第19話 決着
『試合!開始!』
四煌極星祭団体戦出場者選抜戦が開幕した。
◇◇◇◇◇
『試合!開始!』
実況の言葉と共に二人は同時に地面を蹴り距離を取る。
「『ーーーーーー《暴風刃》』!」
「『ーーーーーー《氷盾撃》』!」
そして、休むことなく詠唱をし、魔法を放つ。それはただの牽制などに使うようなお粗末なものではなく、相手の命を刈り取れる威力をもったものだ。
フランとフカセ。この二人は簡単に行っているが実際はかなりの難易度である。基本的に戦士は武器を使って戦う方法を、魔法使いは魔法を研究し訓練する。それはどちらもと欲張ってやると中途半端になってしまうからだ。だからこそ、魔法戦士は憧れの的となり、同時に中途半端の代名詞となる。
しかし、この二人はそんなこと関係あるかとばかりに魔法を放つ。
「避けんなぁ!」
「避けるわ!」
『おおっと!最初からクライマックスと言わんばかりの攻防だ!魔法から肉弾戦へと流れるように戦い方が変わる!』
フランはハルバートの槍で連続して突きを繰り出す。
フカセはそれを避けながら徐々に間合いを詰めていくが
「せぇのぉ!」
フランは突きを止め、一気にハルバートを持ち上げ振り下ろす。その一撃は地面を割り、土煙を上げる。
『ここで、ハクランド選手の強烈な一撃ィ!土煙でまったく動きが見えないがここで決まるか!?』
実況はその様子を見ながらそう叫ぶが当のフランは既にその場所からは離れて魔法の詠唱を始めている。
「『ーーーーーー!?ーーーー《多層防御盾》!」
だが、その詠唱は途中で強制的に止められることとなる。その理由は一つ。
土煙の中から一陣の風が吹き、貫いたからだ。
そして、この時。
この行動によって勝敗は別れた。
「疾ッ!」
土煙の中から周囲を切り裂き、フランの魔法へとぶつかるのはフカセの直剣、そして彼自身。
この時点ではまだ彼の剣の切っ先はフランの魔法の盾を一枚貫いたほどだった。
観客は思っただろう。これはフランが優勢であると。もちろん、フランは未だ油断せず魔力を注ぎ込みフカセが止まるまで耐えようとしていた。
しかし、それはすぐ後に崩れ去る。
フカセは今の状況を昨年のトーナメントと重ね合わせる。
それはフランとの対戦。その時もここに至る過程こそ違えど、今と変わらず障壁によって阻まれていた。
『狂戦士』という繊細さや策略とは程遠い二つ名を付けられてはいるが魔法も戦略も、なにより武技も高いレベルにいるフラン。その中でも障壁魔法は彼女の魔法でも最高の完成度を誇っていた。
そして、フカセはその障壁に阻まれ、攻撃を受け傷を負った。それでも魔力切れを狙いなんとか勝利したがフカセからすれば納得できるものではなかった。
だからそれを破るためにかなりの無茶をした。
フカセは障壁に剣を阻まれながら……笑みを浮かべ
「『《風帝鎧・装着》』」
呟く。
その呟きと共にフカセの周囲に緑の風が吹き、彼を包み込む。そして、その風は銀と緑の燐光を撒き散らしながらコートの様にして彼を包んでいく。同時にその風は障壁を越えてフランへと叩きつけられ彼女の体勢を崩さんとする。
フカセはそんな状況ながらも、バックステップで距離を取ると彼女が体勢を建て直す前に剣を突き出しながら突貫する。それは先程土煙の中から出てきたときよりも速く、そして力強い。
フカセの剣の切っ先がフランの障壁とぶつかる。
フカセの剣は一枚二枚三枚とたいした時間を掛けることなく障壁を破壊する。
そして、四枚目。最初に壊した一枚と合わせて五枚目の障壁は実に呆気なく砕け散った。
フカセの剣の切っ先はそのまま小柄なフランの顔へと向かっていく。そのスピードはそこそこの実力をもっていてもギリギリ目で捉えられる程だ。
フランはその剣を紙一重で避ける。同時に剣に纏った風が彼女のピンクの髪を切り、幼いながらも整った彼女の顔に傷を付ける。
フランはそのまま距離を取ろうとするが、次の瞬間には低空を飛ばされることとなった。彼女が飛ばされながら見た先にはフカセの振りきった足。
避けた先で蹴られたのだ。
フランは吹き飛びながらハルバートを地面に突き刺し、動きを止める。そして構える。
「くっ!」
だが、否応なしに防御をすることとなる。今回もまた突き。それをフランはハルバートの斧の部分の側面で受ける。しかし、フカセはそれを連続で繰り出す。
フカセは突きから斬撃へと攻撃を切り替える。
そして、その斬撃はフランのハルバートの柄を切り、彼女の胸を一文字に切り裂いた。
「チェックメイトだ」
フカセは倒れるフランを見ながら呟いた。
『し、試合終了!勝者はフカセ・エル・シーケンタブル選手!……って、あの出血ヤバくないですか!?治癒師を速く!』
実況の声を聞きながらフカセはその場に座り込む。
《風帝鎧》は疾風のごとき速さを与えるかわりにかなりの魔力と体力を消費する。そして最低でも三時間は体は不調どころか最低になる。まあ後者は未だフカセが未熟なだけなのだが。因みに後者はどんな感じになるのかというとインフルエンザの三倍くらいだと思ってもらえればいい。
『し、試合終了!勝者はフカセ・エル・シーケンタブル選手!……って、あの出血ヤバくないですか!?治癒師を速く!』
アカツキは実況の言葉を聞いて椅子から立ち上がる。
「どこ行くの?」
ソフィアがそれを見て訊く。
「治療ですよ」
アカツキは簡単に答えると部屋から出ていった。
『どうですか?』
実況が戦いのあとが残る闘技場で既に治療を始めている治癒師に問う。
「そうとうマズイな。血が足りてない!
それに魔法の効きも悪い」
どうやら相当まずい状況のようである。
そんななかアカツキは入場ゲートの方からゆっくりと闘技場へと入っていく。
『ん?誰か来ましたね。……あれは……一年のユウキ選手でしょうか』
実況が闘技場を歩いているアカツキを見つけていう。
「すいません、退いてもらえますか?」
アカツキは回復魔法を掛けてどうにかしようとしている治癒師へと声を掛ける。
「なんだ、お前は?」
その声に対する答えは若干険の籠ったものだが仕方がないだろう。人の命が掛かっているときにいきなり子供に声を掛けられたのだから。
「この学園の生徒です。
先輩の治療に来たので退いてもらえますか?」
「治療だぁ?
ガキのお遊びじゃねぇんだ。さっさと帰れ」
「遊びじゃないのはわかってるんで退いてもらえますか?
《最高位回復》なんか掛けても血なんか戻らないんですから」
「ならお前なら直せるってのか?」
「できるから来たんですよ。さっさと退いてもらえます?」
「ふん。
ガキがいきってんじゃ……「さっさと退けって言ってんだろ?テメェは邪魔なだけなんだよ。無駄なことして遊んでるんなら消えろよ」
治癒師の答えに律儀に答えたアカツキだったが話を聞かない治癒師にイラついたのか軽く殺気を当てる。
「おとなしくしてろ」
静かになった治癒師を冷たい目で見るとアカツキはフランの近くへと寄る。
「ひどいな。
未完成の魔法を使うから制御できずこうなる。せめて《風王鎧》にしとけば良かったのにな。
……にしても、この体質はある意味呪いだな」
アカツキは傷を見ながら呟く。
「……《天使の福音》」
回復魔法でも伝説級として知られる魔法だ。
その効果は《最高位回復》などとは比べ物にならない。血が足りなければ造り傷があれば神級魔法でつけられたもの以外なら大抵治せるという破格の性能である。
「な、治っただと…」
治癒師が呆然として口にする。
こうして開幕戦は幕を閉じた。




