魔法力を回復させるアイテム、魔法薬に変えてきたから、かなりレベル稼ぎがはかどりそうだ。


「お前ら、忍だけじゃなく、俺の方にもメタルリスを追い込んでくれ! 良い特技を覚えた」


 俺の指示を聞いて、恋とナユちゃんがリスの行く手を阻むようにして俺の方へと誘導してくれる。


「行くぜ! 『メタルスラーッシュ!』」


 斬っ! と、まるで木を削り取るような感触に、鋼のモンスターは体を引き裂かれて消えていく。

 この技、一撃で倒す事ができるのか!? 魔法力の消費量も少ないし、倒すのがかなり楽になる。

 俺は忍の方に目を向ける。忍はモグラ叩きのように、地面に向かって拳を振り下ろすために、かなり疲れるみたいで、今はリスを両手で鷲掴みにして、握りつぶせないかと試していた。

 ……意外とエグいこと考えるなぁ。まぁ、この世界のモンスターって大量に血が噴き出したり、臓物ぞうもつをまき散らす前に消えてお金に変わるから、あまりグロイ事にはなったりしない。


 恋とナユちゃんは、もはや遊んでいるような感覚で、いかに上手に俺と忍の方へとモンスターを誘導できるか競い合っている。ちょっとしたレクリエーションのようだ。


「ご主人様、パース」


 どうやらあまりにも硬くて握りつぶせなかったようで、忍は俺の方へとリスを投げつけてきた。俺はそれをタイミングよく特技で切り裂く。

 こんな狩りを、しばらくの間続けていた。

「あの、勇者様。そろそろレベルが上がりにくくなってきましたよ。まだ続けますか?」


 ナユちゃんが俺に聞いてきた。

 さっきからナユちゃんは、チラチラと自分の手帳を細かく確認している。確かに、もう3、4匹倒した程度じゃレベルが上がる時の、キュピーン! という甲高い音は聞こえなくなっていた。

 俺も自分の手帳を見てレベルを確認してみると、今はもう73レベルだった。時刻は12時過ぎ。


「ちょっと休憩しようか。魔法薬も尽きたし、一度サーシャ村に戻って昼食にしよう。そんで、魔法薬を補充してからまたレベル上げを再開しようと思う」

「……戻るんですか?」


 ナユちゃんは、何かためらうように口元を手で隠しながら考え込んでいる。

 そして――


「勇者様。私はこのまま先に進もうと思います」


 そう告げてきた。その言葉に、恋と忍が唖然としていた。


「私は元々、勇者様のために役に立つアイテムを調達するという契約を結んでいます。だからそのために、少しでも早く行動しなくてはいけません。……だから、ここでお別れです」


 そう言う彼女本人が、名残惜しそうな寂しそうな表情を浮かべていた。


「恋さん、ペンダントありがとうございます。次に会った時、必ず返しますね。忍さん、勇者様とのやり取り、本当に面白かったです。私も、そんなみなさんに混ざりたいなって思っちゃいました」


 俺達三人と、数メートルの距離を空けたまま、ナユちゃんは別れの言葉を紡いでいく。


「そして勇者様、私、勇者様に出会えて本当に良かった。勇者様は私の探していた王子様じゃなかったけど、最後の最後で、私に大きな目的を与えてくれました。私、そんな勇者様のために、頑張ってアイテム見つけてきますね!」


 最後ってどういう意味だろう……?

 俺が戸惑い、悩んでいるうちに、ナユちゃんは深々とお辞儀をしていた。これまでの感謝を表すように。


「ナユちゃん……キミは一体……」


 何者なんだ? と言おうとするが、人間の少女であり、盗賊という職業である彼女にそう聞くのもおかしな話で、俺は最後まで言葉を口にすることができなかった。


「えへへ。また会えるのに、少し大げさでしたかね? それじゃあみなさん、期待しててくださいね! 渡すアイテムが決まったら、魔王に一番近い街にいますので!」


 ナユちゃんはそう言うと、俺達の返事も待たずに駆け出していく。そんな彼女の、小さな背中を俺達はしばらくの間、見送っていた。


「ナユちゃん、やっぱり何か隠してますね」

「だな。けど、別に悪意は感じられなかったし大丈夫だろ。明日にはアイテムを届けてくれるだろうから、すぐに会えるしな」


 俺達には俺達の冒険がある。それを続けるまでだ。


「よし! そんじゃ、俺達はサーシャ村に戻って飯にするぞ。その後、またここでレベル稼ぎだ」


 そして俺達は一旦戻り、休憩を取ってから、有り金全てを使い魔法薬を買い込んだ。そしてその状態で再び例の林に戻り、レベル稼ぎを開始するのだった。

「マスター、どこまでレベルを上げればいいのですかぁ?」


 恋の疲れ切った声が林の中に広がった。


「上げられるだけ上げておきてぇんだよなぁ。とあるゲームじゃ、『レベルを上げて物理で殴ればいい』なんて言葉もあるくらいレベルは大事だからな」

「そうは言っても、もう飽きたのですよぉ……」


 武器の杖で体を支えながら、ヘナヘナとその場にしゃがみ込む。

 時刻は16時半。レベルは89まで上がっていた。


「ご主人様。もう1レベル上げるのだけでも30分くらいかかります。さすがにもう疲れましたよ……」


 忍まで音を上げている。

 確かに、ただ単純に、リスを俺に誘導して斬るだけの単純作業になっている訳だが、30分で1上がるなんてまだまだ優しいくらいだ。


「お前らだらしねぇな……ネトゲの世界じゃこれの4、5倍は時間かかるぞ?」

「私達をネトゲ感覚の基準で扱わねぇで下さい。だいたい、1レベル上げるのにこんな時間使ってていいんですか? もうすぐで日が落ちますよ? 明日中に魔王と戦わないといけないのに……」


 木漏れ日の様子から見て、林の外はまだ明るいが太陽はすでに傾いている。

 まぁ、確かにもうこんだけ上げれば十分か。


「わかった。レベル上げはこの辺で切り上げて、次の街に向かうとすっか」


 俺達は林を出て平原に出る。サーシャ村から伸びる街道に戻り、道が続いている通りに北へ向かって歩きだした。

 レベルが上がったせいだろうか? 体がやけに軽い。疲れたという感じもあまりない。多分、後ろから着いて来る二人も同じだと思う。疲れたというよりは、メタルモンスターを倒すという同じ作業の繰り返しで飽き飽きしたんだろう。

 試しに近くにいるモンスターと戦ってみる事にした。

 茶色い肌をした、人と同じように二足歩行でウロウロとているモンスター。『ゴブリン』と言えばそれっぽい気がするそいつは、俺の半分くらいの背の高さで、宇宙人のような顔をしている。

 何匹か同時に飛び跳ねて襲い掛かって来たが、俺は剣を、忍は拳を軽く振り迎撃しただけで光となって消えて行った。

 完全にこの辺の雑魚モンスターには負けないくらいのステータスだった。


 しばらく進むと、街道と呼べるような道が無くなってきた。辺り一面が短い草花が広がるだけの平地で、俺達はとにかく北に向かった。

 さらに進むと、今度は道が二つに分かれていた。

 と言うのも、断層によって分かれていて、左は少しずつ上に向かって伸びている。右側は逆に下るように伸びていて、周りを見渡すといつの間にか高低差がある場所になっていた。


「どっちに行きゃいいんだ? なんか断層が多い地形になってきて、遠くを確認できねぇな」

「サーシャ村では、北に向かえば次の街があるって情報だけで、細かい道は分かりませんね」


 ナユちゃんもここを通ったのだろうか? 何か痕跡はないか探してみるが、それっぽいものは何もない。

 登って行ったら下りれないくらいの崖に出くわしそうだから、降った方がいいか。いや、下に行くと窪みとかで行き止まりになってるかもしれねぇな……


「恋、どっちがいいと思う? お前に任せるわ」


 とりあえず、迷った時は運がいいと思われる恋に決めてもらおう。


「じゃあ、なんとなく左にするのです」


 恋の導きの元、俺達は左の斜面を登っていく。

 どんどんと登っていき、ようやく坂が緩やかになったと思うと、そこはなかなかに広い高原になっていた。

 周りを確認すると、今、登って来たところ以外は切り立った崖のようになっていて、どこにも行くことができない。

 左端の崖に沿って進んでいくと、前方にもまた高い崖となっていて、そこから見える景色は海だった。海は正面から左側にかけて広がっている。

 右手の方角に見えるのは、海に面した街。つまり、さっきの分かれ道は、右に下っていけばあの街に繋がっていたんだろう。


「こっちはハズレか。恋の勘、外れちまったな」


 俺が茶化すように笑うと、恋はほっぺを大げさに膨らませていた。


「でも、海の見える丘ってなんだか素敵です。風も気持ちいいし、丁度夕日もキレイですよ」


 忍が風になびく髪を抑えながら、遠くの海を見つめる。

 時刻はすでに17時を回って、夕日が左側……つまり西の海に沈もうとしているところだった。


「こんな絶景が見られるのも、私のおかげなのです!」


 偉そうに胸を張る恋に、ハイハイと笑いながら答える。

 そうして俺たちは、元来た道を戻ろうとした時だった。


「あれ? 何か聞こえませんでしたか?」


 恋がふいに、そんな事を訊ねてきた。

 俺と忍は顔を見合わせる。どうやら忍も何も聞こえなかったらしい。


「いや、何も聞こえんかったが……?」


 俺がそう答えるも、恋は当たりをキョロキョロと見渡しながら、今度は東側の崖の方へと歩き出す。


「なんか声が聞こえるのですよ」

「いや、なんも聞こえねぇけど……怖いこと言うなよ。幽霊じゃないだろうな……」


 仕方なく恋の後ろからついて行くと、恋が何かを見つけたようにパタパタと走り出した。


「あ! これです! この子から声が聞こえるのです!」


 膝を付いた恋がマジマジと見つめていたものは、一輪のシロツメクサだった。

今回のネタ。

ラストリベリオン

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