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全くデレない少女との同棲生活!  作者:
現実世界編
11/62

11話 『駄主人様、女の人と映画に行きやがるんですか?』

「あ、あの……犬伏さん、ちょっといいですか?」


 仕事がもうそろそろ終わりに差し掛かろうとしている頃、数日前に入社してきた市ノ瀬さんから声をかけられた。


「どした? また仕事ミスったんか? んじゃ俺がフォローしとくから、こっちの仕事を代わりに――」

「ち、違います! 今日はまだミスしてません!」


 ありゃ? 違ったか。だとすると……


「もしかして異材が混ざった!? それだと俺の手に負えないから作業長に――」

「それも違います! 話しを聞いて下さい。その……わ、わた、わたし、わた……」


 綿菓子でも食べたいのか? 何を言いたいのか全然わからん。


「わ、私、明日映画を見に行こうと思ってるんでけど、もしよければ一緒に行きませんか!?」


 突然だ。本当に突然のことだった。

 工場指定の帽子を深々と被り、恥ずかしそうに俯く彼女が実に初々しい。 


「ああ、いいねっ! 何の予定もないし行こうか」


 パァっと眩しいほどの笑顔になる市ノ瀬さんを見ると、こっちまで嬉しくなる。

 こうして俺は、明日の休みにデートをすることになった。

「駄主人様、夕食の準備が出来ましたよ」


 あれ? すでに駄主人呼ばわり? 俺、なんかしたっけ?

 何故かすでに忍の機嫌が悪いのが気になったので、飯を食いながら振ってみることにした。


「し、忍、今日は機嫌が悪いな。どうした?」

「私、最近家事ばかりで飽きてきました……たまには遊びにいきたいです……」


 なるほど、確かに時々一緒に買い物に行くくらいで、どっかに遊びに行ったことはなかった。だが、非常にタイミングが悪い……


「明日はお休みですよね? どこかに連れて行ってください」

「あ~……すまん、明日は出かける予定があるんだ。また次の休みな」


 すると忍は、プクゥとほっぺを膨らませる。


「嫌です! 明日じゃないともうやる気出ません! 過労死してしまいます!」


 やはり年相応というか、子供っぽく駄々をこね始めた。何だかんだ言っても忍はまだ未成年。遊びたい年頃なのだろう。……まぁ実際の年齢はわからんが。

 日々のストレスと、俺への不満が募った結果だろうか、忍は一歩も引かない。


「大体出かけるってどこに行くんですか!?」

「えっと……映画を見に……」

「映画!?」


 忍の目が見開いたかと思うと、コタツをバンと両手で叩いた。


「映画ってCMでやってるおっきなテレビみたいなやつですよね!? 私も行きたいです!!」

「いやぁ……明日はデートだから、一緒には無理っていうか……」

「デート? 駄主人様、女の人と映画に行きやがるんですか?」

「まぁな……つっても、会社の後輩と行くだけだから、デートっていうか交流みたいなもんだよ」


 ギロリと睨みつけてくる忍から視線を逸らしながら、非常に心苦しくも淡泊に答える。


「嫌です! 私も映画見たいです! 一緒に行きます!」


 バタバタと両手を振りながら食らいついてくる。

 こんなに子供っぽい忍は初めて見るぜ……


「あ~、じゃあさ、明日はいっちゃんの予定を聞いて、何もなければいっちゃんと出掛ければいい」

「イチカさんと……? う~……」


 獣のように唸り声を何度もあげながら、忍は思案していた。

 まぁ、友達の友達と出掛けるってのは微妙な気分だよなぁ……


「わかりました。明日はそれで妥協します。イチカさんには私から電話しますので、駄主人様はお風呂を先にどうぞ」


 忍に勧められるままに風呂に入り、さっぱりとした気分であがってくると、茶の間から忍の声が聞こえてきた。


「はい。デートらしいんですよ……はい、はい……では明日」


 どうやらいっちゃんと電話をしているようだ。


「いっちゃんの方はどうだった?」

「はい、何も予定はないそうなので、一緒に出掛けることになりました」

「そうか、いっちゃんに迷惑をかけないようにな」


 わかってますよ、と忍は膨れっ面で風呂場に向かって行く。

 よかった。とりあえず多少は機嫌が直ったみたいだ。後でいっちゃんにはちゃんとお礼を言っとかないとな。

 そして、明日に向けて俺は早めに寝床に着いた。

「ごめんなさい。待ちましたか?」

「いや、今来たところだよ」


 なんかとりあえずデートのテンプレみたいなセリフで市ノ瀬さんと合流した。

 うむ、このセリフを言える日がこようとは思わなかった。……別に付き合ってる訳じゃないけどな。


 市ノ瀬さんはゆったりとした白のワンピースを着ていた。

 大人っぽくスカートの丈は長く、ウチの工場には着て来たことがない。


「市ノ瀬さんの私服、とっても可愛いね」


 ギャルゲーによると、とりあえず女性と待ち合せたらこのセリフを言うのが紳士らしい。

 当の市ノ瀬さんはというと、みるみるうちにゆでだこのように真っ赤になって俯いてしまった。相変わらず前髪が長いので、俯くと表情が見えなくなってしまう。


「あ、あの、ありがと……犬伏さんも素敵ですよ」

「俺はファッションとかよくわかんないから、てきとうだよ。てきとー」


 ちなみに俺は本当にファッションはよくわからないので、パーカーにジーパンだ。


「それじゃあ、映画を見る前に、どこかで食事でもしていこうか」

「はい」


 そう言って俺達は歩き出した。

 人ごみの多い駅前を歩いて数分間、俺は一つの問題に直面していた。それは――


 話題が見つからない……


 普段は忍にアニメネタを振って弄っている訳だが、市ノ瀬さんだとそうもいかない。

 なんだか気を使う上に、最近はKYだなんだと言われるせいで、自重してしまっている自分がいる。

 しかしそうなると、正直なところ、何を話していいのか全くわからなかった。

 俺、こんなコミュ障だったのか……?


「えっと、犬伏さん、どこでご飯食べるつもりなんですか?」

「いや、特に決めてないけど……」


 完全にノープランだった……

 くそ! 紳士は食事の場所まで計画に入れてエスコートするもの。忘れてたぜ。ってか、デートって結構めんどくせぇな……

 俺は段々とどうでもよくなってきた。そもそも別に付き合ってる訳じゃないし、誘ってきたのも向こうからだし、そこまで気を使う必要はないだろう。


「やっぱり、すぐそこの店でいいんじゃないかな? 戻ろうか?」


 俺がすぐ近くの店で妥協して、戻ろうと振りむいた時だった。


「わわ! やば!」


 慌てて俺の視界から隠れようとする二人組が見えた。

 ん~? あっれ~? 今、忍の姿が見えたぞ~? 気のせいかな~?

 いや、気のせいじゃねぇ! 二人いたってことは、もしかしていっちゃんと一緒についてきたのか!?

 すぐに二人が逃げ込んだ店を覗き込んで見るが、二人の姿は見当たらなかった。


「犬伏さん、どうしたんですか?」

「え? あ~……なんでもないよ。もうそこの飲食店に入ろうぜ」


 俺は不思議そうにしている市ノ瀬さんを連れて、近くの喫茶店へと入ることにした。


「市ノ瀬さん、注文考えといて。俺はちょっとトイレに行ってくるから」

「あ、はい」


 そう言って俺はすぐにトイレに入った。

 少し時間を掛けてからトイレを出ると、喫茶店の中を見渡した。店内を物色するようにウロウロと歩き回り、一つの席の前でその足を止める。


「よう忍。奇遇だな」


 俺の後をつけて来ていた忍といっちゃんの席を発見した俺は、ドカッと忍の隣に腰を下ろした。


「わわわ! し、忍とは誰のことですか? わ、私はめぐみんという名前ですよ?」


 忍が慌てて被っている帽子を深く下げ、必死に誤魔化そうとする。


「うっせー、もうバレてんだよ! いっちゃんも一緒になって尾行かよ!」

「あはは……ごめんねコウちゃん。今日はデートだって聞いたから、面白そうだと思ってついて来ちゃった」


 失敗失敗と笑ういっちゃんから、その視線を忍に変えた。


「んで、いつから見てたんだよ忍」

「えっと、『市ノ瀬さんの私服、可愛いね。とっても素敵でキュートだよ』ってところからです」

「ほとんど最初からじゃねぇか! っつーかそんなこと言ってねぇし!!」


 俺の口調を真似しているのか、演技っぽくしゃべる忍が非常にウザい。


「犬伏さん、どうしたんですか? って、その人達は……?」


 騒いでいたせいで市ノ瀬さんに見つかってしまった! 一体二人のことをなんて説明したらいいのか、俺の脳みそはパニックを起こす。


「えへへ~、お兄ちゃんの様子が気になったから、ついて来ちゃいました♪」


 忍が無邪気な雰囲気でそんなことを口にする。

 ってかお兄ちゃんってなんだ? つまりそういう設定で行けってことか!?


「え、え~と、こいつは忍って言って、俺の妹なんだよ~」

「え? でも犬伏さん、前に自分は一人っ子だっていってたじゃないですか」


 ンゴオォーー! そう言えば市ノ瀬さん、俺のことやたら聞いてくるから家族構成とか教えてたんだった~!


「あ~あ、お兄ちゃんはやっぱり空気読めませんね。今のは、『私はイチカさんの妹でお兄ちゃんに遊んでもらいたくてついて来た』っていう設定ですよ?」

「やっぱりコウちゃんは空気読めないね」

「んなもん分かるか~!! 今のやり取りだけでそこまで合わせることができたら、もう空気読めるっていうかエスパーだよ!!」


「あはは……なんだか訳ありみたいですね……」


 市ノ瀬さんは俺達のやり取りを見て、苦笑いを浮かべていた……

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