34話『メタル系モンスターだ!!』
「と、いう訳で、私とマスターは運命の出会いを果たしたのですよ~」
「……れ、恋さんと忍さんって、元々は一つのシロツメクサだったんですか……?」
「そうなのですよ~」
次の街に向かう道中、恋はナユちゃんとおしゃべりをしながら俺の後ろをきている。ペンダントを渡した事もあってか、二人はかなり仲良くなったように思えるが、恋はいきなり自分達の秘密を隠すこと無く全てを話し始めた。
俺と忍がギョッとした時にはすでに遅かった訳だが、まぁこの世界ともあと二日でお別れだ。別に問題はないだろう。……多分。
「じゃあ、どうして三日以内に魔王を倒そうとしているんですか?」
「ん~、簡単に言うと、そうしないと忍と体が合体して、一つになっちゃうのですよ。このまま二人分の体を維持するために、マスターは頑張って魔王を倒そうとしてくれているのです」
まぁ、間違っちゃいないか……
「優しくて面白い勇者様と出会えて、いいなぁ~、恋さんが羨ましいです」
「えへへ♪ ナユちゃんにはそういう気になる人はいないのですか?」
「え……? 私、ですか……?」
恋に話を振られると、ナユちゃんはちょっと口ごもった。
「子供っぽいって思われるかもしれませんけど、私もずっと運命の王子様を待っていたんです。私がピンチの時は必ず駆けつけて助けてくれる、私だけの王子様……だけど、結局そんな人は現れなかった……」
「現れなかった? ナユちゃんはまだ若いし、まだまだこれからじゃないですか~」
「えっと……そう、ですね……」
すでに諦めているような口調の彼女に、恋は明るく声をかけ続けていた。
「ナユちゃんは可愛いから、すぐにいい人が見つかるのですよ~」
「あはは、ありがとうございます。……そういえば忍さんも勇者様の事が好きなんですよね?」
ピクリ!
ナユちゃんの言葉に俺は耳を傾ける。その話題はなんだかちょっと気になるぞ!
「わ、私ですか!? 私は……まぁ、普通ですよ……?」
普通ってなんだよ!? お前俺のこと好きじゃねぇの!?
「え~? でも、忍さんと勇者様って口調とか似てるじゃないですか?」
「そ、そんな事ねぇです……」
「ほら~! 勇者様も、『そんな事ねぇ』とか言うじゃないですか。やっぱり、好きな人の口調って移っちゃうもんなんですか?」
ピクピクピク!!
俺は前を歩きながら、後方のガールズトークに全意識を集中させる。
気になる! めっちゃ気になるぞぉ!!
「わ、私ではなく、駄主人様が私に惚れているんです。告白してきたのも向こうからですから……」
「だぁ~!! お前それ本気で言ってんの!? 聞き捨てならねぇぞ!」
俺がいきなり振り向いて声を荒げたせいか、忍は俺の勢いにたじろいでいる。
「な、なんですか!? 本当の事じゃないですか……」
「俺さ、前から思ってたんだけど、忍の口から好きって言われた事ねぇんだよな。こういうのなんて言うか知ってるか? なぁなぁの関係って言うんだよ! もう今ここではっきりさせようぜ! 忍は俺のこと好きなのか? 嫌いなのか? どっちなんだ!?」
「シノブはマスターのこと大好きなのですよ? 前にイチカさんが家に来た時にマスターが軽く告ったじゃないですか? あの時めっちゃ動揺して、その後もずっと意識してましたからね?」
「ちょ!? レン!!」
あ~、あのいっちゃんと忍が初めて顔を合わせた時か。
「そうか……だけどな恋、もうそういう問題じゃねぇんだよ! 忍の口からはっきりと聞かないと収まりがつかないんだ! さぁ、今ここで好きか嫌いかはっきりしてもらおうか!!」
「だ、駄主人様、落ち着いて下さい。ナユちゃんの前なんですよ? そんな事言えるわけないじゃないですか」
「あ、いえ、私の事はお構いなく、どうぞ続けて下さい」
ナユちゃんは両手で顔を覆いながら、そのくせ指の隙間からこちらをのぞき見していた。完全に恋愛沙汰に興味津々のお年頃といった感じである。
「ほら、どうなんだよ!? 言ってごらん! お腹の底からはっきりと! さぁさぁさぁ!!」
「う……だから……それは…………いやー!! 言えませんよ! こんな状況で言えるわけないじゃないですかぁ!」
わぁーっと逃げようとする忍の手を掴んで引き留める。
仕方ねぇなぁ……
俺はグイっと忍を引き寄せて、頭を抱えるように抱きしめた。忍は俺の胸に埋めるような恰好のまま固まってしまっている。
「わぷっ! え? えぇ?」
「いいか忍、今から俺が質問をする。それに首を横に振るか頷くか、それで答えろ。もうそれで妥協してやる」
忍が驚いたようにモゾモゾと俺の胸の中でもがいているが、逃がすつもりは無い!
「では忍サンに質問です!俺の事は嫌いですか?」
……沈黙。
俺の腕の中で忍は、静かに顔を埋めている。
グシグシ……
忍が動いた。額を擦るように、何度か首を横に振ってくれた。
よかった。とりあえずは嫌われてはいないようだ。だがここからが本番だ!
「では次の質問。……俺の事、好きか……?」
……沈黙。
ぶっちゃけ言ってるこっちの方が緊張するし恥ずかしい……
クン。
小さく、体を密着させている俺にしか気づかないくらい本当に小さく、忍は頷いたてくれた。
よかった~! これで首を振られた日には、マジでモチベが下がり切って行動不能になるところだった……
俺は忍から腕を放して解放した。忍は耳まで真っ赤になって、自分の両手で顔を隠したまま顔を上げようとしなかった。
いや、俺だってこんな恥ずかしいバカップルみたいな事なんてしたくなかった。バカップルはもはや犯罪だと思っている俺だから、ナユちゃんの前でこんな事やりたくはなかったけど、忍の態度に我慢できなかったのだから仕方がない。
「ゆ、勇者様、結果はどうだったんですか!? よく見えませんでした」
もはや隠す気もなく、ナユちゃんの言い方は見たかったと言っているようなものである。
だが、俺が何て答えていいのか迷っている時だった。目の端で、小さく動く物体を俺は捉えた。
今のは……小動物? モンスター?
俺は慌てて、今動いた場所に駆け寄り周りを見渡した。
――いた!
ネズミのように耳が大きく、ハムスターのような小ささで、それでいてリスのような尻尾を持ったモンスターがチョロチョロとしていた。
だが俺が驚愕したのは、その色だ。
灰色? いや違う。太陽の光を反射するような、メタリックな体。こいつがサーシャ村での情報で言っていた、素早くて倒しにくいモンスターだと俺は確信した!
「おおおおお前ら~、モンスターだ!! 全員突撃ぃ~~!!」
俺は号令を出すのと同時に、鉄の剣でモンスターに斬りかかる。だが体の小ささもあってヒラリと軽くかわされてしまった。
俺が後を追うように走り出すと、恋が慌てた口調で俺を呼びかけた。
「マ、マスター、急にどうしたのですか!? 無理して戦わなくとも――」
「メタル系モンスターだ!! 三日で魔王を倒せなんて無茶振りされるから、絶対にそういうモンスターがいると思ってたんだ! いいか、絶対に逃がすな!」
俺の必死な訴えに、それでも恋は不思議そうにしている。
「メ、メタル系モンスターってなんなのですか?」
「一匹倒すだけで経験値が大量に入って、レベルを上げやすいモンスターの事だよ! おら忍! 武闘家のお前がこの中で一番素早さが高いんだから、回り込んで逃げ道を塞げ! ……って、忍?」
後方にいる忍を見ると、両手で顔を隠しながら、器用に全力で走る俺についてきている。
「お前いつまで照れてんだよ!! もうそういうのはいいんだよ!! 今はあのモンスター倒す事だけに集中してくれ!!」
メタリックなリスは、街道をそれて林の中へ逃げ込んでいく。
俺もその林の中へと入り周りを見渡すと、同じメタルモンスターが何匹もいる。
「見つけた……この林がメタルモンスターの狩り場だ! やるぞお前ら~!」
俺の掛け声に、一同が武器を掲げる。
最初に動いたのは恋だった。
「私から行くのです!『フレイム!』」
剛速球で放たれた火球は、見事にメタルモンスターに直撃する。爆音と熱風を辺りにまき散らしすが、当のリスのようなモンスターは平然としていた。
「くそ、やっぱり魔法は効かねぇか。恋! 魔法は無駄だ。頑張って物理攻撃で戦うんだ! それが無理なら、俺や忍の方向にモンスターを誘導してくれ!」
「わ、わかったのです!」
俺もメタリックなリスに近付いて、鉄の剣を思い切り振り下ろしてみた。
ガキィン! という音がして、まるで鉄でも斬り付けたような感覚だ。
間違いない。こいつを倒せばかなりの経験値が手に入る!!
「忍、ここはお前の出番だ! メタルモンスターを倒すのは、武闘家のクリティカルヒットって昔から決まっているんだ! ……って忍?」
そう言った俺は、忍の姿を探す。
忍は少し離れた所で、顔を両手で隠しながら立ち尽くしていた。
「お前まだ照れてんのかよ!? 初っていうにもほどがあるだろ! いい加減、戦闘に参加しろーー!!」
俺はスライディングをしながら忍の足元まで近寄ると、思い切りチャイナドレスのヒラヒラの部分、スリットをめくり上げた!
「あ! あぁ……!」
下着が垣間見えるほど勢いよくめくり上げると、忍はようやく両手を外して俺を見下ろした。
まだほんのりと赤い頬が、再び真っ赤になっていき、瞳は驚きのあまり大きく見開いていた。そして右手では握り拳を作る。
「い……いやあああああああああ!」
足元にいる俺に、思い切り拳を振り下ろして来た!
「うおっ! 危ねぇ!」
かろうじて避けると、ちょうどそこに恋が誘導してきた、例のリスがチョロチョロと走り込んで来た。俺の頬をかすめた忍の一撃は、タイミングよく足元に滑り込んで来たリスに命中する。
――ズゴオオオオン!
地面に窪みを作る衝撃に、あのメタルモンスターさえも一撃で倒され消えていく。
「おお~! シノブ凄いのですよ! 一発で倒してしまいましたね」
「ああ、驚いたよ。……何に一番驚いたかって、その凄い一撃を俺に向けて放った事が一番驚いたけどな……」
――キュピーン!
コウのレベルが12に上がった。
コウのレベルが13に上がった。
コウのレベルが14に上がった。
一匹倒しただけで、一気に3レベルも上がったぞ!
「わわっ! マスター、私、一気に4レベルも上がったのですよ! ナユちゃんはどうですか?」
「凄いです! 私なんて7レベルも上がりましたよ」
恋と一緒に、ナユちゃんも興奮した様子ではしゃいでいる。
って、あれ? という事は……
「そんだけ一気に上がるって事は、ナユちゃんもしかしてレベル低――」
「わーっ、わーっ! ちょっと言い間違えちゃいました! って、勇者様、あそこにもメタルリスさんがいますよ!」
勝手にメタルリスって名付けてしまっている。まぁ別にいいけどな。
「よっしゃ! お前ら、今日は一日かかってもいいから、ここでレベルを上げまくるぞ!」
そして、俺達はひたすらこの場でレベリングに励むのであった。




