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第25話 帰宅

「さて、と。そろそろ帰るわ」

「は?ちょ、おま」

「お前、家族はタルカに来てるか?」

「あ、ああ」

「ならさっさと帰って説明したほうがいいんじゃねぇの?こっちもクソメンドクセェ手続きして、駄王に申請しなきゃいけねぇし」

「クソメンドクセェって……てか、頭イカれたんじゃねぇかと思われるわ」

「知るか、んなこと。事実を述べてきなさい。じゃ〜な」

「あ、ちょっ」


 アカツキの姿が扉から消えるのを見て、グランは小さく息を吐いた。

 思いがけずなってしまった(なる予定)貴族に、知らされたダンジョン。前者はともかくとして、後者はなんとも心が踊る。

 だが、それでも家族に説明しなければならないということが、どうしても憂鬱である。

 飲みに行ったはずの息子、妻からすれば夫が突然貴族になったなんて言い出したらまず頭を心配されるだろう。さらには子どもたちからも。

 そんならことになったら生きていけない。


「ああ!もう、なるようになれ」


 グランはコップに残った酒を一気に飲むと、近くのウェイトレスを呼んだ。


「勘定だ!」

「は、はい。

 え、ええと……全部で5800パルですね」

「高っ!んな飲んだか?」

「あ、お連れ様の分も含まれています」

「あの野郎か!」


 グランは頭の中に、アカツキを思い浮かべると思わず叫んだ。その声にビクリと身を震わせたウェイトレスに軽く謝るとグランは泣く泣く大銅貨を6枚ウェイトレスに渡した。


「釣りはいらん……」


 扉から出るグランの背中にはなぜか哀愁と希望があった。











 そもそも、グラン・シャトーとは何者なのか。

 グランは元々はタルカの生まれであり、曽祖父はシェルベン辺境伯の騎士だった。その曽祖父が武勲を立て、報奨を幾度となく受けた為、シャトー家は名誉士爵ではあったものの、その頃は貴族であり、かなり裕福であった。

 グランが生まれた頃も、かつてほどでは無かったにしろそれなりに裕福な家だった。

 しかし、その生活もグランがまだ小さい……10歳のころに終わりを告げることとなった。グランの兄──グリードルの影響である。

 大した才能も持たないがグリードルは、高すぎる自尊心と強欲なまでの物欲、そして虚栄心を持っていた。

 その彼は、幼い頃から様々な物を買い与えられて育てられてきたが故に、どれだけ年を重ねようとその性根は変わらなかった。そんな彼は18歳となった時に、シェルベン辺境伯家の門を叩く。

 騎士となり、成り上がりを夢見てだ。

 だが、それを断られる。

 すると、今度は


「俺のチート(・ ・ ・)は内政系なのか!」


 などと言い始め、商売を始めるも大失敗。

 その借金を返すことなく、高飛びし、そのツケはシャトー家へと回ってきた。

 幸いというべきか、小さな持ち家を除いたほぼすべての財産でその借金を返済でき、グランは奴隷となることはなかった。


 そして、その三年後グランは冒険者となる。

 母の父、つまり祖父のドワーフの血を受け継いだ剛力とシャトー家に代々伝わる身体強化魔法【偉大なる大地(グレードグランド)】を利用し、グランは頭角を現しはじめた。

 途中、【双剣聖】と呼ばれた男に師事し、剣技に磨きを掛ける。

 冒険者になった8年後、21歳の折に迷宮都市へと移り住み、そちらで結婚。

 22歳で子を授かり、幸せな家庭を築いているのが、このグラン・シャトーである。








「ただい「きゃあああ!!!やめて!」


 グランが実家(グランがそれなりに金を得た時に買い戻した代々の家)の扉を開けると悲鳴が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声、妻のものだ。同時に食器が割れる音や、なにかが倒れる音、どこかで聞いたような男の怒鳴る声も聞こえてきた。


 グランは愛剣、【赫赫たる覇焔剣(ロード・インフェルノ)】と【冥き血魔剣(ブラッディ・ヘル)】を抜き、声の方へと走った。

 声のした食堂の扉を開けると、そこには倒れる両親と数十年ぶりに見る男に組み敷かれ今にも犯されそうな妻の姿。


「テメェ!なにしてやがる!!」


 グランは迷うことなく右手に持った【赫赫たる覇焔剣】で男に突きを放つ。

 だが、それは突然現れた深い闇の壁によって阻まれる。


「ああ?

 ああ、えっと……誰だったか、あー、思い出した。あの糞弟か。

 テメェ、俺に向かってなにしてんだよ」


 男──グリードルは、立ち上がるとグランを見て、そう言った。

 どうやら強姦の邪魔をされて憤っているようだが、それはグランも同じ、いやそれ以上の怒りを覚えている。


「テメェこそ、人の嫁になにしてやがった!」

「あ?これテメェの嫁かよ。

 なら、兄貴に献上しろや。年増だけど、いい身体してるから長く使ってやるよ」

「調子に乗んなよ、ゴミが!ぶっ殺すぞ!」


 グランが吼える。

 その眼には殺意が燃えていた。


「やれるもんならやってみろよ。チートも無いカスがよ!」


 グリードルは自信満々にそう返す。

 グランは剣を構えると、雄叫びを上げながら駆け、グリードルへと魔剣を突き立てんとする。


 だが、やはりその剣撃は闇の壁に阻まれる。


「チっ」

「どうしたぁ!その程度か?あ?」


 グリードルの煽りを受け流しつつ、グランは狭い室内を駆け回りながら壁を抜けようとするが、それは叶わない。ならば、と剣撃を壁に浴びせ続けるも、今ひとつダメージがあるようには思えなかった。


「飽きたな。…………………………やれ」


 グリードルが壁の奥で呟いた。



「ッガ!?」


 突然、衝撃と鋭い痛みを覚える。

 グランは自分の身体を見て、そこから突き出る黒い腕を見た。背後を見れば黒い身体に角とびっしりと牙の並んだ口を持つ怪物の姿が。


「チートその3、悪魔召喚。

 神が俺にくれたチートだ、くそ弟」


 グリードルが自慢気に口を開く。


「で、だれを殺すって?もう一回、言ってみろよ」

「テメェ……だ、くそ兄貴」


 グランは身体を貫かれながらも気丈に言い返す。

 その様子をグリードルは鼻で笑うと、


「まあ、そこで見とけよ、くそ弟」


 そんな言葉と共にグリードルはグランの妻へと覆い被さった。





「なあ、グラン。アイツって敵?」


 その時、突然声が響いた。




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