31話『私と契約しませんか?』
「大丈夫だったかい? 可愛らしいお嬢さん」
「えっと……ありがとうございます」
少女はへたり込みながら頭を下げた。
小柄な体格から見ると、元の世界で言う小学校高学年か、もしくは中学生くらいだろうか? 薄い茶髪に、猫の絵が入った髪留めでピョコリと小さく跳ねるくらいのツインテールにしている。
首にはチョーカーを巻き、黒のビスチェの上から灰色の短いパーカーを羽織っており、おへそが見える大胆な恰好だ。
少女は地面に落ちている短剣を拾い上げると、ホットパンツに括り付けてある鞘に納めた、一目見ると盗賊かトレジャーハンターのような印象を受ける。
「駄主人様、またナンパですか?」
「また!? またなのですか……!?」
「また」って言われるほどやってるつもりはないんだけどなぁ……
怪訝そうな顔の二人に俺は弁解をする。
「いや、流石にこんな幼い子をナンパしねぇよ……子供を作るなら、こんな可愛い子がいいなって思ったくらいで……」
「こ、子供……!?」
二人が顔を赤くして大人しくなったところで、俺は話しを続けた。
「俺はコウ、こっちがシノブで、こっちがレンだ。君は?」
「私はナユっていいます。皆さんも冒険者ですか?」
きた! 俺の見せ場きた!
「そうだよ。『勇者』っていう職業らしいんだけど、あまり聞かないよね?」
「えぇ! 勇者!? 伝説の職業じゃないですか!? あなたが今噂になっている勇者様!?」
「え? 勇者ってそんなにすごいの? でも俺みたいな一般人がなれるんだから、どうせ大した事ないって!」
俺は大げさにバタバタと手を横に振る。
「おう駄主人様、演技っぽい口調で謙虚ぶるのやめてくれねぇですか? イラッとするんで」
「あはは。みなさんは仲良しなんですね」
ナユちゃんは笑ってくれている。苦笑いとかではなく、純粋に俺と忍のやり取りに面白がっているような笑顔だ。
「ナユちゃんはどうしてこんな時間に森に入ったんだ? 一人じゃ危ないぞ?」
「えっと……早く次の街に行きたくて、無茶しちゃいました……」
「へぇ。じゃあ俺達と同じか。なら一緒に行かないか? ……って言っても、この森を抜けるルートがわからないから、一旦街まで戻るつもりだったんだけど」
「あ、道順なら私がわかります! だから私もお供させて下さい」
マジか! いちいち街に戻らなくて済むのはラッキーだな。
こうして俺達はナユちゃんに案内されながら進む事になった。
森の中は日の光が全く入らない。沈みかけた太陽はとっくに沈んだ頃だろう……時刻を確認してみると、すでに20時を回っていた。
「いやぁ、ナユちゃんがいてくれて本当に助かったよ。まだ小さいのに、ちゃんと敬語も使えるししっかりしてるよな。俺、敬語女子ってすごく好感持てるんだよ。なんか慎ましやかって感じでさ」
「そんな……みなさん年上なんですから、敬語は当然ですよ」
そう言いながらも、照れている表情は隠し切れない。
エヘヘと嬉しそうに笑うところが実に可愛らしい。
そんな時、忍が不満そうな声をあげてきた。
「ご主人様、敬語女子なら他にもいやがりますよね?」
「え!? そんな子が他にもいるの? どこどこ?」
俺が大げさにキョロキョロすると、ガシッと顔を掴まれて固定される。
「私、出会った時から敬語でしたけど?」
ふっ……愚かな。
俺は忍の手を払いのけた。
「言っとくがな忍、俺はお前の雑な口調を敬語だなんて認めてねぇぞ。なんでも『ですます』付ければ敬語になると思うなよ!」
「な……」
衝撃を受けた忍が、それでも反論しようとするところで、今度は恋が忍を押しのけて会話に参加してきた。
「マスター私は!? 私は完璧な敬語女子なのですよ!」
ふっ……恋か。この際だからはっきり言っておいてやるか。
「恋、前から言おうと思っていたんだが、お前のは敬語じゃなくて、『なのです口調』だよ! 雛見沢に祀られているオヤシロ様じゃねぇか!」
「よくわからないけど、ガーン!!」
恋も衝撃を受けて固まってしまった。すると――
「ぷっ……あはは! あっははははは!」
ナユちゃんが吹き出して笑い始めた。
この子はさっきから俺達のやり取りを本気で楽しんでくれるなぁ。そう思ってナユちゃんを見た俺は、ギョッとしてしまった。
「あははは……あ、あれ? なんで……」
ポロポロと、ナユちゃんの目からは涙が流れていた。
「おかしいな……泣くつもりなんてないのに……悲しい訳じゃないのに……」
大粒の涙は止まることなく、どんどんと溢れていく。
笑いすぎて出る涙では決してない。必死に指でぬぐい取ろうとするが、その勢いは止まる事はなかった。
唖然とする俺より早く、忍と恋が彼女の隣に寄り添った。忍は背中をさすって、恋は頭を一生懸命に撫でている。
そんな二人の行為に甘えるように、ついにナユちゃんは顔を歪ませて泣きじゃくった。
俺は今までにマンガやアニメで、色んなキャラのエピソードを見てきた。そんな俺が、このナユちゃんが泣いている姿を見て思うのは、なんとなくだけど、笑う事が許されない環境で育った女の子が、今、この時に笑う事を知ってしまったような、そんな涙のような気がした。
今、笑う事で、自分が過ごしてきた日々がいかに過酷で不幸だったかを再認識してしまった事による、突然の涙。
本当になんとなくだけど、そんな印象を受けたんだ……
どうしていいのかわからない俺が、とりあえずモンスターの見張りをすること約三分。ナユちゃんはすぐに泣き止んだ。
へたり込んでいた彼女が力強く立ち上がると、「お騒がせしました」と俺に頭を下げる。
「えっと……大丈夫? 俺、何かまずい事でも言ったかな?」
「いえ、そんな事はありません! ただ、私にも色々あって……でも、もう終わった事ですから大丈夫です」
そう言って、彼女は笑って見せた。あまり話したくはないみたいだ。
俺達は再び森の出口へと向かいながら、ナユちゃんに他の質問をしてみる事にした。
「ナユちゃんは、どうして急いで次の街に行こうとしてたんだ? これくらいは聞いていいかな?」
「あ、はい! 私、お金を稼ぐために冒険者さんのお手伝いをさせてもらってるんです。出来るだけ魔王に近い街の方が儲かると思いまして」
「お手伝い?」
「はい。冒険者さんって意外と忙しいじゃないですか? その日の宿代を稼ぐためにモンスターと戦ったり、クエストをこなしたりします。でもそんな中、今日中に素材も集めたいなんて時は私の出番です! 私に依頼してくれれば、戦闘は苦手ですけど、ダンジョンに潜入してアイテムを集めたり、お宝を持ち帰ったり出来ます。これでも私の職業は『盗賊』ですから!」
盗賊と契約して、アイテムを回収してきてもらうって訳か。……なんか盗賊に頼むと、くすねられそうで怖いなぁ。
「どうですか勇者様。もし時間が足りないのであれば、私と契約しませんか?」
……この世界は女神様が作った。という事は、この世界に住む人間も女神様が用意した事になる。だから俺は、この世界の人たちはNPCだと思っている。
この子もNPCだとしたら、一体何のために用意された? 俺達を助けるため? それとも俺達を騙す罠?
俺はさっき、ナユちゃんが泣き崩れる姿を思い出す。あれが演技だなんて思えない。この子にはきっと、なんらかのイベントが用意されているはずだ。さらに俺達には時間がない。
よし、ここは素直に、彼女に協力してもらう事にしよう!
「わかった、契約しよう! 俺達は明後日の夜には魔王と戦うつもりでいる。それまでに役に立つアイテムを調達してほしいんだ」
「明後日の夜までですか……? どんなアイテムが欲しいんですか?」
そう聞かれると正直困ってしまう。俺はまだ、この世界にどんなアイテムがあるのか全く知らない。
「えっと……そこら辺はナユちゃんに任せるよ。それで、お金の方はどうすればいい?」
「そうですね……ならこうしませんか? 勇者様が私に渡すお金の額に応じて、何を調達するのかを決めさせてください。私だってダンジョンに潜るなら、準備が必要です。少ない金額じゃあロクに準備も整えられませんから」
つまり、渡すお金が多ければ、それだけレア度の高いアイテムを調達してくるという事か……。といっても、お金はあまり持ってないんだよなぁ……
俺はこの森で迷った挙句、無駄にモンスターを退治しまくったお金を数えてみる。お金は、約1万イリーナも貯まっていた。
渡せるのはこの半額くらいか……
「よし! キミに5千イリーナを渡そう」
「ありがとうございます♪ では、これにできるだけ見合うアイテムを探してきますね。……まぁ、何を狙うか決めるまでは勇者様と一緒に行動させて下さい」
それはもちろん構わない。っというか、仲間が増えれば旅も賑やかになるだろう。
はてさて、この子がどんなアイテムを持ってきてくれるのだろうか。少しでも魔王攻略に役立つアイテムを持ってきてほしいところだ。
そんな事を考えていると、恋が俺の袖を引っ張ってきた。
「あの……マスター……」
「ん? どうした恋」
「えっと……ごめんなさい。やっぱりなんでもないのです……」
何かを言いたそうにしているのは一目でわかる。だけど、追及しても恋ははっきりとした想いを口にはしなかった。遠慮する必要なんてないのにな……
「あ! あそこ、森の出口じゃないですか!?」
ナユちゃんが嬉しそうにパタパタと走り出した。俺達もその後について行く。
樹木の切れ目を抜けると、再び草原に出た。その先に、集落と呼べるような村が見える。
空は黒く染まっており、所々に星が光って見えた。もう完全に夜となっていて、昼間の暖かさは薄れて涼しい風が吹いていた。
今回のネタ。
ひぐらしのなく頃に




