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32話『俺、ナユちゃんの部屋で寝てくるわ……』

「今日はあの村に泊めてもらおう」


 俺達はやっとの思いで村の入口に到達する。なんだか、すごく長い時間、森で迷っていたような気がした。時間を確認してみると、手帳に表示されているデジタルの時計は21時を過ぎていた。

 すっかりとお腹もペコペコだ……


「こんな時間に旅人とは。サーシャ村にようこそ。宿屋に行きたいなら、あの建物だよ」

「こりゃどうも」


 夜の警備を担当しているであろう中年の男が、丁寧に案内をしてくれた。確かに、とりあえずは一刻も早く宿屋を確保して落ち着きたい。

 俺達はナユちゃんも引き連れて、宿屋へ向かった。


 宿屋は丸太を組み合わせた、大きな山小屋のような建物だった。といっても、別に古臭さやボロさは感じない。二階建てで部屋の数はそれなりにありそうで、お金持ちが山に作る別荘のような家だ。


「すんません。四人で泊まりたいんスけど」

「いらっしゃい! 部屋はいくつ使いますか?」


 宿屋の受付のお姉さんが、俺達を見渡して笑顔で接客をする。

 部屋か……そう言えば全く考えてなかったな……


「あ、私は自分の分は自分で払いますね。私は一人部屋で」


 ナユちゃんが真っ先に部屋を確保する。

 俺達はどうしよう……忍と恋は同じ部屋でいっか。


「じゃあ、俺達は部屋を二つ借ります」

「了解しました。ではお嬢さんは1000イリーナ。そちらの三名様は2000イリーナになります」


 2000!? 高くないか!? 確か最初の街で宿屋を下見した時は一泊100イリーナだったぞ!? 20倍じゃねぇか!!


「えっと、ちょっと高くないッスか……?」

「申し訳ございません。この辺は他に宿屋もないので、多くの冒険者が利用しています。なので、部屋の数で料金が変わるシステムとなっています」


 つまり、一人で一つの部屋を使っても1000イリーナ、大人数でも一つの部屋で済むのなら同じ1000イリーナ。こうする事でできるだけ多くの冒険者が泊まれるようにしているのだろう。


「わかりました。なら俺達も部屋は一つでお願いします」

「ちょ……ご主人様、三人で同じ部屋に寝るつもりですか!?」


 忍が少し慌てた様子で止めに入った。


「お前、話きいてたか? こうしないと料金が高いんだよ! ナユちゃんに半額渡したから、俺達の手持ちは今5000しか無い。少しでも節約しないといけないの!」

「ご、ごめんなさい勇者様……お金、お返しします……」


 ナユちゃんが申し訳なさそうに、お金の入った袋を差し出してくる。

 だけど一度渡したお金を受け取るなんてカッコ悪い真似できるわけがない。


「ほら見ろ! ナユちゃんに気を使わせちまったじゃねぇか。鬼だなお前は!」

「シノブはオニなのですよ~」

「なんで私ばっかり責められなきゃならねぇんですか!? わかりました! 部屋は一つでいいです!」


 忍が渋々を承諾をしてくれて、そんなやり取りをナユちゃんは相変わらず楽しそうに見つめていた。

 食事をしてから風呂に入り、今日一日の疲れを癒してから俺達は自分達の部屋に戻って明日の予定を話し合う事にした。

 現在の時刻は23時。



「三日以内に魔王を倒すという勝利条件だが、一日目が終了して明日が二日目となる。しかし未だ俺達の旅が早いのか遅れているのかさえわからない状態だ。明日は出来るだけ早くこの村を出て次の街に向かおうと思う」

「そうですね。少しでも早く行動した方がいいと思います。では何時に起きましょうか?」


 忍の問いに、俺は少し考える。

 元の世界で俺が仕事に出る時間が7時で、そのためにいつも6時半に起床している。忍は俺の朝食の準備をするために、もっと早く起きているはずだ。


「よし、6時に起きて冒険に出る準備を済ませよう」

「6時ですね? 元の現実世界と同じ時間なのですよ。……で、ナユちゃんはどうするのですか?」


 今度は恋の問いに、俺は少し考える。


「ナユちゃんにも話して、時間を合わせてもらおう。出来るだけ一緒に行動した方がいいと思う」


 そうして俺は、ナユちゃんに明日の予定を話すべく、彼女の部屋へと向かった。後ろからは忍と恋も一緒についてきている。

 ナユちゃんの部屋は俺達の部屋のすぐ隣だ。部屋をノックすると、中から返事が聞こえてきて、すぐに扉が開かれた。

「あ、勇者様、どうしたんですか?」

「明日の予定をちゃんと話しておこうと思ってさ。ナユちゃんは明日、何時に起きるつもり?」


 ナユちゃんは会った時の、猫の絵が入った髪留めを外していて、セミロングの髪を普通に下した状態だった。

 俺達と同様に、この宿に置いてある浴衣を寝間着にしている。


「明日ですか!? えっと……勇者様は明後日には魔王と戦うつもりですから、急いでいるんですよね? なら私も出来るだけ早起きするように努力します! 頑張って7時半には起きようと思うんですけど、遅いですか……?」


 ちょっと不安そうな表情のまま、上目遣いで俺を見てくる。そんな少女に俺は――


「オッケー! そんんじゃその時間に呼びに行くから」

「はい! 今日は明日のためにもう寝なくちゃ! じゃあみなさん、おやすみなさい」


 挨拶をして扉が閉まると、後ろから忍が俺の肩にポンと手を乗せる。


「駄主人様。明日は6時起床じゃなかったんですか……?」

「お前、必死で早起きしようとしてるナユちゃんの前でも同じこと言えんの!? 鬼だな忍は!!」

「シノブはオニなのですよ~」

「また私だけ悪者扱いですか!?」


 忍を弄りながら、俺達もまた部屋へと戻っていく。

 部屋にはすでに、布団が三つ敷かれていた。


「俺達も、今日はもう寝るか……結構疲れたしなぁ」

「そうですね。じゃあ電気消しますよ」


 忍が電気を消してくれてから、俺をまたいで自分の布団に入っていく。入口から順番に、俺、恋、忍の順番で横になっている。

 目を閉じても、しばらくは眠れなかった。本当に異世界に転生したんだなと、ちょっと興奮する気持ちと、この世界で魔王と戦うんだという、絶対に負けられない想い。色んな事を考えながら、ようやく俺はウトウトと眠気が差してきた。


――ゴソゴソ……


 静寂で満ちていたこの部屋に、布団が擦れる音が響いた。そしてそれと同時に、誰かが俺の布団の中に潜り込んできた。


「エヘヘ~、マスターそろそろ遊びましょう~」


 この声は恋か……? だが正直、もうかなり眠いから相手をするだけの余裕はない。今にも意識が途切れそうだ……


「みんな同じ部屋だなんて、マスターは期待してるんですよね~。いいのですよ。私、マスターになら何をされても構いませんから」


 恋が俺に引っ付いて、胸元を人差し指でイジイジしてくる……

 だけど、そんな恋の遊びに付き合うだけの欲情も湧いてこない。完全に性欲よりも睡眠欲が勝っている状態だった。


「……あれ? マスター、本当に寝ちゃうのですか……? エッチな事しないのですか!?」

「恋……悪いけど寝かせてくれ……一日中冒険してもう疲れてるんだ……」

「えぇ~……」


 驚きと落胆が混じったような声を上げながら、恋はモソモソと俺の布団から出ていく。

 諦めてくれたか。これでゆっくりと休める……


「ひゃあぁ! レ、レン!? なんですかいきなり!?」

「マスターが遊んでくれないから、シノブと遊ぶのですよ」


 何を思ったのか、どうやら恋は忍の方に矛先を向けたようだ。まぁいい。俺は寝る。


「ちょ……どこ触ってやがんですか!? あん……こ、こら……」

「こんなに悶々とした気分じゃ眠れないのですよ。シノブの事を気持ちよくしてあげますから、その後で私の事も気持ちよくしてください」


 何やってんだあいつら……

 なんだか少しずつ、下半身に力がみなぎってくる。


「ふふ、私とシノブは元々一心同体。どこが一番気持ちいいのか全部知ってるのですよ♪ ここ、こうされるのが好きなんですよね?」

「やあぁ……ホントに……もう、やめ……ん! あぁ……」


――ムクムクムク!!

 俺の下半身に存在する愚息が、みるみるウチに力を蓄えていく。

 ってか、惚れた女同士が隣で百合プレイなんぞしてたら眠れるわけねぇだろうが!!

 完全に睡眠欲を、性欲が上回った瞬間だった。俺はガバッと身を起こして、二人の姿をこの目に焼き付けようと目を見開く。

 するとそこには、まさしく扇情的せんじょうてきな光景が広がっていた。


 忍はうつ伏せとなり這って逃げようとするその上から、恋が覆いかぶさり、逃がすまいと左手で忍の手をギュッと握っている。右手はしきりに忍の胸を揉みしだき、もはや抵抗できない忍の耳たぶを甘噛みしていた。


「いつも強がってますけど、こうやって手を握られると、人との繋がりを強く感じるくらいに寂しがり屋なんですよねシノブは♪ はむはむ」

「あぅぅ……ダメです……もうわたし……くぅっ!」


 抵抗をしようとしても恋の絡みからは逃れることもできず、忍は蕩けきった表情のままビクビクと震えている。


「お前ら……俺も混ぜろぉ~~!!」


 二重の意味で立ち上がった俺は、のっしのっしと二人に歩み寄る。


「おぉ!? シノブのエッチな声でマスターがヤル気になったのですよ!」

「ひぇ~……」


 恋は妖艶な笑みを浮かべて俺を誘い、引かれるように俺が近づくと忍が泣き笑いを見せた。

 理性の飛びかけた俺が二人に獣の如く飛びかかろうとしたその刹那、部屋のドアがガチャリと開き、俺達はその動きを止めた。


「むにゃ……」


 フラフラとした足取りで入って来たのはナユちゃんだ。その瞳は半開きで、半分は寝ているような顔をしている。

 今、俺が起き上がって空いた布団にボフリと倒れ込むと、そのままスゥスゥと寝息を立て始めた。


「も、もしかしてナユちゃん、トイレか何かで起きて、戻る時に部屋を間違えてる……?」


 とても幸せそうな表情ですでに夢の中にいるナユちゃんの手前、俺は物音を立てる訳にもいかず……


「俺、ナユちゃんの部屋で寝てくるわ……」

「あ、はい……」


 静かにこの部屋を出て隣の部屋に移る事になった……

 静かに扉を閉めて、ナユちゃんが寝ていたであろう布団に座り込む。


「なんだか、惜しい事をした気がする……」


 ホロリと流れる涙を拭うのと、その他もろもろの理由で、その夜、俺は大量にティッシュを消費した……

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