第29話
「なにか用ですか?」
普通に聞けば用件を訊ねる言葉だ。
だが、今に限って言えばそれだけではなく、その前に『転生者が』という文言が付く。
そうすると、「基本的に不干渉の転生者が何しに来た?」という意味になる。アカツキが彼女たちが転生者だというのを知っているのについてはこの際置いておこう。
さて、この時点でアカツキには転生者が自分に会いに来る理由がいくつか浮かんでいる。
「権力を求めて」「金銭を求めて」「嫉妬」
ふむ。実にわかりやすく、くだらない理由だが転生者が自分のところに来るとすればこのくらいだろう。というのはアカツキの予想だ。
なにせ、自分は転生者と呼ばれる人間たちのなかでは最高に成功しているというのは客観的に理解している。その上で前世での知識を使って軽くではあるが発展を促し、利権を得ている。
だが、考えてみれば前世の知識利用など転生者なら誰でもとはいかないまでもできるものであり、それによる利権など早い者勝ちだ。それが、ぽっと出の自分に掻っ攫われ(しかもまだ子供)、さらに成功したのだから「なぜあいつだけ」となっても仕方のないことだ。
しかし、考えてみればここにいるのは自分より数個年上の少女。成人しているなら兎も角同じ年代でそんなことをしに来るとは考え難い。少なくとももっと人を集めてくるだろう。
「というより、どちら様でしょうか?」
かなり険のある言い方だ。しかも、訊くまでもなく彼女たちが誰なのか、それもわかっている。
「私はアリス・エル・イムレリス。こっちはジャンヌ……ジャンヌ・エル・シュヴァイン」
「それで……公爵家の御令嬢とオルレアンの乙──ああいや、伯爵家の御令嬢がなんの御用でしょうか?」
「えーと」
「用が無いならそこを退いていただいてもよろしいですか?部屋に入れないので」
普通なら。
こんなに険のある言い方というより接し方をするアカツキではない。しかし、言ってはなんだがこの二人と関われば面倒事にしかならないと直感が告げているのだ。
「それで、もうよろしいですか?」
「待って!……話を聞いて」
「はぁ……長くなりますか?とりあえず中にどうぞ」
◇◆◇◆◇
「それで?なんの話でしょうか?」
一応、紅茶と茶菓子を出しアカツキはそう切り出した。
「えっと……なんて言ったらいいのか」
「……」
「えーと、まず君は転生者……ああもう、君は太刀原学園の結城暁くんで合ってるよね」
「……貴方は?どこかでお会いしましたか?」
「直接会ったのは……斯波ホテルのパーティーの時に……」
「ああ、あそこで……」
「まあ、話したことは無いんだけどね……私はお父様の後ろにいただけだから」
「となると……斯波茜音さんですか?」
アカツキは、アリスの話を聞いて、その脳内から情報を引き出し、唯一一致した少女の名前を出した。
あのパーティーで自分に話し掛けて来なかった同世代の女性は、斯波茜音のみ。その他は全員が話し掛けて来たのを覚えている。まあ、話し掛けて来なかったと言っても挨拶くらいならしたのだが。
「そうだけど……覚えていたの?」
「記憶力には自信があるもので」
完全記憶能力なんてものを持っているアカツキは物忘れなど縁のないものだ。まあ、そんなことを一々教える必要もないので、当たり障りの無い言葉で答える。
「それで、自分の確認が目的ですか?なら、これで終わりたいのですが」
「待って。違うわ。私の話はこれだけじゃないの。
簡潔に言えば……来週にでも来るであろう編入生から私達を救ってほしいの。勿論、図々しい頼みだとは分かっているわ。でも……」
「そうせざるを得ない理由があると?」
「ええ。最悪の場合私達は死に、内紛が起きるわ。それも国がそれなりに弱体化するレベルの」
「詳しく聞いても?」
この会話で初めてアカツキの眼に好奇心が宿った。




