12話 『あなたのことが、ずっと好きでした……』
おさらいです。
駄主人様:犬伏昂、25歳
幼馴染:森山一花、25歳
特別天然記念物:市ノ瀬こゆり、21歳
自分探し:忍、年齢不詳、見た目、16~18歳くらい
「えっと、じゃあ犬伏さんと忍ちゃんて、一緒に暮らしてるんですか!?」
「ムグムグ……そういうことになりますね。何を隠そう私は記憶喪失ですから。ムググ、記憶が戻るまでお兄ちゃんの家に泊めてもらっています」
四人で料理を食べながら、大体のいきさつを話すことになった訳だが、とりあえず忍は食い物を飲み込んでからしゃべってもらいたい……
「でもそれって、誘拐罪になるんじゃあ……」
「大丈夫ですよ。周りで行方不明者が出たって話もなければ、捜索願いが出た様子もありませんから」
忍はケロッとしたまま説明を続けている。
「それよりも、今日はお邪魔してすいませんでした。こんなに早く見つかるとは思っていなくて……」
「いや、見つからなければいいって話でもねぇぞ……」
どこか問題点がズレている忍にツッコミをいれていると、市ノ瀬さんは笑いながらこう提案をした。
「じゃあ忍ちゃんも一緒に映画を見に行きましょう?」
「いいんですか!?」
「ええ、みんなで行った方が楽しそうだもの」
「ほほ~、それじゃあボクと忍ちゃん。コウちゃんとこゆりちゃんのダブルデートだね!」
いっちゃんがニヤリとほくそ笑んでいる。
「市ノ瀬さん、ごめんね。なんか変なことになちゃって」
「いいんですよ。さっきも言いましたけど、人数が多い方が楽しそうですから」
そう言ってくれると本当に助かる。
だが実は、俺も忍が一緒の方が気が楽になるという部分があった。どうも市ノ瀬さんと二人きりだと会話が続かないというか、妙に空気が重くなってしまうというか……
今、俺達の距離感だと、こうした大所帯の方が楽しめるのかもしれない。
それにもう一つ良かったと思えるのは忍のことだ。この四人で飯を食っている間、忍はやたら楽しそうにしている。
考えてみれば、今までずっと家事ばかりでしゃべる相手は俺だけだったんだ。こうした友達感覚でしゃべる相手が必要だったのかもしれない。
俺は、こんなに楽しそうにしている忍を見た事がなかった。
「それにしてもダブルデートか。その中で男が俺一人というのは、ある意味ハーレム状態だな」
「コウちゃん、これは貴重な経験だよ~? なにせ美少女三人に囲まれているんだからね~」
「いや、少なくともいっちゃんは少女って歳じゃないだろ……俺と同い年なんだから……」
なにおー! と怒りながら詰め寄ってくるいっちゃんに必死で頭を下げると、みんなは笑ってくれた。きっと忍に必要なのは、こういう時間だったのかもしれない。
……なんだか、市ノ瀬さんとのデートのはずが、忍のことばっかり気になってるなぁ俺……
「ところで、今日はどんな映画を見る予定だったんですか?」
「ああ、アニメだよ」
俺が答えると、忍は一瞬固まり、これまでの笑顔が嘘のようにうな垂れ始めた。
「ああぁ~……楽しみにしていた初めての映画が、アニメェ……」
そういえば忍はマンガやアニメが嫌いだったな。
「忍ちゃん、これから見るアニメはスタジオジブリって言ってね、世界的に有名なアニメなのよ」
「本当ですか? イチカさん」
何故かいちいち、いっちゃんに確認をする忍。この二人、いつの間にか仲良くなったなぁ。
「本当だよ。ボクもアニメって基本的に嫌いだけど、ジブリだけは見るからね。話題作だし、むしろ見ておいた方がいい作品だと思うよ」
「むぅ……イチカさんがそこまで言うなら見てあげてもいいです。だけど勘違いしないでください! 私はアニメを認めたわけではありませんから!」
なんで俺に向かって言うんだよ……ツンデレか!?
でも、いっちゃんもアニメが嫌いというのは初めて知った。何かあったのだろうか?
そうして、忍の了承を得たことで俺達は映画館へ向かうことにした。
「しかしアレだな、俺的には最近のジブリよりも、昔のジブリ作品を忍に見てもらいたいぜ」
「なんでですか?」
「最近のジブリは、声優にアイドルや芸能人をやたら使うんだよ。そのせいで『演技』という部分で大幅に質が落ちている! 確かに有名な芸能人を使えば宣伝にはなるだろう。しかし! そのせいで作品全体のイメージが安いものになってしまっているんだ! 作風が良いだけに、やはりちゃんとした声優を使ってもらいたいね!」
「わぁ~、さすが犬伏さんですね! 素敵な意見です♪」
俺の熱い想いに市ノ瀬さんが手を叩いてくれた。
ありがとう市ノ瀬さん!!
「素敵かな~? オタクが声優論を熱く語っただけだよ?」
「マジうぜぇです!」
「お前らな~……そういうのは本人に聞こえないように言ってくれ!!」
もはやこういう扱いにも慣れたもんだ。自虐も含めて、みんなでワイワイと騒ぎながら俺達は映画館に到着した。
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結果を言えば、映画は非常に楽しめた。
座席から立って出口へ向かう間も、忍ははしゃいだように作品の感想を口にしていた。
「主人公が神隠しにあって、顔のない化け物に襲われた時は、もうだめかと思いました!」
いっちゃんと市ノ瀬さんに、どこが良かっただの見ごたえがあっただのと、大いに盛り上がっている。
「どうだ忍、アニメもなかなか悪くないだろう」
「むぅ……悔しいですが、今日の映画は楽しめました。素直に負けを認めます」
なんでコイツは悔しがってんだ? そもそも勝負なんぞしてねぇ!
映画館から出ると、周りにはアクセサリーショップや小物店などが並んでいる。周りを見渡していた忍は、その中にある一つの店に釘付けとなっていた。
「見て下さい! さっきの映画のグッズが売っています! 色々ありますよ!」
未だテンションの高い忍に、はいはいといっちゃんが付き添ってくれている。
「本当ですね。あ、こっちのお店にも可愛いものがありますよ」
今度は市ノ瀬さんがあっちこっちへフラフラと動き始めた。
忍の方はいっちゃんがついているので大丈夫だろう。俺は風に流されて飛んでいきそうな市ノ瀬さんのそばにいることにした。
店の外からガラス越しに物色しながら、フラフラと目移りしている市ノ瀬さんのボディガードの如く、はぐれないように隣に寄り添っていると、突然彼女は俺の方を真っすぐに見つめて来た。
「犬伏さん、今日はありがとうございます。とっても楽しかったです!」
その言葉に、俺はなんだか申し訳ないような気持ちになった。なぜなら、楽しかったのは四人で行動したからだろう。もし俺と二人きりだったら、ここまで会話が弾むことも無かったかもしれない。
現に、当の俺自身が忍に後をつけられたことに対して感謝してしまっているくらいだ。
「いや、それは俺じゃなく、みんながいたから楽しめたんじゃないかな……?」
「そんなことないです! 私、犬伏さんが隣にいてくれるだけで、その……嬉しくて……」
俯きながら、段々と声が小さくなるせいで最後の方が聞き取りづらい。
そんな時だった。市ノ瀬さんの後ろを通ろうとしていた男性が、ぶつかって来た。
背中を押されるような衝撃で、市ノ瀬さんは俺の方へと倒れ込んでくる。そんな彼女を、俺はとっさに抱きとめた。
「あ……」
俺に抱き付くような格好になってしまった市ノ瀬さんが、小さな声を漏らす。
「大丈夫か?」
とりあえず確認を取ろうとしたが、彼女は動かなかった。
だが、ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳は、憂いを帯びていた……
「あの……私、犬伏さんのことが……好き……です」
…………え?
その瞬間、周りの雑音が消えた。
何も聞こえなくなって、気が遠くなっていくような、そんな感覚……
だけど、そんな中で市ノ瀬さんの声だけははっきりと聞こえてくる。
「こんなバカな私でも、絶対に見捨てようとしないあなたが……真剣に仕事を教えてくれるあなたのことが、ずっと好きでした……」
耳まで真っ赤にして、もう俺の顔を見ることもできないせいか、胸に顔を埋めて、だけど確かにそう言った。
気付かなかった。そんな風に思われていたなんて。
鼓動が急激に早くなり、どうしていいのかわからないくらいに、俺の頭は真っ白になっていた。
ただ、そんな真っ白な頭で最初に浮かんできたのは、『忍、俺はどうしたらいいだろう……』なんてことだった……
「おぉ! こんな道中で大胆だねぇ~」
「若いってのはいいねぇ」
気が付くと周りには人だかりができていた。茶化すような声も聞こえてくる。
「ひゃわ~~!! ふ、二人の所に戻りましょ!」
そう言って、市ノ瀬さんは慌てて俺から離れていく。
「あ! コユリさんこっちにいたんですか?」
「こゆりちゃん迷子になったかと思ったよ~?」
少し遠くで忍達と合流して苦笑する市ノ瀬さんが見える。
だがそんな俺はしばらくの間、この場に呆然と立ち尽くしていた……
今回のネタ。
千と千尋の神隠し




