閑話 地球での一幕・夏休み1
ポキポキ♪
「んぁ?先輩から?えっと、何々?『ハワイに行かない?』って、なんだよ、それ」
アニメを見ていた暁がスマホを見ながら呟いた。
「どーしたぁ?暁」
「先輩が遊びに行こうって誘ってきた」
そんな暁に声を掛ける男が一人。結城邸で宿題合宿を行っている大智だ。彼は宿題という魔王との戦いで傷ついていた。満身創痍──まさにその言葉がぴったりフィットする。
暁は大智に簡単にLI〇Eの内容を伝えた。
「そうなん?行くとしたら何処だって?」
「ハワイ」
「は?」
「いや、だからハワイ」
「いや、聴こえてるぞ、暁」
「そうか。どうしよっかなぁ?迷うんだけど……」
「いや、ちょっと待てや。迷うってなんだ、迷うって。お前そんな簡単にハワイとか行く金あんのか?」
暁から行き先を聞いた大智が愕然とした感じで暁に問いかける。暁はそんな大智を見ると、麦茶を一口飲み答えた。
「まあ、ある。つーか、昨日130万ドル入金されてた。あと、さっきミレニアム懸賞解いたから二、三年後にはまた入ってると思うぞ」
暁は淡々と言っているが、内容はかなり可笑しい。この日のレートは1$=約120円。それを踏まえて昨日、暁の口座に振り込まれた金額を見ると、約1億5600万円。さらに暁の口座にはある大企業でのバイト代やらも入っているため、総額はもっと増える。また、暁の言っていた通り、ミレニアム懸賞問題の懸賞金も入ってくる。今回暁が解いたのは未だ解かれていない6つの問題。つまり、ミレニアム懸賞問題は100万ドルの懸賞金が掛かっているため、合計で600万ドル手に入る。
「お前、アホだろ」
「言うなよ!俺だってやり過ぎかなぁとは思ったこともある!暇潰しをしてたら金ばっかり貯まるんだからな!しかも先月なんて国連から話がしたいって電話掛かってきたからな!何の話だよ!」
「お、おう」
大智の一言に暁が思わず叫んでしまった。しかも少し涙目だ。
「で、結局行くのか?」
「迷う。行っても泳ぐだけだし、それにこの流れだと先輩と二人きりになる気がする」
「つーか、その先輩って誰だよ?いきなりハワイ行きの遊び誘ってくるってまさか神薙会長か?」
「そうだぞ。それがどうかしたか?」
「どうかしたかじゃねぇわ!このアホ!お前、神薙のお嬢様に誘われるとか各界の子息が羨む事だぞ!」
大智が暁の態度に呆れつつ、叫ぶ。というより何故、そんな事を知っているのだ、大智よ。
「うーん、あんまり分からんな。たまに大統領とかから電話掛かってくるし」
「お前、マジでそろそろ自分の異質さに気付けよ……」
「いや、俺はそんなに異質じゃねえだろ。
あ、そうだ。大智、お前もハワイ行こうぜ」
「行かねぇよ!そんな金ねぇわ!」
暁が首を傾げながら言う。大智はそんな暁に苦言を呈す。だが、暁はそんな事は知るかとばかりに話を変える。そんな時だった。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴ったのは。
「誰だ?」
暁はそう言いつつ立ち上がると、玄関へと歩いて行った。
「はーい、どちら様ですか?」
暁は玄関の扉を開けた。
その先には涼しげな服装をした美しい漆黒の髪の超絶美少女がいた。
「こんにちわ、暁君。迎えにきたよ」
「桜花先輩、行くとは行ってないです」
神薙桜花。先述の神薙財閥の令嬢であり、暁の通う高校の生徒会長である。
完璧としか言えないスタイルをしており、学校でもその美貌の虜になる生徒が続出している。現在も彼女はスカートをはいており、スラリとした美脚を見せつけている。普通の男なら赤面やら何やらをするのだろうが、いかんせんこの暁は一途な為、特にそんな事もない。
彼女からすれば、いつも自分の体を舐め回す様に見てくる男達とは違い、不快にはならないのだろうが、暁にそういう視線を向けられない事が悲しくある。
理由はまあ、察してもらいたい。
それと、言っておくとすれば彼女は暁の婚約者候補であり、暁も彼女の婚約者候補であった。まあ、それも暁の相手が決まった事により無くなったが。しかし、これも今となってはほぼ意味をなさないのだが、暁はまだ知らない。
「もう、先輩はいらないわ。婚約者なんだから」
「いや、違いますよね」
「あら?暁君は聞いてないの?」
「なんの事ですか?」
「私達が婚約した事」
「いや、俺には綾香っていう婚約者がいるし、解消もされてないですよ」
「うん、それは知ってるわ。それを含めての婚約よ」
「どういう事ですか?日本の法律では多重婚は認められてないですよ」
「あ、そういう事ね。暁君、最近ニュースは見た?新聞でもいいけど」
「見てないです」
「やっぱり。なら知らないのもしょうがないね」
「それが何か関係あるんですか?」
「『多重婚姻認可法』。通称『ハーレム容認法』って言って、少子高齢化への対策としてついこの間特例で可決から一週間で施行された法律よ。おおまかに説明するとその法律では一人につき三人との結婚を認められるの」
「要するに、それを利用して俺と婚約をしたと。
だとしても俺は桜花さんの事は好きですけどそういう対象としては見れないですよ。まだ」
「まだって事はチャンスはあるわ」
まあ、すぐに知ることになったが。




