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全くデレない少女との同棲生活!  作者:
現実世界編
15/62

15話『忍ちゃんにフラれれば、その時は私がもらってもいいですよね?』

 秋分の日の次の日、忍の具合もすっかりと良くなったので、俺は会社に出勤した。それはつまり、告白されてから初めて市ノ瀬さんと顔を合わせることになり、そして、俺がその返事をしなくてはならない日でもあった。

 返事の内容はもちろん謝って断ること。俺は……忍を選ぶことにしたのだから!


 工場の敷地内で、俺とは逆の方向から市ノ瀬さん歩いてくる。

 俺は顔を背けて、できるだけ彼女の顔を見ないようにして通り過ぎた。向こうも何も言わず、黙ったままだった。そのすれ違いが、どれだけ重たいことか……


 だけど、今はこれでいい。俺が謝るのは帰る時だ。

 朝の段階でこの話を持ち掛けてしまうと、その日一日がこれ以上に重たくなってしまう。だから、今はこれでいいんだと思う……


 仕事が始まり、俺達は度々会話をする状況になった。

 俺は仕事上の、必要最低限のことだけを口にして、市ノ瀬さんもまた、同じように仕事をこなす。いつもと変わらない職場であり、仕事風景のはずなのに、すごく息苦しかった……


 ようやく仕事が終わり、帰る準備を整えた俺は、心を強く持ち、市ノ瀬さん呼び止めた。

 普段誰もこない工場裏に場所を変えて、俺は震える手を握りしめながら想いを口にした。


「あのさ……この前、映画の最後に市ノ瀬さんが言った事だけど……ごめん! 俺は市ノ瀬さんの気持ちに応えられない!!」


 俺は深々と頭を下げる。彼女の顔を見ることができない。

 そのあとはなんて言っていいかわからなくて、頭を下げたまま、彼女が何か言うのを、ただただ待っていた。


「忍ちゃん……ですか?」


 小さく、市ノ瀬さんがそう口にするのが聞こえて、俺は顔を上げた。彼女もまた、気まずそうに俯きがちで俺と目を合わせようとしない。


「それは……うん。今は忍のことが気になって仕方ないから……」


 恥ずかしいが誤魔化すことは失礼だと、そんな気した。


「やっぱりそうでした……そうじゃないかって思ってたんです。犬伏さん、忍ちゃんの前だとすごく生き生きしてたから」


 やっと市ノ瀬さんが俺の目を見て話してくれた。だけど、その表情は切なそうで、俺が目を背けてしまいたくなるような表情だった。


「私、バカですよね。なんとなくわかっていたんです。だけど、それでも抑えることができなくって、あんなこと言っちゃって……玉砕して……」


 ツラツラと市ノ瀬さんは自虐を続けた。そうやって、自分をいましめるかのように……


「ホント、私って昔らかダメなんです。バカでドジで、どうしようもなく――」

「もういいよ! そんなことない! 市ノ瀬さんは何もおかしいことなんかしてねぇ!」


 俺は彼女の言葉を遮っていた。それ以上は許せなかった。


「全然バカなことなんかねぇよ! 自分の気持ちを素直に相手に伝えるって、すげー勇気いるから……大体、望みが薄い相手に挑むことがバカだって言うなら、俺だって似たような状況なんだぜ? 忍なんか俺のこと全然意識してねぇし……望みなんかほとんどねぇから……だから、なんて言うか、そう自虐されると俺の方がバカで意気地なしっていうか……」


 なんだかうまく言えない俺が口ごもっていると、市ノ瀬さんが小さくと笑い始めた。


「なんだ、じゃあ私にもまだまだチャンスはあるんじゃないですか」

「え……?」


 何を言っているのかよく理解できない。


「犬伏さんが忍ちゃんにフラれれば、その時は私がもらってもいいですよね? 私、それで構いませんよ?」

「いや……でもそれって、男として最低じゃないかな?」


 つまり、市ノ瀬さんを保険にしてキープ状態にしておくって意味なのだろう。

 そもそも市ノ瀬さんがそんなことを言うこと自体、軽く衝撃的だった。


「なに言ってるんですか。私がそれでいいって言ってるんだから。犬伏さんは後ろ盾があると思って、じっくり忍ちゃんを攻略してください。そうですね、私がやったようにデートに誘ってみたらいいと思います。他には――」


 確かに、忍にフラれてもまだ市ノ瀬さんが残っている、という状況はかなりおいしい話だけれども……何かが間違っている気がする。


「あ、プレゼントとかを渡して好感度を上げるのはどうでしょうか……デートに誘って……そのあとに……っくぅ……あ、あれ……?」


 だが、市ノ瀬さんは泣いていた……

 瞳に浮かんだ大粒の涙は、ポロポロと零れて頬を伝って落ちていく。

 あまりにも突然のことで、俺は言葉を失っていた。


「あれ……? おかしいな……私にもまだ……チャンスは……あるのに……うぅ……」


 あぁ、そうか。そういうことだったんだ……

 俺はようやく理解した。

 市ノ瀬さんは最初から、俺の不安を少しでも取り除こうという一心でそんなことを言ったんだ。

 少しでも俺が安心できるようにと……少しでも俺が強気になれるようにと……

 つまり彼女は自分の幸せよりも、俺の幸せを真剣に願ってくれたのだ。

 俺にアドバイスをすることで、自分にチャンスが回ってくるなんて、きっと微塵も思っていいなかったのだろう。だから、涙が溢れたんだ。

 どこまでもいい子で、どこまでも優しい性格の市ノ瀬さんらしい応援であり、協力だった。そして、そんな彼女を俺は抱きしめてやることもできない……

 だから、俺は……


「もういいよ、キミがそんなに涙をこぼしてまで無理することなんかない……」


 なんて言えばいいかなんてわからない。けど、いっちゃんは謝るなと教えてくれた。


「ありがとう市ノ瀬さん。めっちゃ勇気と気合いもらったから!」

「……はい」


 それだけを言って、俺と市ノ瀬さんは決別した……

「どうでしたかご主人様。コユリさんのほうは」


 家に帰るなり、忍がそんなことを聞いてきた。


「ああ、断ったよ……」


 俺は力なく答える。未だに彼女の涙が忘れられなかった。


「ええぇぇ~~!! なんでですか!? せっかくのチャンスだったのに!!」


 なんでって、お前が好きだからだろうが……人の気も知らねぇで!


「まぁ、俺って結局、三次元はあまり興味ないからな。このままでいいんだよ」

「はぁ~。空気読んでくださいよ。うまくいくと思ってご馳走を作ったんですよ?」


 空気読めねぇのはお前だよ!! 少しは俺の気持ちに気付けや!


「一体いつまでこの状況を続けやがるつもりですか? 全く困った駄主人です」


 そこまで言うならお前が俺の彼女になってくれ! という前回のセリフをまた言いたくなるようなトラップまで用意してきやがる……

 やべぇよ……俺のストレスがマッハなんだが……


「とにかく今は、お前の記憶探しの方が先決だろ? そろそろ本気で探って行こうぜ?」

「と、いいますと?」

「この前の映画みたく、色んな所に行って思い出せることがないか確認していくんだよ」

「なるほど~。ではこの前のように、四人で遊びに行く感じですね!? 早速二人に電話しましょう!」


 忍は家の電話を手に取る。

 うおおおい!! こいつバカなの!? 俺の話きいてんの!?


「市ノ瀬さん誘えるわけねぇだろ!! フったばっかなんだぞ! メチャクチャ気まずい空気になるに決まってんだろうが!?」

「そうなんですか? 『俺は二次元にしか興味がない』。『噓でしょ~……』みたいな、そんな軽いやり取りかと思ったんですが……ならイチカさんだけでも誘いましょう」


 ギャアアアアア! いっちゃんもこの前の相談で気まずくなったからダメェ~!!


「い、いっちゃんにはすでに連絡したんだけど、今度の休みは都合が悪いみたいなんだよ。だから電話する必要はないぞ!」

「ふぅん。ってことは駄主人様と二人きりですか……まぁその方が変な気を使う必要もなくていいかもしれませんね」


 あ、なんだかんだで俺と二人の方が気を使わないのか。これは喜んでいいのか、微妙な距離感と取るべきなのか……


「それで、今度はどこへ行くんですか?」

「えっと……どこにしよう? 遊園地とか? 忍、遊園地って知ってるか?」

「バカにしないでください! そのくらい知ってますよ! おっきな公園みたいなところですよね!?」


 うわぁ~、こいつ遊園地初めてだわ~。


「じゃ、次の休みは遊園地に行って、何か思い出せることがないか探してみるか」


 こうして、俺は記憶探しという名のデートをこじつけることに成功した。

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