16話『心臓がドキドキいってます』
次の休み、俺は忍と近くの遊園地に向かっていた。
車を走らせること数十分。到着した俺達は早速中へと入場する。
「おお~、色んな乗り物がたくさんありますね! それにとっても広いです!」
遊園地を『大きな公園』と認識していた忍は目を輝かせていた。
それでもここの遊園地はまだ小規模なほうだ。だが、記憶のない忍にとっては斬新だったようで、子供のようにはしゃいでいた。
「最初はあれに乗りましょうご主人様!」
「おい! 人前じゃその呼び方は止めろっつったろ!」
トテトテと走っていく忍を追いかけていくと、そこは絶叫マシーンへの列だった。
俺はかなり絶叫系は得意なんだが、忍は大丈夫なのだろうか……?
「お前、こういうの平気なの?」
「わかりませんけど、とりあえず乗ってみましょう」
どうやら気持ちばかりが先走っているようだ。
とりあえずは忍が乗りたいと思うものに乗せてやるのがいいだろう。一応記憶を探る口実で来たわけだが、実際に何かの手がかりになるかもしれない。
そして俺達はジェットコースターに乗ることになった。
「ほれ、安全カバーをしっかりと下せよ? 固定されたか?」
忍は初めてなので、ちくいち口を出さなくてはいけない。
そしてジェットコースターはゴウンゴウンと動き出す。
横目で忍を見ると、緊張か恐怖か、何やら固まっているように見えた。
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ジェットコースターから降りると忍はフラフラとした足取りで、表情はドンヨリと青ざめていた。
「ご主人様、乗ってから気付いたんですが、私、高い所苦手です……」
えぇ……。それって乗る前に気付けないものなの……?
「ああいう高い所から落っこちるような乗り物は止めましょう……」
「んじゃあ、お化け屋敷にでも入るか?」
ちょうど目の前にお化け屋敷があった。
物は試しと、二人で入ることにする。
中はほの暗い武家屋敷のような作りで、気味の悪い人形が多く並んでいた。
どうやら人形をメインに怖がらせる作風のようだ。
ちなみに、忍はかなりのビビり具合で俺の後ろをついて来ていた。
すると突然、多くの人形がカタカタと震え出す。
「ぎゃーーー!!」
忍が大声を上げながら俺の背中にピッタリとくっついて来る。
「ひゃーーー!! なにくっついてやがんですか変態駄主人!!」
ボコっと殴られてから距離をあける忍。
なんて理不尽なんだ……痛てぇぞ……
俺から離れた忍だが、目の前には人形が置いてあった。その人形が突如として奇妙な声を出して青白く光り出す。
「ぎにゃーーーーーー!!」
再び変な悲鳴を上げながらバタバタと逃げ惑う忍。
めっちゃエンジョイしてんなぁ……
でも流石に騒ぎすぎだわ……
「ほら忍、いくらなんでも騒ぎすぎだからそろそろ出るぞ」
そう言って俺は、忍の手を握る。
「あ……」
軽くビクつく忍だが、素直に俺に引かれてついて来た。
手を引っ張ってようやく外に出ることができた俺達だが、忍の顔が少し赤くなっていることに気付いた。
「うぅ……怖すぎて心臓がドキドキいってます」
「そうかい? そこまで驚いてもらえたら設計者もさぞ満足だろうよ」
パッと手を放した。
「ふぅ。ドキドキが治まってきました」
あれ……? これって吊り橋効果ってやつじゃね?
「忍、今度はあの絶叫マシーンに乗ろうぜ」
俺は再び忍の手を握った。
「嫌です! 高い所怖いです! また心臓がドキドキしてきました!」
「そうか、じゃあ乗るのは止めよう」
パッと手を放す。
「よかったです、ドキドキが治りました」
ええぇぇーー……
逆!? 逆吊り橋効果なの!? 俺に手を握られたドキドキを怖いドキドキと勘違いしてる!?
こいつどんだけ俺との親密度を否定するんだよ!
いっちゃん、市ノ瀬さん、二人とも応援してくれたりアドバイスをくれてありがとう。でもね、なんかもう忍のことを攻略できる気がしないわ。むしろ攻略対象外のキャラなんじゃないの? 俺が頑張って好感度を上げても、決してそれを認めようとしないんだもの……
「そんなにうな垂れてどうしたんですか? 次に行きますよ?」
こんな調子で、俺と忍は遊園地を満喫した。
……結局のところ、俺に対する好感度が上がったのかはわからないが……
いっちゃんの言う通り、確かに俺をどこか頼りにしていたり、求めているような時がある。それがわかったことは素直に嬉しい。嬉しいのだが……
俺に対する恋愛感情がロックされているのではないかと思うくらいに空回っていた。
「忍、最後は観覧車に乗ろうぜ。遊園地の最後は観覧車って相場は決まっているんだ」
「でも、あれ高いです……高速回転したりしませんよね?」
「しねぇよ! そういうアトラクションじゃねぇから!!」
改めて遊園地は初めて来るんだなぁ、と実感しつつ、俺達は観覧車に乗った。
お互いに向き合いながら席につき、グングン高く昇っていく様を眺めた。
「お~。子供の頃は観覧車って退屈だと思ってたけど、大人になってから乗ると楽しいもんだな」
「うぅ、でもやっぱり高いのは苦手です……」
見ると忍がガタガタと小刻みに震えていた。
そんなに高所恐怖症なのだろうか?
よし! ここでも好感度を上げるために頑張ってみるぜ!
俺は立ち上がると、忍の真横に並んで座った。
「こうすりゃ、少しは怖くねぇだろ?」
「ん……駄主人様にしては気が利くことをしてくれますね」
そして少しの間、沈黙が訪れる。
どうせこれも高い所のドキドキと勘違いして、効果は薄いのかな、なんて思いながら景色を眺めていた。すると――
ポンッ!
忍が俺の腕に体を密着させてきた。
これにはさすがの俺も鼓動が高鳴る。
忍はそのまま、俺の肩にしなだれてくる。
あれ? これっていい雰囲気じゃね? シチュエーションといい、場所といい、これ、告白するなら今しかないんじゃ……
俺の鼓動は一層高くなり、頭はどんどんと熱くなる。
「あの……さぁ、忍……」
俺は逆の方を見ながら声を絞り出す。とても忍の顔をみながらなんて言えなかった。
「なんだ、その……俺さ、割と本気で……お前のこと、好き……みたいだわ……」
言ってしまった。前回みたいな軽いノリじゃない。割とマジな雰囲気で言ってやった!
忍は俺にもたれかかったまま、何も言わない……
俺はチラリと忍の顔を覗き込んで見た。
「スヤァ……」
寝てる!? ウソだろ!? どこの三流ギャグマンガの話だよ!?
寝てる奴に告白とか、マジでトラウマになるわ!!
つらい! もう死にたい!!
「あれ……? 私……」
忍が起きた。
逆に俺がぶっ倒れたい気分なんだけどな……
だが、俺は忍の様子がおかしいことに気が付いた。
「あれ? 忍、なんか顔色悪くないか?」
忍は顔面蒼白となっていた。
「ちょっと気分が優れません……やっぱり高い所は苦手なのかもしれません……」
「……降りたら少し休もうか」
観覧車から下りてから、俺達はベンチに座って休憩を取ることにした。
だが、それでも忍の具合は良くならなかった……
「そろそろ帰るか。元々は観覧車で最後ってことにしてたし」
「……はい」
忍の足取りはふら付いていて、俺は体を支えながら車まで移動する。
家に帰る途中でも、助手席に座る忍は苦しそうで、息が乱れていた。
一体何が起こっているのかもわからず、俺はただ、急いで家に向かって車を飛ばすことしかできない。
「お前、遊びに出かけると必ず風邪引くよな。まぁ疲れたんだろ」
「そう……ですね……」
家に着いて、忍をベットに寝かせる。
軽くお粥を食べさせてから薬を飲ませた。
「今回もゆっくりと休めば、明日には治るだろ。もし酷くなるようなら病院に行こう」
「はい……」
そう言って様子を見ることにしたわけだが、なぜか胸騒ぎがする。
何故か、忍がフッといなくなってしまうような、そんな胸騒ぎ……
大丈夫だ、前回も次の日には治ったのだから、今回だって何も心配する必要はない。ただの風邪なのだから。
――そんな俺の期待をあざ笑うかのように、次の日になっても忍の容態は良くならなかった……




