第23話ꙩ語り
「ああ、くそっ!」
アカツキは王都から離れた辺境の地タルカの冒険者ギルドの酒場で木で出来たジョッキをテーブルに叩きつけた。かつてはギルド併設というだけの酒場だったが今はアカツキの支援によって多種多様な酒や料理が楽しめるその場所でその中で誰よりも若いアカツキはかなり目立っていた。
「おい坊主、なにがあってそんな荒れてんだ?」
そんなアカツキに酒場に入ってきたばかりの暗めの赤い鎧と二振りの剣を着けた髭の男が苦笑いしながら声を掛けた。
男の名はグラン。グラン・シャトー。【赫き双魔剣】の二つ名を持つ現Sランク冒険者である。
二人の出会いは数ヶ月前。アカツキがタルカで活動していた時となるのだが、それについては割愛する。ただ、気が合いたまに飲んだりするなかにはなっていた。
「ああ?あ、グランか。久しぶりだな」
「お、おう?」
「ベヒモスはどうだった?倒せたか?」
「あ、あー、ベヒモスな。なんとか勝ったが……こっちは七人持ってかれた」
「レイド組んでそれか……少ないとみるべきか多いと見るべきか」
「少ない……んだろうな。数字の上では。
最悪の時は三人残して全滅ってのがあった。ソイツらもソレが原因で辞めちまったしな」
「実質的に四十七人の優秀な冒険者を無くしたってことか」
「ああ……それで?大出世してる大公爵様の坊主はなにが気に入らないんだ?女に振られたか?」
「そんなんじゃねぇよ」
「じゃあどうした?お兄さんに話してみろよ。あ、黒ビールと手羽頼む!」
アカツキとグランは向い合って座り、話し始めた。
「……つまんねぇんだよ」
「つまんねぇって……俺と話すのがっ!?泣くぞ!?」
「そういう意味じゃねぇよ。ただ、な?わかるだろ?」
「いや。まったくわからん」
「まあ、これは喩え話だが……グランがグランの事を知らない奴と会ったとする」
「ふむふむ」
「それで、その会った奴に罵倒され、そいつら自分がグランよりも、強いと信じて疑わない」
「ふむふむ」
「それで、実際に戦ったらソイツはグランに手も足も出ずにボコボコにされる」
「ふむふむ」
「さらにソイツのライバルとも戦うことになるが、グランが勝ったのはまぐれだと決めつけている。ただソイツも負ける。
そんなことがあったらアンタはどう思う?」
「ふむ、つまんねぇな。そんだけ言ったのならその力を見せてもらいたいと思うな、たぶん」
「だろ?」
「なるほど、そういうことか。よーするに、坊主も学園でそんなことがあったって訳か。まあ、坊主と同い年なら仕方がないとは思うけどな、自分が強いと思うのは」
「なに言ってんだよ。相手は五年だぞ?」
「ふぁっ!?」
「どうした?変な声出して」
アカツキはグランが突然発した奇声を聞き、彼の頭を心配する。まさか、ベヒモスとの戦いでなにかあったのではないかと。ただ、その数瞬後に思い返す。
グランが若干抜けているのは元からだと。
「お、おま……五年ってあの五年か?」
「どの五年だよ」
「五年生かって聞いてんだよ!」
「いや。そうだが?」
「その相手って五年でも底辺か?」
「いや?トップ」
「お前が行ってる学園ってトップクラスのとこだよな?」
「一応、王国内ではトップだが?」
「……彼我の実力も測れないのか……そいつらは」
「知らんわ」
グランは愕然とした。
トップクラスというからにはそれくらいはできると思っていたのだ。事実、グランの知る学園出身の男はアカツキと会わせたときに、力の差をすぐに感じとった。
たしかに、卒業してから二年が経ち、冒険者として活動もしていたが、見た目で侮らずにそれができていたことをグランは評価していたのだ。それが、学園で学ばされるのだと思って。
実力を測るというのは生きる上で非常に重要なものとなる。それを学べるのなら、たしかに学園というのは価値があるだろうと思っていた。
しかし、アカツキから聞いた話によれば卒業までもう少しという五年生のトップであってもそれはできないということ。
そのことが、学園というものを評価していたグランを驚かせるには十分だった。




