21話『あなた達を異世界に転生して、そこに君臨する魔王を倒してもらうわ』
「神様に……喧嘩を売った?」
俺がオウム返しに聞くと、恋はコクンと頷き、ポツポツと説明を始めた。
「やっぱり、この二重人格的な状況はちょっと納得できないと言いますか……色々と不便だと思うのですよ。私は気が付いたらこんな状況だったからまだ対応していますが、シノブは突然私が現れて困惑しているんですよね?」
「あ……お前、昨日の俺と忍の会話聞いてたのか……」
忍の中で寝ていると思っていたが、あの時、恋は起きていて俺達の話を聞いていたんだ。そして、忍がショックを受けていることを知った。そんな忍を支えようと俺は精一杯の言葉をかけた。最初から好感度マックスだった恋は、俺の力になろうと、よからぬことを考えた……
「だから私、ずっとあの女神様を呼び続けました。シノブの中で、もう一度話をしたいと繰り返しました。そうしたら、女神様の所へもう一度行けたのです」
女神様とのやり取りは、俺達の人間世界に戻ると消えるらしい。だけど恋は、忍の中に初めて入った時にその記憶を持っていた。恐らく、ドタバタしていた女神様が消し忘れたであろうその記憶が、こんな形で使われるとは……
色んな意味で女神様に振り回されている気がする……
人間って、こんなに神様に干渉していいものだったのか?
「女神様の所へ行った私はお願いをしたのです。私とシノブ、二人に一つずつ体をくださいって……でも女神様は、さすがにそこまで甘やかすことは出来ないと言いました。でもそれっておかしな話だと思うのですよ! だって、こうなる原因は女神様にあるじゃないですか! 女神様は任せなさいって言ったのに、気が付いたらこんな体になっていて、シノブやマスターには迷惑をかけて……」
なんだか段々と嫌な予感がしてきた。
まぁ、大変なことになったと忍が駆け込んだ時から事態はすでに取り返しのつかないことになっているんだろうけど……
「だから私、こう言ったのです。『だったら私ともう一度賭けをしましょう。それに私が勝ったら体をもう一つください』って……」
うわ~、こいつホントに喧嘩売ったんだなぁ……
しかしよく神様にそんなこと言えるな。ある意味凄いわ。
「それで、その……賭けに参加するメンバーが、私とシノブと、マスターになったのですよ……」
「俺もかよ!?」
思わず声を荒げてしまった。
恋はビクッと少し震えて、申し訳なさそうに俺を見る。
「で、でも安心して下さい。シノブやマスターは賭けに参加するだけで、なんの危険もありませんから」
そんなことを言う恋の言葉に、俺は引っ掛かるものを感じた。
「なぁ恋、賭けをして勝ったら体をもらうって話だけど、と言うことは、負けた時には何かペナルティがあるんじゃないのか?」
「そ、それは……別にマスターには関係のない条件ですから……」
なんだかすごく嫌な予感がする……
「教えてくれ、俺達が負けたら、何を失う?」
「……負けた場合は、私の人格が無くなります……」
言葉を失った。何だよそれ……
「でも、これでシノブは体を一人で使うことができるようになります。元々後から入り込んだのは私なのですから、これで――」
「ふざけんなよ!!」
俺は大声で怒鳴りつけた。
恋は身をすくませながら、唖然としていた。
「自分の存在を賭けて、それで本当に俺に関係ないとでも思ってんのか!? 言ったよな!? 俺はお前を受け入れるって! お前が消えたら、もう俺に影響ありまくりなんだよ!! 確かに忍はショックを受けていた。だけどそれは、俺やお前がカバーして、手を差し伸べ支えることで乗り越えていくべき問題だったんだ。お前の人格賭けてまで責任を取ろうとする必要はないんだよ!!」
「うぅ……マスター……」
へたり込んだまま、今にも泣き出しそうな恋に近付いて、俺は彼女をそっと抱きしめる。
「もうこうなった以上、絶対に負けらんねぇ! 安心しろ、お前の望みや願いは俺が全部叶えてやる! もうお前は俺の女なんだからな!」
「うっく……ごめんなさい……勝手なことしてごめんなさい、マスター……」
俺に抱かれたまま、恋はしばらくの間、泣き続けた……
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「よぉし、それじゃあ、戦に出るか! って、どうすればその女神様の賭けに参加できるんだ?」
恋が落ち着くまでひとしきり泣かせた後、俺は気合を入れて戦いに臨む。
「準備ができたら横になって、願えば向こうに行けるはずなのです」
「うし! じゃあ行くか」
「はい! この戦いが終わって体をもらったら、みんなで3Pするのですよ♪」
ぶはっ! と俺は思わず吹き出した。
「戦いに行く前にそんなフラグっぽいこと言うんじゃねぇ! ってか、べべべ別に俺は3Pしたくて体をもらいに行くわけじゃないからな!」
「え~、でも私とシノブが二人に分かれたら、結局そうなると思うのですよ」
3Pか……憧れるなぁ……ってそうじゃなくて! そんな卑猥なフラグで負けるなんて嫌だ~!
「とにかくさっさと話を聞きに行くぞ。ほら、俺の隣に横になれって」
俺は自分のベットに横になる。その隣に恋が腕を絡めてピッタリとくっついて来る。
少し狭いが仕方がない。俺は目を閉じ、女神様を呼ぶ。戦いの準備はできた、と……
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気が付くと俺は、モヤの深い場所に立っていた。まるで雲の上にいるかのような場所。周りを見渡すと、隣には忍と同じ顔の少女が二人いた。
「おわ! 忍と恋か!?」
「はい、忍です」
「恋なのです。ここでは一応、二人分の体が用意されているみたいですね」
忍はいつもと同じだ。肩に届くくらいの黒髪のショートボブ。俺よりも頭一つ分背が低い。
それに対して恋はというと、姿かたちは全く一緒なのだが、カラーリングが違う。瞳の色は赤みを帯びていて、髪の色も瞳と似たような、綺麗な薄い赤だった。
「なんか、格ゲーで言うところの、2Pキャラみたいだな……」
そんな感想を口にすると、背後から女性の声がした。
「いらっしゃい。犬伏昂さん」
振り返ると、そこには神々しいローブを身にまとった、美しい女性が立っていた。一目でわかる。これが恋の言う、女神様だろう。
「あの、初めまして。この度はウチの恋が大変失礼いたしました」
「いえいえ。こっちこそ何度も手違いがあってホントにごめんなさいね」
俺と女神様はペコペコと互いに頭を下げる。
「なんか思ってたよりも、和解できそうな雰囲気なのですよ、シノブ」
「これが大人の対応ってやつですかね」
二人がヒソヒソと話しているのをスルーしながら、俺は穏やかに解決できないかと掛け合った。
「それで例の賭けの話なんスけど、二重人格のままで構わないんで、この話は無かったことに出来ないっスか? ちょっと負けた時のリスクが大きすぎるっていうか……」
「それは無理ね。もう色々とセッティングしちゃったから、キャンセルはできないのよ~」
ですよねー……まぁ仕方ないか。
「でもその代わりに、犬伏昂さん、あなたの得意なゲームを用意したわ」
「ゲームッスか?」
「そう、賭けというか、一種のゲームよ。あなた達がゲームに参加して、クリア条件を満たせばあなた達の勝ち。満たせなければ負けというゲームね」
フムフムなるほど。それで、一体どんなゲームなんだろう。俺の得意なゲームと言っていたが……
「ゲームの内容は、あなた達を異世界に転生して、そこに君臨する魔王を倒してもらうわ」
コチン! と、俺の動きは止まった。ついでに言うと一瞬の間思考も止まっていた。




