第30話
「なるほど……」
アリスの話を一通り聞いたアカツキの反応はこんなものだった。
「ここがその【不思議の国の夢】という乙女ゲーの舞台で、貴女方はヒロインの敵役である公爵家の令嬢とその取り巻きである伯爵家令嬢だと」
なんと、驚くべきことにこの学園のちょうどこの世代はとある乙女ゲームの舞台だったようだ。まあ、大方暇を持て余したどこぞの神がノリと勢いで作ったのだろうが。その証拠に聞いた話ではそのソフトの販売数は5本のみだったらしい。購入した時の封入物として入っていたURLに飛ぶと限定公開となっている公式サイトに入場でき、その中でそうアナウンスされていたようだ。恐らく、ある意味で世界に干渉しているその神があまり多くの目に触れないようにとそういう対策をしたのだろう。
「よくある悪役令嬢転生ですか。それで今度編入してくる人がそのヒロインでその人も転生者。しかもこれまたタイミングぴったりに敵対していない友好的な方の帝国──ゴーダル帝国の王子も編入と。そしてそのゴーダル帝国の王子の婚約者候補が貴女。だが……」
いろいろあって最終的に死亡。
そしてそこにはヒロインが関わっている。
「けどそれは一週目。
そのゲームの本番は2週目からで、その2週目から選べる攻略対象者は……」
「同級生。その素性や経歴、性格や容姿も十人十色。
その他に先輩や後輩も。全部含めて18人の攻略対象が居る」
「しかも、一週目の王子は言ってしまえばチュートリアル。
王子自体も2週目以降のルートのほうが長いというか本来の姿というか。といったところですか」
「そう。けど、その他に対象者が居るの。後々のアップデートで追加されるとされながら遂に追加されなかった攻略対象が」
大方、それを作っていた神が飽きたのだろう。
だから作らなかったといったところか。
「その攻略対象についての情報は?」
「なんでも貴族位は最高クラスで作中最強というのが公式のアナウンスした設定だったわ」
作中最強というのはどういうことか。
なんと【不思議の国の夢】というゲームはただの乙女ゲーではなく、ちょっとしたバトル要素も入ったものだったらしい。具体的な例としては作中で開催される催しとして、武闘大会というものがあった。その時の攻略しているキャラは主人公との親密度によって強さが変わるといった要素があったようだ。
「武器は特殊な細剣。剣と魔法を自在に操る選ばれし者って設定もあったわね。ただ、一部を覗いたキャラデザも名前や年齢、身長とかの個人情報も公開されてなかった。確か分かってたのは黒髪で北方の小国の血が流れてるってことくらい」
「特殊な細剣というのは?」
「一言で言えば刀ね。なぜかその剣だけは事前にデザインが出てたの。見た目は完全に刀だったわ。
たぶん、その刀がストーリーに関係するというヒントだったんじゃないかしら」
ここまで情報が出るとアカツキの脳内に嫌な予想が浮かんできた。
最高クラスの貴族。刀使い。北方の小国の血筋(とある国は日本に限りなく近いネーミングをしている)。
「どうかした?」
「限りなく嫌な予想が」
「ふふ。最高位の貴族【大公爵】で刀使いでEXランク冒険者。名前は日本名……こちら風なら北方風。まるで追加される予定だった攻略対象ね」
「……それが分かってて俺にこの話をしたんですか?」
「確かにこれも理由の1つではあるわ。
でも、それだけじゃないし、なによりソフィアのためでもある。君なら大体察してるんじゃない?編入してくるヒロインも私達と同じだって。そして、【不思議の国の夢】のプレイヤーでもあり、この世界をゲームのように思ってる……それこそ攻略対象を落とすためならゲームのようにするって」
「彼女をゲーム内での貴女のように蹴落とし死に追いやると?そんなことが赦されるとでも?」
「赦される。なにせ自分はヒロインなのだから。
そう思っていると思うわよ?どうやら、かなり不遇な人生だったみたいだし」
「ハハ、ハハハハ。そうですか。不遇な人生でしたか。なるほど。なるほど。だから転生して幸せになるためなら誰でも蹴落とすと。それが赦される、なぜなら私はヒロインなのだから。そう言いたいわけですか」
哄笑
「コロスゾ?」
一転。
抑揚の無い声で一言呟いた。
「不遇な人生だかなんだか知らんが、そんなことが赦されると思うな。そんなことをしてみろ。たとえ転生させた神が赦そうが俺が断じて殺す。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くす。煉獄の業火に灼かれるよりも氷獄の冷気に包まれるよりもなによりも苦痛を与えて殺す。粉々にして豚に食わせ、蘇らせ体を端から切り落とし、再生させ、飢えたオークの群れに放り込み、死ねば蘇らせ失神することなど赦さず熱した金属を飲ましてやる」
空気が震え、室内が一気に冷気で満たされたような錯覚に陥る。
箍が外れたとでも言うべきか。
アカツキは顔から表情というものが抜け落ちた状態でここには居ない人物に向けそう宣言した。
「あ、あくまで可能性の話よ……」
「だとしても、可能性があるのならそれを赦すことは無いですよ」
そうアカツキは再び宣言した。




