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19話『忍ちゃん、どうしたの? 死んじゃったの?』

ここから二章になります。

* * *


 気が付くと私はモヤの深い場所に立っていました。まるで雲の上にいるかのような場所。

 ……っていうか、前に来たことがあるんですが……

 周りを見渡すと、……やっぱりいました。女神様です。

 こんなだだっ広い所で業務用の机に座り、雑誌を広げながらおせんべいをくわえています。……暇なんでしょうか?


「あの、こんにちは……」

「あら? 忍ちゃん、どうしたの? 死んじゃったの?」


 女神様は慌てて雑誌やらおせんべいを片付けながら私に声を掛けます。


「いや、私には何がなんだか……え? 私って死んだのですか!?」

「だって私の主な仕事は魂を転生させることだもの。私は忍ちゃんのこと呼んでないから、自動的にここへ来たってことは死んじゃったってことよ?」

「いや、だって私、体もらいましたよね? 昨日までご主人様と普通に過ごしてたんですけど……」


 ふむ、と不思議そうな顔をしながら、女神様は私の近くの雲をかき分けて下を覗き込みます。


「あら? 忍ちゃん生きてるわね」


 私も一緒にその穴を覗いてみると、ご主人様と私が仲睦まじくおしゃべりをしている姿が見えました。


「ってことは……あなた主人格のほうなのね」

「主人格? どういうことなのですか?」

「えっとね、あなたに人間の体を与える時に、魂を二つに分裂させてサブ人格を作ったのね。それが人間の方の忍ちゃん。主人格であるあなたは、本体のシロツメグサを維持しつつ、夢を見るような形でサブ人格の意識とリンクしていたの。だからシロツメグサが枯れちゃって、あなたは死亡扱いでここへ来たみたいね」

「ちょ、ちょっと待ってください! 賭けを行ったのって私ですよね! その賭けに勝ったのも私なのです! なのにサブ人格が生き残って主人格の私が死ぬっておかしくないですか!」


 頑張って体を得たと思ったのに、こんなのってあんまりなのです……


「え、え~と……そうね。こんな特殊な願いを叶えたのって初めてだから、ちょっと手違いがあったみたいね。でも大丈夫だから安心して! 今からちゃんと元に戻してあげるから」


 そういって女神様は机からマニュアル書と書かれた本を引っ張り出して、ペラペラとめくり始めました。……本当に大丈夫なのでしょうか……?


「魂を融合させればいいのかな……? うん! これで行こう!」

「あ、あの……なんだか不安なのですけど……」

「大丈夫だいじょーぶ! 私に任せなさい! じゃあ今から人間の体に魂を移してあげるわね。『テクマクマヤコンテクマクマヤコ~ン! ラミパス ラミパス ルルルルル〜』」

「それって変身する呪文ですよね!? 懐かしいアニメ特集とかでやってたのですよ!?」


 そうツッコむのと同時に、私の意識は落ちていくのでした。


* * *


「ふぁ~あ、よく寝た」


 俺は自室のベットから起きると、茶の間に向かった。

 いつもはこの時間だと朝飯の準備ができているはずなのだが、茶の間に入ると、忍は呆然と立ち尽くしていた。


「おはよう忍。どうかしたか?」


 俺が声をかけると、忍はハッとしたようにこちらを見つめる。

 すると、その瞳にはどんどん涙が溢れていった。


「あ、ああぁ……ようやく私の意思で、ご主人様に会うことができたのです・・・


 何を言っているのだろうか? 変な夢でも見て、現実とごっちゃになっているのか? それとも、また変な風邪でも引いた?

 俺は忍の額に手を当てて、熱がないかを確認してみた。


「特に熱はねぇな……」


 だが、突如として忍の顔が赤くなっていく。


「ひゃわ~~~~~~~~」

「うおっ! ビックリした!!」


 突然奇声を上げて、忍はバタバタと逃げるように俺から離れ、隅っこでうずくまった。


「ちょ、待って下さい。おでこにピタって……まだ心の準備が……」

「ど、どうした? 俺、なんか怒るようなことしたか!? それなら謝るが……」

「い、いえ! 少し驚いただけなのです。ご主人様は私の全て! 私が怒ることなんてありません」


 そう言って、忍はゆっくりと近付いて熱のこもった瞳で俺を見つめる。


「愛しています。ご主人様が大好きなのです……」


 衝撃が走った! これまで忍の方から好きと言われたことなんてなかったせいか、俺は物凄い高揚感を感じていた。


「ご主人様が望むのなら、この体、いくらでも捧げます。好きに使ってくれて構わないのですよ」


 ゴクリと喉が鳴ってしまう。今にも理性が飛びそうだった。


「じゃあ……忍の体に触りたいな~、なんて……」

「はい。好きに触ってください」


 え!? いいの!? マジで!?


「もう心の準備はできました。むしろ、たくさん触って欲しいのですよ」

「忍……本当にいいんだな?」

「はい……その……優しく、してくださいね」


 その言葉で俺の理性は吹き飛んだ。

 

「シ~ノブちゅわ~ん!!」


 どこぞの大泥棒のようにピョーンと大ジャンプをして、そのまま忍に覆いかぶさろうとした。


「イヤアアアアアアアアア!!」


 バキィという音がして、俺は忍にぶん殴られていた。もちろんグーで……


「ぶべらっ!!」


 吹き飛ばされた俺は柱にぶつかり目を回す。


「痛ってぇ! 何すんだよ!!」

「それはこっちのセリフですよ。いきなり押し倒そうだなんて信じられねぇです!」

「いやいや、お前が触っていいって言ったんだろうが! 何? 上げて落とすスタイルなの!? 男の純情もて遊んじゃってんの!?」

「い、いえ、あれは私の意思ではなく、なんか勝手に……」


 なんだか訳のわからないことをブツブツと言っている忍だったが、突然ガクンと震えると俺のそばに駆け寄って来た。


「ああ! ごめんなさい……私はなんてことを……」


 自分で殴っておいて何を言っているんだ?

 またぶん殴られるのは嫌だから、どうしたものかと真剣に悩む。


「痛いの痛いの飛んでけ~。ちゅっ」


 忍が殴られた頬にキスをしてきた。俺は再び天にも昇るような気持ちになるが、そこは必死に堪えて真顔で忍に向き直った。


「忍、さっきぶん殴られたせいで唇も怪我をした。こっちにも痛いの痛いの飛んでけーしてくれ!」


 真顔でキモいことを言っている気もするが、今の浮かれた俺の脳にはそんな些細なことなんてどうでもよかった。


「わかりました。じゃあ目を閉じてください」


 は~い、わかりました~。むちゅ~……

 俺はタコのように唇を突き出して待機する。だが――


「ギャアアアアアアアアア!」


 ベキィ! 

 忍の悲鳴が聞こえたかと思うと、俺はぶん殴られて、そのまま壁に激突していた。


「だぁ~! お前なんなんだよさっきから! 俺を殺す気か!?」

「い、いえ……私にも何が起きているのか……私が私じゃなくなるんです……」


 そう言った瞬間にガクンと震え、忍はいそいそと俺のそばに近寄って来た。

 これは……もしかして……?


「ああ、ごめんなさい! 今度はちゃんとおまじないしますから、もう一度目を閉じてください」


 だが俺は、滲み寄る忍の肩を掴んで自分から引き離した。


「キミは、忍じゃないな」

「え? 私は忍なのですよ?」

「違う! 惚れた相手なら、姿が同じでも中身が変われば気付くのは当然さ。俺は最初から気付いていたよ」


 と、いう事にしておこう……


「さぁ、キミは誰だ! 忍はどうなった!? ちゃんと説明してくれ!!」


 俺の言葉に表情を暗くした彼女は、一歩引き下がってから小さく話し始めた。


「サブ人格は、私の中にいます。出ようと思えばいつでも出て来れるみたいですね」

「サブ人格?」


 別に消えたわけではないと知り、少し安堵しながら聞き返す。

 こうして彼女は全てを語り出した。

 自分がシロツメクサであり、昔、俺に助けられた時から想いを寄せていたこと。

 女神様との駆け引きで人間の体を得て、俺に会いに来たこと。

 過酷な条件をクリアして、寿命を延ばしてもらったこと。

 そして、気が付いたら一つの体に二つの人格が入り込んでんでいたこと……


「あれ? でも、女神様とのやり取りは、この現実に戻ったら全部忘れるって言ってのですけど……」

「もしかして、不規則な出来事の連発で、今度はそのやり取りの記憶を消し忘れたんじゃないか?」


 だとしたら、とんでもなくおっちょこちょいな女神様だな……


「まぁとにかく、これで全て話したのですよ。だからあの子はサブ人格、私が主人格。元々は私がこの体を使う権利があるのですよ」


 ふ~む……


「それに私なら、性奴隷でも肉便器でも、ご主人様が望むことを全て受け入れます」

「いや、別にそんな特殊な関係は望んでないけどな!」


 俺ってそんな性癖持ってると思われてんのかなぁ……


「それに比べてサブ人格はちょっと乱暴です。ご主人様を殴ったりしてとんでもないのですよ! 私の方が百倍尽くせて、百倍想っているのです! ご主人様、サブ人格よりも私を選んでください!」


 腕を組んで考える。とりあえずこれだけは言っておきたいということがあった。


「あのさ、とりあえず忍のことを『サブ人格』って呼ぶの止めてもらえる?」

「え?」

「俺にとってサブ人格とか主人格とか関係ない。忍は忍なんだ。だから、そんな風に出来の悪い作品みたいな呼び方されるのは辛抱ならねぇ」

「っ……」

「それに、俺は忍を斬り捨てる気はねぇぞ。今までの時間、ずっと俺の隣にいたのは忍なんだ。あいつと過ごして、あいつと騒いで、だからあいつのことを好きになった。この気持ちは一生変わらねぇよ」


 さて、次はこの子のことだが、なんて言っていいものか……


「こんなの……あんまりなのです……」


 俺が悩んでいると、彼女がポツリと呟いた。

 目には大粒の涙が浮かべて、それはすぐに流れ落ちる。


「ご主人様が子供の頃から、何年も前からずっと想ってきたのは私なのに……いっぱいいっぱい考えて、ギリギリの賭けに勝ったのは私なのに……最後の最後まで諦めないで、賭けの最中でもずっと信じて疑わず、やっとの思いで会えたのに……」


 ボロボロと流れる涙は絨毯じゅうたんに染みを作る。

 何粒も何粒も溢れる涙は決して止まらない。


「それなのに、結局私はいらない子だったなんて……そんなのひどすぎるよぉ……」


 彼女は上を向き、まるで自分の悲しみを天に吠えるように叫び出した。


「うわああああああああぁぁぁーーーん」


 子供のように泣き叫ぶ彼女をこれ以上見ていられなかった。

 頼むから、忍の顔で、そんな悲しい顔をしないでくれよ。そもそも、そんな風に悲しませるつもりなんかなかったんだから……

 俺は泣き喚く彼女をそっと抱きしめた。後ろに回した手で、優しく頭を撫でながらゆっくりと耳元で語りかける。


「勘違いするな。俺は別に、キミをいらない子だなんて思ってない」

「ぐすっ! だって……」

「俺はキミも受け入れることにした。なんて表現していいかわからなくて、不安にさせてゴメンな」


 彼女は泣き止みはしたが、どういうことなのか、よくわからない様子だ。


「つまりは、忍と同じようにキミを愛することにする! なぁに、同じ体だ、これじゃ浮気だの不倫なんて言えないだろう……多分」

「ほ、本当に、いいのですか?」

「元々一心同体って言うか、正に体は一つなんだから、否定する方が難しいからな。あとは忍が承認してくれればいいんだが……」


 そんな俺の言葉に、彼女は一度俺から離れて自分の中の忍に確認をするかのように俯き、押し黙る。


「いいよ、って言ってるのです」

「うっし、なら決まりだ! 今からキミも俺の女だ! もう泣いて謝っても許してやらないからな」


 こうして、なんだかややこしいことになりながらも、俺の周りには一人の少女が加わった。

今回のネタ。

ひみつのアッコちゃん

ルパン三世

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