第26話 因縁と怨恨と断罪
⚠注意⚠
この話ではアカツキの人格を形成する一部分が大きく露出します。
その結果、少しですが今までのアカツキとの乖離が起こります。
しかし、仕様ですので、あまり気にしないでください。
「坊…主……」
「よお、グラン。さっきぶり。取り込んでるみたいだな」
アカツキは軽くグランに挨拶をすると、腰の刀を抜いた。
「ああ、それと今の質問は答えなくていい。アイツはとりあえず殺すから」
アカツキはそう言うと、グランの妻の服を破り捨てたグリードルを見た。
その言葉が聞こえたのか、グリードルはアカツキを見る。
「なんだ、ガキ?テメェどっから入ってきやがった。
ついさっき結界張らせたばっかだぞ。それより、誰が誰を殺すって?あ゛ァ!」
グリードルはアカツキを見て凄む。
「あ?結界?……ああ、あの薄っぺらい紙みたいなのか。邪魔だったから斬った。それと……」
アカツキはグリードルを見る。
「テメェを殺すって言ったんだ、クズ。
命乞いでもしたら、そうだな、3分くらい寿命を延ばしてやってもいい」
アカツキは自分が上位者であることを言外に示す。
だが、それはグリードルには伝わらず、ただの子供の戯言だと取られた。
「ふは、ははははは!!!」
アカツキの言葉を聞いたグリードルは笑い声を上げる。
「お前が?俺を?
ヴァカかよ、お前?ガキがチョーシ乗んなよ、コラァっ!」
「吠えんなよ、駄犬が。殺処分が早まるぞ」
「ナメてんのか、テメェ。
今すぐ土下座すればその刀で許してやるよ、ガキ」
「ガキガキうるせぇな。語彙力無いのか、豚。
てか、そっくりそのまま返してやるよ。今すぐ土下座すれば楽に殺してやるよ」
「ガキがチョーシに乗るなって言ってるよなぁ!あぁ!?ぶっ殺すぞ!」
「なら、やってみろよ。口だけじゃなくてよ」
アカツキは吠えるグリードルを挑発する。
ステータスなど関係なく、アカツキはこの男に負ける気は一切しなかった。
「やれ!」
グリードルの声と共にアカツキの背中に黒い手が当たる。
「なにかしたか?」
「なにをしている!やれ!」
「が、ガア!!」
無傷のアカツキを見てグリードルはアカツキの背後の悪魔に指示を出す。悪魔も攻撃が効いた様子もないアカツキに戸惑いながらも今度は腕を振り下ろした。
「遅い」
だが、アカツキはその腕を斬り落とす。
その動きを追えた者はこの場には一人として居ない。
「潰れろ、《圧壊》」
アカツキは腕を落とした悪魔を魔法で圧縮し消滅させる。
その様子を見たグリードルは顔を引き攣らせるも、右手を前に出し詠唱を始める。
「―――――《闇炎》」
「失せろ、《虚無》」
アカツキはグリードルの魔法をいとも容易く消し飛ばす。
いや、消し飛ばすというより無に帰すといったほうが正しいだろうか。
「この程度か?」
アカツキは刀を肩に乗せながらグリードルを挑発する。
「まだだ!!俺が一番得意なのは剣術なんだよ!!!
顕現せよ、世界を破壊せし神剣よ!!」
グリードルの言葉と共にその右手に黒い剣が現れる。
「チートその1!!!神剣術だ!!
命乞いをするなら今のうちだぞ、糞ガキ!!!」
「御託はいいからさっさと掛かって来いよ、ゴミ」
突然元気になったグリードルを冷たい眼で見ながら、アカツキは口を開く。
「ッッッ!!!!!
死にさらせぇええええ!!!ガキぃいいいい!!」
叫びながらグリードルはアカツキへと突撃する。
確かに言うだけあってその剣筋は整っているが、どこか機械的だ。それもそうだろう。グリードルの剣術は自ら鍛錬を重ねてきたものではなく、スキル頼りの紛いモノ。つまり、スキルによって動いているだけに過ぎない。
アカツキがそんな相手の剣を受けることは…………あり得ない。
「なんでだ!!なんで当たらない!!!
俺はチートを得たはずだ!!」
「チート?それを得ても補えないくらいにお前が弱いからじゃないか?……なあ、綿貫光一」
アカツキはグリードルにそう囁いた。
「な、なんでその名前を知ってる!?」
「俺を覚えてないのか?綿貫光一」
「お、お前は……なんなんだ?」
「覚えてないのか。俺に……死ぬ寸前まで追いやられたっていうのに」
「死ぬ寸前……あ、お、お前…」
「そうだよ、クズ。俺だよ、結城暁だよ」
「あ、あああ!!」
アカツキの言葉を聞いて、グリードルは情けない声を上げながら尻もちをついて後ずさる。
「ああ……思い出したか。
じゃあ、なんで俺がお前を半殺しにしたのか覚えてるよな?」
アカツキは一歩一歩グリードルに近付いていく。
その分、グリードルは後ずさる。
「お前がぁ……俺の妹と綾香に手ぇ出そうとしたからだったなぁ」
「ひ……」
「あのまま俺が来なかったらテメェはなにしてたんだぁ?
ああ、答えなくていい。耳が腐りそうだからな」
アカツキに詰め寄られ、グリードルは遂に壁際に追い詰められる。
その顔の横に刀が突き立てられた。
「まあ。でも……日本だからテメェは生きてたわけで………だが俺はテメェを殺したいと思ってたんだよ」
「…………人の家族に手出して、無事に要られると思ってんじゃねぇよ」
アカツキはその言葉と共にグリードル──光一の頭を横から蹴り付け刀の刃へと当てる。
「それさ……切れ味悪いのを持ってきたんだよ。しかも、ゆっくりと毒が回っていく効果付き。
死の恐怖ってやつ、味わってから死ねよ。言っただろ、さっき。『命乞いすれば楽に殺してやる』って。しなかったんだから……苦しんで死ね」
「ぎゃぁぁぁあああ!!!」
「消えろ、《虚無》………っと、大丈夫か?騎士団長くん」
「大丈夫……に、見えたら……お前の頭が……大丈、夫じゃねぇな」
「だろうな。──《天使の福音》」
アカツキはグランの身体を貫いていた悪魔を消滅させるとグランに回復魔法を掛ける。
白く聖浄な癒やしの光がグランを包み、その身体の傷を癒やす。
「それと……ソイツ、殺したきゃ殺すといい。なにをしても死ぬのは変わらないしな」
アカツキはグランから視線を外すと、喚く汚物を見てグランに言った。
「ああ、でもお前の兄貴なんだったな。悪いな」
「あんなの兄貴じゃねぇよ。ただのクズ野郎だ…」
「そうか。……んじゃ、俺は帰るわ」
アカツキはグランの言葉を聞くと、背を向けて歩きだした。
「ああ、それと」
何歩か進んだところで、アカツキは立ち止まり振り向く。
「これだけは言っとこうと思う。
俺は身内を守るためならどんな汚いことでもする」
「もし、それが嫌ならいつでも辞めてくれて構わない」
「じゃあな」
アカツキはそれだけ伝えると、言うことはなくなったのか出て行った。
残されたのは、グランとその妻、倒れたままの両親。
ガタリと音がして扉が開いた。
「リンカ……無事で良かった」
そこから入ってきたのは小さな子を抱いた明るい茶髪の少女。
グランの娘──リンカだ。
グランはなんともない娘の様子を見て安堵する。
そんな事件がありながらタルカの夜は更けていく………
◇◆◇◆◇
アカツキは、守るためならばどの様なことでもすると決めている。
それが、一般に正しくはなくても、身内を守るためならば躊躇いはない。
だから、アカツキは悪を否定し悪を肯定する。
全ては自分の信じる道と愛すべき者を守るために。
アカツキはタルカの夜を眺めながら祈る。
「向こうの親愛なる我が友と愛する人達に幸福があらんことを」と。
「魔神、か」
アカツキはタルカの時計塔の上で呟いた。
そして、月を見ると、塔から飛び降りた。
月明かりに照らされるタルカにアカツキの姿はもう無かった。




